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【資料④】BTS Universe Story 花様年華〈I’m FINE〉全文書き起こし-3


前回の記事はこちら

BTS【花様年華】参考資料のまとめはこちら



アプリ版のBUストーリーの全文書き起こし記事、第三弾です。

『BTS Universe Story』の詳細は【資料④BTS Universe Story 全文書き起こし-1】の冒頭を参照してください。




花様年華〈I’m FINE〉

◇前提

『BTS Universe Story』はメンバーの行動を選択しながら【花様年華】=BUの公式ストーリーを鑑賞できるゲームアプリです。全ての選択肢は一度枝分かれをしたのち、再び同じストーリーに合流するため、どの選択肢を選んでも最終的な結末が変わることはありません。

当記事では全ての選択肢を書き起こすため、選択⇒合流までの枝分かれしている内容を【パターン①】【パターン②】と表示し、合流後の最初の一文を重複して記載します。

《重要》
関連作品まとめ記事(BTS【花様年華】⑫~⑰関連作品まとめ-MV他)でもお伝えしておりますが、当noteの時系列整理記事には、このゲーム内のみに登場するエピソードは含まれておりません。①単純に数が多く拾い切れないことと、②当noteでの時系列整理に含む/含まないの判断基準を設けることが難しいためです。

このゲーム内のみに登場するエピソードの多くは物語の本筋には大きな影響のない細かな出来事や設定であり、MVやNOTESにおけるどの世界線での出来事かが明確ではないスピンオフ的な内容です。「そんなことが起きてた世界線もあったのね」とシンプルにゲームの展開をお楽しみください。


■止まった時間 - ジミン

【ストーリー案内】
”病院に閉じ込められたジミンの時間は、長い間止まったままだった。”

全く知らなかったジミンの事情を知り、ソクジンは衝撃を受ける。ソクジンはジミンの家族を説得しようとするが、大人の事情はとても複雑なものだった。

(エピソード数:7)

1.大人の世界

”ソクジンはジミンを救うため、ジミンの母の前に現れる。ところが、ジミンの名を出した瞬間、親切だった彼女の態度が急変する。”

