見出し画像

ムダとバラツキをなくす⚙️リーンシックスシグマとは?

今回は「リーンシックスシグマ(Lean Six Sigma)」という業務プロセス改善手法についてご紹介したいと思います。網羅的に取り扱うとあまりに長文になってしまうため、ここではリーンシックスシグマのエッセンスと私が特に関心をもった部分に焦点を当ててお伝えしたいと思います。


リーンシックスシグマの概要

リーンシックスシグマは、「リーン」と「シックスシグマ」という2つの手法を組み合わせた改善アプローチです。

リーンとは
製造業で広く知られるトヨタ生産方式をベースにした手法で、シンプルに言えば、ムダを徹底的になくすことを重視します。5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)やカイゼンなど、効率化を促進する手法が特徴です。

シックスシグマとは
アメリカのモトローラ社が開発した品質管理手法で、統計的手法を用いて、バラツキを限りなく小さくすることを目指します。DMAIC(Define, Measure, Analyze, Improve, Control)の5ステップを使い、データ分析を基に改善を進めます。

リーンとシックスシグマの統合
リーンとシックスシグマの組み合わせにより、スピードと品質の両立が可能になります。製造業で生まれた手法ですが、近年ではサービス業や事務部門でも活用されているようです。たとえば、支払業務の処理時間短縮と精度向上、コールセンターの対応品質向上と効率化など、さまざまな場面で成果を上げています。

特徴的キーワード10選

リーンシックスシグマの特徴を捉えるのに役立つキーワードを10点に絞ってご紹介します。

まず、リーン生産方式に基づく3つのキーワードをご紹介します。

7つのムダ
リーン生産方式の基本となる考え方です。「造りすぎのムダ」「不良のムダ」「加工のムダ」「運搬のムダ」「在庫のムダ」「動作のムダ」「手待ちのムダ」を「7つのムダ」と定義し、徹底的に排除していきます。たとえばオフィスワークでは、必要以上の資料作成(造りすぎのムダ)、承認待ち時間(手待ちのムダ)などが該当します。

ジャストインタイム
「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」生産・供給する考え方です。在庫を持たず、リードタイムの短縮によって効率的な業務の流れを実現します。顧客の需要を起点とする(=工程の後ろから引っ張られていく)ため、「プル型」と呼ばれます。

かんばん方式
「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」作るための生産管理方式です。工程間で情報伝達するときに、使用する道具が「かんばん」です。現代では電子かんばんとして、タスク管理ツールやプロジェクト管理ツールに応用されています。

続いて、シックスシグマの7つのキーワードをご紹介します。

DMAIC(ディーマイク)
シックスシグマの改善活動の基本となるステップです。Define(定義)→Measure(測定)→Analyze(分析)→Improve(改善)→Control(管理)の順で進めていきます。このフレームワークに従うことで、感覚的な改善ではなく、データに基づいた科学的な改善が可能になります。

Y = f(x)
この数式は、「ひとつまたは複数の要因(x)が望ましくない結果(Y)を引き起こしている」というシックスシグマの基本概念を表しています。結果(Y)を引き起こしている要因(x)を見つけて改善することで、Yを目標に持っていくアプローチがDMAICです。

CTQ(Critical To Quality)
Defineフェーズの重要概念です。顧客にとって重要な品質特性を明確にし、改善の方向性を定めます。たとえば「納期順守率を95%以上にする」「入力ミスを月間1件以下にする」といった具体的な目標を設定します。

シグマレベル
Measureフェーズの重要概念です。品質レベルを表す指標で、シグマレベルが高いほど、不良率が低いことを示します。たとえばシグマレベル3は不良率約6.7%(93.3%の良品率)、シグマレベル6は不良率0.00034%(99.99966%の良品率)を意味します。シックスシグマでは、このシグマレベル6を目標とし、限りなく完璧に近い品質を目指します。

Vital Few
Analyzeフェーズの重要概念です。多くの問題は少数の重要な要因から生じるという考え方で、改善すべき重点項目を絞り込む際に活用します。すべての問題に対処するのではなく、影響の大きい要因に集中することで、効率的な改善が可能になります。

実験計画法(Design of Experiments / DOE)
複数の要因が絡み合う場合に、効率的に最適条件を見つけ出すための統計的手法です。Analyzeフェーズでは、何が悪い影響をもたらしているのか原因となる因子を探るときにDOEを使い、Improveフェーズでは、どの因子をどの水準にすれば最適な結果が得られるかを探るときにDOEが使えます。

管理図(Control Chart)
Controlフェーズで、改善後のプロセスの安定性を確認・維持するために使用されます。データをグラフ化し、上方管理限界(UCL:Upper Control Limit)と下方管理限界(LCL:Lower Control Limit)の設定によって、プロセスが統計的に安定しているかを判断します。

これらのキーワードからお察しいただけたかと思いますが、シックスシグマは、データに基づく統計的なアプローチが特徴です。「CTQで改善対象を定め、シグマレベルを用いて現状を測定し、Y=f(x)やVital Fewで要因を分析、実験計画法で最適条件を導き出し、管理図で安定性を確認する」ように、感覚や経験だけに頼らない科学的な改善手法といえます。

