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主役になれない、全ての人に優しい物語

#わたしが応援する会社 」といえば、今も子供を膝に乗せながら見ている「モンスターズインク ユニバーバーシティ」の制作会社、「ピクサー」です。

私はモンスターズインクのマイクワゾウスキーが大嫌いでした。ナルシストで自信家。無駄にポジティブで人懐っこい。身近にいたらちょっと距離を置きたいタイプです。

というのも、彼が私と真逆の性格だから。

私は子供の頃から、「ちゃんとしなきゃ」と必要以上に緊張するタイプでした。多少の緊張はベラベラ喋ることでごまかせるくせに、いの一番で言葉が出てこない。お腹が痛くなることもしょっちゅうでした。

中学受験に失敗してからは落ちこぼれとなり、引きこもりに。
親と顔を合わせると喧嘩になるので、昼夜逆転の生活をしていました。最初は体調不調を理由に無理やり布団に潜っていたため、体力はどんどん衰え、やがてまともに走れない体に。もし、「ただ休む」ということが許されていたら、状況は全く違っていたのに、と今でも思います。

この頃から、もともと弱かったお腹が過敏性腸炎症候群を発症するようになりました。

当時は「過敏性大腸炎症候群」という言葉を知りません。少し動くだけで、お腹がゴロゴロ動き出し、ガスが出そうで、自身でコントロールできない体が情けなくて悲しくてたまりませんでした。
ガスで人に迷惑かけたくないと体が強張り、ますますお腹が過活動してしまう悪循環。いつのまにか、「人に会うこと」「他人と部屋いること」が過敏性大腸炎の症状が出るトリガーとなりました。

普通に学校に行くこともできない出来損ないと、常に気分が憂鬱。教室など長時間を誰かとともにいると実際にガスが出ることもあり、嘲笑される。そして家では、学校に行きたがらない私に、親からの暴言が降ってくる。
辛いしかない毎日。死ぬことばかり考えていました。

何とか改善させようと、毎朝ジョギングし、休日はプールで体を鍛え、内科や泌尿器科を受診したこともありました。でも、まだ子供で、女の子だった私は、過敏性腸症候群の症状を話すのがとてつもなく恥ずかしくて、核心が伝えられず。ひたすら自己流でこの体と向き合っていました。ベジタリアンになったり、絶食したり、下剤を飲んだり。症状は改善するどころか悪化する一方。

そのせいか、当時は他人に全く寛容になれず、自分に自信がある人が疎ましくて大嫌いでした。

その大嫌いな人物像そのものが、マイク・ワゾウスキー。モンスターズインク(1作目)のストーリーは嫌いではありませんでしたが、マイクだけは顔の筋肉を精一杯使って、しかめっ面したくなる程度に嫌いでした。

そんなある日、テレビで観たのが「モンスターズインク・ユニバーシティ」。マイクやサリーの大学時代を描いたお話です。

ナルシストで自信家だと思っていたマイクは、自分で自負するほど努力を重ねてきたからこそ自分を信じることができる人(モンスター)でした。
あの性格に至るにはヒストリーがあって、なるべくしてなったんだと。あのポジティブで、幼少期から他人の心ない言葉をはね返してきたんだと。あの人懐っこさだからこそ、他人を長く恨まず過ごせてきたんだと。彼の母親も彼と同じくとてもポジティブで、そんな家族構成も、マイクをまっすぐ育てたんだとわかります。身の回りに似たような人が2人くらいいそうです。
深く考察されたマイクのキャラクター設計に、とても「人間らしさ」を感じました。

漫画やアニメでは、物語に不要な要素を排除したがる傾向があります。ヒーローが熱血である必要、無気力系である必要、ヒロインが巨乳である必要、貧乳である必要、ちょっとエッチなトラブルに巻き込まれる必要、左利きである必要、関西弁である必要、ゲイが登場する必要。
登場人物は何かしらの記号思っており、その記号が物語に生かされていることを望まれがちです。それは読み手に思考の余地を与えず、物語を1次元的に進めることができます。制作側もストーリー展開に集中でき、読み手側も受け取りやすいので、幼児向けのアニメから青年向けの漫画まで、記号を用いた登場人物は多々登場します。

でも現実社会で、そんな都合のいい人物は存在しません。
主人公の足りない部分を補うための要員として、生きている人間はいません。
私たちは主観で生きています。その思考の癖が生まれるに至ったヒストリーがあり、素晴らしい過去と残念な過去があります。美しいほど残酷でもなく、他人から見ると「よくある事」と軽視されがちな無数の出来事が、私たちを作っています。

モンスターズインク1のストーリーにはマイクの生い立ちが不要だったため、ただ暑苦しい性格が目立っていました。でもモンスターズインク2でマイクに対する印象が180度変わった人は私だけではないはず。知らないヒストリーも、その人を構成する一つ。1面だけで他人を評価するのがいかにおろかなのか気付かせてくれます。

我々も普段から他人の成り立ちを想像できる能力があれば、他人を表面だけの評価でカテゴライズすることもなくなるかもしれません。SNSで一部のコメントを晒上げて、人格否定に躍起になっている人もいなくなることでしょう。

人を優しくさせるのは、想像力なんだと、一つの映画が私に教えてくれました。今では、ディズニーとピクサーの作品の中でダントツで愛おしいマイク。自分に絶望して、勝手に嫉んでいた私に、優しい気持ちを思い出させてくれてありがとう。気づかせてくれてありがとう。そんな彼を生み出してくれたピクサーを、心から応援しています。(TDRに行ったらたくさんグッズ買いあさります)

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