BTS【花様年華】⑩それぞれの出会い-1
互いに助け合うことで全員の不幸な現実が書き換わり、ようやく学生時代に訪れたあの海にまた一緒に行くことが出来た日、それぞれが胸の内に抱える複雑な想いが原因で、7人は再び疎遠になってしまいました。
ソクジンのタイムリープによって初めてyear22.05.22を乗り越えた7人は、一緒に過ごす時間こそないもののこれまでに比べると穏やかな日々を送っていました。
そして、それぞれに新たな出会いが訪れます。
ユンギは友人を通して知り合った音楽の共同制作者の女性と作業室にこもる日々を送っていました。ユンギは彼女とは趣味も嗜好も何もかも合わないと感じていましたが、ただ一つ、彼女の作り出す音楽だけには尊敬を抱いていました。彼女がユンギの作る音楽に対して指摘することは正しく、そのこともユンギの制作意欲を刺激していました。
ジミンはホソクに誘われてダンスチーム(Just Dance)に加入し、練習に励むようになりました。Just Danceにはホソクが養護施設で共に過ごした幼馴染のお姉さんも所属していて、三人はすぐに親しくなります。彼女は、いつも明るく振舞うホソクが塞ぎ込んでいるとき、唯一ホソクを笑顔に戻すことが出来る人でした。
一方、海からの帰り道で事故に遭っていたジョングクは、1週間もの長い間生死を彷徨い続け、ようやく病院で目を覚ましました。
ガソリンスタンドのアルバイトを夜間に変更したナムジュンは、コンテナには戻らずにガソリンスタンドにある小屋に寝泊まりし、昼間は市内の図書館で本を読んで過ごす日々を送っていました。
ある日、歩道橋の上でチラシを配っている女性が髪を輪ゴムでまとめているのを見て、彼女も自分と同じ貧しい境遇にいるのだと気が付きます。ナムジュンはその女性と関りを持つことはありませんでしたが、その後バスや図書館で偶然見かけることが重なり、次第に気になる存在になっていきました。
ホソクは時折疎遠になってしまった6人のことを思い出しながらツースターバーガーでのアルバイトに励み、その勤勉な働きぶりが評価されて正社員へ登用されていました。
ツースターバーガーは、7人の通っていた学校の生徒たちのたまり場でした。ホソクは顔を出さなくなったジョングクを心配して、偶然訪れていたジョングクの同級生に声を掛けます。そして、ジョングクが事故に遭い、もう20日も学校に来ていないことを知り、すぐにあの日からやり取りのないグループチャットを開きました。
ホソクとジミンが病院へ駆けつけると、そこには血の気の引いた顔をしたジョングクがいました。どうしてあの日ジョングクをひとりで帰らせたのか、こんなに大怪我をして20日も誰も知らずにいたなんてと自分を責めたホソクでしたが、一向に返信のこないグループチャットに苛立ちを募らせ、どうしてもっと早く自分から連絡を寄越さなかったのかとジョングクを叱りました。
ジョングクは病院で目を覚ました時、まず最初に6人の兄たちのことを思い出し、すぐにでも連絡をしたいと思いましたが、痛みで動けず、不確かな意識の中で見た夢とも現実ともつかない記憶に混乱していて、その想いを上手く言葉にすることが出来ずにいました。
テヒョンはコンビニでのアルバイトが長引き、夕方になってようやくホソクからの知らせに気が付きました。慌ててホソクに電話をかけ、どうしてこんな時間まで連絡をしなかったのかと叱られたテヒョンは、電話を代わったジョングクに「すぐにお見舞いに行くから待っていて」と約束して病院へと向かいました。
ソクジンは、まるでそう決めたかのように互いに連絡を取り合わなくなった6人のことを考え、街に残されたグラフィティやガソリンスタンドに灯る明かり、古い建物から聞こえるピアノの旋律に彼らの存在を感じる日々を送っていました。
ホソクからのメッセージをみたソクジンはナムジュンと連絡を取り合い、ナムジュンのアルバイトが終わる深夜に二人でジョングクのお見舞いに行きました。
テヒョンが病院に到着すると、ジョングクの病室からソクジンとナムジュンの話し声が聞こえてきました。口論になってモーテルを飛び出した後、二人と顔を合わせることが出来なくなっていたテヒョンは、病室に入ることが出来ず、ジョングクとの約束を守れずに病院を後にします。
その日、ナムジュンはソクジンと別れたあと久しぶりにコンテナへと戻りました。海に行く前、7人で集まって遊んだときの幸せな時間が止まったままのようなコンテナをみて、ぼんやりとその場に立ち尽くすことしか出来ずにいました。
ユンギは作業室に篭る間、携帯の電源を落として誰とも連絡を取っていませんでした。当然ジョングクの事故の知らせにも気が付かず、みんながお見舞いに行った日も、ひとりで酒に酔い床に寝ころんで過ごしていました。
ジョングクはひとり残された病室で事故に遭った日の夢を見ていました。あの夜起きたことが、まるで防犯カメラの揺れる白黒画面のように再現されたような不思議な夢の中で、誰のものともわからない囁き声を聞き、痛みにもがきながら目を覚ましました。
