BTS【花様年華】⑮”魂の地図”を探して-1
ソクジンが一人で帰ってしまったあの海での出来事から数日が経ち、7人はそれぞれの日常を過ごしていました。
ユンギは音楽制作に本腰を入れ、次第に実演者連合会や著作権協会から著作権料として少額の収入を得るようになっていきました。
ホソクは再び疎遠になってしまった6人のことを考え、展望台の上で言い争っていたソクジンとテヒョンの様子を思い返します。
病院を抜け出してからホソクの部屋に身を寄せていたジミンは、海からの帰り道でホソクに別れを告げて両親の暮らすムンヒョンのマンションに帰り、母親の勧めで高校の卒業資格を得るための学習塾にも通い始めました。
ホソクの紹介でダンスチームに参加することになったジミンは、練習室へ足繫く通うようになり、ホソクの幼馴染のお姉さんとも親しくなりました。
ナムジュンは、海での帰り道で「頼みがあります」と自分を頼って声を掛けてきたテヒョンを拒絶してしまったことを考え続けていました。
いつものようにバスを降りて顔を上げると、テヒョンがバス停に残したたくさんのグラフィティが目に入りました。いつの日か二人で警察に追われて街中を逃げ回りながらニコニコと嬉しそうに笑っていたテヒョンに、「心配事があれば一人で悩まず言えよ。解決は出来なくても、聞いてやるから」と伝えた自分を思い出し、本心で言ったはずのその言葉を嘘にしてしまったと後悔します。
ナムジュンは、自分を頼りにしてくれるテヒョンときちんと向き合うため、そして常に自分に言い聞かせていた”生き残る”ということがどういう意味なのかを確認するために、テヒョンを誘って、家族を残して出て来てしまった田舎の村を訪ねることになりました。
バスに乗っている間、ナムジュンはテヒョンに田舎の村で起きたジョンフンの事故について話します。ナムジュンは当時のことを後悔しているわけではありませんでしたが、問題から目を逸らし、死なないために何もしない自分自身が、まるで死人のようだと考えていたのです。
事故が起きた道路に寝転び、ジョンフンの最後の瞬間を想像しながら、あの冬ここで死んだのはジョンフンだけではなく、”生き残る”ために逃げるようにこの村を去った自分もまたこの場所で死んだのだと、まるで大雪に埋もれるように身体が重く沈んでいくのを感じていました。
テヒョンの呼ぶ声でハッと物思いから醒めたナムジュンは、ポケットからあの日この場所で拾った割れたヘッドライトの破片を取り出して道路の上に置き、「元気でな」と心の中で別れを告げます。
「兄さん、僕たち死なないようにしよう」ジョンフンだけではなく、様々なしがらみへ別れを告げたナムジュンの中には、テヒョンが手のひらを地面に当てながら言ったその言葉だけがこだましていました。
今もナムジュンの家族が暮らす家を見下す村の高台を駆け下り、かつてジョンフンが暮らしていた無人の家を見つめながら思わず涙が込み上げるナムジュンに、テヒョンは大丈夫かと声を掛けます。ナムジュンはその言葉に答える代わりに「この前海に行った時、頼みがあるって言っただろ?話してみろ。どんなことでも一緒に解決しよう」と伝えました。
田舎の村とソンジュの街を繋ぐバスがやって来るのが見えたちょうどその時、ホソクからジョングクが事故遭って入院しているという連絡が入り、二人はそのまま入院先のキョンイル病院へと向かうことになりました。
帰りのバスに揺られながら、テヒョンは海に行った日に確信したソクジンが7人で一緒に過ごした思い出を忘れてしまっている話や、悪夢の中で起こる数々の不幸な出来事の話、その不幸な出来事から自分たちを助けてくれているのはソクジンなのではないかという考えをナムジュンに打ち明けました。
みんなに事故を知らせたホソクは、ジミンを連れてジョングクの病室を訪れました。ホソクは事故から20日以上経っても連絡を寄こさなかったジョングクを心配するあまり、思わず「お前にとって僕たちはそんなにどうでもいい存在なのか?」と責め立ててしまいます。
同じ頃、ソクジンの自宅では、ソクジンの父親が中心となってソンジュの街の再開発を推し進めている奨励会の会議が行われていました。
ホソクからの連絡を一瞥して無関心に受け流したソクジンは、過去のタイムリープで繰り返し起きたジョングクの事故を回想し、この事故は防ぎようのない不慮の事故であり、例えジョングクが命を落としてしまったとしても仕方がないのだと考えます。
