BTS【花様年華】⑯”魂の地図”を探して-2
その後もナムジュンとテヒョンは、テヒョンの悪夢の中でソクジンが見ていた景色を探すため、自分たちが本当は何を探し出すべきなのか、仮にその場所を見付けたとして一体何がわかるのかわからないまま、何日もソンジュの街中のビルに昇り続けていました。
ガソリンスタンドでのアルバイト中、眠っている社長を起こさないよう静かに事務所を出ようとしたナムジュンは、ふと社長の座るマッサージチェアに描かれた四葉のクローバーのロゴが目に入り、慌てて写真を撮ってテヒョンに送ります。そのロゴは、まさにテヒョンの悪夢の中でソクジンが見下ろす景色にあった四葉のクローバーそのものでした。
近付く台風の影響で徐々に悪天候になる中、二人は繁華街にあるマッサージチェアのショールームの内、ヤンジ川が見える場所にある3つの店舗の周囲にあるビルを手当たり次第に見て回りました。
台風が直撃したソンジュの街は暴風雨に見舞われ、ビルの窓や多くの看板が補強のために塞がれてしまったことで、その後の数日間は看板をヒントに悪夢の中の景色を探し回ることが出来なくなってしまいました。
二人は仕方なく、ロードビューでソンジュの街を見て回り、同じ場所でも撮影された時期によって今とは違う看板が掛けられているという、当たり前のことに気が付きます。
テヒョンが見る悪夢の中で起きた出来事は、現実の世界ではどれも悪夢を見たすぐ後の未来にソクジンが介入する形で起こる出来事でした。もし悪夢の中の景色が少し先の未来のものであるとしたら、今はまだ違う看板が掛かっているかもしれないと考えたナムジュンは、看板以外の条件が似通ったある一つのビルに見当を付けて、もう一度行ってみようと提案します。
「兄さん、本当に信じてくれますか?」不安げなテヒョンの問いかけに、ナムジュンは頷きながら答えました。「信じるよ。もし信じなくて何かが起こったら、俺は。」
たぶん俺は、自分を許せないだろう。現実的なナムジュンは懐疑と疑念に囚われながらも、最後までテヒョンを信じたいと心に決めていました。
台風一過の夜、ジミンはテヒョンのアルバイトが終わるのを待ちながら、コンビニ近くの空き地や路地をふらふらと歩き回っていました。そして、ふと目に入ったテヒョンが夢で見たソクジンの冷たい表情を描いたグラフィティを見て、とある人物を思い出します。
その人物とは、ジミンが入院させられていた病院の閉鎖病棟で、いつもテレビの前に座って虚ろな表情をしていたウ・ヒョンソンという一人の男です。テヒョンが描いたソクジンの冷たい表情は、どうしてかヒョンソンの魂の抜けた目を連想させ、ジミンは困惑しました。
ヤンジ川にほど近いオフィス街を再び訪れたナムジュンとテヒョンは、ロードビューで当たりを付けていたビルの屋上で、今まさに看板の貼り替え工事をしているのを目にして走り出します。数日前に一度訪れた時には、屋上に続く扉が施錠されていて景色を確かめることが出来ませんでしたが、この日は工事のために扉が開けられたままになっていました。
外された巨大なドリンク剤の看板の代わりに姿を現したのは、まさに二人が探し続けていたテヒョンが悪夢で見たものと同じ缶コーヒーの看板でした。そして、その屋上から見える景色の中に、この看板を見下ろすことが出来そうな一つの建物を見付けて二人は再び走り出します。
缶コーヒーの看板と四葉のクローバー、そしてヤンジ川を見下ろすことが出来るという全ての条件が揃ったその建物を見上げたナムジュンは、結局、自分たちはこれを探し出すべきだったのだと一瞬にして悟ります。
その建物の一番上、明かりが点いた5階の窓には見慣れた〈国会議員 キム・チャンジュン事務所〉の文字が書かれていました。
ようやく辿り着いたソクジンの父親であるキム・チャンジュン議員の事務所に忍び込んだ二人は、すぐに悪夢の中でソクジンが窓の外を見下ろしていた怪しげな会議室を見つけ出し、身を潜めながら周囲から聞こえる話し声に耳を澄まします。
テヒョンが印刷機に残されたままの書類の束をふと手に取ったその瞬間、廊下で電話をしていた従業員が会議室へと入ってきて、何かを探すように辺りを見回し始めました。
