✴︎残業のカフェラテ✴︎夜を持て余す
黄昏時。
赤、オレンジ、ピンク、紫、群青色、
そして、漆黒の闇が訪れ、
夜の帳が下りた。
会社の窓からは家路を急ぐ人達、
浮き足立って楽しそうに歩く人達。
買い物帰りのお母さんと
手を引かれて歩く子供。
手を絡ませ、仲良さそうに歩くカップル達。
幸せそうに見える人達を尻目に
デスクへと目を向ける。
今週は月末。
嫌と言う程、沢山の書類や領収書が山積みだ。
あぁ、今日も残業か。
気分転換に、社内を出て。
近くのカフェへと向かう。
何処からか、香るカレーのスパイス🍛
あぁ、今日は。どこかの家はカレーなのか。
家族団欒の
仲睦まじい家族の絵が思い浮かぶ。
いいな。
道行くサラリーマンも、電話しながら
楽しそうに笑っている。
私だけ。1人か。
みんなが幸せそうに見える黄昏時。
ふと、世界で1人自分だけが孤独な様な気がして。
例えようのない寂しさに包まれる。
永遠に続いていくかの様な虚しさを感じて。
気を緩めば。
目頭が熱くなりそうな気がして、
我に戻る。
こんな気分になるのは。
夜のせいだ。
すっかり、昼の気配が消えた中
カフェへ足を踏み入れる。
暖かな柔らかい照明。
いらっしゃいませ!何になさいますか?と
笑顔で話しかけてくる店員さんに
救われた気がする。
暫くメニュー表を見て
選んだのは「カフェラテ」
いつもは、甘いのは苦手なので
素材の味が分かる
「ブラックコーヒー」
だけど、
ブラックコーヒーは、今の私には苦すぎる。
少しのミルクの甘さと
コーヒー豆の苦味が残る
カフェラテが、なんとなく、心地良かった。
レジ横で、店内に目を配ると、
やはり、愉しげに笑う女子会グループや
カップルばかりが目に入る。
そっか。
今日は土曜日なんだ。
いつの間にか、仕事に忙殺されて、曜日感覚まで
忘れてしまっていた。
以前ならば。土曜日の夜は待ち遠しくて仕方ない
楽しみな日だった。
仕事終わりに、
会えるかもしれなかったから。
記憶の残骸に足を踏み入れそうになる瞬間。
大変、お待たせ致しました!
必要ならば、お砂糖そちらにありますので
どうぞ!明るい声に、また我にかえる。
熱々のカフェラテ。
今日は。なんだか、甘い、甘いコーヒーに
癒されたくなった。
ここのカフェラテは、コーヒー豆の苦味やコクが
しっかりあるのだ。
蓋を外して目にした光景は
可愛い「ハート」
フッと口元が綻ぶ。
いつの間にか、
最初は甘かったコーヒーしか飲めなかった私が
徐々に甘さより、苦味を好きになったように。
人の気持ちなんて。
変わりゆくものだ。
そんな事を考えながら
シュガースティックを丸々1本。
ハートのど真ん中に注ぎ込む。
入れ過ぎぐらいがちょうどいい。
今の寂しさを紛らわすには。このぐらいの甘さが。
グルグルとかき混ぜて、
ハートは消えた。
残ったのは、ほろ苦さは消えて。
コーヒーの素材はほんの少し。
あとは、ミルクと砂糖だけが口に残る
甘ったるいカフェラテのみ。
私には仕事がある。
そう言い聞かせ、カフェを出る。
ふわっと
扉を開けた際に
後ろから
エスプレッソの香りが鼻をくすぐる。
あぁ。
本当は愛されてたんだと。
水道の
蛇口から水が溢れ出るように
記憶が蘇る。
ねぇ、一つお願い聞いてくれる?
朝、起きたら美味しいコーヒーで起こしてくれない?
以前。カフェに行った時、
エスプレッソマシーンを目にして口にした言葉が
脳裏をよぎる。
気恥ずかしくて、話を逸らしてしまったけれど。
あれは。一緒に住もうの合図だったのだ。
何故あの時、気付かなかったのだろう。
あんなに甘い時期もあったのだと。知る。
コーヒーが冷め行くように、
熱い時期も過ぎてしまった。
街はすっかり夜に包まれ、
昼間の残り香はしなくなった。
私には仕事がある。
大丈夫。
そう言い聞かせながら
ふと顔を覗かせる寂しさを
グッとカフェラテを流し込み
抑える。
幸せそうに笑みを浮かべる人達を
尻目に、
会社へ足早に向かう。
そんな気持ちを知ってるかの様に
手に握り締めた熱々の
コーヒーカップから
伝わる温もりが
慰めてくれているように感じた。
いつの間にか、土曜日の夜は。
カフェラテになった。
きっと、コーヒー豆の苦味と
ミルクの甘さが。
昔の記憶を消してくれるから。
ほろ苦い寂しさと
これからを期待したくなる
甘さを。
そんな曖昧が
混在する気持ちを
表してるかのようで。
飲み干してしまうと、
未消化な想いを
消化出来たみたいで。
心地良かった。
会社のデスクに
まだ、少し温かさが残るカフェラテを置く。
記憶の残骸に。
甘さに少し浸って。
ブラックコーヒーみたいな毎日を生きる。
いつか、また。
カフェラテみたいな日常がくる事を期待して。