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わからないものを、つくる

映画「怪物」を公開初日に観た。凄まじい映画だった。
パンフレットの坂元裕二さん(「怪物」の脚本を手掛けている)の言葉に、心が釘付けになった。

「わかるよねってものを作るより、わからないよねってものを作るほうが大事じゃないですか。」

映画「怪物」パンフレット Production Note より

仕事をする時、文章を書く時、「わかりやすさ」に気をつけている。見た人が「何だこれ」とならないように注意している。けれどそれだけでいいのかな、と思うことがある。

冒頭の写真の本「かみさま、わすれない」は、2020年春、新型コロナウイルスの感染が日本国内に広がり、これまでの「あたりまえ」が急激に失われていたころ、わたしが心の安定を保つために夜な夜な書いていた日記(一日にあったこと、食べたもの、子どもや相方の言動、その時の自分の気持ちをできるだけ事細かに記録してある)をまとめたものだ。

第2回と3回に出展した「10zine」(今回で11回目の福岡のZineイベント。2023.6/17-24に開催)に久方ぶりに何かを出そうと思った時、これをつくろう、と決めた。

この本は元々人に向けて書いているものじゃないから、わたしにしかわからないところばかりだと思う。それに、自分しか読まないと思っているので取り繕っていない。だから、人が読んだら「わからない」「共感できない」「何だこれ」となる部分も多々あるんじゃないかなと思う。でもそれでいいんだ、と思って、できるだけそのまま本にした。

先にも述べた通り、わたしはわかりやすいものを心がけている。仕事する上で、特になにかを発信する上で…… SNSがさかんな今では、仕事でなくてもみんなそれに気をつけていると思う。

だけど「共感できる・わかる=素晴らしい」というのが、わたしにはすこし怖い。(もちろん「共感する」と言ってもらえるのはすごく嬉しい。その反面、ということ)

「わかんないけど、でもそこにあるんだよね、確かに。」
っていうものを残したくて、わたしはこの日記本を作ったのかもしれない、と思った。ある人にいただいた感想と、坂元裕二さんの言葉で。

わたしにしては結構奮発して印刷したので「ぜんぜん売れなかったらどうしよう…」と心配していたのだけれど、本当にありがたいことに、イベントではあと一〜二冊残すくらい。手元にあるものも、通販や取り置きを希望してくださった方たちのおかげでほぼ無くなってしまった。

秋に東京で行われるイベントに出展するため、中身を改訂(何度も読み直したはずなのに、あるわあるわ、誤字が……)し、刷り直す予定。でももしかしたら、二刷りでは弱気になってしまい、初版より表現が丸くなっているかもしれない。笑

「わかる」という感想も「わからない」という感想も、うれしい。
読んでもらえるだけで、わたしがあの夜書いた文字を目で追ってくれるだけで、うれしいです。
だって読めない文ってほんと読めないじゃないですか。(この年になると、小さい文字がつらかったり……そういう意味でも。笑)

何かが誰かの心に届いて、引っかかって、日常のなかでもしわたしの言葉を思い出してもらえることがあったら……最高にうれしいだろうな。そんなことを思わせてもらえて、10Zine に出展してみてよかった。

なにかをつくるって、やっぱりいいもんですね。

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