#8 習い事1
幼稚園という集団生活に溶け込めるよう自分なりの努力を重ね、なんとか友達も作った。その必死の思いを平然とぶち壊すのが母である。
「卯月はえりちゃんと仲がいいんですってね。でもあの子のお母さんってなんだか意地悪そうな顔つきしてるじゃない。ママああいう人は嫌いなの。だから明日から仲良くするのは章子ちゃんにしなさいよ。あの子のお母さんは話しやすそうだから。いい?分かったわね!」
子供の気持ちなんて二の次。母は自分のことしか頭にない。
幼稚園ではホールや教室を時間貸ししていて毎週月曜日、園児の帰宅時間に合わせて颯爽と現れる女性に私はいつも釘づけとなっていた。その人は遊戯室でバレエを教えている先生でとにかく目をひく美しさだったのだ。母に早く帰ろうと急かされても飽きることなくレッスンを眺め、そして母に告げた。
「バレエを習いたい」
自分から意思を示したのは初めてのこと。てっきり了承されると思っていたのに却下された。しかもその理由が
「卯月にはどうせ無理」
だった。この家では私がどうしたいか、私がどう思うかは通用しない。母の決断が全て。今に始まったことではないけれど、それでも解せない。
バレエの件からひと月もたたない頃、唐突に母が決めた。
「卯月、明日から習い事始めるわよ。みんなしてるから卯月もしないとみっともないわ」
周りと同じじゃないと不安に駆られる母が勝手に決めたのはオルガン教室だった。そしてその理由はすぐ判明、仲良くなれと言った章子ちゃんが先週から習い始めていたからだ。分かりやすい...というかものすごい安直な母の思考。
初回こそ戸惑ったものの、二回目はすごく楽しくなった。何よりも母娘参加での形態なので、母が私をかまっている姿を確認するのが嬉しかったのだ。そして心待ちにしていた三回目。
三回目のレッスンは私にだけおとずれなかった。