ソクジンは会議の中で話し合われているこれからのソンジュの街の様子を、会議に参加している誰よりもよく知っている自分に不思議な気持ちを抱きながら書斎の前を通りかかり、扉の前で父親が政界入りした頃からの長年の付き人であるジュノ補佐官が会議で決定される何かに聞き耳を立てている姿を目撃しました。
そしてこの日、ソクジンがジョングクの病院に向かわなかったことの他に、これまでのタイムリープとは違う出来事がもう一つ起こっていました。
これまで作業室に籠り切りで事故の知らせに気が付くことが出来なかったユンギが、今回のタイムリープではホソクからの連絡をすぐに確認することが出来たのです。
走って病院へと駆け付け、廊下から薄く開かれた病室の扉の向こうで死人のように横たわるジョングクの姿を目の当たりにしたユンギは、これまで自分を苦しめてきた様々な場面がフラッシュバックのように脳裏を過り、思わず病院を逃げ出してしまいます。
自暴自棄になったユンギは酒を飲み、酩酊状態のままソンジュの街を徘徊して、何かに導かれるようにかつて7人が一緒に過ごしたアジトである倉庫の教室に辿り着きました。
虚ろな意識のまま学生時代の日々を回想しているうちに、退学処分が決まり、もうここには出入り出来ないと言われた日に、密かにピアノの中に隠したはずの楽譜の存在を思い出したユンギは、慌てて朽ちたピアノから楽譜を取り出します。その楽譜に刻まれた旋律には、かつて火事になった家から持ち出し、音楽を断ち切る想いで捨てたあの母親の鍵盤が奏でる音が散りばめられていました。
ユンギは鍵盤を窓から投げ捨てたあの日から、その音だけは一度も弾くことが出来ず、その後作曲したどの曲にも使うことはありませんでした。そして、かつて作業室でジョングクと何度も言い争いになったのは、何も知らないはずのジョングクが決まってその音ばかりを執拗に鳴らしたことが発端だったのだと気が付きます。
楽譜通りに鍵盤に指を降ろすと、7人で笑い合い、この場所で一緒に過ごした一番幸せだったあの頃のいくつもの瞬間の記憶が次々に溢れ返りました。あの日、ピアノに託すようにして隠したこの楽譜は、ユンギが7人の【花様年華】の日々を自分なりの方法で記録していたものでした。
酔いから醒めたユンギは再びジョングクの元へと向かい、初めて病室へと足を踏み入れると、そこには連れ立ってジョングクを見舞うナムジュンとテヒョンの姿がありました。
ソクジン以外の5人が慌ただしくお見舞いに訪れたこの日、ジョングクは警察に見せられた事故の一部始終を遠巻きに捉えた防犯カメラの映像を思い出し、眠れぬ夜を過ごしていました。
その映像の中で自分を撥ね、逃走して行ったその車は、ジョングクの目には確かにあの見慣れたソクジンの車のように映りました。ジョングクはそのことを警察には告げず、ソクジンはもちろん、示し合わせたように代わる代わる病室を訪ねて来た他の兄たちに対しても不信感を抱くようになります。
ナムジュンはこれまでのタイムリープと同じように、コンテナ街で一人で過ごす子ども(ソン・ウチャン)に声を掛け、次第に面倒を見るようになります。
この日も自分のコンテナでウチャンにラーメンを食べさせながら、田舎の村からの帰り道にテヒョンから打ち明けられた「ソクジンが自分たちを助けているせいで大切な記憶を失っている、悪夢の最後はコンテナの火災で自分が死ぬことである」という話を思い出し、テヒョンの話を信じてもいいのだろうかと考えを巡らせていました。
ナムジュンは、テヒョンから聞いた信じられないような話を何度も反芻するうちに、一緒に過ごしていた頃の親しみやすかったソクジンとは別人のような今のソクジンに対して抱いていた違和感の真実を確かめたいという想いが膨れ上がっていました。
ソクジンを誘い出して二人で屋台に肩を並べたナムジュンは、何の感情も籠っていないようなソクジンの受け答えに、いま自分の目の前にいるのは一体誰なのだろうかと得体の知れない不安に駆られます。
「兄さんが初めて酒を飲んだのはいつですか?」酒を煽ったナムジュンが不意にそう尋ねると、ソクジンは「覚えていない」と一蹴し、数か月前最初にガソリンスタンドを訪ねて来た日のことを聞かれても「ただみんなに会いたくて」と見え透いた嘘を吐いて、二人の会話は途切れ途切れのまま続いていきました。
「”魂の地図”って聞いたことあるか?」ソクジンが屋台に腰掛けてから、初めて先に口を開いたのは、そんな言葉でした。「必ず見つけなきゃいけないものなんだ、全てを終わらせることができる… 」そしてすぐに、余計なことを聞いたとでも言いたげに首を振り、語尾を濁しました。
