フランスから、食関連ニュース 2020.06.16
今週のひとこと
イヴ・カンドボルドとの再会
ビストロミー(ビストロとガストロノミーが融合したスタイル)を産んだシェフと言われるイヴ・カンドボルドとは、もう20年近くの付き合いになります。誠文堂新光社さんから『パリ、カウンターでごはん』を出版させていただいたとき、出版パーティーを代官山の蔦屋さんと神保町の『Sakaki Lab』さんで開催しましたが、その時にイヴ・カンドボルドと、愛弟子で今は『レ・ザンファン・ルージュ』のオーナーシェフの篠塚大の2人がパリからわざわざ来日してくださり、大はもちろん、とりわけにお世話になっているシェフです。
『リッツ』と『ル・クリヨン』で腕を磨いたイヴは、1992年にビストロスタイルの『ラ・レガラッド』をパリの南端にオープンし、一斉を風靡しました。高級レストランで磨いた腕と技術、生産者とのつながりを生かしながら、一般の人々も楽しんでいただけるような、リーズナブルで美味しい料理を提供するというスタイルが新しかった。また、それまでは、ビストロで食事をするのに予約を入れるという意識すらなく、その場でカウンターで一杯飲みながら空席を待つというのが当然だったのですが、ビストロでありながら、またパリの中心から遠い場所なのに、ミシュランの星付きレストランと同様、予約がなかなか取れない店となった。ミシュランの評価を目指すばかりが料理人の道ではないし、ビジネスではないと、たくさんのシェフが彼のあり方を追ったこともあって、一大ムーブメントになり、そのスタイルが『ビストロノミー』と呼ばれるようになり、今のモダンビストロのベースを作ったといっても過言ではないと思います。
『ラ・レガラッド』を弟子に譲って、パリの中心地オデオン交差点に、夜は高級ビストロ店の『ル・コントワール・デュ・ルレ』をオープン。さらに隣には鰻の寝床といってもいい小さなカウンターバーも作ったのですが、リーズナブルで美味しいワインと洒落たおつまみが美味しくて、店内が押し合いへし合いになるほどの人気店に。このスタイルもたくさんのシェフたちが追随して、あちこちに気の利いたカウンタバーができるようになったのでした。
時代の先を読む力のあるイヴに、次のステージを切り開くアイディアがどのようにして閃くのかを聞いてみたことがあるのですが、その時に、イヴは「お客や友人とたくさんの会話をしていれば、何が求められているかが必然的にわかる。自分は、お客に喜んでいただける心地よいあり方を探しているだけ」と言っていたのを思い出します。頭で考えるのではなく、時代の空気を草の根から感じて、それを行動に移している人。
そんなイヴが今、何を考えているのかが気になって、早朝からノンストップで『ル・コントワール・デュ・ルレ』をオープンしはじめたと聞いて、彼に会いに行きました。相変わらずお店から離れることなく、動き回っているイヴは、いつもに増して元気そうでした。そしてこの2ヶ月半。何ものにも代え難い、良い時間を過ごしたということ。今までの人生でこんなにも長い時間、社会から離れたことはなかった。はじめは恐怖に襲われたけれど、人生を振り返る、考える素晴らしい時間になった。人生においてすべきこと、そうではないこと、そしてこんなにも仕事を本当にすべきなのか、など、思索を重ねる僧侶のような日々を過ごしたということです。『ル・コントワール・デュ・ルレ』の隣に併設したカウンターバー2店は、今の状況では忌み嫌われる形態なので、オープンは不可能だが、本店は今週からオープンが許可されることになった店内スペース、テラス席とともに、なんとか以前と変わらぬ席数を確保することはできているということ。無理せず、今できることを少しずつはじめるしかないと腹を括って、来てくださるお客様を少しでも満足させたいと、変わらぬ笑顔を見せてくれました。
『ル・コントワール・デュ・ルレ』のメニューはシンプルになりました。以前はアペリティフ、サラダ、肉、魚などのたくさんのカテゴリーに分け、数ページからかなるメニューでしたが、一枚の紙に印刷。アントレ、メイン、チーズ・デザートというシンプルなスタイルに戻り、日替わりだそうです。アントレ10皿、メイン8皿、チーズ・デザートは9皿と、皿数も多くヴァラエティーに溢れています。「仔牛のカルパッチョにアーティチョーク、グリンピース、サクランボ、オリーブオイルとレモンのヴィネグレット」や、「ザクロのヴィネガー風味のナスのマリネとモッツアレラチーズ、ロケットサラダ」など、季節を感じることのできる素材が満載の皿ばかり。田舎やマルシェなどで、巣のままの自然や季節の恵みに触れることができるのも喜びですが、イヴの店のように、経験というジェネラルな豊かさを通して、それを表現してくれるようなお店、気づきをいただける店を筆頭として、レストランの価値やその進化について、もう一度見直すきっかけをいただいています。
今週のトピックス【A】仏ミシュランガイドによるチャリティー企画『Le Bon Menu/ル・ボン・ムニュ』。【B】ボトルドカクテルブランド、先見の明。【C】コロナ後、デュカス氏のスペシャル・インテリア。【D】3ッ星シェフ、アンヌ・ソフィ・ピック、ニューヨークにビーガン店オープン予定。【E】『アンジェリーナ』、妹ブランドとなる『マドモワゼル・アンジェリーナ』を開始。
今週のトピックス
【A】仏ミシュランガイドによるチャリティー企画『Le Bon Menu/ル・ボン・ムニュ』。
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