20代だからこそ、身近な人へ愛を伝える努力をしよう
朝からずっと眺めていたパソコンから右隣にある時計に視線を移すと、
すでに19時を過ぎていた。
体の中に集中力はもう残っていない。
社会人と言われるようになってから5年目。
仕事を終えて外にでると、4月になったというのに、まだ冬の冷たさを残した風が吹いている。会社での緊張感がまだ抜けきれていない身体で池袋駅まで歩き、自宅の最寄り駅までは約1時間。
仕事がうまくいかないとき。
友人や恋人との関係がうまくいかないとき。
将来について悩んだときも、わたしにはいつだって帰る場所があった。
わたしにとって家は気を使わず安心できる場所であり、家族のもとに帰ってくることで自分の居場所を再確認することができた。
楽観的でビールよりスナック菓子が大好きな父、テレビに向かってでもよくしゃべる明るい母、こたつでよく寝るペットのマロン。
わたしを入れると3人と1匹の一般的な家族だ。
ひとりっ子だったからということもあるが、両親はいつだってわたしのことを応援してくれていたし、愛情はいつも自分にそそがれていたように思う。
そんな家族に対して「ありがとう」と伝えたことは何回あるだろうか。
家族とわたし
母親が宝塚歌劇団が好きだったことから、わたしは3歳からバレエを習っていた。
最初は宝塚歌劇団にもバレエにも全く興味がなかった。
しかし小学生になるとスクールの先輩に憧れてバレエが好きになり、特別クラスにも入ることになった。
特別クラスは一般的なクラスとは違い、プロバレエダンサーを目指すクラスだ。
練習は週5回に加えて舞台や、コンクールがある。
金銭面、練習面でも両親の支えがないと続けていくことは難しい。
実際にテクニックもあり、みんなが羨むようなバレエの才能がある同期もいたが、家族の協力を得ることができずバレエをやむなく辞める者もいた。
わたしが舞台に立つときは母親のほうが緊張していたし、コンクールで入選すると両親はわたしより喜び、家族が一緒になってやりたいことを応援してくれていた。
また、わたしは両親の誕生日を祝ったことがないのに両親は毎年、毎年、わたしの誕生日になるとケーキとプレゼントを用意してくれていた。クリスマスツリーのライトが光るリビングで、家族全員でローソクの火を消すことが恒例だった。
家族の愛が一点化していることでプレッシャーを感じることもあったが、見ていてくれる両親がいたからこそ頑張れたことも多かったと思う。
ときには喧嘩をしてしまうこともあるけど、何かあったときには必ず心配してくれる存在である。
しかし、家族という一番身近な存在だからこそ、伝えられていないことも多い。
「言わなくても家族なのだから伝わっているだろう」「誕生日は家族に祝ってもらうのは当たり前」など、家族から受ける愛情について今まであまり深く考えたことがなかった。
一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、距離が近ければ近いほど、愛について立ち止まって考えることは少ないのかもしれない。
当たり前の存在について考える
最近は、両親も背中が丸くなったなあとか白髪が増えたなど年齢を重ねたことをしみじみ感じることも多くなってきた。
テレビをつけるとコロナウイルスのニュースに加え、過去のことだと思っていた戦争の映像が連日放送されている。
一発の銃弾で民間人が犠牲となり、家族がばらばらになる映像。
父母、息子、娘、家族を亡くし、声もなく泣き崩れる映像。
思いがけない出来事によって、当たり前の日常が突然断ち切られてしまうこともある。
大切な人との関係にもいつか終わりが来るのだ。
時間は有限であり、家族という存在も、その時間の中で出会える縁なのかもしれない。抗いようのない何かによるものなのかもしれないが、別れは確かに必ずやってくる。
幸いなことに現在、家族で大きな病気を抱えているわけでもなく、全員元気にすごしている。しかし、その平穏と紙一重に、今この瞬間にだって別れが突然やってくる可能性もある。
だからやっぱり、大切な人との未来が当たり前に来るなんて思ってはいけないのかもしれない。自分が愛されたいと思うのであれば、まずは周りの人に愛を与えること。
わたしはまだまだ自分のことで精いっぱいで誰かを愛すことに自信がない。
けれど、わたしもいつか、自分で家族をつくる日がやってくるかもしれない。その日に向かって静かに、確実に、家族との時間は過ぎていく。
だからこそ、まずは今身近にいる両親から愛を伝える努力をするべきではないか。
世の中で決められた「母の日」や「父の日」だけでなく、なんでもない日でも身近な人にありがとうと伝えることができる人間になりたい。
言葉で表現することが恥ずかしいのであれば、モノを通じて想いを伝えるのでも良いのかもしれない。
冬の風はあっという間に溶けて、春の柔らかい風が吹いている。
家族が喜ぶ姿を想像しながら、今日はプレゼントを片手に家に帰ろう。
※本記事はSHElikesライターコース「家族と贈り物にまつわるエッセイ」課題を手直ししたものです