22年4月22日

ソンホ財団の後継者たちが一堂に会した。

先日の発足式でソ・ヒョンジョン副市長の提案により
実現した会合だった。

ーーー

ソ・ヒョンジョン
「地域社会の発展のために話し合う場を定期的に
持つのはいかがでしょうか?」

チョ・ジンミョン
「おお、素晴らしいアイデアです。」

ソ・ヒョンジョン
「地域の著名人をお呼びして講演をお願いするのも
いいでしょうし。」

キム・チャンジュン
「話を進めてみます。」

ーーー

地域社会の発展という名目ではあったが、
結局のところ、自身が成功するための
人脈づくりの場に過ぎなかった。

ソクジン
「やっぱりこういう場所は苦手だな。」

にもかかわらず、俺は自分から進んで参加した。

ここで会わなければならない人物がいたからだ。

適当な場所を見つけてチャンスを窺っていると、
向こうから先に声をかけてきた。

シム・ソンミ
「あら、こんにちは。」

その人物は…

シム・ソンミ
「初めまして。シム・ソンミです。」

ジミンの母だった。

ソクジン
「お初にお目にかかります。キム・ソクジンです。

今は初対面同士なんだ。緊張せずに、落ち着いて…」

俺は以前のループで出会った時のことを思い出し、
うかつなことを言ってしまわないように
慎重に言葉を選んだ。

今日はそれとなくジミンの話をして
退院について説得してみるつもりだった。

ソクジン
「まずはジミンの話を切り出す口実を見つけないと…」

どう話そうか考えていたその時、
誰かがこちらに近付いてきた。

???
「おお、もうご挨拶されたんですね。
私が紹介するべきだったのですが…」

ソンジュチェイル高校の校長、チョ・ジンミョンだった。

チョ・ジンミョン
「どのようなお話を?」

ソクジン
「ちょうど挨拶を交わしていたところです。」

チョ・ジンミョン
「なるほど。」

校長と俺が話し始めたため、ジミンの母が一歩下がって
場所を空けた。

俺はジミンの母が他の場所へ行ってしまうのではないかと
不安になった。

ソクジン
「どうする… この状況を何とか利用できないものか…」

学校の話を切り出せば
ジミンの方に話題を持っていけそうな気がした。

ソクジン
「お二人はお知り合いですか?」

チョ・ジンミョン
「何度かお会いしたことがあるんだ。
ご子息が我が校の生徒だったそうだ。」

ソクジン
「へえ、そうなんですか?僕も同じ高校なんです。」

俺の言葉を聞いたジミンの母が
当惑したような表情を浮かべた。

俺はそのチャンスを逃さなかった。

ソクジン
「ご子息のお名前を教えていただけませんか?」

チョ・ジンミョン
「そういえば私も伺っていなかったので気になりますね。」

シム・ソンミ
「…おそらくご存じないと思います。年も離れてますし。」

ソクジン
「もしかしたら知っているかもしれませんよ。」

シム・ソンミ
「…パク・ジミンです。」

ソクジン
「…よし!」

思惑通りにジミンの名が登場したため、
俺は嬉しそうに知っているふりをした。

ソクジン
「もしかしてムニョン中学校から
転校してきたパク・ジミン君ですか?」

ジミンの母は渋々といった様子で頷いた。

ソクジン
「知っています!ジミンとは仲が良かったんですよ。
ジミンは元気ですか?」

ジミンの状況を知っている者には残酷な質問だった。

ソクジン
「嘘でもジミンは元気だって言えるだろうか…」

いずれにせよ、この状況では言えることはなかった。

ジミンの母は顔をこわばらせたまま
しばらく立ち尽くしていたが…

シム・ソンミ
「あちらに挨拶したい方がいらっしゃいますので…
申し訳ありません。またの機会に。」

結局、その場を離れてしまった。

ソクジン
「しまった… まだ話を終わらせるわけにはいかないのに。」

俺はジミンの母と再び話をするために
校長との会話を急いで終わらせた。

謎の女性2
「シム・ソンミさん、ここにも来たんだ。」

できるだけ自然を装ってジミンの母がいる方へ
向かっていると、
どこからか「シム・ソンミ」という名前が聞こえてきた。

謎の女性1
「最近どこにでも顔を出してるみたい。
おかげでシム・ソンミさんの旦那さんも
すぐに出世できるんじゃないかしら。」

ソクジン
「2人の話をもう少し聞きたいな… どうしよう?」

《選択肢》
①息をひそめて聞く。
②話に割り込む。

【パターン①:息をひそめて聞く。】

俺はじっと立って話に耳を傾け始めた。

謎の女性2
「今日は誰に招待されたんだろう?」

謎の女性1
「旦那さんが勤めてる会社がここのスポンサーでしょ。
そのつてを使って来たんじゃない?」

謎の女性2
「ま、あんなにあちこち顔を出してたら顔見知りも
多いでしょうね。」

どうやらジミンの母は評判があまりよくないようだった。

謎の女性1
「私には理解できないわ。
高校生の息子を精神科病棟に閉じ込めるなんてね。

どのつら下げて奨学財団の
集まりに顔を出してんだって感じ。」

ソクジン
「噂になってるみたいだな。」

【パターン②:話に割り込む。】

ソクジン

「こんにちは。」

俺は話に入れそうなタイミングを窺って挨拶した。
2人は大げさなくらい俺を歓迎してくれた。

謎の女性1
「大人ばかりだから若い人が来ても
あまり面白くないでしょう?」

ソクジン
「とんでもありません。いろいろと勉強になります。
皆さんとてもよくしてくださいますので。」

俺はあえて遠くにいるジミンの母を指しながら言った。

ソクジン
「あちらの方もさっき、ご子息のことを思い出すと言って
たくさんお話ししてくださいました。」

謎の女性1
「…シム・ソンミさんですか?」

ソクジン
「はい。」

俺の返答を聞いた2人が妙な表情を浮かべた。

謎の女性1
「ソクジン君。これはあなたのためを思って
言うことなんだけど…」

ソクジン
「何だ…?」

女性が少しためらってから口を開いた。

謎の女性1
「シム・ソンミさんとは… あまり親しくしない方が
いいですよ。」

ソクジン
「え?良い方だと思いますが…」

謎の女性1
「ここにいるのは立派で素晴らしい方ばかりなんですが…
 
ここに…
自分の子供の面倒すらまともに見れない親が
来る資格があると思いますか?」

女性は声を潜めて言葉を続けた。

謎の女性1
「聞くところによると、息子さんを精神科病棟に
閉じ込めてるそうですよ。」

ソクジン
「噂になってるみたいだな。」

ソクジン
「噂になってるみたいだな。」

大人たちはジミンが病院にいることを知っていた。

そして彼らは、ジミンが入院しているのは
母のせいだと決めつけて
陰でこそこそ噂話をしていたのだ。

過去のループで経験した
ジミンの母のヒステリックな反応が少し理解できた。

ソクジン
「ジミンはとても苦しんでるんだ。自分の命を捨てるほど…」

遠くの方で笑っているジミンの母の姿が見えた。

俺がジミンの話題を切り出した時とは
別人のような表情だった。

ジミンの母がジミンに関する話を嫌がったとしても、
ここで諦めるわけにはいかなかった。

ソクジン
「…大事なのはジミンを救うことなんだ。」

俺はジミンの母が1人になるのを待ってから
彼女に近付いた。

ソクジン
「あ、ジミンのお母さん。」

シム・ソンミ
「あら、ソクジン君。」

彼女は周囲を窺いながら冷たい口調で尋ねてきた。

シム・ソンミ
「何かご用でも?」

ソクジン
「ジミンの友達なので敬語は使わないでください。」

シム・ソンミ
「そう?なかなか感じの良い子ね。」

無理して笑おうとするジミンの母が
どこかおかしく見えた。

ソクジン
「話したくないのは俺も同じだけど、今は仕方ない。
うまく話がつけばジミンの問題が簡単に
解決するかもしれないからな。」

会話をしている間、ジミンの母はしきりに
他の場所へ目を向けていた。
早くその場から離れたい様子だった。

シム・ソンミ
「ジミンのお父さんも来ればよかったのに…
今度は一緒に来ると思うからその時に紹介するわね。」

ソクジン
「まだ会話を続けるんだ。ジミンの母は興味を持ちそうな
話題を振らないと…

はい。僕も父と一緒にご挨拶させていただきます。」

シム・ソンミ
「あら、そう?」

父の話題になるや、ジミンの母が目の色を変えた。

シム・ソンミ
「お父様もご一緒ならぜひご挨拶差し上げたいわね。」

ジミンの母の興味を引くことに成功し、
俺はジミンついて尋ねてみることにした。

ソクジン
「あの、ところでジミンは…」

《選択肢》
①今もチェイル高校に通って
②元気ですか?

【パターン①:今もチェイル高校に通って】

シム・ソンミ

「今?…ええ、もちろん。」

ジミンの母の顔には明らかに困惑が広がっていた。

【パターン②:元気ですか?】

シム・ソンミ

「…元気よ。」

ジミンの母の顔には明らかに困惑が広がっていた。

ジミンの母の顔には明らかに困惑が広がっていた。

嘘をつくなという言葉が喉の奥まで込み上げてきたが、
今はまだ本当のことを言うわけにはいかなかった。

ソクジン
「また会いたいので、よれれば連絡先を
教えていただけませんか?」

連絡先を教えて欲しいという俺の言葉に、ジミンの母は
しばらく口を閉ざしていた。

俺は望んでいる答えが帰ってくることを願いながら
じっと立っていた。

ところが…

シム・ソンミ
「それは難しいわね。」

ソクジン
「え…?」

シム・ソンミ
「ジミンに黙って勝手に連絡先を教えてもいいのかしら…」

ソクジン
「僕が留学に行っている間は
しばらく連絡が途絶えていましたが、
高校時代はすごく仲が良かったんです。」

シム・ソンミ
「それじゃあジミンに聞いてみるわね。
教えてもいいって言われたらおばさんから連絡するわ。」

ジミンの母は俺の肩を軽く叩き、
そそくさとその場を後にした。

〈Episode 1. End〉


2.諦め

”何とかしてジミンの母を説得しようとするソクジン。しかし、そんなソクジンの行動のせいでジミンは予想だにしなかった状況に陥る。”

