2022/01/09
四畳半くらいの小さな古い、真四角の和室に、光沢のある薄赤に色とりどりの鶴や鞠が舞う、晴れ着を仕立て直した和布団が敷き詰められている。
この和布団は、私が3歳の節句で仕立て着せてもらった晴れ着だったはずだ。柄の上品さに反して、その敷かれ方は乱雑で乱れている。私はその部屋を上から見下ろしている。
私はその部屋がひどく恐ろしい。お願いだから思い出させないで、ととにかく心の中で哀願している。胸が硬くいっぱいに恐怖が詰まっている。そんな部屋はなかったし、あの晴れ着にも和布団にも、悲しい記憶は何もなかったはずだ。何もなかった。何もなかった。思い出したくない。何もなかった、と自分に言い聞かせ続けている。
何も恐ろしいことなどないはずだ。思い出したくない恐ろしい出来事などないはずだ。何もなかった。何もなかった。思い出したくない。思い出したくない。怖いことなど本当に何もなかったはずだ。お願いだから思い出させないで。何もなかった。何もなかったのに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?