中村シェフ・パティシエ@Dassaï Joël Robuchon フランスの食ニュース 2021.09.29
今週のひとこと
2018年に、パリ8区フォブール・サントノレ通りに故ジョエル・ロブション氏と獺祭のコラボによる店「Dassaï Joël Robuchon」がオープンしたのは、昨日のことのように感じられます。この店のオープンに当たり、ロブション氏は、香港のラトリエ・デュ・ジョエル・ロブションに勤務していたシェフ・パティシエの中村忠史さんを呼び寄せました。中村さんは東京ラトリエの六本木ヒルズのオープ二ングからシェフ・パティシエとして関わっていたので、ロブション・グループのもとでは通算20年近く務めてきたことになります。ロブション氏が、世界最高のケーキを作るパティシエとさえ呼んで、晩年まで、決して手放すことのなかったのがこの中村さん。ロブション氏が言っていた通り、彼の作る焼き菓子という焼き菓子の美味しさは、いいようもありません。例えばダコワーズ。薄い表面の皮が弾けて、食感のしっかりとした、しかし、ふわりとした軽やかな生地と、濃厚なクリームが溶け込む至福の味わい。フィナンシエでは、表面の0.1ミリほどの薄膜がカリッと仕上がっている。それから、卵白でできているからこその食感のあるきめ細やかな食感、ナッツの香ばしい香りが現れる。お菓子の中に、凝縮した時間が流れている、というか。ここに至るまでの、マイスターのもとで研磨された腕と自身の試行錯誤に敬服してしまいます。
振り返ってみれば、中村さんとは、もう20年以上の付き合いになります。はじめは、青木定治さんがパリに店を持つ、持たないのころ。13区に構えた小さなラボで、青木さんの右腕の1人として(もう1人は、現在センチュリーハイアットのシェフ・パティシエを務める佐藤浩一さんです)、立ち上げを支えていました。佐藤さんは物静かなのに対して、中村さんは昔から鼻っぱしらが強く、よく青木さんと熱いディスカッションをしていたのを覚えています。ロブション氏に買われたのは、本当にご縁だったでしょう。
その中村さんが独立されて日本へ戻ります。出身の大阪で小さなサロンを開きたいということ。自身の名前ですでにブランドは立ち上げていて、チョコレートをバレンタインデーでも展開されるそうです。
「ロブション氏の目はすべて見通すようで厳しかった」という中村さん。「シンプルで美味しいものは、手で覚えた感覚で覚えた仕事によって生まれる」という信条を最後まで貫いた、料理人ロブション氏の生き様というか哲学を中村さんは受け継いでいる。そんなあり方を、少しでも多くの方に知っていただきたい、伝承されて欲しいと思います。
ロボット工学の研究で世界的に知られる石黒浩さんが開発した、抱き人形のコミュニケーションメディア「ハグビー」に驚きを得ました。インターネットを通じて人間が遠隔操作するアンドロイドで、そのロボット「ハグビー」を抱いて話しかける人間と、インターネットで遠隔操作する人間同士が、コンピューターを通して五感のふれあいが行われるという研究結果を拝見しました。「ハグビー」を操作している人間も、操作しているだけなのにも関わらず、触られると、くすぐったいなどと感じる。もちろん「ハグビー」には、身寄りが近くにいない高齢者などに、温かなふれあいをもたらすことができるのではないかという、商品としての期待も寄せられています。熱い、重い、汚いなど、人間が嫌がる仕事や、簡便さを非人間に任せる、求めるという発想から離れる時代になったと感じました。
レストラン業界においても、インスタ映えを優先することも増えてきました。しかし、人間の手で覚えた感覚が直接に伝えてくれる美味しさには敵わない。AIの未来がどのようになっていくかはわかりませんが、結果的に「インターネットコミュニケーションメディア」が希求する先も、血の通う人間同士のコミュニケーションであるのではないかと考えさせられます。変現場はそんな醍醐味を伝える場所であり続けて欲しいと思います。
今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載されています。どうぞお楽しみ下さい。【A】イタリアAlajmo兄弟、H-FARMキャンパス内ファーストフードレストラン、フィリップ・スタルクとコラボ。【B】パティシエールNina Métayer、上海進出。【C】老舗「DALLOYAU」、テレビ番組「トップシェフ2020」候補者女性シェフと契約。【D】3つ星シェフ Mauro Colagrecoの映画、「第69回サンセバスチャン国際映画祭」で上映。【E】マクロン大統領、国際外食産業見本市Sirha訪問。ガストロノミーに関する様々なプロジェクトを約束。
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