22年4月25日

あれから3日が経過したが、ジミンの母からは何の
連絡もなかった。

残念だが、予想していた結果だった。

ソクジン
「次の段階に進もう。
3日も時間を置いたんだから、
俺がジミンについて調べてもおかしくはないだろう。

俺は今から、ジミンの行方を追う過程で
精神科病棟に入院したことを知って
尋ねてきた友達になるんだ。」

ジミンの家に向かおうとしたその時…

父の秘書であるジュノおじさんが入ってきた。

ソン・ジュノ
「ソクジン、どこに行くんだ?」

《選択肢》
①ちょっと用事があって…
②ちょっと学校に…

【パターン①:ちょっと用事があって…】

ソクジン

「ちょっと用事があって…」

ソン・ジュノ
「どんな用事かな?」

ソクジン
「友達に会いに行くんです。学校の課題があるので。」

ソン・ジュノ
「そうか。それじゃあ送っていこう。」

ジュノおじさんの申し出を断る理由は思い付かなかった。

ソクジン
「しょうがない。」

ソン・ジュノ
「どこで降ろせばいい?」

ソクジン
「あ、ムニョン市の方なんですけど…」

俺はジミンの家の近くにある無難そうな場所を伝えた。

家の前の中央公園を通った時、おじさんが慎重な様子で
口を開いた。

ソン・ジュノ
「最近、お父さんの付き添いで忙しいだろ?
気を使うことも多いし。」

ソクジン
「とんでもありません。」

ソン・ジュノ
「公職者の家族はつらいことも多い。
それでもお父さんのために頑張りなさい。」

ソクジン
「はい。」

ソン・ジュノ
「そうだ。この前シム・ソンミさんと話していたようだが…」

ソクジン
「はい。友達のお母さんなので少しご挨拶しただけです。」

ソン・ジュノ
「ふむ… 旦那さんはパク・ジヌクさんだったかな。
財団のスポンサーの役員だったはずだ。」

ジミンの父の話は初めて聞いたので、
俺はじっと耳を傾けた。

ソン・ジュノ
「大した人だよ。研究員として入って
役員まで上り詰めたんだから。
そういう人たちが最も欲しがるのが人脈だ。」

ソクジン
「……」

ソン・ジュノ
「あからさまな意図をもって近付いてくる人たちは
警戒した方がいい。

どういう意味か分かるな?」

ソクジン
「意図をもって近付いたのはむしろ俺の方だったが…」

俺は黙ってうなずいた。
窓の外を見ると、いつの間にか目的地に近付いていた。

俺はジミンの母を説得するためにジミンの家に向かった。

【パターン②:ちょっと学校に…】

ソクジン

「学校に用があって今から行くところなんです。」

ソン・ジュノ
「学校?」

ソクジン
「はい、課題もありますし。」

ソン・ジュノ
「そうか。送っていこうか?」

ソクジン
「いえ、あまり目立ちたくないので1人で行ってきます。」

ソン・ジュノ
「最近、お父さんの付き添いで忙しいだろ?
気を使うことも多いし。」

ソクジン
「とんでもありません。」

ソン・ジュノ
「公職者の家族はつらいことも多い。
それでもお父さんのために頑張りなさい。」

ソクジン
「はい。」

俺はそのまま家を出ようとしたが…

ソン・ジュノ
「そうだ。この前シム・ソンミさんと話していたようだが…」

おじさんの言葉を聞いて、会合に参加した時のことを
思い出した。

ーーー

シム・ソンミ
「ジミンのお父さんも来ればよかったのに…
今度は一緒に来ると思うからその時に紹介するわね。」

ソクジン
「まだ会話を続けるんだ。ジミンの母は興味を持ちそうな
話題を振らないと…

はい。僕も父と一緒にご挨拶させていただきます。」

シム・ソンミ
「あら、そう?」

ーーー

ソクジン
「あの時おじさんに見られていたのか?」

ソン・ジュノ
「できるだけ近付くのはよしなさい。
あの人はあまり評判がよくないからな。」

ソクジン
「はい。友達のお母さんなので少しご挨拶しただけです。
心配しないでください。」

嘘をついたことが後ろめたくなり、
俺は急いでジュノおじさんに挨拶して家を出た。

俺はジミンの母を説得するためにジミンの家に向かった。

俺はジミンの母を説得するためにジミンの家に向かった。

ジミンの母は野心家だった。

人脈作りのために会合や教会に出入りし、
役員になった夫の地位をさらに高めようと必死に
なっている人物。

そのためには息子さえもぞんざいに扱う人物。

それがジミンの母に対する世間の評価だった。

ソクジン
「俺に声をかけてきたのも、結局は父さんとのコネを
作りたかったからだろう。

むしろよかった。そのために近付いてきたのなら
俺を邪険に扱うことはできないはずだ。」

そんなことを考えながら
俺がマンションに入ろうとしたその時、
ちょうどジミンの母が出てきた。

ソクジン
「こんにちは。
またお会いしましたね。」

シム・ソンミ
「ソクジン君?どうしてここに…」

ソクジン
「ご連絡がなかったので直接伺おうと思ったんです。」

シム・ソンミ
「連絡…?」

彼女はいきなりやって来た俺を
かなり警戒しているようだった。

ソクジン
「何て言えばジミンの母を説得できるんだろう?」

《選択肢》
①ジミンに会いたくて。
②全部知ってるんです。

【パターン①:ジミンに会いたくて。】

ソクジン

「ジミンに会いたくて来ました。
この前、ジミンに確認して
連絡するっておっしゃってましたよね。

他の友達もみんなジミンに会いたがってます。」

シム・ソンミ
「あ…」

ジミンの母の目を見ると、明らかに動揺していた。

俺は内心期待していた。

息子に会いたがっている友達がいると知ったら気が
変わるのではないか。

息子のために意地を張るのを
やめてくれるのではないかと。…ところが。

シム・ソンミ
「うっかりしてたわ。時差があるからおばさんも
ジミンと全然連絡が付かないの。」

そんな奇跡のようなことは起こらなかった。

ソクジン
「時差?」

シム・ソンミ
「ジミンは今アメリカにいるの。」

ソクジン
「アメリカですか…?」

よどみなく口を突いて出る嘘に俺は動揺してしまった。

ソクジン
「この前お話しした時はそんなことおっしゃって
いませんでしたよね?」

シム・ソンミ
「どうだったかしら?なにせ慌ただしかったからね…」

これ以上は我慢できなかったため、
俺は自分が知っている事実を明かすことにした。

ソクジン
「聞くところによると…
ジミンは病院に閉じ込められているそうですね。」

俺の言葉を聞いたジミンの母の表情がこわばった。

シム・ソンミ
「…誰がそんなことを?」

ソクジン
「そういう噂があるんですよ。キョンイル病院ですか?」

彼女はじっと俺を見つめていたが、
ふと笑みを浮かべて答えた。

シム・ソンミ
「実はそうなの。ジミンの立場もあるし、
ソクジン君がびっくりしちゃうんじゃないかと
思って言えなかったのよ。

嘘をついてしまってごめんなさいね。
