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“ありたい姿”を表現した新VI その役割や効果とは
初めまして。アートディレクターの本居です!
業務委託でアートディレクターとしてアルプに関わっています。
アルプは、サブスクリプションビジネスを行う企業向けに、今まで手作業や自社開発がスタンダードだった契約や請求管理を SaaS として提供する Scalebase というプロダクトを開発しています。
この度、Scalebaseのビジュアルアイデンティティ(以下、VI)の刷新にともない、新VIの制作を担当しました。本記事ではアルプとの出会いや、企業におけるVIの役割、新VIに込めた思いなどをお話しします。
本居 綾(もとおり あや)
デザイナーとして地元大阪の制作会社に新卒で入社。その後、東京のブランディングエージェンシーを経て、大手IT会社に就職。現在まで約5年シニアアートディレクターとして従事しつつ、2021年12月に会社の制度を利用し、独立する。
2度に渡るオファーの末、アルプに参画
アルプを知ったきっかけは、代表の伊藤さんからの1通のメッセージでした。LinkedInを通して、正社員採用を前提としたオファーをいただきました。しかし当時は、仕事が多忙でメッセージにお返事できませんでした。
4,5か月後に「諦めきれず、もう一度ご連絡いたしました」と再度メッセージをいただきました。私のこれまでのキャリアを隅々まで理解した上で、具体的に何をして欲しいかや何故アルプが私を必要としているかなど、事細かにオファー理由が書かれていました。
こんなにも熱意と誠意に溢れる方は、伊藤さんが初めてだったのでそのお気持ちに応えたいと思い、2021年の7月に業務委託でアルプに参画しました。
VIが果たす役割と効果
新VIに触れる前に、VIの役割についてお話しします。
VIは可視化された企業の理念
VIは、どういう企業なのか、何を大切にしていて、どうありたいかなど企業のフィロソフィー(理念)そのものを凝縮し、ビジュアルで表現したものです。一目見ただけで、ユーザーにプロダクトやブランドイメージなどを浸透させられることはもちろん、お客様からの信頼を世代を超えて蓄積できるのが、VIを策定するメリットの一つだと考えています。
利益を生んでこそ“デザイン”
そもそも何故、企業がVIを策定/変更するのかですが、理由の一つはブランディングです。
企業にフィットしたVIは、ユーザーの意思決定を容易にさせます。
例えば同じ価格・スペックでブランドのロゴが入ったものとそうでないスニーカーがあったとしたら、大多数のユーザーは恐らく前者を選ぶと思います。
これは、上述した通り、ロゴそのものに企業への信頼が顕著に表れているからです。
一方でフィットしていないVIは、消費者誤認を起こします。
例えば、マクドナルドがデカデカと野菜のアイコンをロゴに用いたら、ハンバーガーではなく野菜をメインに扱う店なのだと消費者は勘違いしてしまうかもしれません。
企業やプロダクトが目指す姿がVIに反映できていないと、顧客が離れ、利益の損失に繋がりかねません。このように、フィットしていないVI = 経済損失を産むアウトプットとなり、正しい意味で“デザイン”とはいえないと思います。
“デザイン”は商業美術であり、利益を産んで初めて成立すると考えています。
時代の変化に左右されないVIへ
10年、20年後も変わらないアルプの思いを込めたVI
VIは通常、ブランドフィロソフィーを紐解きながら方向性を定めます。しかし、アルプの場合、Scalebaseのブランドフィロソフィーを言語化できていなかったので、経営陣に今後のScalebaseが目指す理想の姿をヒアリングすることからスタートしました。「お客様の事業を支える基盤」など出てきたキーワードを拾い上げながら、どういう要素を加えれば10年、20年後も変わらないアルプの思い(メッセージ)がVIに込められるかを検討していきました。
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その後イメージをラフに起こして、表現やモチーフを精査し、少しずつ可視化していきました。ビジュアルが完成したら、プレゼンを行い、社内からロゴマークの角度など細部まで指摘していただいたフィードバックを反映させながら、ブラッシュアップを重ねていきました。
プロジェクトの長期化を避けるため、スムーズな進行を優先する企業も多い中、アルプは代表の伊藤さんをはじめ、経営陣同士が細部に至るまで議論を重ねられる強い意志を持っていました。アルプが、いかにデザインに本気で向き合っている組織なのかが分かり、大変やりがいのあるプロジェクトになりました。
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VI制作では、理屈で決められるフェーズまではスムーズに進行します。しかし、大枠が決まり、主観での判断が求められるフェーズでは、主軸の考えを崩さず、何十パターンとサンプルを作ることで、最終的にはこれ以外の正解はないというところまでディテールを狭める、職人技の世界になってきます。
多くのサンプルから徐々に正解を抽出することは経営陣にとっても負担が大きく、一番地道かつ大変だったと思います。最後まで意思を持って伴走していただきとても感謝しています。
“ありたい姿”を反映した新VI
新VIは、Scalebaseの“ありたい姿”から逆算して制作しました。
事業の先に実現したい未来はなんなのか、Scalebaseとはどんな製品なのかなど、“ありたい姿”をヒアリングし、ビジュアルに落とし込みました。
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今回のVI変更は、リブランディングプロジェクトの一環とお伺いしていたため、今まで積み上げてきたScalebaseのイメージ(旧VI)を、プロダクトの”ありたい姿”を予感させるものへとアップデートすることが重要でした。
これまでのScalebaseを否定するのではなく、より良くすべきとの考えのもと、「Scalebaseを通して事業を加速させ、ポテンシャルを最大化させる」という一つの“ありたい姿”を体現する旧VIの早送りマークをブラッシュアップさせています。また、社名の由来の山のモチーフを削り、全体の色味やフォントなどを変更し、シンプルに仕上げました。
例えば、旧VIと比べてできるだけデザインをシンプルに作り込んでいる点にも“ありたい姿”が込められています
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デザインを複雑にするほど、オリジナリティが生まれるという考えもある一方で、デバイスのサイズがどんどん小さくなっていく昨今ではディテールが細かすぎるとスクリーン上での表示が難しくなります。
「時代の流れに左右されず、100年後も続くような組織でありたい」という思いを込めて、今回の新VIは遠くからでもScalebaseと一目で分かる、シンプルで王道感のあるデザインに仕上げました。
たくさん要望をいただいた一方で、必ずしも全てをVIに落とし込んだ訳ではありません。
一番意識した点は、本当に求めるものは何かを導き出すことです。要望の意味合いがぶつかることもあったため、要望をグルーピングし、複数案を提案しつつ、選ばれた中からアルプが意識していることをビジュアルベースでも探っていきました。感覚的に選んだ案の理由を深堀りし、意思を言語化するプロセスを踏みました。
今回のVI変更を担当した感想
デザインに真摯に向き合ってくれるみなさんとプロジェクトを進行でき、いち制作者として非常に良い経験になりました。アルプは、プロダクトの開発同様にブランドアセットの開発にもコストを割き、デザインの在り方そのものを尊重している組織という印象を抱きました。
0→1フェーズのスタートアップでありながらも、デザインと真剣に向き合い、デザインを武器に、そしてプロダクトの魅力の一つとして捉えているのがアルプらしさだと今回のプロジェクトを通して感じました。
ロゴを含め、これからアルプとScalebaseがどのように世の中に浸透していくのか楽しみにしています。また、今回のVI変更を担当させていただき、より一層アートディレクターとしてのキャパシティが広がりました。今後も、複雑な領域を扱う事業のアルプを、クリエイティブの力でどれだけ発展させていけるのかとてもワクワクしています。
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