見出し画像

フランスから、食関連ニュース 2020.06.02

フランスにおける旬でコアな食関連のニュースを、週刊でお届けします。

今週のひとこと。

フランスは、本日6月2日からウィズ・コロナ第2フェーズに入りました。パリを首都とするイル・ド・フランス地域圏、ギュアンヌとマイヨットに関しては、特別な注意が必要なオレンジゾーン、他地域はグリーン・ゾーンと分類され、オレンジゾーンに関しては、さらに慎重に順次解除されていくことになります。懸念のレストラン・カフェ・バー関係ですが、グリーン・ゾーンは衛生規定下において、営業の再開が可能になりましたが、オレンジゾーンはテラスのみに限定。今朝のニュースは、レストラン関係者への取材が大半を占めていました。私がパリのファミリーとして慕う『ビストロ・ポール・ベール』のオーナー、ベルトラン・オーボワノも、取材を受けていました。地方の広い庭のあるホテル・レストランとの対比で紹介されていたのですが、パリの事情に厳しさを突きつけられた思いでした。『ポール・ベール』は、店内の席数が全80席。対してテラスを作ったとしても12席。隣接する姉妹店と合わせても20席にしかならない。また22日からはパリでも店内の営業が可能だと予測されていますが、規定下の1メートル間隔でテーブルを配置しなくてはならないとなると、80席を40席に減らさなくてはならない。パリ市長がテラスを持たないカフェやレストランのために道を解放することを考えているということは発表されていますが(統一地方選挙第2回投票は6月28日)、まだそれも確定していませんし、誇り高きビストロのオーナーのオーボワノとしては、今までは車が通っていた道の真ん中でお客にサービスするのは以ての外だと考えています。それに、天気が崩れたらどうするのかと。地方の場合は、今までは状況が同じだったとしても、未来に関してはまだ救いがあります。今年のバカンスは海外ではなく国内で過ごすことが推奨されていますから、バカンス地に客が訪れてくれるであろうことは、予想されています。しかし、パリはどうでしょう。都市封鎖で嫌気のさしたパリジャンたちも、地方でバカンスを過ごすに違いなく、観光都市パリにお金を落としてくれる客を期待できないという状況です。

仕事帰りに、知り合いの店をいくつか自転車でまわってきました。まずはじめにオーボワノに会いに。テレビではテラスを開けても仕方ないと言っていましたが、今週末から週4日でテラス席20席でオープンをしてみるということでした。加えて、奥様が牡蠣の生産者の4代目ということもあり、牡蠣のお持ち帰りも始めてみるということです。「まるで戦時下のようだ。今年の初夏は今までに増して美しく、自然の恵みを感じるほどなのに、現実は今までにないシビアさだ。何れにしても、とにかく、やってみないとわからない」とオーボワノ。姉妹店の方のシェフをブルターニュ店の料理人に据えるなど従業員の配置換えもして、戦っていかなければならない今後を目の当たりにしました。他店も回ったのですが、約10軒のうち、稼働しているのは4軒。1軒はテラスのあるクレープ店で本日からオープン。2軒は1つ星店でテイクアウトを。もう1軒はテラス付きの総菜店ですが、テラスは今週末からのオープンとのこと。他店は、オープンの時期を見計らっているのではないかと推測されます。サン=ジェルマン・デプレのカフェ『ドゥ・マゴ』もまだ閉まっていました。

今日は、ロックダウン後初めて屋外でランチを。夏日ということも手伝って、木陰のテラスがある近所の店へ行きました。テーブルにはメニューをスマートホンで読み込めるQRコードが貼ってあります。紙のメニューは使い捨て。もちろん、従業員は皆マスクをして、テーブルは間隔をおいて配置。最善の注意を払っているようでした。来てくれてありがとう、という気持ちがたっぷりと伝わってくるサービス。客も楽しいひと時を過ごすことができたという身振り。久々に会った友人同士の客か、ハグの代わりに肘をつつき合って挨拶。極めて人間的な心の通い合いを目にすることができたのは、何よりもの救いでした。レストランの楽しみの根源は、人と人が肩を並べ、胸襟を開いて心を交し合えることにある、と基本に戻ることができたひと時でした。文化が育まれてきた場所であるとか、社交の場であるとかいう、勿体ぶった言葉で飾られる以前に。

今週のトピックス。【A】マルセイユの2つ星シェフ、フードトラックを始める。【B】パリのパラスホテル『ル・ムーリス』、テイクアウトのパニエ始める。【C】自転車バイクの移動式カフェ登場。【D】レストランガイド事情。紙媒体を廃止するガイドも。

