#22 それは気管支炎です
母好みの子供を演じるようになって1年。過度のストレスからかぜーぜーと音を立てる呼吸音。空気が上手く吸い込めない。自分に何が起きているのかも分からず不安がっていると
「それは軽い気管支炎よ、具合が悪いなら横になりなさい」
横になったらもっと苦しいんだとどんなに訴えても分かってくれない。母のマニュアルでは「体調不良時は横になる」のが鉄則なのだ。我慢して横になっても苦しすぎて体を起こす。そして怒られる。
「卯月はいつもママに反抗するでしょ。親の言うことをきかないからバチがあたったのよ」
何を言われてもいいから病院に連れて行ってと思っていた。苦しい、眠れないと必死に伝えても
「そうやって興奮するからますます苦しくなるの。明日学校行きたくないんでしょう?ズル休みなんかさせないからね。ママが卯月の嘘を見抜けないとでも思ってるの?いいから早く寝なさいよ」
病気になるとあからさまに不機嫌になった母。
「いい?喘息だったらもっと苦しいの。その程度の気管支炎なんか病院で診てもらうまでもないのよ」
と断言。
私は夜通しひどくて朝になると治まる夜間喘息だったため、結局朝になって「ほら、もう何ともないじゃないの。学校行きなさい」と寝不足でふらふらのまま学校に行かされた。
(母はとにかく変化を嫌う。それがアスペルガーの特徴なのだと今なら分かるが、そんなことを知りもしない子供の私にとっては具合が悪くなると怒られるという恐怖心でいっぱいだった。結局私は一度も病院に連れていってもらえず、喘息を放置したまま大人になった。あまりの辛さに耐えかねて自らの意思で病院に行き、何故子供のうちに治療を開始しなかったのかと今度は医師に怒られるというオチ付きである。)