上記キーワード10点は、リーンシックスシグマの特徴を手短にお伝えするために厳選したものなので、網羅的に学ぶ際には、もっと多くのキーワードが出てきます。

■ Define(定義)フェーズ:プロジェクトチャーター、SIPOC
■ Measure(測定)フェーズ:プロセスマップ、CTQツリー、測定システム解析(MSA)、チェックシート、DPMO、ヒストグラム、パレート図
■ Analyze(分析)フェーズ:特性要因図、バリューストリームマッピング(VSM)、仮説検定
■ Improve(改善)フェーズ:SCAMPER法、ボトルネックとバッチサイズ、2次ニーズ、リソース効率、フロー効率、故障モード影響分析(FMEA)、意思決定マトリクス、フィッシャーの3原則、要因効果図、分散分析、ステークホルダー関与度マトリクス、チェンジマネジメント

などなど・・・

上記キーワードの中に、ご存知の概念やフレームワークもあるのではないでしょうか。このように、リーンシックスシグマは既存の手法や考え方を統合して活用する方法論といえます。

個人的に一番興味を持った手法「VSM」

それは、Analyzeフェーズで使用する「バリューストリームマッピング(VSM:Value Stream Mapping)」の手法です。

バリューストリームマッピングは、業務プロセスの全体像を可視化し、どこに無駄があるのかを見つける手法です。各ステップの「付加価値」や「非付加価値」を洗い出し、改善の余地を明確にします。

ソフトウェア開発のVSM(Udemy講座の事例より作図)

VSM活用のステップ

  1. 現状のプロセスを描く
    プロセスの始点から終点までの工程と各工程の担当者を記載します。各工程の実作業時間(PT)と、その間の待ち時間(LT)を時系列で示します。

  2. 付加価値と非付加価値を分析
    付加価値活動は実作業時間(PT)として表され、事例では合計13.3日です。一方、非付加価値である待ち時間(LT)は合計20日です。また、各工程での手戻りは非付加価値を示す重要な指標で、この事例では開発/テスト工程での40%という高い手戻り率が目立ちます。VA比率0.67は、プロセス全体の3分の1が待ち時間であることを示しています。

  3. 改善策を検討する
    このVSMからは、2つの重要な示唆が得られます。1つ目は、要件定義での手戻り率が5%と低い一方で、ユーザーテストでの手戻り率が40%と高く、不均衡が生じています。これは要件定義から設計への移行段階で要件確認が十分でない可能性を示唆しており、開発品質の根本的な課題かもしれません。2つ目は、リリース承認に10日もの時間を費やしているにもかかわらず、実際の差し戻し率はわずか1%である点です。この承認プロセスが形骸化した儀式となっている可能性があり、リリースまでのリードタイムを長期化させている主要因の一つと考えられます。これらの改善により、より効率的な開発プロセスの実現が期待できます。

プロセスタイム、リードタイム、手戻り率を一枚絵に図式化することで、プロセス全体における改善ポイントが明確になる点が素晴らしいと思いました。これに近しい分析は過去に経験があるのですが、このVSMを知っていればもっと見やすい形にまとめられたのに…と思いました。

おすすめ書籍と講座

シックスシグマの入門書です。図解を用いて、シックスシグマのコアコンセプトを分かりやすく、ケースストーリー形式で解説しています。シックスシグマの基礎を効率よく学びたい方におすすめの一冊です。

シックスシグマの活用方法を網羅的に解説した462ページの大作です。DMAICの各フェーズで何をどのようにまとめるべきか、具体的なチェックリストや実務で使えるテンプレートが豊富に掲載されています。
一度ですべてを理解しようとするのではなく、まずは全体の流れを把握し、必要に応じて該当箇所を参照するといった使い方が良さそうです。残念ながら現在は中古販売のみのようでしたので、図書館で借りて読みました。

Udemyの講座です。10時間にも及ぶ長編講座ですが、リーンシックスシグマの主要概念だけでなく、データ尺度、サンプリング、仮説検定まで深く学べます。イラストをふんだんに使ったスライドで初学者にも理解しやすい構成になっています。定価27,800円ですが、Udemyは頻繁にセールを実施しているので、セールでの購入(私は1,300円で購入)がおすすめです。本格的にリーンシックスシグマを学びたい方、根気よく学習できる方に適した講座といえます。

おわりに

リーンシックスシグマの学習を通じて、リーンシックスシグマは特別なものに見えて、実はプロジェクトマネジメントやマーケティング、データ分析など、さまざまな分野で使われている手法を体系的にまとめたものだと気づきました。

新しい手法を学んだというよりは、既存の手法をプロセス改善の視点で再構成して学んだという方がしっくりくる気がします。

特に統計的な手法についてはUdemyの講座で理解を深められたので、今後必要に応じてまた参照し、活用していきたいと思います。

ご覧いただき、ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!

Ayano@業務改善を愛する人
「スキ」だけで十分うれしいです。サポートいただいた場合は、”業務改善”関連書籍の購入費にあてさせていただきます。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。