5月に読んだ本を紹介します
こちらのnoteが素敵で、私も読んだ本について書きたくなりました。これ以上のタイトルが思い浮かばないのですが丸パクリするわけにもいかないので、このタイトルに落ち着きました。
センス入門/松浦弥太郎
「センスとはなにか」「センスを磨くにはどうすればよいか」を語った本。
『伝わるちから』で知って以来、落ち着きと芯の強さを併せ持った考え方、語り口に惹かれてすっかり松浦弥太郎さんファンになってしまいました。著書を4冊読みましたが、言っていることは一貫しています。
自分で見る、体験する
自分なりの小さな習慣や約束事を整理しておく
たくさん失敗する、学ぶ
観察する、(仕事や生活で)手のかけられていない部分を見つける
など。
おどおどして困ってしまうような環境に身を置いてこそ、その環境でのあるべき振る舞いを身につけられる。例えば京都の高級旅館に泊まったらわからないことばかりだけれど、素直に女将さんに聞けば案外教えてくれる。そうすれば次からはその場に馴染める。
センスがいい空間として紹介されていた青山の根津美術館。ちょうど翌日が休みだったので行ってきました。印象的だったのは期間限定で開かれていたお茶席。庭園の茶室で和菓子とお抹茶をいただいたのですが、茶室に入ってから出るまで、全部なーんもわからん!😂 お辞儀をするときの手のつき方、掛け軸を紹介されたときの反応の仕方、和菓子をいただくときの懐紙の使い方(お椀を回すのは隣の人の真似をしてできた!)、畳のへりを踏んではいけないのもすっかり忘れてしっかり踏んでいた気がする、、、
とまあ失敗しかなかったのですが、なにがわからないのかはわかったので、次回は確実にマシな振る舞いができます。(次回があるかはわからないけど)
これって仕事でも同じですよね。ちょっと背伸びして手を挙げてみる。失敗もするけれど、いつの間にかその環境が当たり前になっている。必要なのは準備ではなくて、飛び込んでいくこと。
言ってしまえば当たり前のことばかり書かれている本なのですが、ときどき手にとって考え方を整理するためのガイドラインとしておすすめです。
陰翳礼讃/谷崎潤一郎
暗っ!
根津美術館のお茶室を外から覗いたときの印象です。照明なし、午後2時の自然光のみ。しかし中に入ってみると、その暗さが心地いい。土壁、木、掛け軸。この柔らかさ、素朴さ、ひっそりとした緊張感は暗さから来ているのだな、と思いました。
帰り際、ミュージアムショップで見つけた『陰翳礼讃』。こ、これこそさっき感じたことやん!と驚いて購入。
日本の美は陰影にある。西洋人は明るさを求めるが、日本人は暗さを求める。漆や金箔は明るく照らされるとうるさくなり、暗さの中で初めて美しさを発揮する。椀の内側の暗さは、汁物の奥ゆかしさを生んでいる。西洋の厠はタイルでピカピカにしてしまっていけない、日本の厠はひっそりとして落ち着ける。などなど。
京都での学生時代にさんざん巡った寺社仏閣。たしかに煌々と照らされているものはひとつも無くて、座敷に差す心地よい自然光のなかでのんびりしていたなあと思い返しました。
ただし一方で、「日本の建築は光とともにあった」と同時代の建築家が書いています。「西洋人は明るさばかり求めている」わけでもなく、どちらかといえば1920, 30年代に流行しはじめたモダニズム建築への戸惑いから生まれた論考ではないか、と解説で指摘されています。
すっかり「そうかあ、日本の建築は陰影なのか〜」と鵜呑みにしてしまっていたので、この解説があって助かりました。複数の視点、大事。
万感のおもい/万城目学
万城目さん。鴨川ホルモーなどで昔から名前だけは知っていたけど、本を買ったことはありませんでした。
しかし…
日経夕刊の連載でこの文章に出会い、バターナイフてwww この人好きwww となって以来、すっかりファンに。折しも書店で新刊のエッセイ集を見かけたので迷わず買い。
日経で読んで印象に残っていたエッセイもいくらか載っていて、大満足でした。
のらりくらり、でも誠実、でもやっぱりのらりくらり。バランス感覚が絶妙で、読んでいるこちらまでいつの間にか心の鎧を脱いでしまう。こんな文章を書ける人がこの世にいてよかったなあ、と勝手にありがたくなってしまいます。
古くてあたらしい仕事/島田潤一郎
ひとり出版社夏葉社を営んでいる編集者、島田潤一郎さんが仕事や生き方について綴った本です。
「一対一の人間関係が、仕事の手応え」「今日、だれのために、なにをするかが仕事の出発点」など、真っ当で誠実な考え方。ただ言うだけでなく、それを実践されているからこそ、ここまで胸に迫るものがあるのだと思います。
素朴で、まっすぐで、飾らない文章がとても心地よく、趣味である万年筆での模写の題材としても使わせてもらっています。
夏葉社の本を読んでみたいと思ったのですが、さきほどの万城目さんの本がなんと夏葉社でした。ご縁…!!!!
命売ります/三島由紀夫
平凡な日常を送っていた27歳男性。ある日、新聞の字がすべてゴキブリに見えるようになり、自殺することを決める。失敗したものの、自分の命に無責任になり、「命売ります」と新聞広告を出す。はじめこそ軽やかに死に向かっていたが、とある誤解から命を狙われるようになると、一転して死に恐怖を抱くようになる。
以上あらすじ。
自殺の理由が健常者には到底理解できないもので、それだけに「案外そういうものなのかも」という説得力がありました。吸血鬼がさらりと出てきたり(これは妄想ではないけど)、追い詰められるにつれ被害妄想が出始めたり(一部的を射ていたりもする)、精神の不確かさ、現実と妄想の境界の曖昧さがよく描かれています。
自分では到底思いつかない、体験しないであろう世界で、不思議な読後感でした。これぞ読書の醍醐味。
小さくて強い農業をつくる/久松達央
脱サラして農家になり、今では久松農園の経営をされている久松達央さんの話。
「農家は弱者、守るべき存在」といった(特に都市部において)一般的な思い込みがいかに間違っているか、それによっていかに農業政策がずれたものになっているか、など鋭い指摘が満載。
自身も有機栽培をされていますが、「有機栽培ならおいしい、環境に優しい」は間違いであるとも指摘しています。
この引用は、同著者のnoteからです。
私自身、農家を応援したい!と食べチョクで野菜セットを頼んだりしていたので、自分の無知さが恥ずかしくなりました。
以前読んだ国民のための「食と農」の授業でも似たような指摘がありました。「農家は守るべき存在だから」という世間の認識を後ろ盾に、本来淘汰されるべき農家まで補助金などで存続させてしまう。他にも「地産地消」には意味はあるのか?など。
妊娠後の味覚の変化から、この半年で野菜の摂取量がぐんと増えました。それに伴い「地産地消」「農家を応援したい」などの意識が高まっていたタイミングでこの本に出会えてよかったです。
考えてみれば、「感覚的になんとなくよさそう」「どうやらいいらしいと聞いた」といった思い込みは農業に限らずありがちなことですよね。たまたま目の前にいる人をサポートすることが根本的な解決になるのか?は政策全般において考えるべきことです。もっと勉強せんとなあ。
他にも何冊か読んだのですが、書ききる前に7月になってしまいそうなのでここまでにしておきます。
産後は睡眠不足で本を読む元気は無いでしょうから、今のうちに読みたいだけ読んでおかねば。