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《神話-1》ゼウスの愛人たち
こんにちは。
Ayaです。
昨日の投稿に書かせていただいた新マガジン《神話》第1弾は『ゼウスの愛人たち』です。
ゼウス(ユピテル)
ギリシア神話の最高神で、ローマ神話ではユピテルと呼ばれます。ゼウスはクロノスとレアーの三男として生まれます。クロノスは父ウラノスに自分の子どもに殺されるという呪いをかけられていたため、生まれた子どもを次々と飲み込んでしまいます。母レアーはゼウスを妊娠したときなんとか夫から守りたいとの思いから、隠れて出産します。
ゼウスは成長すると、飲み込まれていた兄弟神たちを助け出し、クロノス打倒に乗り出します。クロノスら旧世代の神々は敗れ、ゼウスたち若い神々の時代になると最高神としてオリンポスに君臨します。姉ヘーラーを妻に迎えますが、好色のため様々な女神・女性たちと関係を持ちます。今回はヘーラーの監視やその他の困難を逃れてどうやって彼女たちと関係を持っていたのかを取り上げたいと思います。
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息子アキレウスの助命を懇願するティテスとユピテル。正妻ヘーラーが監視している。
ダナエ
アルゴス王女のダナエは父が孫に殺されるという預言を信じて塔に幽閉されてしまいます(ラプンツェルの元ネタ?)。これを知ったゼウスは黄金の雨に変身し、ダナエと関係を結びます。こうして生まれたのがペルセウス(アンドロメダの夫)で、ダナエの父は事故で彼に殺されてしまいます。
ダナエのエピソードはゼウスの愛人たちの中でも好まれ、多く描かれました。黄金の雨という画家なら絶対表現したいものだからでしょう。
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商業の都ヴェネツィアらしく黄金の雨を金貨で表現している。右の侍女がおこぼれにあずかろうとエプロンを広げている。
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黄金の雨に苦心した画家たちだが、ダナエ自身はボケっとしている描かれ方が多い。この作品はダナエを恥じらいながらも黄金の雨に触れようと描いており、人気が高い。しかし、1985年硫酸をかけられるいう事件が起こっている(現在は修復されている)
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世紀末の画家クリムトもダナエを描いている。黄金の雨が降ってきたシーンを描く画家が多かったが、クリムトはよりリアルに描いている。ダナエを赤毛の女性に描くことで、当時流行していた男を惑わす『ファム・ファタル(運命の女)』のイメージに近づけている。
レダ
スパルタの王妃レダを見初めたゼウスは白鳥に変身し、レダと関係を持ちます。その夜レダは夫とも関係を持ち、ふたつの卵を産みます。卵は孵り、片方の卵からポリュデウケースとヘレネー、もう片方の卵からカストルとクリュタイムネストラが生まれます。男子のカストルとポリュデウケースは双子座になったエピソードぐらいしか伝わってないですが、女子のヘレネーとクリュタイムネストラは壮絶なエピソードが伝わってます。いつか取り上げたいです。
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ゼウスの変身した好色そうな白鳥とレオナルド特有の微笑みを浮かべるレダ。レオナルドの代名詞スフマートを駆使した作品。異時法で卵から子どもたちが孵る瞬間も描いている。
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レオナルドのライバル・ミケランジェロも『レダと白鳥』を描いている。しかし作品は現存せず、これは後世の画家による模写。レオナルドの作品より直接的な表現をしていて、ミケランジェロらしく女性とは思えない筋肉が描かれている。
エウロペ
エウロペはフェニキアの王女で海辺で牡牛と戯れていた時、牡牛が突然暴走し、拉致してしまいます。この牡牛、正体はゼウスだったのです。牡牛はゼウスの聖獣とされているのでこのエピソードが作られたのでしょう。エウロペはクレタ島に連れていかれ、こどもを三人出産しています。
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エウロペを連れ去る瞬間を描いた作品。エウロペの衣装が乱れ、彼女の混乱具合も伝わってくると同時に官能性も描いている。
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ティツィアーノと同じ主題だが、こちらのエウロペは落ち着いており、リラックスして牡牛の首に手をまわしている。略奪というより、駆け落ちのようだ。