ジミンが入院しているのは本当よ。

でも閉じ込めてるなんて、そんなはずないでしょう?
ジミンは以前から具合が悪くてね。
だから治療を受けているだけよ。」

ジミンの母はジミンが入院していることを認めた。

ソクジン
「もしかしたら… 説得できるかもしれない。

ジミンを病院から出してください。
ジミンが望んで入院しているわけではありませんよね。」

シム・ソンミ
「ソクジン君、ジミンのことを心配してくれるのは
ありがたいんだけど、

ジミンの保護者は私で、ジミンにとって何が一番良いか
分かってるのも私なの。」

説得を試みたものの、ジミンの母は態度を変えなかった。

ソクジン
「…このまま諦めるわけにはいかない。

それじゃあせめて会わせてください。
面会はできるんじゃないですか?」

シム・ソンミ
「…どうかしら。ジミンが治療に専念できるように
してもらえるとありがたいんだけど。

もう帰ってくれないかしら。」

これ以上話すことはないとでも言うかのように、
ジミンの母がその場を離れようとした。

【パターン②:全部知ってるんです。】

ソクジン

「実は… 全部知ってるんです。」

俺の言葉を聞いたジミンの母の目が泳いだ。

ソクジン
「どの病院にいるのかも知ってます。」

シム・ソンミ
「一体何を言ってるのかしら…」

ソクジン
「ジミンはどうして入院しているんですか?」

俺は最も気になっていたことを聞いてみた。

ソクジン
「どうしても入院が必要なんですか?」

シム・ソンミ
「ソクジン君、ジミンのことを心配してくれるのは
ありがたいんだけど、

ジミンの保護者は私で、ジミンにとって何が一番良いか
分かってるのも私なの。」

ジミンの母が不快そうな表情で言い切ったが、
このまま諦めるわけにはいかなかった。

ソクジン
「病院に閉じ込めることがジミンにとって一番良い
方法なんですか?」

シム・ソンミ
「閉じ込める?馬鹿なこと言わないでちょうだい。
具合が悪いから入院しているだけよ。」

俺は何度も説得を試みたが、ジミンの母の答えは
変わらなかった。

シム・ソンミ
「ジミンには治療が必要なの。
もう帰ってくれないかしら。」

これ以上話すことはないとでも言うかのように、
ジミンの母がその場を離れようとした。

これ以上話すことはないとでも言うかのように、
ジミンの母がその場を離れようとした。

説得のできる余地は到底なかった。

ソクジン
「それじゃあ僕も勝手にさせてもらいます。
いくら邪魔されても、僕はジミンに会いに行きます。」

これは俺からの宣戦布告だった。

すると、ジミンの母が鋭い視線で俺を睨みつけた。

シム・ソンミ
「ソクジン君。
1つ教えてあげる。

大人がすることには全て理由があるものなの。
知らんぷりするのも1つの方法なのよ。」

ジミンの母が静かな声で冷たく言い放った。

〈Episode 2. End〉


3.窓の外の世界

”自分の行動は無意味ではないのか… 苦悩に陥ったソクジンは、ジミンの本心を知ろうとする。”

22年4月27日

左手首を怪我したため、しばらく外科病棟に
移されることになった。

治療を終えて病室に入ると、お母さんが上から持ってきた
荷物を整理していた。

ジミン
「また僕が迷惑をかけたって思ってるかな?」

僕が緊張した面持ちで近付くと、
お母さんは治療を受けた僕の手首を見て口を開いた。

シム・ソンミ
「傷が深くなくてよかったわ。」

久しぶりにお母さんが僕のことを心配してくれたので、
気まずさと嬉しさが同時にこみ上げてきた。

しばらく無言で荷物を整理してた
お母さんが口を開いた。

シム・ソンミ
「キム・ソクジン君って知ってる?
チェイル高校に通っていたそうなんだけど。」

お母さんの口から兄さんの名前が
飛び出したため驚いたが、
どういうわけか怒っているような口調
だったので僕は素直に答えた。

ジミン
「知ってるけど、どうして突然…」

シム・ソンミ
「あなた、あの子に連絡したの?」

ジミン
「え?どういう…」

お母さんは荷物を片付ける手を止めて、
とても深刻な話でもするかのように僕を強く睨みつけた。

シム・ソンミ
「どうしてあなたはいつも勝手なの。
お母さんのことも少しは考えてちょうだい。」

突然わけのわからないことを言われ、
僕はどう反応すればいいか見当が付かなかった。

怪我をしたところがなぜか痛むような気がした。

シム・ソンミ
「ジミン、そんなにここを出たいのならそう言いなさい。

どこの誰かも分からないような人に
連絡してお母さんを困らせないで!

その手首も、お母さんへの反抗のつもりなのかしら?」

ジミン
「…お母さん、誤解だよ。」

何とかして誤解を解こうとしたが、お母さんは僕の言葉に
全く耳を傾けようとしなかった。

シム・ソンミ
「お母さんもへとへとなの。一体何年こうしてると
思ってるのよ。

いつまであなたのせいで苦労しないといけないの!?」

ジミン
「……」

ひとしきり暴言を口にしても気が済まなかったのか、
お母さんはそのまま病室を出て行ってしまった。

お母さんの心配は、僕ではなくお母さん自身に
対するものだった。

僕はいまだにお母さんを苦しませる存在だった。

だからもう何も言わないことにした。これ以上お母さんを
困らせたくなかったから。

ソクジン
「どうしよう…」

ジミンが外科病棟に移された日。
俺は陽が沈むまでキョンイル病院の前をうろついていた。

ソクジン
「ジミンが姿を消したら真っ先に疑われるのは俺だ。

そうなればまた病院に連れ戻されるのは
時間の問題だろう。」

ジミンの母の説得に失敗したため、
俺は慎重に行動せざるを得なくなっていた。

ソクジン
「とりあえずジミンに会ってみるか、
ジミンのお母さんが昼に来たことはもう分かってるし…」

確実な方法が思い付かずに時間を無駄にしていたその時、

ソクジン
「あれ、ジミンのお母さん?」

俺はキョンイル病院に向かうジミンの母を目撃した。

ソクジン
「どうして戻ってきたんだ?」

彼女は真っ青な顔で病院に駆け込んだ。

ソクジン
「もしかしてジミンに何かあったのか?」

不吉な予感を覚え、俺は急いでジミンの母の後を
追いかけた。

彼女はまっすぐジミンがいる病室に向かった。

病室から医療従事者たちの慌てる声が聞こえ、
何が起こったのか予想ができた。

ソクジン
「ジミン…」

そして、

「ジミン!ジミン!!」

絶叫に続き、
どこからかガラスの割れる音が聞こえてきた。

22年5月10日

そうしてまたループが始まった。

外科病棟にいる間に救えなければ、
ジミンは閉鎖病棟に入った後、数日で自ら命を絶つ。

しかし、今回はあまりにも早かった。
何が影響を及ぼしたのだろうか。

ーーー

シム・ソンミ
「ジミン!ジミン!!お母さんが悪かったわ!

