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天文台日記

著者 石田五郎
中公文庫BIBLIO

またまた日記本。
本当はこちらの方がはやく読み始めていたのですが、ふらっと『日記の練習』に寄り道してしまった。まあ気分屋の私らしい。

誰かが「私のバイブルです」とおすすめしていたので勢いで買ってしまった一冊。宇宙に関わる本を見かけたらできるだけ読んでいきたい。

岡山天体物理学研究所の副台長であった石田五郎さんによる日記で、淡々と、しかし一日一日感慨深く望遠鏡の周りの出来事が綴られている。

今ではあまり彼のように望遠鏡につきっきりで「夜を主にした」研究者は少なくなってる、と思う (絶対にそうだとは言いきりたくない)。
ほとんど毎晩、クラシックのレコードを聴きながら何時間も望遠鏡と、星々と向き合っていると夜空の声が聞こえてくるんだろうか。
今は当時より技術的に進歩し大量のデータがアーカイブ化されており、より高精度の研究が地球のどこでもできる。研究者になったとしても私はきっと彼が見てきた夜に出会うことはないんだろう。もう少し早く生まれてみたかったと思わずにはいられない。

赤い都会もあれば、青い都会もある。そして暗い宇宙の空間を、ほそぼそと流れゆくひとすじの光の糸が、その都会の消息をつげる唯一の手段である。それならば、望遠鏡にとりつけた分光器は、その都会からの手紙を開封するはさみであろうか。

p90

この表現がとても好きだ。
ドイツの詩人、R. M. リルケの『形の中』からの詩について書かれた部分。
宛先の無い無数の光の手紙が奇跡のように地球に届くのだ。それを読み解くことは私たちの使命なのかもしれない。

とはいえ天文学者も人間。空を見上げているだけでは生きては行けない。

「天文学者は美食家であれ。」これは、なくなられた東北大学の松隈健彦先生の教えである。天文学は英語で Astronomy(アストロノミー)という。その前に一字Gをつけると、Gastronomy(ガストロノミー)。これは美食学ということばである。アストロノーマー(天文屋)はガストロノーマー(食通)からはじまるというのである。天文屋は山間僻地で観測することが多いから、料理など手まめにするくせをつけよという深い親心からかもしれない。

p117

これを私の座右の銘とする。

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