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#6 恐怖の集団生活

文字が書けるのだから当然読める。すると母はこれ幸いと大量の絵本を購入し、ますます私を構わなくなった。「読んで」と差し出しても「あら卯月はお利口さんだからもう字が読めるじゃないの。いつまでもママに甘えないで自分で読みなさい。いい?自分で出来るのに人にやらせることをわがままって言うのよ。」

こうしてお金に育てられた私は同世代と一度も触れ合う機会がないまま幼稚園へ。入園式ではただ周囲に圧倒され固まっていたのを思い出す。こんなに大勢の子供たちは今日まで一体何処に潜んでいたのだろう。(いや、潜んでいたのは私だが)

友達を作って他人との関わり方を学ぶとか、兄弟げんかをして何もかも思い通りにならない現実を知るとか、集団で過ごす知恵やルールを幼いなりに身につけている子供たち。その過程がすっぽり欠落している私がいきなり集団に放り込まれたのだから恐怖以外の何物でもない。そんな私の心中を推し量るわけもない母は「みんなと仲良くしなさいよ。」とあっさり突き放した。

ここまでの人生で大人にちやほやされた経験しかない私には、うるさくて言うこともきかない子供だらけの空間が耐え難かった。馴染めずにまごまごしていたらあっという間に目を付けられた。

歩いていると横から足をひっかけられ、つまずいて転ぶ。意地悪をされた経験が無いからコントのように見事な転び方をする。それがいじめる側にしたら面白くてたまらないのだ。

当時はマンガのキャラクターがついたピンクのビニール靴を多くの女児が履いていた。しかし母は『幼稚なものは嫌い』だと買ってくれず、大人びた白のデッキシューズを履かされていた。それが周囲から浮いた状態になりとても目立つ。朝礼で暇を持て余した隣の子がそっと靴を踏みつける。土がついて色が変わるのが面白いらしく、何度よけても繰り返す。おそらく私が泣き出すまで続けたかったのだろう。

でも私はとても醒めた子供だったので、そういう挑発に乗らない。避けてもまた踏んでくるというしつこさに呆れ、とうとう踏ませたままにしていた。そこで先生が気づきその子を注意して収まったのだが。

報告を受けた母が「足を踏まれても言い返さずにそのままにしているなんて、なんて優しい子なんでしょう」と私を褒めたのだ。心底驚いた。『いじめられてるんだよ、気づいてよ。なんてとんちんかんなの?』子供ゆえに言葉で表現出来ないもどかしさ。

私の気持ちをちっとも察してくれない。子供心に母親が少しズレていると気づいたのはこの一件がきっかけだった。かけて欲しいと思う言葉を得られない。期待と異なる反応が多すぎる。そう、母はいつでも的外れ。




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