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フランスから、食関連ニュース 2020.10.21

今週のひとこと

今週末からは冬時間。秋も深まる前の、小林圭シェフの3つ星店「レストラン・ケイ」でランチをいただく機会に恵まれました。Covid-19の第二波が憂慮される中、夜21時から翌朝6時までの夜間外出禁止令が、10月17日土曜日の翌日から施行されることになる前日の昼でした。

夜間外出禁止令に対して、夜の営業を行うレストランやカフェなどがどのように対応をして生き残りを図っていくかは、もろもろの采配によりそれぞれです。この17日から4週間から6週間という曖昧な発令。その後は、Covid-19の勢いによって決定されるという、先行きが見えない状況の中、店を完全に閉めるか、あるいは夜だけ閉めるか。昼から8時半まで通しで営業するか、あるいは夜のサービスは早い時間から開始するか。デリバリーを再開するか。いくつかのレストランからは「夜間外出禁止令メニュー」と名付けた、スピーディーにいただける夜の特別コースの案内なども届きました。中にはデザートはお持ち帰り可能にするというチョイスを謳う店もあります。また、幾人かの従業員が失業者となったなどの話も、小耳にはさむようになりました。レストラン業界だけでなく、様々な業界の企業が持ちこたえていけるか、必死で策を練って、行動していかなければならない。我々も無論、対岸の火事ではありません。

「レストラン・ケイ」では、ディナーの営業を18時から20時半までとし、予約いただいたお客様に案内をしている最中とのこと。従業員はランチとディナーの間の休みが取れない状況になり、しっかり手綱を引き締めていかなければなりません。翌日からの夜間外出禁止令という状況にも関わらず、明日からを心配する声をかけても、ポジティブな挨拶で応えて、穏やかなサービスと暖かな雰囲気を届けてくれたサービススタッフの方々のプロ意識に感謝。圭シェフは、設備投資もしますが、それよりも何よりも、昔から、自身より、従業員への投資を惜しまない人です。今回のコロナ禍でも、一人も失業者を出すことなく、借金をしてでも彼らの給料をしっかりと払い続けている、オーナーとしての度量の深さ、覚悟。それが、自ずとスタッフたちの献身と、良い店作りをしていきたいというモチベーションにも繋がっている、そんな空気が伝わってきます。良い人材が見つからないと嘆く人も多い中、嘆くだけではなく、自身もそれだけの投資や努力ができているかというとそうでもないかもしれない。圭シェフには、料理人としての才能だけでなく、ブランド力を築き上げることのできる企業家としての強い哲学と才覚のある人物だとしばしば感じさせられます。

料理とデザートの間に以前から必ずサービスされる一皿があります。フレッシュシェーヴルチーズにオリーヴオイルを散らしかけ、サービス時にスパイシーな黒胡椒をふりかけるというパフォーマンス。実は私はシェーヴルチーズが個性を生むこの一皿が苦手でシェフにも伝えていたのですが、今回は異なりました。スプーンを入れると深紫色のカシスのピュレが隠れていて、シェーヴルの風味との野性味溢れるマリアージュに。深まる秋の野性味を驚きとして込めた、定番料理を定番料理としない遊び心と追求心には、お客の心を離すことのない強さがあると感じました。仕事に変化球を加えていくこと。私自身も小さなことから始めていきたいと、学ばせていただきました。

近年の将棋の世界、8年前からAIとの対戦が取り入られるようになったという時代です。AIは、アルゴリズムとデーター、つまり棋士たちの指し手のパターンを知識として獲得していくことでの戦法の積み重ねによって強化されてきましたが、近年は独創的な手を打って出てくることで、棋士たちにとっての技の強化にもなっているということです。料理が戦法となってしまわない限り、AIを利用することはないでしょうが、大量生産型の場合、あるいはチェーン化の場合は、活用できる時代がやってくるかもしれない、あるいはもう訪れている。アマゾンがフードデリバリー産業にも食指を動かしており、シェフなしのオートクチュールフードの提供が出現するかもしれないとの憂慮も、このロックダウン中に上がっていました。

フランスの食の旬の動きがわかる今週のトピックスは、今週のひとことの後の掲載です。 【A】フードロスと戦うスーパー「Nous Anti-Gaspi」が急成長中。【B】リヨンとパリに、巨大なフードコート設営計画。【C】3つ星シェフのラーメン店、2店舗目を展開。【D】チーズ製造会社「ベル」、ベリタリアンチーズ製造販売に乗り出す。

先週末、パリ郊外で教師が殺害されるという事件がありました。表現の自由を題材にした授業を行うのに、イスラム教の預言者であるムハンマドの風刺画を見せたことがきっかけとなり、今回の事件に至ったのですが、その経緯から考えると、問題は、言論の自由やイスラーム過激派の議題以上に、SNSによる憎しみの拡散でした。風刺画がポルノグラフィックであることを非難した親が拡散した内容が、過激派の目に止まり、今回の事件に及んだということ。ジャン・カステックス首相は昨日、ネット上で繰り広げられるヘイトの問題について取り組まなければならないという姿勢を明らかにしました。個人情報の公開による犯罪を取り締まるための法案を、憲法審議会は一度は放棄したものの、改めて取り組んでいくことになると思います。フェイクニュースは真実よりも、圧倒的に早く拡散するというデーターもあります。我々はコンピューターをツールと呼びますが、もはやツールではない。麻薬組織も使用者をユーザーと呼ぶように、我々もユーザーと呼ばれており、ユーザーであることも自ら意識したいと思います。感情が感情のないプラットホームに乗せられることに、慎重であるべきだと思います。

コンピュータネットワークは、ウィルスと同じように無意識の中で広がっています。With AIの時代をどのように生きていくか。挑戦する相手はAIではなく、自身に挑む、今回いただいた小林圭シェフのみならず、他の料理人さんたちの仕事からも反芻しています。


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