今週のトピックス。

【A】マルセイユの2つ星シェフ、フードトラックを始める。

マルセイユ2つ星『AM』のオーナー・シェフで、ゴーミヨ2019の最優秀シェフにも輝いたアレクサンドル・マッジアシェフ。6月末にフードトラック『ミッシェル』をマルセイユ市内にて開始することを発表しました。『AM』では、ロックダウン中から懇意にしている生産者の食材を販売していましたが、2年前から構想してきたフードトラック企画を始める好機と判断。真っ赤なシトロエントラックを手に入れたということです。『ミッシェル』の名は漁師だった祖父の名前から。今年3つ星を獲得したラ・ロシェル市クリストファー・クッタンソーシェフの父とも取引があったという、マッジアシェフの自慢の祖父です。

フード・トラックでは、海藻風味のベアルネーズソースを添えたTempuraや長時間煮込んだスパイシーな仔牛肩肉、蒸した魚のサンドイッチなど、フードトラックとは言えども香りの魔術師マッジア氏ならではのファーストフードが楽しめそうです。デザートもエスペレット唐辛子のきいたチョコレートのイタリア風ジェラート、ヒヨコ豆のサブレなど。前菜は4.5ユーロ、メインは7.5ユーロ、デザートは4ユーロ。メニューも仕入れによって変わるというので、マルセイユの人々に新しい食の楽しみを提供してくれそうです。https://www.alexandre-mazzia.com/

【B】パリのパラスホテル『ル・ムーリス』、テイクアウトのパニエ始める。

パリのパラスホテル『ル・ムーリス』内レストランでアラン・デュカス・グループ下にある2つ星レストラン『ル・ムーリス』が、先週28日よりお持ち帰りのパニエをはじめました。新シェフを務めるアモリ・ブウール氏とシェフ・パティシエのセドリック・グロレ氏の季節の皿が味わえるというもの。フォッカチャ付き、アントレ・メイン・デザートで70ユーロの提案。オマールや肥育鶏など高級素材で4名用の特別メニューも用意しており、こちらは1人130ユーロに。この特別メニューでは、特にフランスの生産者を守ることも目的に。例えば、ノルマンディー地方ベネディクト・ポワゾ氏のキュロワゾー肥育鶏、北部地方ミカエル・ヴィヨ氏のオマール・ブルー、ロワール地方ディディエ・ピル氏とサンドリーヌ・ガラン氏プチ・ムーラン農園の野菜、プロヴァンス地方グザヴィエ・アラザール氏のオリーブオイルなど、ディカス氏らが推進する『コレージュ・キュリネール・ドゥ・フランス』のラベル付きの生産者たちへの支援にもなっています。

【C】自転車バイクの移動式カフェ登場。

パリのイタリア人レストラン事業家として知られるダニエロ・ビアンコ氏が、自転車バイクの移動式カフェTRIP BIKE CAFEを本格的に始めて話題になっています。TRIP BIKE CAFEは1年前に創業していましたが、ロックダウン以降、医療関係へイタリアのブランドKIMBOコーヒーとヴィエノワズリーを提供するボランディアに従事していました。封鎖緩和を受けて、4人のバリスタを従え、パリ市内での事業を開始したばかりです。オペラ、凱旋門、アンヴァリッド、シャンゼリゼなどに繰り出しています。社会連帯とエコロジーを謳い、フードトラックとともに、新しいスタイルとして受け入られるでしょう。

【D】レストランガイド事情。紙媒体を廃止するガイドも。

1987年にフード・ジャーナリスト、クロード・ルベイ氏(3年前に93歳で逝去)によって刊行されたパリの年鑑レストランガイド『ルベイ』。パリのレストランとビストロに特化したガイドとして、揺るがぬ地位を築いてきました。2011年にGérald de Roquemaurel氏と Pierre-Yves Chupin氏に受け渡されて、よりダイナミックに転身しています。

Pierre-Yves Chupin氏はかねがね、紙のガイドから100%デジタルに移行することを考えていたとのことですが、今回のCovid-19による甚大な影響を受けて、今年の評価から紙のガイドを廃止することを発表。今までは年鑑評価が的を得ていたために、紙ガイドも必然だったが、すべてが毎日のように変化しうる現代においては、今までのようなやり方では通用しないということを認めました。ガイドの刊行の際に開催していた年に1度のイベントは、維持しながら、週間のニュースレター配信を約束。数年前に提携を組んだワイン専門ガイドbettane + desseauveや、イタリアンガイドGambero Rossoとの協力を得て、パリの店ガイドの個性化を図っていくということです。

ちなみにルレ・シャトーガイドは今年のガイド刊行を停止。ミシュランは、レストラン稼働とともに調査員がシェフたちとコミュニケーションを重ねて、公正な評価を行っていくということで、ガイドの真価、進化も今後問われていきそうです。 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?