一方、これまでソクジンが書き変えた本当の現実の出来事を夢に見ていたテヒョンは、また別の悪夢を見るようになっていました。その夢の中では、ソクジンが涙を流し、青い花びらがアスファルトに転がって踏みつぶされ、誰かの血がその花びらを汚していました。
ジョングクは医師も驚くような回復を見せ、松葉杖を突いて出歩けるまでになっていました。車いすに乗り、ひとりで当てもなく病院の廊下を走っていた時に声を掛けられて仲良くなった女性と屋上に行き、二人でお気に入りのジュースを飲んで過ごします。彼女はジョングクよりもずっと長く入院していて、この病院のことは何でも知っていました。
病院の中庭で行なわれていたストリートライブを横目に、ジョングクはこの日も彼女と二人で外のベンチに座り、その日見た不思議な夢を絵に描いて過ごしていました。ふと聞き覚えのある曲が聞こえて足を向けると、そこには倉庫のアジトでユンギが弾いて聞かせてくれた曲を演奏する女性の姿がありました。その女性のギターにぶら下がるユンギのライターを見て、ジョングクは連絡も取れずお見舞いにも来てくれなかったユンギの消息を知ったのです。
同じ日、グループチャットの連絡を見ていないユンギに、ジミンが直接ジョングクの事故を知らせます。ユンギは急いで病院へ向かいますが、薄暗い病室で静かに眠っているジョングクをみて、事故に遭い、がらんとした通りにひとりで横たわるジョングクの苦痛や恐怖を想像しました。自分と一緒に過ごしたせいでまたジョングクを不幸な目に合わせてしまった。そう自分を責めて、声を掛けずにその場を立ち去ります。
そのことがきっかけで再び自暴自棄になったユンギは、共同制作者の女性とも口論になり、また音楽を辞めて、ジョングクと再会する以前のような荒んだ生活を送るようになってしまうのです。
ナムジュンのコンテナへ出向いては、扉を開けることなく引き返していたテヒョンは、ある日アルバイト先のコンビニで万引きをしようとしていた女性に気が付き、代わりに代金を支払いました。その日は無言で立ち去った彼女でしたが、その後次第に同じ時間を過ごすようになりました。
二人はお互いの事情を詮索することはありませんでしたが、どことなく自分と同じものを感じ取って居心地の良さを感じていました。テヒョンは彼女にグラフィティを教え、初めて握るスプレー缶に戸惑いながらテヒョンの真似をする姿を見つめました。
ジミンは、ジョングクのお見舞いに行った日からどこか不機嫌な様子のホソクを気にかけていました。ホソクが練習に参加することなく、無言で帰ってしまったその日も、自分を受け入れてくれたホソクやお姉さんに認められたい一心で、ひとり居残りをしてダンスの練習に励んでいました。
ある日の夜、ジミンはお姉さんと二人で踊る曲の練習中に集中が切れ、勢いよくぶつかって転倒しました。ジミンは腕を擦りむいて軽く出血しただけでしたが、プルコッ樹木園でのトラウマを思い出して発作を起こし、洗面台へ駆け込みます。どんなに洗ってもまるで全身が泥だらけになっているように感じて、擦り剥いた腕を必死に洗い流し続けました。
ふと我に返ったジミンが練習室に戻ると、一緒に倒れたはずのお姉さんはいなくなっていて、そこにはホソクの鞄だけが投げ捨てられていました。慌てて窓の外を見ると、お姉さんを背負って雨の中を走るホソクの姿がありました。ジミンは二人を追いかけようと外に出ますが、無力な自分を顧みてその場に立ちすくみます。
ホソクはお姉さんを背負って病院へと走る途中に挫いた足が、ジンジンと痛むのを感じていました。そして、抱えていた彼女の鞄の中に海外行きのチケットが入っているのに気が付きます。それは、彼女がオーデションに合格し留学するということを意味していて、ホソクは複雑な気持ちが沸き起こりました。そして、素直におめでとうと伝えることが出来ない自分にもどかしさを覚えます。
ソクジンがふとテヒョンの働くコンビニの前を通ったとき、客と何かを話しながら、昔みんなで四角い口とからかった表情で笑うテヒョンの姿がありました。テヒョンとはどう打ち解けたらいいのだろうか。仲違いをしたまま連絡を絶っているテヒョンのことを考えて途方に暮れていました。
テヒョンはその晩も、彼女を連れて街にグラフィティを残していました。その日テヒョンが選んだ場所はナムジュンがよく使うバス停で、警察の目にも留まりやすい場所でした。
案の定警察に追われる羽目になったテヒョンは、彼女の手を引いて街中を走り周り、細い路地の行き止まりに身を隠します。警察が近付いてきたのがわかり、テヒョンは彼女をひとりで残し、手を挙げて降伏しました。
7人は、お互いを意識しながらも接点の少ない日々を過ごしていました。
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7人のすれ違いの日々はもう少し続きます。
〈次回〉
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