友達に会ってもいいし、何をしてもいいから…
どうか目を開けてちょうだい!」

ーーー

ジミンの母の絶叫が引っかかった。

ソクジン
「確かに友達って言ってたな…
まさか… 俺のせいか?

ジミンの母か俺の言葉に刺激されて
いつもと違う行動を起こしていたのだとすれば…

そしてジミンがあんな選択を下したのだとすれば…

俺のせいだ。俺がジミンを苦しませてしまった。」

これまで数えきれないほど友人を亡くしてきたが、
何度繰り返しても全く慣れなかった。

ソクジン
「ジミンのお母さんを説得するのは… 諦めよう。
むやみに刺激しない方がいい。」

俺は以前のように隠れていたジミンを外に連れ出すという
計画に変更した。

とりあえず今はより急を要することに専念すると決めた。

ソクジン
「しっかりするんだ。」

今日はホソクが橋で倒れる日だった。

ホソク
「ソクジン兄さん!?」

ソクジン
「大丈夫か?」

ホソク
「本当に兄さんですか?いつぶりだろう?」

ソクジン
「もう少しもたれかかっていいぞ。どこか怪我してないか?」

ホソク
「大丈夫です。意識もはっきりしてるし。」

倒れたホソクを車に乗せた俺はジミンを説得する方法を
考えていた。

これまで何度もジミンを外に連れ出そうとしたが、
成功したことは一度もなかったからだ。

ホソク
「不思議ですね。どうやって僕を見つけたんですか?」

ソクジン
「たまたま通りかかったんだ… びっくりしたよ。」

ホソク
「わあ、すっごい偶然ですね!
助けてくれてありがとうございます。」

こんなことを言われたのは初めてだった。

笑顔で感謝の気持ちを伝えてくるホソクを見て、
いつかのループでジミンが言っていたことを思い出した。


ーーー

ジミン
「僕の居場所はここなんです。」

ーーー

ソクジン
「そういえば…
ジミンは本当に病院から出たいって思ってるのか?」

今まで当然そうだと思い込んでいたが、
改めて考えてみると自信がなくなった。

ソクジン
「……」

信号の前で止まった後、俺はホソクに尋ねた。

ソクジン
「ホソク、もしも目の前に苦しくて死にたいと思ってる
人がいたら、お前はどうする?」

ホソク
「いきなりどうしたんですか?」

ソクジン
「何となくお前だったらどうするか気になったんだ。」

ホソク
「そりゃあ助けますよ。」

ホソクはためらうことなく答えた。

ソクジン
「その人が助けを求めていなくても?」

ホソク
「うーん… それでも助けてあげた方がいいんじゃないかな。
どうして死のうとしてるのか理由は分からなくても…

生きてさえいれば何とかなりますよ!」

俺はホソクをツースターバーガーで降ろした後、
1人で病院を訪れた。

ソクジン
「ホソクの言う通りだ。

病院から脱出したところで
必ずしもジミンが幸せになるっていう保証はないけど、
生きてさえいれば幸せになれるチャンスが
訪れるだろうから。

でも… どうやって?」

俺はジミンに会う前に考えを整理しようと思い、
休憩室を訪れた。

ソクジン
「お、ジミン?」

すると、扉の隙間から廊下をゆっくり歩くジミンの
姿が見えた。

《選択肢》
①ジミンに声をかける。
②黙って見守る。

【パターン①:ジミンに声をかける。】

ソクジン

「ジミン!」

反応はなかった。どうやら俺の声が
聞こえなかったようだ。

俺はもう一度呼びかけようとしたが、
すぐに思いとどまった。

今ジミンと顔を合わせたところで
俺にできることは何もなかった。

俺は廊下に隠れてジミンの行動を見守ることにした。

ソクジン
「何を見てるんだろう?」

【パターン②:黙って見守る。】

ソクジン

「いや、いま顔を合わせたところで何もできないよな。
うかつに行動するのはよそう。」

ジミンに聞きたいことは山ほどあったが、
俺は廊下に隠れてジミンの行動を見守ることにした。

ソクジン
「何を見てるんだろう?」

ソクジン
「何を見てるんだろう?」

ジミンはじっと扉を見つめたり、
通り過ぎる人たちに視線を向けたりしていた。

そうしてしばらく廊下をうろうろしてから、
ジミンは病室に戻っていった。

〈Episode 3. End〉


4.宝探し

”ソクジンは休憩室でジミンが読んでいた本を見つけ出す。彼は本に書かれていた落書きから、ジミンの気持ちを知ることになる。”