二人は身を屈めながら開かれたままの扉から這い出て、間一髪で事務所から逃げ出します。しかし、ここ数日間あらゆるビルに無断で侵入していたことを警察に通報されていたため、運悪く巡回していた警察官と鉢合わせ、そのまま連行されてしまいました。
そして警察に連れて行かれる途中、ナムジュンは面倒なことに巻き込まれたくないと、テヒョンが手に持ったままでいた書類を咄嗟に開いている窓へと投げ捨てていました。
その日から、ソンジュの街は、水面下で進行していた再開発事業計画の実行に際して「警察は再開発計画で暴力を行使することに介入しない」と書かれている機密文書が公表されたというニュースで持ち切りになりました。
ガソリンスタンドの事務室でそのニュースを見ていたナムジュンは、すぐに自分が咄嗟に投げ捨てた書類がその機密文書であったのだと勘付きます。ナムジュンが書類を捨てた場所は、マスコミの記者室として使われている場所でした。
そして、その暴力黙認の機密文書が明るみに出てしまったことで、計画段階であった再開発事業の実行をかえって早めることになってしまったのです。
同じニュースを見たホソクも、自分が育った養護施設が立ち退きの対象区域に含まれていることを知り、そこで暮らしている子どもたちやお世話なった先生たちを心配して養護施設を訪れていました。
同じ頃、ジョングクは脳裏に焼き付いた防犯カメラの映像や、証言を取り下げて連絡が途絶えた事故の目撃者、そして何より依然として様子のおかしい6人の兄たちのことを考えながら、病院の屋上で夜風に当たっていました。
「そう簡単に死ぬもんか」屋上の手すりの上に登り、遠くに見えるソンジュの街の夜景を見つめながら、ジョングクは無意識にそう呟きました。
ジミンは、テヒョンがソクジンを描いたグラフィティを見た日から、頻りに思い出されるヒョンソンのことが気掛かりになっていました。
思い返してみるとヒョンソンは意味不明な呻き声と共に「”魂の地図”は壊された」という言葉を度々口にしていました。入院中のジミンはそのことをさして気に留めていませんでしたが、ジミンが病院でソクジンを見かけたときに耳にした”魂の地図”という言葉に、どこか聞き覚えがあるように感じていたのはこのためです。
閉鎖病棟に入院しているヒョンソンは、毎週金曜日に外来診療を受けることになっていました。そのことを知っていたジミンは、ちょうど金曜日だったこの日、病院に行ってヒョンソンの様子を窺ってみようと思い立ちます。
ジミンが病院へと向かう道中で偶然通りかかった工事現場に、埃と汗にまみれた作業着を着て休憩しているユンギの姿がありました。
驚くジミンに「これも経験だ」と言葉少なに説明したユンギは、病院に行くのだというジミンを心配して「終わったらすぐ連絡しろよ」と伝え、強がるように大げさに肩をいからせて遠ざかるジミンの後ろ姿を見送りました。
ジミンは看護師に挨拶をするという口実で顔馴染みの職員に面会室に通してもらい、ヒョンソンの外来診療の時間を待つことになりました。
鉄製の重い扉を抜けて面会室に入ったその時、突然、辺りに緊迫した子どもの叫び声が響き渡ります。「母さん、僕も連れて行って!」驚いたジミンが廊下を覗くと、飛び出してきた幼い男の子とぶつかり、二人はその場で激しく転倒してしまいました。ジミンに縋り付きながら姿の見えない母親を呼んで泣き叫んでいた幼い男の子は、すぐに看護師たちに抑えられ、注射を打たれてそのまま眠るように意識を失います。
その後、ジミンは必死に発作を抑えながら、看護師から最近パニックを起こしやすくなったヒョンソンの外来診療が人の少ない土曜日に変更になったことを聞き出しました。
ジミンが俯いたまま病院を出ると、連絡をよこさないジミンを心配したユンギが、痺れを切らして迎えに来ていました。ユンギは憔悴しきった様子で目に涙を浮かべるジミンに「大丈夫、泣いていい」と声を掛け、優しく肩を叩きました。
翌日、ユンギはジミンに付き添って、一緒に閉鎖病棟のヒョンソンの元を訪れていました。
