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大切なものを失いたくないから

「時間がない」「忙しい」

いつからそんな言い訳をするようになったんだろう。

「お金はないけど時間はある」言われている学生時代に、わたしは毎日のように「時間がない」「忙しい」と言い続けていた。確かに実際のところわたしの学生時代はめまぐるしいくらいの忙しさだった。バイトを3つかけもちして、学生団体の活動、ゼミ、予備校(法曹になりたかったから司法試験対策として)、アカペラサークル、法律討論部の活動、全てを同時並行に進めていた。今考えれば本当によくやっていたなというか、何をやってたんだというか。とにかく、毎日が分刻みのスケジュールで、誰かと会話をする度に「時間がない」「忙しい」の連続だった。

あの時は確かに充実していた。確かに時間はないし忙しかったけれど、自分がすると決めたものは全部自分が望んだものだったから。誰かに強制されたものじゃなくて、自分がやりたいと言い始めたものだったから。

だけど、わたしがあの時に戻れるのなら。ひとつだけ絶対にやらないことがある。

それは、さっきから言っていた「時間がない」「忙しい」を、口に出すこと。

口癖だったこの言葉をわたしの周りはいつも聞いていた。だから、刷り込まれていた。「あやめちゃんは忙しい人だ」ってことが。

本当は参加したいと思っていたイベントに「忙しそうだったから遠慮して誘えなかった」という事実を知った時。本当は話してみたいと思っていた先輩に「あの時、時間なさそうだったから話しかけなかった」と言われた時。
もう後戻りできないような時になってから「本当は誘いたかった」「本当はもっと話したかった」なんて言われて、ひどく後悔した。

「忙しい」が口癖になって、「忙しい人」というのが周りからのわたしのイメージになって、逃したチャンスがいっぱいある。

もしわたしがこのままあの頃に戻れたなら、どんなに忙しくても忙しく見せないように振舞いたい。まぁ戻れないし、戻ったところでわたしがそんなに器用に出来る気もしないんだけど。

だけど、「忙しい」を言わなくなったわたしは、なんだかすごく心に余裕が生まれた気がしている。きっと言霊みたいなものもあるんだろう。自分で発する言葉を一番近くで聞いているのは自分自身。

わたしの周囲がわたしのことを「忙しい人」とイメージしたように、「忙しい」という言葉を発する度に、わたし自身もわたしのことを「忙しい人」と思い込んでいた。きっと忙しくない時だってあったはずなのに、自分で自分のことをずっと「忙しい」「忙しい」なんて思っていたから本当に余裕がなくてあくせくした毎日を過ごしていたように思う。


もう後悔したくないから、チャンスを逃したくないから、もっと自分の時間を大切にしてあげたいから、わたしが「時間がない」「忙しい」を言うのを辞めた。そしたら、なぜだか心に余裕が生まれた。

学生から社会人になって環境も何もかもが変わって、本当に時間ができて忙しくなくなったからそんな言葉を発しなくなったのかもしれないし、「時間がない」「忙しい」を言わなくなったから、余裕が生まれたのかもしれない。その辺は「卵が先か鶏が先か」みたいなものだと思うのだけど、とにかくそんな言葉を発さなくなってからの方が、わたしの人生は楽しい。


どんな言葉を選ぶのか。何を言って、何を言わないのか。自分から発せられる言葉は、自分で選ぶことが出来る。

だからわたしは、自分が良いと思った言葉を発していきたい。

言ったことを後悔してしまうような言葉は、そっと胸の内にしまっておきたい。


そんなことをふと思った、月曜日の夜だった。


今日もおつかれさまでした。



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あやめし
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