22年5月7日

僕が5階の外科病棟に移されたのは10日前のことだった。

少しよそ見をして角を曲がった瞬間、
誰かにぶつかって転んでしまったためだった。

外科病棟は、精神科病棟と大きな違いはなかった。

違いといえば、廊下が少し長いということと
その廊下の真ん中にある休憩室の風景が
少し違うということくらいだった。

でも、その空間を自由に行き来できるのは
精神科病棟では味わえない楽しみだった。

夜になると人がいなくなるので、
より自由な気分になれた。

僕は1人で夜の廊下を歩き回ったり、
休憩室に誰もいないのを見計らってこっそり
ダンスを踊ったりした。

だけど、ひとしきり自由を
楽しんだ後はいつも同じところで足が止まった。

9階の精神科病棟であれば廊下が終わっている場所。

何も考えずに外科病棟の廊下を歩いていると、
必ずその前で足が止まってしまうのだ。

僕の行く手を阻むものは何もないのに
目に見えない境界線が僕の前に立ちふさがっていた。

ジミン
「……
そろそろ戻ろう。」

外科病棟のベッドで眠る患者は入れ替わりが激しかった。

どうやら僕のベッドで寝ていた
前の患者は学生のようだった。

なぜなら

ベッドのそばに置かれていた引き出しに、1冊の問題集が
入っていたからだ。

ジミン
「前の患者さんが退院する時に忘れていったんだろうな。
僕も学校でこういう問題やったなあ…」

氏名が記入されていない問題集の至る所に
落書きがあった。

ーーー

〈めっちゃ退屈。〉
〈後でネカフェに行かない?〉
〈オッケー!〉

ーーー

ジミン
「僕もネットカフェ行きたいな…」

僕が1ページずつ落書きを見ていると、
折りたたまれた1枚の紙が挟まっていることに気付いた。

ジミン
「何だろう?」

気になって紙を広げると、

ジミン
「〈進路計画書〉?」

本に書かれた落書きと筆跡が同じだった。

22年5月10日

病室に戻ったジミンが1冊の本を持って出てきた。

そして休憩室に持っていき、
中に座ってその本を読み始めた。

俺は廊下の片隅に立ってジミンを見守っていた。

その様子を見ていると、一瞬だけ時間が巻き戻り、
プレハブ教室のドアの前に
立っているような気持になった。

少し瘦せたが、その時とほとんど同じ姿だった。

ソクジン
「今は大丈夫そうだな。」

その時、携帯電話が振動した。

ソクジン
「誰だ?」

見ると、ジュノおじさんからの電話だった。

こんな時間にジュノおじさんが俺に
電話をかけてくる理由は1つしかなかった。

ソクジン
「どうせソンホ財団のセミナーの話に決まってる。
でも電話に出なかったら変に疑われるかもしれない。」

俺は恐る恐る電話に出た。

ソクジン
「もしもし。」

「ソクジン、いま大丈夫か?」

ソクジン
「はい、大丈夫です。」

「ソンホ財団のセミナーが決まったんだが…」

電話の声が漏れないように俺が休憩室の扉から離れて
通話していると、

「パク・ジミンさん、2階の理学療法室まで
お越しください。」

スピーカーからジミンを呼び出す案内放送が流れた。

放送を聞いて立ち上がったジミンが本を床に落とした。
俺はその隙を突いて場所を移動し、通話を終えた。

俺はジミンは座っていた場所に近付いた。

休憩室には数冊の本が置かれていたが、
ジミンが持っていた本は見当たらなかった。

ソクジン
「ここにはないな。

ここを出る時に本は持ってなかったみたいだけど…
どこかに隠してるのか?」

ジミンが本を隠したのだとすれば、
何か理由があるはずだ。

些細なことでもジミンに関する手がかりになるのなら…

ソクジン
「何としてでも見つけないと。」

《選択肢》
①窓の方を調べてみよう。
②ゴミ箱の近くを調べてみよう。

【パターン①:窓の方を調べてみよう。】

まず初めに窓が目に留まった。
本を隠せそうな場所はないようだが…

ソクジン
「とりあえず確かめてみよう。」

俺は休憩室の巨大な窓を全て確認した。
だが、本は見つからなかった。

ソクジン
「無駄だったか…」

他の場所を探そうと思って周囲を見渡していると、
自販機が視界に入った。

【パターン②:ゴミ箱の近くを調べてみよう。】

まず初めにゴミ箱が目に留まった。

ゴミ箱の周辺を調べたり持ち上げて底を確認
してみたりしたが、
何も見つからなかった。

ソクジン
「まさかゴミ箱にはないよな。
無駄だったか…」

他の場所を探そうと思って周囲を見渡していると、
自販機が視界に入った。

他の場所を探そうと思って周囲を見渡していると、
自販機が視界に入った。

自販機の周辺には本を隠せる所が
たくさんありそうだった。

調べてみようか。

《選択肢》
①自販機の上を調べる。
②自販機の後ろを調べる。

【パターン①:自販機の上を調べる。】

俺は手を伸ばして自販機の上を調べた。

ソクジン
「ん?これか?」

手の先に小さな冊子のようなものが当たった。

俺は思い切り腕を伸ばしてみたが、
冊子はそのまま自販機の後ろに落ちてしまった。

俺は自販機の後ろを調べた。

すると、目の前に1冊の薄い冊子があった。
さらにその下にも何かあるようだった。

俺はまず上にある冊子を取り出してみた。

ソクジン
「〈第12回キョンイル病院慈善コンサート〉?」

病院でのイベントを紹介するパンフレットだった。

ソクジン
「この下にあったのは何だろう?」

もう一度自販機の後ろを見ると、
厚みのある冊子が見えた。

本棚をどかさないと取り出せそうにない。

俺は自販機の隣にあった本棚を移動させて
本を取り出した。

【パターン②:自販機の後ろを調べる。】

俺は自販機の後ろを調べることにした。

壁に張り付いて確認すると、狭い隙間に落ちている
本が見えた。

ソクジン
「見つけた。」

俺は自販機の隣にあった本棚を移動させて
本を取り出した。

俺は自販機の隣にあった本棚を移動させて
本を取り出した。

ソクジン
「〈2年生〉…?
ジミンは1年の時に入院したはずだけど…」

その本は問題集だった。

中を見ると至る所に落書きがあり、
俺はその中の1つに目を留めた。

そこには、今年の公開映画が記されていた。

ソクジン
「ここに閉じ込められているジミンがどうやって見るんだよ。」

どうやらこの問題集はジミンのものではないようだった。

本を流し読みしていると、1枚の紙が挟まっていることに
気付いた。

進路計画書だった。そこには2種類の筆跡が
残されていた。
1つは問題集の持ち主だろう。そしてもう1つは…

ーーー

〈希望進路:僕も大学に行けるかな?〉
〈学習活動:2年生になったらどんなことを習うんだろう…〉
〈課外活動:ホソク兄さんの作ったダンス部に入る。〉

ーーー

ジミンの筆跡だった。

ソクジン
「これを…
ジミンはどんな気持ちで書いたんだろう。」

廊下で他の人々をじっと見つめていた姿と、
この問題集を幸せそうな表情で眺めている姿を想像した。

ソクジン
「ジミン、こんな場所早く出たいよな?」

ジミンは病院を出て周囲と同じように自分の
人生を歩んでいきたいと思っているに違いない。

ソクジン
「そうじゃなかったら、こんなこと書くはずがないから。

ジミン… 出よう。
お前が歩みたいと思っている人生を自分自身で
決められるように。」

俺はジミンを必ずここから連れ出すと決意した。

22年5月11日

僕は足元を見下ろした。

ジミン
「またここで止まっちゃう…」

しばらく扉を見つめて振り返ったその時、
誰かとぶつかってしまった。

ジミン
「あっ!ごめんなさい!」

ソクジン
「大丈夫か?」

ジミン
「…ソクジン兄さん?
どうして兄さんがここに?」

驚きのあまり言葉が出てこなかった。

〈Episode 4. End〉


5.説得

”なかなか心を開こうとしないジミン。ソクジンはジミンが出て行きたがっていると確信するが…”

22年5月11日

突然の再会にジミンはかなり驚いているようだった。

俺はジミンを落ち着かせてから休憩室に連れて行った。

ジミン
「びっくりしましたよ。
どうしてここにいるんですか?」

ソクジン
「知り合いの見舞いに来て帰るところだったんだ。」

俺が言い繕うと、ジミンは頷いた。
ふっくらとした頬とは対照的に、ジミンの腕は細かった。

ジミンと顔を合わせたものの、
なかなか言葉が見つからなかった。

ジミン
「こんな所で兄さんに会えるとは思いませんでした。」

目をそらしながらぎこちない笑みを浮かべる
ジミンを見て、
俺は進路計画書の落書きを思い出した。

ホソクと同じ部活でダンスを踊る高校2年生の
パク・ジミン。

進学して授業を受ける大学生のパク・ジミン。

ソクジン
「やりたいことは何だってできるから
ここを出ようって言ったら、
ジミンの気持ちを変えられるだろうか。」

何とかしてジミンを説得する必要があった。

ソクジン
「とりあえず無難な質問から始めてみよう。」

《選択肢》
①いつから入院してたんだ?
②具合が悪いのか?

