「いただきます」も「ごちそうさま」も本当は怖かったんだ
食事に興味がなかった。
別に、お腹が満たされればそれでいい。なんでもいい。そう思っていた。
ご飯を食べる時間が惜しいと思っていたこともあったし、自分で料理をするなんて、そんな時間はもっと惜しいとすら思っていた。
たぶん、他の人よりも食事に対する優先順位がとても低かった。
ご飯が楽しみだなんて思ったことはほとんどない。食べることが好きだと思ったことも一度もない。
生命維持のために最低限食べられればそれでいい、そういう考えだった。
実は、昔から食事の時間が苦手だった。
保育園の頃から、みんなで同時に「いただきます」をするのに、どうしてもわたしはみんなと一緒に「ごちそうさま」ができなかった。
食が細くて、食べるのが遅いわたしは、何をどう頑張っても、給食の時間内にご飯を食べきることができなかった。
「はやく食べなさい」
「なんでこんなに遅いの」
「他の子はもう先に行っちゃったよ」
みんなが食器を片付けて違うお部屋に移動しても、食べ終わっていないわたしは、食堂にひとりぽつんと残り、食べ続けなければならなかった。
嫌いだった。そんな、給食の時間が嫌いだった。
共働きの両親が家に帰ってくるのは、かなり遅い時間だった。買ってきたお弁当だったり、スーパーのお総菜が食卓に並ぶ。帰ってきた人から夕飯を食べるっていう生活だったから、家族みんなで「いただきます」をすることなんて、あんまり無かった。
家でも、食べるのが遅いわたしは怒られた。苦手な食べ物を後回しにして、怒られた。
怒られるのは、いつもご飯の時間だった。
だから、ご飯が好きになれなかった。
食事の時間が、好きじゃ無かった。
そんなわたしを優しく包んでくれたのが、今の旦那さんだった。
会う度にいつもおいしい料理を作ってくれて、一緒に「いただきます」をしてくれる。
食べるのが遅くて謝るわたしを、「気にせんでええんやで、俺が早いだけやで」と言いながらにこにことわたしが食べ終わるのを待っててくれる。
一緒に「ごちそうさまでした」をしてくれる。
誰かと話しながら食べる食事が、こんなにもおいしいものだったなんて、わたし、知らなかった。
ご飯を食べる時間が楽しいだなんて、今まで知らなかった。
彼はいつも言う。
「ごはんの時間を大事にしたい」
昔は、すごく食にこだわりのある人なんだと思ってた。でも、それ以上に彼が大切にしたかったのって、ご飯の時間にあるコミュニケーションだったり、人との関わりだったり、なんだかそういう、もっとあったかいものだったんだね。
これから先の未来、わたしたち夫婦に子供が生まれて、家族が増えたとしても、わたしも「ごはんの時間を大事にしたい」って思う。
みんなで一緒に「いただきます」をして、おいしいご飯をにこにこしながら一緒に食べたい。
くだらない話で笑い合って、ごはんを食べてるときって幸せだなって、思ってみたい。
素敵な人のお嫁さんになったなぁって思う。
彼と一緒になれて、わたしは幸せだなぁって思う。
今度はわたしが、おいしいご飯を作ってあげられるようになりたいな。
今日もおつかれさまでした。
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