右派の私が「リベラル派による韓国分析本」を読んでみた①
リベラルの弾幕薄いよ、何やってんの!
今年の上半期から始まった「日韓外交戦争」ともいうべき事態を前に、右派はガンガンに攻めた論調の現状分析を行ったのに対し、左派はそれに対するカウンター的な批判や、古色蒼然とした「日本がかつて悪いことをしたのだから……」的な論調にとどまっているのではないか、と少し前に指摘しました(「嫌韓メディア」と罵るけれど「リベラルメディア」はすでに敗けているのでは)。
この一文はnoteだけで公開していたのですが、結構多くの方にお読みいただきました。公開からひと月余りがたちましたが、結局、右派が通例の月刊誌での特集に加えて増刊号まで発刊して世論に自らの意見を訴えたのに対し、左派ではそこまでの派手な動きがないまま、現在に至っています。
では、「リベラル派(非右派・非嫌韓派)による韓国分析は全くないのか?」と言えば、あるのです。書籍であり、「今この時」までの情勢を含めたものではありませんが、これは上記のような「煽り」を行ったものとして、読まないわけにはいかない! というわけで、感想を書いておこうと思います。
「右派が攻めざるを得なかった理由」とは?
なお、前提として「右派の(ともすれば嫌韓的、とさえみなされる)言説は、左派があまりに韓国に寄り添いすぎて日本の右派的な立場をないがしろにした結果、より強い力で押し返さなければならなくなった」ところから来ている――と私は思ってきました。
倉本圭造さんがアゴラで書いていた、まさにこの構図。
「朝日的なリベラルが韓国の無茶ぶりさえ擁護して、こちらの押し返しを『ヘイト』呼ばわりするから、日本の右派の鬱屈はたまりにたまり、より強い口調で韓国(と朝日)を叩かざるを得なくなるのだ!」というわけです。
逆を返せば、「朝日的リベラルが、韓国を批判すべきところは批判してくれれば、こちらもそこまで押さなくても済むんだよ!」ということにもなりましょう。
確かに90年代の慰安婦問題を頂点として、朝日新聞の「日本サゲ、そのための韓国アゲ」的な論調は明白でした。新聞紙面(特に社説)ではまだその傾向は続いているといえるし、何より右派の方々の認識も、「朝日=韓国擁護」のイメージで固まっています。が、朝鮮半島を現場で見てきた記者個人はどうなのでしょうか。
韓国大統領府を出禁になった朝日記者
そこで、1冊目は朝日新聞前ソウル支局長・牧野愛博記者の『ルポ「断絶」の日韓』(朝日新書)。
「日韓断絶」という『文藝春秋』10月号に憤慨していた左派もいましたが、これにキレている人は見かけませんね。よく見れば帯も「徴用工、慰安婦、天皇謝罪要求に関して、韓国が『約束を反故にした』」という前提で書かれています。
本文も同様で、特に第1、2章はかなり時事性の強い話題(レーダー照射、旭日旗問題、徴用工問題、慰安婦問題)を扱っていますが、「(特に戦前を理由とした)一方的に日本を悪者にするスタンス」は取っていません。
むしろ、かなり冷静・客観的で、韓国側の言い分――例えば、「レーダー照射問題で安倍政権が対韓強硬なのは、日ロ外交で進展がなかったことによって(対韓外交で得点を稼ごうという)政治的意図があってのことだ」――を一蹴したり、GSOMIAの廃棄に困っている韓国軍元将校の「ため息」を伝えるなど、韓国側の意見の多様性をも読み取れる記述です。
なんと牧野記者は2017年後半、「韓国大統領府への立ち入り禁止」を申し伝えられ、2018年5月には史上初めて「無期限の立ち入り禁止」を一方的に宣言されたという! 内容は、文在寅政権に関するものだけれど、デマや誹謗中傷を書いたものではもちろん、ありません。産経新聞の加藤達也記者が朴槿恵政権下で「大統領に対する名誉棄損による在宅起訴・出国禁止」を命じられた件は右寄り業界では大いに知られ、加藤記者は英雄視されていますが、文在寅政権下の朝日新聞記者に対する仕打ちも、もう少し知られていいのではないでしょうか。
「フェア」を重んじる我々としては……
もちろん、牧野記者の本に全部が全部「大賛成」というわけではありませんが、あとがきのこの一文には、ゴリゴリと同意の赤線を引いてしまいます。
韓国の人を必要以上にけなし、返す刀で「だから日本人は優秀だ」と決めつける論法は取るべきではない。でも、逆に何でもかんでも「韓国人は可哀想だから、救ってやるべきだ」という主張にも賛成できない。それは、韓国の人々の事情も考えずに、感情を押し付ける「パターナリズム」だと思う。
実際、これだけのことを書くだけでも、結構な「踏み込み」が必要だと思います。左派からはともすれば「右派を勢いづかせる」ともとられかねないし、実際に右派が悪用しようと思えば、「朝日の記者ですら、『韓国人を救ってやるべき、なんておかしい』と言ってるぞ!」式に使われかねないわけですから。
しかしフェアを重んじる我々としては、「朝日新聞の記者でも、ここまでは言えるようになったんだなあ、いいぞいいぞ」と肯定的に受け止め、我が身もきちんと振り返っておきたいところ。
実際、読んでみると「良かれと思ってやった日本側(安倍政権)の言動が、日韓関係を悪化させた事例」もあり、親安倍側・右派もこれを知っておかないとフェアに日韓外交について語れないぞ、という情報もあるので、未読の方はぜひ。
……ご紹介したい本があと2冊あるのですが、長くなったので続編をお待ちください。