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お疲れ様とおやすみの間
奏は重たい扉をあけて、勢いよく倒れ込む様に靴を脱ぎ捨て、そのまま真っ直ぐにお風呂場へ直行した。
ふぅーっと一息つく。
お風呂に浸かると今日のあった出来事が湯船の中に溶け出していき、自分の心の中を洗い流してくれる様な気持ちになるから好きだ。
今日は締切で担当している先生の所に行ったり、とても忙しく気を使ってあっという間に日付は変わり、今は夜中の1時であった。
大好きな編集の仕事に就いたときには予想もしていなかった現実と向き合う時、お風呂場は私の癒しの場となる。
温かいお湯に浸かり、頭を空っぽにして真っ暗なお風呂の中で、携帯電話から流れる好きな音楽を聴いているこの時間だけは私のデトックスタイムとなっている。
編集の仕事は子供の頃からの夢だった。
昔は子供ながらに小説を書いたり、絵本をかいたりして、書く方になりたいと作家を夢見た時期もあった。
でも、自分には無理だといつ頃からか思う様になり、それでも文章を書いたり、作る世界にはいたいと思い、幼い頃から憧れてきた。
そんな時、編集という仕事についての本を読み、自分もこれならば出来るのかもしれないと思いいつからか目指すようになった。
大変なことも多いが、一つの作品を生み出す作家の為に身を粉にして働き、時にはともに悩み、一つの作品を世に出せた時の喜びは何者にも変え難い。
しかしだ、、、
体が重い。
寝不足の頭と、あちこち歩き回って疲れ切った体は鉛の様に重く、お風呂に浸かっていてもすぐにウトウトとしてしまう。
明日の仕事の事が空っぽにしたはずの頭の中をゆっくりと流れ始めると、急に眠気も覚めはじめ、だんだんと心がどんより曇り空となってくる。
ふうー
また大きく息を吐く。
意を決してお風呂から出る。
髪の毛を乾かしながら、携帯でSNSやYouTubeなどを見つつ私の今を思う。
このままでいいのだろうか。
本当にやりたかった事はー
布団の上で携帯で書きかけの物語を読み返す。なんだかんだいいながらも、自分が好きでやっている事は、好きだと言って良いのかも知れない。
別に何にもなれなくてもいいのかもしれない。何者かにならなければいけないような気がして、自分を自分ではなく他者に評価してもらえるようにここまでどこかで自分の気持ちと折り合いをつけて生きてきた。
でも、そんな自分の存在価値や自分という人間を人に評価してもらうのではだめなのかもしれない。
自分の事は自分で評価する。
自分がやりたい事をとことんやってみたって良いんだ。
この夜中のマジックなのか、疲れすぎて頭がハイになっているのかも知れないけれど、なんだかそんな風に急に思えてきた。
夜中の2時を回り、私は携帯の作りかけの物語の先を書き始める。
お疲れ様とおやすみの間の時間。
それは私が私と向き合う私だけの時間かもしれない。