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あゆの山水
5月も終わりだというのに、宮崎にしては珍しく涼しい風が常に吹き抜けていく。綾南川のすぐそば、綾町昭和地区にある「あゆの山水」の養殖場。
これがないと始まらない!と、トレードマークの麦わら帽子を手に取り豪快に笑うのは猿渡克仁さん。「あゆの山水」の二代目若社長だ。
胸まである防水ズボンと麦わら帽子を被り向かうのは鮎の養殖池。
2021年5月29日。今日は今年初の鮎の水揚げだ。
水揚げした鮎をお店に運ぶまで保管しておく蓄養池(ちくよういけ)に網を張り、養殖池に入る。池全体に網を広げ手繰り寄せていくと、さっきまで静かだった池が急ににぎやかになった。
たくさんの鮎が捕まってなるものか~と飛び跳ねる。水面から飛び出し網から逃げていく鮎たちに、トビウオか!と突っ込みたくなるほどの大ジャンプ!魚ってこんなに飛べるんですね!と驚く私を尻目に猿渡さんは着々と作業を進めてゆく。
見えますか?浮きのところ。網を軽く乗り越えていく鮎たち!
さー!今年の鮎だぞ~!!どうだどうだ~!小ぶりだな~!と言いつつも初水揚げはやっぱりうれしそう。
網に入ったたくさんの鮎をたも網ですくい、檻のような格子のあるカゴに移してゆく。
すると格子の隙間から抜けられるサイズの鮎はぬけだし、格子の幅よりも大きい食べごろの鮎だけがカゴの中に残る。
食べごろの鮎たちは最初に下準備をした蓄養池に移され、その日注文が入る分だけ綾北川沿いの民宿と川魚料理の店「あゆの山水」に運ばれていく。
店の方にもいけすがあって、注文が入ってからさばき、調理という流れだから、そりゃぁ活きがいいに決まってる。だってさっきまで池でぴょんぴょん飛び跳ねていた鮎だ。
「あゆの山水」は綾北川沿いにある民宿と川魚料理のお店。鹿児島県出身で当時滋賀県の養殖場で働いていた先代が、独立しようと水のきれいな土地を探し、綾町にたどり着いたのが50年前。
照葉樹林の森が育んだ良質の水が豊富に流れるふたつの川。その間の、扇状にひろがる平地に広がる綾の町。先代はこの環境に惚れ込み、綾へと移り住んだのだ。
「地元の鹿児島も見て回ったみたいだけど、綾がよかったみたい」
綾町は雨も多い土地だ。雨が多いことで大変なこともあるが恵ももたらしてくれる。大量の雨は広大な綾の照葉樹林へと降り注ぎ、森の枯葉地層が雨水をゆっくりとろ過。すると雨水はミネラルを豊富に含んだ美しい湧き水となり、川へと流れ出す。その伏流水を汲みあげている「あゆの山水」の養殖池には水カマキリやゲンゴロウの姿も。薬剤の使用は最低限で保健所の薬品残留検査で残留が出た魚は創業以来1匹もいない。大雨やダムの放水で川が濁れば、養殖池の水も濁る。養殖とはいえど自然と同じ環境だ。
事務所の前には他の池とは違いビニールハウスのように屋根がついている池が2つある。今は水は入っていないが、先代が自ら木枠を作り、コンクリートをこね、手づくりした稚魚専用の池だそうだ。50年経った今も現役で、若旦那がところどころ補修しながら使っている。
「稚魚ってすんごい小さいの。分かりやすく言うとシラス。小さくて半透明で食べたエサが見えるくらい。その小さい稚魚が食べれるくらいの大きさのエサは風で飛ばされちゃうから屋根つけたんだよね。ここは川沿いで常に風が吹いてるし。エサ食べれないと大きくなれないからね!」
……愛。
稚魚がやってくるのは1月。毎年宮崎県門川の河口付近で獲れる天然の稚魚と宮崎県美々津で人工孵化された稚魚を半々で仕入れているが、今年は天然稚魚の数が少なく、人工孵化の稚魚のみ。稚魚はこの、専用の屋根付き池で育ち、1ヶ月ほどすると大きさごとに選別され、それぞれの池で育つこと4ヶ月。初水揚げとなる。
魚に疎い私の率直な感想は「1月に来た稚魚が6月に食べれるって、早くないですか?」ということ。(無知です。すみません。)
若旦那は少し呆れ顔をした後で「鮎は年魚だからね。それが普通よ~。エサを多めにどんどんあげれば、早く大きくなるけど。うちはゆっくりな方!」と教えてくれた。
(年魚??と思った方、年魚とは一年で一生を終える魚のこと。不思議な鮎の生態についてはまた後ほどまとめたいと思います。)
「うちは市場に出荷してないからね。市場に出荷しようと思うと、どうしても人間のペースになっちゃう。人間のペースに合わせて、早く、大きな鮎にしようとしてエサをどんどんあげるとね。人間と同じ。太って病気になっちゃう!」
動物も人間も食べすぎはダメだよね~と笑って、若旦那はパン!と自分のおなかを叩いた(いい音でした)。つまり、、
早く大きくするためにエサをたくさんあげると病気になりやすい
↓
病気になると薬を使わないといけなくなる
↓
薬は使いたくない
↓
人間の都合に合わせて急いで育てない
↓
市場に出荷しない
なんという鮎優先の鮎都合…!
ふと、水揚げ中の若旦那の言葉を思い出す。
「今年の鮎だぞ~!どうだどうだ~!小ぶりだな~!」
その言葉に、実は違和感を感じていたのです。
いや、養殖なのに”今年は小さい”とかあるの?と。
若旦那と話していて気づいたこと。
「あゆの山水」は売り物の鮎…つまり、大きくて、、旬よりも早くて、、食べる人が驚くような、そんな鮎をつくろうとはしていないのだということ。
自然の恵み、生き物としての鮎を育てているのだということ。
人の力の到底及ばない大自然。
そんな中に身を置いていると「仕方のない」ことは山ほどある。
私たちはその「仕方のない」中で、出来る限りのことをして、豊かな「恵み」をいただき、喜んだり、時には打ちのめされたりして生きている。
野菜をつくる人、お米をつくる人、魚を育てる人。「仕方のない」ことを知っている人は強い。
強くて優しい。
ここ綾町にはそんな強くて優しい人が多くいる。
鮎の都合に合わせた商売は、大変な事もっとたくさんあったはずだ。
「大変な事?数え切れないほどあったわ!
生き物相手の商売やから何年経っても1年生!よー生きちょーわ!」
と言って若旦那はまた、わはは!と豪快に笑うのであった。
鮎のこと、「あゆの山水」のお店の話はまた今度。
市場に出荷していない「あゆの山水の鮎」を食べるには
・綾町の「あゆの山水」へ行く
・各地イベントでの販売
・「あゆの山水」通販 https://ayunosansui.net/shop.html
生鮎や加工品は綾町のふるさと納税の返礼品にもなっていますのでぜひ食べてみてください。生鮎は6月から11月の期間限定となっています。