【短編】おともだち
オレンジの中にぽつんと、小さな人影。
今日は火曜日なので、5時間目が終わったら下校できる日だった。
小学校3年生に上がってから、6時間目までの日が増えたので、5時間目で終わる日は必ず、一目散に帰宅している。
そして、家に帰って手洗いうがいをしたら、即ゲーム。
今ハマっているのは、兄からもらったゲームボーイアドバンスのとあるソフト。
同世代の子は所有していないであろう世代のゲームを、しかも一人でこんなに楽しんでるなんて。
この密かな優越感が何よりの幸せだった。
他のことには一切目もくれずゲームに夢中になっていると、いつの間にか、窓から見える空の色が変わっていることに気がついた。
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A「まだかぁ」
B「うん、まだみたいだね」
A「いつもこんなに遅いっけ」
B「いや、いつもだったら6時半には帰ってくるはずだけど…」
A「そうだよね…」
B「うん」
沈黙。あたりはもう暗くなり始めている。
A「きみはいいよね」
B「急にまた、どうして?」
A「…ずっと家にいられるから。学校に行かなくていいし、ゲームもやりたい放題だし。」
B「でもぼくゲームはできないよ」
A「まあ、そうなんだけどさ」
B「それに、ずっと家にいなくちゃいけないのも結構つらいよ。」
A「そうかな」
B「そうだよ。誰もいない部屋で動かずにさ、何時間もずっと。ずっと何も言えずに過ごすんだ。」
A「そっか、誰とも話せないって、それも大変か。」
B「うん。だから昼間って好きじゃないんだ。外はこんなに明るいのに、ぼくの気持ちは暗いんだって。比べちゃうんだよね。」
A「外に出ればいいのに」
B「…」
A「ごめん、変なこと言っちゃった。」
B「別に大丈夫だよ。ぼくは自分で動けないのが当たり前だからさ。」
A「…」
間
B「でも、昼間に比べて、この時間の暗さは優しいんだ。」
A「優しい?」
B「そう。ぼくの気持ちに寄り添って、一緒に沈んでくれてるような気がしてさ。」
A「…ふーん」
B「優しいと思うんだよね、押し付けない優しさというかさ。」
A「…なんか、難しいな。」
Aを横目に、沈んでいく夕日を見つめるB。
B「あ、早くしないと。そろそろ帰ってくるんじゃない?いつまでもゲームやってると、また怒られちゃうよ。」
A「え〜今いいとこなのに〜。」
B「怒られても知ーらんぺったんゴーリラ。」
A「いーもーんだ。」
A、ゲームを続ける
A「あ、そう言えばさ、」
B「…」
A「ねえ。」
B「…」
A「ねえ。」
B「…」
すると、玄関の鍵を開ける音がした。
C「ただいま〜。」
A「あ、おかえり〜!」
B「…」
C「遅くなってごめんね〜今ご飯にするからね。」
A「もうおなかぺこぺこだよ。」
C、小さく笑う。ゲーム機を見つけて言う。
C「あ、またゲームしてたでしょ」
A「ちょっとだけだよ」
C「ま〜た嘘ばっかり、ほんとは帰って来てからずっとやってたくせに。」
A「…」
C「やりすぎ注意でしょ」
A「…はい」
Aが拗ねる。CはBを見て言う。
C「今日も仲良くお留守番してた?」
A「うん、してたよ。今日もお話ししたよ。」
C「それは良かったね。一人でお留守番しててもさみしくないでしょう?」
A「うん、全然さみしくない!」
Bを見るA。
A「だって私たちは『おともだち』だもんね。」
B「…」
(おわり)
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