帰り道、遠ざかるソクジンの背中を見つめながら、ナムジュンは高校2年生の頃テヒョンとジミン、ソクジンと自分の4人で学校を抜け出し、通りすがりの不良に因縁を付けられて理不尽に殴られた日のことを思い出していました。やけになって4人で川原に座って缶ビールで乾杯したあの日、「僕、酒飲むの初めてなんだ」そう顔を赤らめて告白したソクジンをナムジュンは覚えていたのです。
嘘を吐き、過去を忘れ、明らかに何かを隠しているソクジンを目の当たりにして、ナムジュンはテヒョンに聞いた話は本当なのかもしれないと考えるようになりました。
同じ頃、ユンギは父親の視線や母親の幻影から自由にならなくてはいけないと、実家出て一人で暮らしていくことを決意していました。荷物をまとめて部屋を出たところで父親とすれ違い「もう小遣いはいりません」と伝えると、しばらく黙ったままでいた父親は「元気でやってるか、たまにはメールでもしろ」と引き留めることなくユンギを送り出しました。
そして、わざと一番向いていない辛い仕事にぶつかってみようと、工事現場で肉体労働をしながら、作業室で寝泊まりする新しい生活が始まりました。
この頃、ジョングクに起きた轢き逃げ事故を捜査していた警察に事故を目撃したという人物から「犯人は、外車を運転する20代半ばの男性」であるという匿名の通報が入っていました。
警察はそのことをジョングクに伝え、何か思い当たることはないかと尋ねます。その場では何も答えずにやり過ごしたジョングクでしたが、もちろん心当たりは十分にありました。
数日後、病室に顔を出したホソクに「ソクジン兄さんに何かあったんですか?」と聞いて様子を探ると、明らかに以前と変わってしまったソクジンに疑問を抱いていたホソクは咄嗟に目を逸らして言葉を濁してしまいます。そんな歯切れの悪いホソクに、ジョングクはソクジンと他の兄たちをより一層怪しむようになりました。
ソクジンは日増しに酷くなる頭痛の検査のために、キョンイル病院を訪れていました。診察を受けたソクジンは、専らの悩みの種である”魂の地図”について、何か知っていることはないかと医師に尋ねます。そしてその様子を、定期検診のために病院を訪れていたジミンが偶然見かけていました。
ジミンには、この”魂の地図”という言葉が、いつかどこかで聞いたことがあるような不思議な言葉のように感じられました。しかし、どんなに記憶を辿っても思い出すことは出来ず、ホソクにも相談しますが手掛かりはありません。
ジミンは入院中のジョングクに余計な負担を掛けまいと、ソクジンとジョングク以外の5人だけのチャットルームを作り、病院でのソクジンの様子を報告しました。すぐにチャットに参加したのはナムジュン以外の3人で、それぞれソクジンを気にしていた3人は、聞き慣れない”魂の地図”という言葉に余計困惑してしまいます。
その後遅れて参加したナムジュンが、数日前にソクジンが屋台で飲みながら「"魂の地図"が全てを終わらせる方法だ」と零していた話を伝え、5人は思い思いの方法で”魂の地図”について探り、情報を持ち寄ることになりました。
この頃のソンジュの街では、権力を持つ者はみな何かしらの形で街の再開発事業に関わっていました。それはソクジンが通っている大学の教授も例外ではなく、この日も父親から預かった書類を教授へ届けるために学期の終わった大学を訪れていました。
そしてその帰り道、運転中の車窓からふと目に入った工事中の建物が、数ヶ月後には踏切で出会った彼女のために探した”スメラルド”専門のフラワーショップになるということも、ソクジンにとっては分かりきったことでした。
ソクジンは、彼女に初めて会った瞬間や一緒に過ごした時間、そして花火の下で事故に遭った彼女の姿と足元でつぶれた”スメラルド”の花束を思い浮かべます。その後のタイムリープで彼女を救ったあと、どうしてかタイムリープを繰り返す度に彼女との関係は悪化し、彼女は決まって「あなたが誰なのかわからない。自分が好きだった人ではないみたい」だと言ってソクジンから遠ざかっていくようになっていました。
彼女の望み通りの行動をしているにも関わらず上手くいかない彼女との関係が腑に落ちないソクジンは、一体何がいけなかったのか理解出来ずに自分がどれだけ頑張ったのかとうんざりしていました。
酒浸りの父親を避けてナムジュンのコンテナに寝泊まりしてたテヒョンは、これまで数え切れないほど見て来た悪夢とは比べ物にならないほどの恐怖を感じる悪夢に魘され、ナムジュンに肩を揺すられて目を覚まします。