看護師に連れられて外来診療へやって来たヒョンソンは、待合室のテレビに映ったチャンジュン議員を見るなりパニックを起こし「あいつのせいで俺の魂が壊れた」「音楽室」「記号(ギホ)は消えた」と意味不明な言葉を発しながら大声で喚き続けた後、頭を抱えて蹲ります。
ヒョンソンは自身が高校生の頃から、もう30年近くもこの閉鎖された精神病棟に入院したまま、苦しみの中に閉じ込められているのでした。
病院を出て歩き出す二人の後ろ姿を、ジョングクが病室の窓から見下ろしていました。ジョングクは、自分のお見舞いに来たわけでもないのに二人が揃って病院に来ていたことを不審がり、何も知らないフリをしてジミンに電話を掛けてみることにしました。
しかし、ジョングクからの着信を見たジミンはユンギと顔を見合わせ「ジョングクには黙っておこう」と提案したユンギに従って、咄嗟に「塾に行っていた」と嘘を吐いてしまいます。
すでに兄たちに対して拭いきれない疑念を抱いていたジョングクは、自分に対して明らかな嘘を吐いた二人もまた、ソクジンを庇って何かを隠匿してるのだと確信を持つようになりました。
施設の立ち退き問題に奔走していたホソク以外の4人は、その後もチャンジュン議員やその周囲で起こった出来事について調べ続け、それぞれに新たな情報を掴んでいました。
チャンジュン議員に纏わるネットニュースを読み漁っていたジミンは、ある記事のコメント欄に、チャンジュン議員が自分たちと同じソンジュチェイル高等学校の出身で、あの校長(チョ・ジンミョン)とも同級生だったこと、当時の二人は不仲であったこと、そして二人の在校中にとある生徒(チェ・ギュホ)の失踪事件が起こっていたという噂話を見付けて5人のチャットルームに知らせました。
テヒョンを置き去りにして家を出た母親の弟・テヒョンの叔父もまた彼らと同じソンジュチェイル高等学校の同窓生でした。テヒョンは叔父が営む飲食店を訪ね、ギュホの失踪事件のあと、友人だったチャンジュンは授業にも出ず血眼で彼を探し回って留年したこと、そしてある日学校の別館にある音楽室で倒れているのを発見されて休学し、復学後はまるで人が変わってしまったかのように冷たくなったのだという話を聞いて、チャットルームに知らせます。
30年前に音楽室として使われ、気を失ったチャンジュンが発見されたその場所は、7人が【花様年華】の日々を過ごしたあの倉庫の教室でした。
二人からの知らせを読んだナムジュンは、図書館で30年前の新聞を探してギュホの失踪事件について調べます。ようやく見付け出した当時の記事に載っていたギュホの母親の証言には、ギュホは夜中に誰かに呼び出され「友達に会いに行く」と言い残したまま、怯えた様子で家を出て失踪したことが書かれていました。
急いで倉庫の教室に集まった4人は、久しぶりに訪れた静かな夜の校舎を懐かしみながら、少しずつ繋がっていく情報を整理します。
「あ、あれ見てください」落書きで埋め尽くされた教室の壁を眺めていたジミンの声にみんなの視線が集まると、そこにはキム・チャンジュンの名前が書かれたすぐ近くに、閉鎖病棟に閉じ込められているウ・ヒョンソン、行方不明になっているチェ・ギュホ、そして〈すべてはここから始まった〉という落書きがありました。
すでに日付が変わった深夜、テヒョンは4人で倉庫の教室を出た帰り道に、ふと今日がジョングクの退院の日であることを思い出します。
その日の夕方、コンテナで退院パーティをするために再び集まった4人は、主役であるジョングクを祝うことよりもむしろ、ソクジンを上手くこの場に呼び出せるかどうかが気掛かりでした。そしてソクジンは、ナムジュンが「”魂の地図”について話そう」と素直に連絡を入れたことで、父に呼ばれていた会議を欠席してしぶしぶ退院パーティに参加することになりました。
養護施設の立ち退きを知って以降、ホソクは施設の先生や卒業生たちと一緒に、毎日市庁舎の前に集まって移転計画を明らかにするように訴える抗議活動を行なっていましたが、役人たちは沈黙を貫いていました。
