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#30 お弁当
学校生活で更に私を追いつめるもの。それはお弁当だった。常に「存在感の無い娘」というポジションを望みながら、見栄っ張りな母は桁外れにゴージャスなお弁当を作り、私を大いに目立たせた。何度となく『もう少し地味にして欲しい』と頼むのだが聞く耳を持たない。
「おかずが夕食の残りだなんて貧乏くさいのはありえないから。ママがちゃんと世話をしていないみたいじゃないの」いやむしろそういうおかずを入れて欲しいと訴えるが「絶対嫌よ。いい?親の愛情は感謝して受け取るものなの」お金に物を言わせる考えからどうしても抜けられない母。
更にお弁当箱と同じ大きさのタッパーが毎回添えられている。中身はぎっしり詰まった果物。最低でも旬の果物が2種類以上入っており、缶詰めなんてもってのほか。
「お願い。カバンが膨れて大変なんだよ。果物なんてお弁当箱の端に一切れ入ってたらそれでいいんだから、止めてよ」
「果物はね栄養バランスからみてとっても大事なの。育ち盛りなんだから残さず食べなきゃダメ!ママが毎食後に果物を食べるのは健康を考えてのことなんだから。いい?人は人、卯月は卯月なの。どうしてみんなと同じじゃなきゃならないのよ」
何を言い出すんだろう。同じであってくれと強く望んでるのは母じゃないか。都合のいい時だけころっと言い分を覆す。毎日お弁当を広げる度に『出た!金持ち自慢!』と揶揄された。
幾つになっても居場所が見つけられなかった私。ただ家を出るという唯一の望みにすがって毎日を必死に過ごしていた。高校を卒業するまであと5年。5年この地獄に耐えれば大っ嫌いな母親から解放されるんだ。その先の人生はきっとバラ色に決まっている。そう信じて。