マガジンのカバー画像

知恵

120
この知恵はゲットしておきたい。もう一度見返したい。そんな記事を集めました。
運営しているクリエイター

#映画感想文

情熱が夢を描く -名作映画『白い足』の魅力

【木曜日は映画の日】 情熱は、ある種自分の常識や人生を超えている面があります。 いや、自分の人生を超えるぐらいでなければ情熱と呼べないのかもしれない。それは滅多に出会えるものではありません。 フランスの映画作家ジャン・グレミヨンが1948年に監督した名作映画『白い足』は、そんな狂気にも似た情熱の様相が刻まれた、見事なドラマです。 (2024年9月現在アマプラ無料) 舞台はブルターニュ地方の漁村。魚商人で酒場も経営するやり手の中年男性ジョックが、若い愛人オデットをパリ

「誰もが正しい」ことの軽やかさ-名作映画『ゲームの規則』についての随想

    【木曜日は映画の日】     物語の面白さというのは、二種類あると思っています。一つは、結末が予測できて、それでも人を満足させるもの。   『アンナ・カレーニナ』も『ハムレット』も、悲劇と知らされていなくても、大体どういう終わりになるかは、物語の半ばで推測できるでしょう。それでも、最後まで引き込まれる名作です。 いや、分かっているがゆえに、最後まで安心して物語に入り込めると言えるかもしれません。   「どんでん返し」とか「意外な結末」と謳われる作品も、この「予想でき

洗練された心の喜び -ルビッチのコメディの魅力

    【木曜日は映画の日】     人の笑いに沢山の種類があるように、コメディ映画にも沢山の種類があります。   私は他愛もなく大笑いできる映画も好きですが、微笑を誘うような、ソフィスティケイト(洗練)されたコメディ映画も好きです。   エルンスト・ルビッチの映画はそんなソフィスティケイテッド・コメディの最高峰であり、微妙な心の動きが、見事に描かれた映画です。 エルンスト・ルビッチは、1892年ドイツのベルリン生まれ。演劇で頭角を現し、偉大な舞台演出家、マックス・ラインハ

天の使いが駆ける -映画『ペイルライダー』の美しさ

    【木曜日は映画の日】     「ジャンル映画」というのは大体物語のパターンが決まっています。ホラー映画、ラブコメ映画、一昔前のギャング映画ややくざ映画しかり。   パターンが決まっているというのは、みんなが好む、大衆的な作品の条件でしょう。   そしてそれゆえに、人々の集合的な無意識を反映して、ある種の神話のように輝いてしまう異様な作品が、時折存在します。   クリント・イーストウッド監督・主演の1985年の映画『ペイルライダー』は、西部劇という大衆的なフォーマットを

疾走する若さ -傑作映画『出発』の美しさ

    【木曜日は映画の日】     青春映画の美しさの一つは、「期限」があることだと思っています。   終わりは決められている。終わりを分かっているからこそ、そこまでの時間が大切で、甘美に感じる。   ポーランドの映画監督、イエジー・スコリモフスキが、ベルギーで撮影した1967年の映画『出発』は、そんな時間の甘美さと終わりの痛切さを鮮烈に描いた作品の一つです。 ブリュッセルの美容師見習いの青年マルクは、カーレーサーになることを夢見ています。車は持っていないので、夜な夜な店