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【詩】知らない
知らない
熱帯地域の農村住居は
ヤシの葉の屋根とコクタンの柱に
地元の植物が簡易な空間を織りなしていた
小さな広場を囲むように形成された集落
太陽が掌の光を直に投げ散らしたような猛暑
人々はエアコンの存在を知らずに
笑顔で暮らす
エアコンが当然あることに慣れた我々は
早くエアコンの効いた場所に戻りたいと願う
そこに辿り着きさえすれば
何もかもが上手くいくように感じる
エアコンのない生活を不憫に思う
農村の人々は
物欲に塗れる不幸を知らない
物欲に塗れる幸せも知らない
タワマンやローン地獄を知らない
家電の揃った家や車の
快適さと便利さを知らない
学歴差別や格差社会の辛さも知らない
彼らはきっと一生知らない
だが彼らが人間として
彼らの人生を生きるのに
知る必要があるだろうか
知らないものは
存在しないものと同じ
知らなければそれで悩まず
欲しがりもしない
我々も多くのことを知らない
自分達がどこから来てどこへ行くのかさえ
知らないとは
あっけらかんと純粋でいられる
幸せのおまじないかも知れない