イオとガニュメデス
女性と関係を持つためならなんにでも変身するゼウス。なんと『雲』にも変身しています。
情事の相手イオはヘーラーの女神官。部下に寝取られたことに怒り心頭のヘラーはイオを牛に変え、ギリシアから追放してします。イオはエジプトに逃れやっと変身が解けて、オシリスの妻となります(エジプトのほうが文明は古いだろうに…)。
今までの女性たちより絵画化が少ないイオのエピソードですが、有名な作品があります。こちらです。
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今までの中で一番シュールですよね(笑)。ちなみにこの作品、対があります。
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鷹もゼウスの聖獣なのですが、なんと相手が男性です。古代ギリシアでは女性との愛は肉体的なものとされ、男性同士の愛は精神的なものとされていました。そのため、ギリシア神話の神々も男性との恋愛譚が伝わっています。
ガニュメデスはトロイアの王子で、その美貌に恋焦がれたゼウスは鷹に変身し、ガニュメデスを拉致します。『女だけじゃなく男もかい!』とへーラーは怒りましたが、ゼウスは無視。ガニュメデスは不老不死にされ、神々の酒を注ぐ係を任されることとなります。彼が水瓶座の起源です。
カリスト
ここまでは笑える(?)エピソードですが、ゲスエピソードもあります。
ゼウスの娘アルテミスは男性嫌いで有名で、彼女に仕える女性たちも純潔が求められました。ゼウスはそのなかのひとりカリストをみそめますが、当然ながら相手にされません。そこでゼウスは卑劣な手段にでます。
なんと自分の娘アルテミスに変身し、無理やりカリストと関係を持ったのです。
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娘アルテミスに変身しカリストをまんまと騙すゼウス。レズビアン的な雰囲気で描かれている。
カリストは哀れ妊娠してしまいます。アルテミスは嫌悪し、カリストを追放しまいます。カリストはなんとか出産しますが、さらにへーラーの嫉妬により熊に変身さられてしまいます。熊の姿で何年か彷徨ったカリストは狩人となった息子と再会します。息子に必死に伝えますが、息子は熊となったカリストに襲い掛かります。これをみたゼウスは2人を星座にします(今更感がひどいな)。
ヘーラーは星座となったカリストが憎らしくてならず、海の神に命じてカリストが休めないようにしました。このためカリストの大熊座は北極星として動かない星となったのです。
ミルキーウェイ(天の川)の神話
ゲスいエピソードを取り上げたので、最後はクスッとしてしまうエピソードを取り上げます。
例の女癖によって美しい女性を見つけたゼウス。彼女は貞淑な人妻でしたが、いままでより簡単に関係を結びます。その女性の夫に変身したのです。
この女性は妊娠し、男の子を産みます。へーラーはいつもの嫉妬によって毒ヘビを送りつけます。ところが、毒ヘビを赤ん坊は絞め殺してしまったのです。この姿を見たゼウスは赤ん坊の将来性を感じ取り、不死にしようと企みます。なんとへーラーの母乳を飲ませようとするのです。
この場面が本稿のトップ画に使った作品です。へーラーがうたた寝しているところで赤ん坊に乳を吸わせたのですが、あまりにも赤ん坊が勢いよく飲んだのでへーラーも目を覚まして大騒ぎとなります。この時の母乳が飛び散り、ミルキーウェイ(天の川)となったというエピソードです。
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ゼウスの涙ぐましい努力(?)のおかげで赤ん坊は不死になります。乳をやったとはいえ、へーラーのこの赤ん坊に対する悪意は消えず、たびたび彼に呪いをかけます。自分が発狂して妻子を殺したと知った彼は神託を聞きに行きます。『ヘーラークレース(へーラーの栄光の意味)と名乗り諸国を回って罪を償え』と信託を受けた彼は旅にでます。彼こそギリシア神話随一の英雄ヘーラークレースとなるのですが、彼についてはまたの機会にまとめようと思います。
ギリシア神話の面白さはやはり神々の人間くささでしょう。旧約・新約聖書の神のように人間には立ち向かえない偉大な神というエピソードもありますが、大抵が今回取り上げたようなエピソードばかりです。各地の国家が神々の子孫と自称したこともあり、面白いエピソードはほかにもあります。そういったエピソードをこのマガジンでは取り上げていきたいです。
《神話》マガジン、第1回いかがでしたしょうか?感想残していただけたら幸いです。次回は旧約聖書の『アダムとイブ』について取り上げたいです。