【パターン①:いつから入院してたんだ?】

ソクジン

「いつから入院してたんだ?」

ジミン
「ここですか?…2週間くらい前かな。」

ジミンは精神科ではなく外科病棟に入院している
期間を答えた。

ソクジン
「どこか具合でも悪いのか?」

ジミン
「まあ…」

はっきりと答えられず、ジミンの顔が暗くなった。

【パターン②:具合が悪いのか?】

ソクジン

「ジミン、どこか具合でも悪いのか?」

ジミンはためらいながら口を開いた。

ジミン
「手首をちょっと怪我しちゃって…」

ジミンは精神科ではなく外科病棟に入院している
理由を答えた。

ソクジン
「怪我?どうした?」

ジミン
「まあ… いろいろあって…」

ソクジン
「退院はいつだ?」

ジミン
「えっと… 僕もよく分かりません。」

はっきりと答えられず、ジミンの顔が暗くなった。

はっきりと答えられず、ジミンの顔が暗くなった。

ジミン
「兄さん、僕そろそろ戻らないと。
治療を受けないといけなくて…」

ジミンは俺から目をそらして立ち上がった。

ソクジン
「ジミン。
このまま別れたら次はいつ会えるか分からない。

他に手はない… 俺がここに来た理由を話そう。」

俺はすぐにジミンの後を追って行く手を阻んだ。

ソクジン
「ジミン、実は全部知った上でここに来たんだ。
ここから出たくないか?」

ジミン
「兄さん、何を言い出すんですか。」

ソクジン
「2年もこんな所にいるんだろ?」

ジミンは数歩後ずさりしたが、
幸いにも逃げようとはしなかった。

ソクジン
「偶然聞いたんだ。
お前のお母さんがお前を精神科に閉じ込めてるって。」

ジミンが怯えた顔で首を横に振った。

ジミン
「違います。
怪我をしたから… だから入院してるんです。」

ソクジン
「ジミン、俺ならお前を助けてやれる。」

俺の言葉を聞いて、ジミンの瞳が大きく揺らいだ。

ソクジン
「何て言うべきだろうか。

俺と一緒に行こう。」

俺の提案を聞いても、ジミンはしばらく
口を閉ざしていた。

ジミン
「僕だって初めは外に出たいと思ってた。
家に帰りたい。ここから出してほしい。

お母さんに電話して声が枯れるまで
泣きじゃくったこともあった。

でも、お母さんは僕のお願いを聞いてくれなかった。
僕の居場所はここだから…

兄さん…
出たところで… どうせまた戻ることになりますよ。」

ソクジン
「大事なのはお前の気持ちだ。」

全てを諦めているかのようなジミンの声を聞いて
俺は切なくなった。

ソクジン
「ジミン、これからもずっとここにいたいのか?
本当にそれでいいのか?

お前は本当に…」

《選択肢》
①やりたいことはないのか?
②入院し続けるつもりか?

【パターン①:やりたいことはないのか?】

ソクジン

「やりたいことはないのか?

やりたいこととか、将来の夢とかあるはずだろ。
勉強を頑張るとか、ダンスを踊るとか。」

ジミン
「そんなもの… ありません。」

嘘をつくなと言いたかったが、
真っ青な顔で震えているジミンの顔を見ると、
そんな言葉は口にできなかった。

俺は最後に1つだけ聞いてみることにした。

【パターン②:入院し続けるつもりか?】

ソクジン

「このまま入院し続けるつもりか?」

ジミン
「僕はここにいた方がいいんです。

外ではおかしな人間扱いされるけど、
ここだと治療を受けるただの患者だから。」

ジミンは真っ青な顔で震えていたが、
声だけはしっかりしていた。

ジミンの言うことも理解できないわけではなかった。

ーーー

謎の女性1
「高校生の息子を精神科病棟に閉じ込めるなんてね。

どのつら下げて奨学財団の
集まりに顔出してんだって感じ。
ここにいるのは立派で素晴らしい方ばかりなんですが…

聞くところによると、息子さんを精神科病棟に
閉じ込めてるそうですよ。」

ーーー

周囲から後ろ指をさされ、噂の種になる人生…
だが、それが自分自身を縛り付けていい理由には
ならない。

俺は最後に1つだけ聞いてみることにした。

俺は最後に1つだけ聞いてみることにした。

ソクジン
「ここを出て友達に会いたくないか?」

友達という言葉を聞いて
ジミンが反応を示したようだった。

何とか勇気を出してほしかったが、
答えは返ってこなかった。

ソクジン
「ジミン、考えておいてくれ。また来るよ。」

俺が帰るまで、ジミンが顔を上げることはなかった。

22年5月12日

結局、俺はジミンを説得できなかった。

母親を説得するという計画も、
本人を直接説得するという計画も失敗に終わった。

ソクジン
「……」

だが、このまま諦めるわけにはいかない。

俺は昨日の会話を思い出した。

ジミンは明らかに外に出たいと思っていた。
ただ怖がっているだけだ。

ソクジン
「大学… 勉強… ダンス…
病院以外の場所でジミンがやりたいと思ってること。」

ーーー

テヒョン
「兄さんの動きって不思議だなあ。
どうすればあんな風に踊れるんだろう?

お前もあんな感じに踊れるか?」

ジミン
「僕にできるわけないじゃん。」

教室の中央でホソクがダンスを踊っていた。

テヒョンは感嘆を繰り返し、
ジミンは羨望と憧れの眼差しを向けていた。

テヒョン
「兄さん!ジミンも踊ってみたいそうですよ!」

ジミン
「え!?そんなこと言ってないよ!」

テヒョンが突然手を上げて声を発したため、
ホソクが動きを止めた。

ジミンが慌てながらテヒョンを制止したが、
ホソクの目はすでにジミンに向けられていた。

ホソク
「踊ってみる?」

ジミン
「できません!」

テヒョンがかぶりを振るジミンの背中を押した。

テヒョン
「やってみなきゃ分からないだろ!踊ってみろって!」

ジミン
「ちょっとテヒョン!」

ホソク
「そんなに難しくないよ。とりあえずやってみよう。

お手本を見せようか?
いち、に、さん、し…」

ジミンに動きを見せた後、ホソクがその場を譲り…
ジミンは教室の中央に立たされた。

テヒョン
「ジミン、早く!」

ジミン
「えっと、僕…」

ためらっているジミンの肩をホソクが軽く叩いた。

テヒョン
「ジミン、頑張れ!」

ホソク
「大丈夫、できるよ。」

2人の応援を受けてジミンが体を動かし始めた。

ーーー

思い出の中に答えがあるような気がした。

ソクジン
「背中を押したテヒョン。できると信じたホソク。
この2人ならジミンに勇気を与えられるかもしれない。

となれば、ジミンを病院から連れ出せるのは
もしかしたら…」

〈Episode 5. End〉


6.背中を押すこと

”ついにジミンを行動に移させることに成功したソクジン。しかしその直後、最も避けたかったことが起こってしまう。”