テヒョンが送って来た退院パーティの写真にソクジンが写っているのを見たホソクは、ソクジンに父親を説得するように頼んでみることを思い付き、6人が集まるコンテナへと駆け込んで、藁にも縋る想いで養護施設を救って欲しいと訴えます。
「頼むからもう自分たちのことは自分で解決してくれよ」ソクジンは他人事のようにそう言い放つと、ホソクや追いかけるテヒョンを冷たく切り捨てて、そのまま車に乗り込んで帰ってしまいました。
コンテナから漏れる光が照らすソクジンの車のバンパーに、大きな事故の痕跡が残っていたことを、ジョングクは見逃しませんでした。ジョングクは驚くことも悲しむこともなく、何の感情も抱かないまま闇に消えるヘッドライトに、朧気だったあの日の景色を重ねます。
コンテナの外では、兄たちが自分の知らない話で盛り上がっていました。
足の怪我が悪化して病気休暇を取ったホソクは、何もかも上手くいかない現状に嫌気がさし、全てを放り出してソンジュ以外のどこかへ行ってしまいたいと、衝動的に以前から異動を打診されていたツースターバーガーの出店予定地であるハゴクの町を訪れていました。
ハゴクの町で中学時代の後輩と再会したホソクは、後輩の家に居候をしながら、ちょうど振付師が辞めてしまったのだという後輩が所属するダンスチームの手伝いをするようになります。
数日後、ツースターバーガーの社員からホソクがハゴクで休暇を過ごしていることを聞いたナムジュンがホソクの元を訪れ、二人は酒を飲み交わします。
「遅刻して初めて一緒に掃除をした日のこと、覚えてるか?あの時、ソクジン兄さんがまるで生まれて初めて掃除をする人みたいだったから、お前と俺で後ろから見てあきれてたじゃないか。本当のことは俺もよく知らないけど、何か事情があるんだよ。お前だって知ってるじゃないか、兄さんが優しいこと」
昔話を持ち出してそう諭すナムジュンに、ホソクはどうして自分たちとは違って何の苦労も知らない、裕福な生まれのソクジンを理解しなくてはいけないのだと苛立ち、自分はもうソンジュに戻るつもりはないのだと啖呵を切ってしまいます。
「ソンジュみたいなところに戻ってくるな。アメリカにもヨーロッパにも、月にでも行け」「心配するな、絶対に戻らないから。約束だ」酔いに任せてそんな会話をした二人はそのまま酔い潰れ、ホソクが居候をしている後輩の家に転がり込んで夜を明かしました。
翌朝、駅でナムジュンを見送ったホソクの携帯に、ナムジュンから「約束守れよな」と短いメールが届きます。ナムジュンを乗せて走り出したソンジュ行きの電車を眺め、ホソクは自分が訳もなく涙を流していることに気が付きました。
ソクジン一人では何の手掛かりも得られずにいた”魂の地図”探しに5人が介入したことで、ソクジンの父親であるキム・チャンジュンと、これまで何の関わりもないように思えていた人物たちとの繋がりが少しずつ明らかになりました。
そしてその過程で、7人それぞれの関係や置かれた環境、抱える心境にも様々な変化が起こっていました。
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年表のPDFはこちらからダウンロードできます。
いよいよ続く⑰が、時系列整理記事の最終回となります。
(※)最終回の記事は前半部分(各媒体に点在する出来事)のみを全体公開とし、後半部分(THE NOTES 2のみに記載のある出来事)は個別にURLを発行する限定公開の形を取らせていただきます。限定公開する理由や読み方などについては先日Twitterに投稿しましたが、詳細は該当記事の全体公開部分終了後に改めて記載します。
何卒ご了承ください。
さて、次の投稿では、最終回を目前に再び時系列整理の本筋から離れ、当記事までの内容を含むアルバム封入のmini版 花様年華THE NOTES 和訳まとめの第三弾を公開したいと思います。
〈次回〉
※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。
※時系列まとめの次回記事はこちら※
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