テヒョンは、自分の見ている悪夢がただの夢ではなく、現実と繋がっていると気が付いてから、眠ること自体が怖いと感じるようになっていました。
テヒョンがコンテナ火災の悪夢の他に新たに見るようになったその悪夢は、大きな会議室の真ん中に座り、ぞっとするほどの冷たい瞳で窓越しの夜景を見下ろすソクジンの姿でした。そしてソクジンがどこかへ電話をかけて何かを話すと、一瞬にして窓の外の街が全て消えて失くなり、世界は恐ろしいほどの闇に包まれてしまうのです。
その夢の中でソクジンが見下ろしている夜景には、ソンジュの街を流れるヤンジ川やムンニョンのマンション群、すぐ下には明々と明かりを灯した多くの建物が並んでいました。混乱したまま夢の話を伝えるテヒョンに、ナムジュンは「どの場所か見つけられそうか?」と声を掛けます。ヤンジ川を見下ろせるビルはソンジュの街の至る所にあり、テヒョンは到底探し出すことは出来ないだろうと首を横に振りました。
しかしナムジュンは「その場所を探して行ってみよう」と、まるでとても簡単なことであるかのように夢で見た夜景について詳しく聞き出そうとします。そのあまりにも軽快な物言いは、テヒョンが思わず、ナムジュンが本当は自分の言葉を信じておらず適当に相槌を打っているのではないかと感じるほどのものでした。
その夜景は、4,5階建てオフィス街が見下ろせる7階以上と思われる建物からの景色であり、その景色の中には屋上に缶コーヒーの広告看板がある建物と、2階の窓に四葉のクローバーのロゴがついたビルが見えていました。
二人はすぐにソンジュの市庁がある中心街へと向かい、数え切れないほどあるビルと広告看板に途方に暮れながら、手当たり次第に何度もビルを昇り降りして、夜通し夢の中の夜景を探し回りました。
思い当たる最後のビルも徒労に終わり、二人は屋上の柵に腕を掛けて果てしなく広がるソンジュの街を眺めていました。「兄さん、僕が言ったこと本当に信じますか?」テヒョンのその言葉に、ナムジュンは首元を流れる汗を手で拭いながらこう言い返します。
「信じられないことを信じるのが、本当に信じるってことだろ」
二人が見渡す景色の向こうには、新しい一日の始まりを告げる赤い太陽がゆらゆらと昇り始めていました。
同じ日、ソクジンはナムジュンの暮らすコンテナ街の撤去の日程について話し合われる会議に出席していました。
最初に撤去対象者のリストにナムジュンの名前を見付け、父親が息子の友人が犠牲になることを黙認しながら計画を進めているのだと知ったいつかのタイムリープでは、撤去を止めて欲しいと父親に頼み込んでいたソクジンでしたが、この日の会議ではちらりと目配せをする父親に対して、何も言わずにただ興味なさげに座ったままでいました。
会議を終えたソクジンが駐車場へと向かって歩いていると、突然交通課の警察官から電話が入り、警察官は「ある轢き逃げ事故についての情報提供があった」と言って5月22日のドライブレコーダーの映像を提出するように要求しました。ソクジンはすぐにその轢き逃げ事故がジョングクの事故なのではないかと勘付きますが、断る理由もなく否応なしに承諾します。
そしてあの晩、修理のために預けたカーセンターの店長が、どうしてこんな擦り傷が出来たのかと聞きながら、自分の容姿や車の傷を不審げに見ていたことを思い出し、すぐに電話を掛けて「警察に通報したのは店長さんですか」と問い質しました。
ソクジンは畳み掛けるように「嘘の通報で僕の名誉を棄損して、警察の公務を妨害していると思いませんか?」と、半ば脅しのような言葉を吐いて電話口で慌てふためく店長に自分の思い違いだったと謝罪をさせ、「謝って済むと思ってるんですか」と暗に証言の取り消しを強要したのです。
数日前に警察がジョングクに伝えた事故の目撃証言は、ソクジンを怪しんだカーセンターの店長からの情報提供によるものでした。そのため、ジョングクの知り得た情報は当然ソクジンの容姿や車にぴったりと当てはまるものとなり、疑念に拍車が掛かってしまったのです。
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次回の記事では、これまでソクジンが一人闇雲に奮闘していた”魂の地図”探しに5人が介入することで、その存在がどんどんと明るみに出ていく過程を丁寧に整理します。
〈次回〉
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