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『人民は弱し 官吏は強し』星新一 新潮文庫


 私が中学生だった頃、級友がよく星新一の本を読んでいて、私もまねて『ボッコちゃん』などを読んだ。星新一の親戚筋の先輩が同時期に在校されていたのは、先輩も私も卒業してだいぶ経ってから知った。
 星新一がこの作品で描いた父親星一はよく後藤新平伯のお宅へよく通っていたと、この作品の解説で知った。後藤新平伯の写真は私のその母校の学校案内に使われていて見慣れ感があり、このあたりの縁の糸に、私は不思議な感じがする。

 先にも記した通り、星新一はこの作品で実父星一の実業界での闘いの姿を描いている。この伝記物語は家族史小説であるとも言えるだろうか。
 星一は官吏らから実業上の圧迫を受ける中、アメリカへ外遊中に急死する。大学院在学中の星新一が会社を継ぐが、他人の手に渡すこととなり、その後、星新一が作家として世に出ていくことになる。
 解説に書かれたとおり、実業の世界で果たせなかった親の仇を文学の世界で果たしたと言うのであれば、星新一自身の事業の失敗は、ターニングポイントとして成功したと言える。

 コロナ禍の現在、人民ひとりひとりがしっかりしなければならない。

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