22年5月13日

ソクジン
「やっぱりちゃんと計画を立ててから来た方が
よかったんじゃないか?」

テヒョン
「何言ってるんですか。2年も閉じ込められてるんでしょ!
1日でも早く出してあげないと!」

ソクジン
「…今日は無理しないでとりあえず話すだけ話してみよう。」

テヒョン
「とりあえずレッツゴー!」

今日の昼、俺はテヒョンが勤めているコンビニを訪れた。

ジミンを連れ出す方法について
考えていた時、偶然思い出したことがあったからだ。

ーーー

テヒョン
「兄さん!ジミンも踊ってみたいそうですよ!」

ーーー

踊っているホソクを見つめていただけなのに、
ジミンの気持ちにいち早く気付いた人物。

ーーー

テヒョン
「やってみなきゃ分からないだろ!踊ってみろって!
ジミン、頑張れ!」

ーーー

ためらっていたジミンを突き動かしたのは…

ソクジン
「テヒョンだった。だから今回もジミンを
説得できるかもしれない。」

テヒョンは俺の突然の訪問に驚いていたようだったが、
ジミンの話を聞くと
今すぐ病院から出してやろうと言って協力してくれた。

俺はテヒョンを連れてジミンが入院している外科病棟に
到着した。

遅い時間だったため、病棟の廊下は静まり返っていた。

病室の扉の横にかかっている
患者のネームプレートを見ていたテヒョンが
ジミンの名前を発見した。

テヒョン
「本当だ… パク・ジミン。
元気にしてると思ってたのに…」

テヒョンは苦々しい表情でジミンのネームプレートを
しばらく見つめていたが、
やがて大きく深呼吸して病室の扉を開けた。

病室の中は暗く、静かだった。

あらかじめ調べておいたジミンのベッドに近付くと、
気配を感じ取ったのか、
ジミンが明かりを点けようとした。

ソクジン
「待て!」

ジミン
「ソクジン兄さん?…あれ、テヒョン?」

テヒョン
「ジミン、迎えに来たぞ。」

テヒョンの言葉を聞いてジミンが周囲を見渡した。

ジミン
「本当に来てくれたんですか?」

ソクジン
「考えてくれたか?」

ジミン
「……」

ジミンがなかなか答えようとしなかったため、
テヒョンがジミンに詰め寄った。

テヒョン
「こんな所に2年も引きこもってるんだろ?
悩むことない、早く出よう!」

ジミン
「…だめだよ、テヒョン。僕は…」

テヒョン
「ジミン、ここにいたいのか?」

ジミン
「……」

テヒョン
「お前だってこんな所にずっといるのは辛いだろ?
出よう。出てから考えればいい。」

テヒョンが躊躇してるジミンを無理やり起こした。

ジミン
「もうすぐ夜の回診の時間だよ…」

テヒョン
「ならなおさら早くしないと!」

ジミンは戸惑いながらもテヒョンの手を振り払おうとは
しなかった。

ソクジン
「…手荒な方法かもしれないけど…
とりあえずテヒョンを信じてみよう。」

廊下は相変わらず静かだった。

ソクジン
「やっぱりテヒョンを連れてきたのは正解だったみたいだ…」

ーーー

テヒョン
「お前だってこんな所にずっといるのは辛いだろ?
出よう。出てから考えればいい。」

ーーー

ソクジン
「俺が同じことを言ってもジミンの心には届かなかった
だろうな…」

仲間たちを救おうとする時、こんな経験をすることが
よくあった。

自分1人の力ではどうにもならなかった問題を、
他の仲間が難なく解決することが。

ユンギにはジョングクが必要だった。それと同じように、
ジミンの問題を解決する鍵は
テヒョンが握っているようだった。

ソクジン
「後は誰にも見つからないように…」

角を曲がると、ちょうどエレベーターが到着した。

テヒョン
「あ、あれに乗りま…」

ソクジン
「ん?」

エレベーターから降りてきた人物を確認し、
俺は慌ててテヒョンに注意を促した。

ソクジン
「隠れろ!ジミンのお母さんだ。」

ジミン
「え?」

テヒョン
「ジミン、こっちだ。」

俺たちは急いで姿を隠し、ジミンの母が通り過ぎるのを
待った。

ソクジン
「行ったみたいだ。俺たちも早く出よう。」

ジミンがいなくなったことに気付かれる前に、
俺たちは病院を脱出しなければならなかった。

急いでボタンを押したが、一瞬の差でエレベーターを
逃してしまった。

テヒョン
「ジミン、早く!」

ジミン
「テヒョン、やっぱり僕…」

テヒョン
「振り返るな。」

エレベーターを待っている時間はなかったため、
俺たちはジミンを連れて非常階段に向かった。

ところが、非常口に着く前にジミンが立ち止まった。

テヒョン
「どうした?」

ジミン
「……」

ジミンの顔色がおかしかった。

今にも泣き出しそうな、あるいは怒っているような
表情だった。

ソクジン
「早く行こう。」

ジミン
「…できません。」

非常口まであと10歩もないほどの距離だった。

テヒョン
「ジミン、こんなことしてる暇なんて…」

その時だった。

シム・ソンミ
「トイレにでも行ったのかしら?」

遠くから足音が聞こえてきた。
俺は急いでジミンの腕を引っ張ったが、

ジミン
「兄さん、僕… 僕やっぱり行けません。」

ジミンの足はその場から全く動かなかった。

ジミン
「やっぱりだめですよ。」

ソクジン
「また怖がり始めたみたいだ…」

《選択肢》
①ジミンを説得する。
②テヒョンに説得させる。

【パターン①:ジミンを説得する。】

俺は震えているジミンの手を掴んだ。
静かな廊下に靴の音が響いた。

シム・ソンミ
「ジミン。」

ジミン
「僕はここにいた方が安全なんです。」

ソクジン
「それは違う。こんな所にいたらお前はだめになるんだぞ。」

ジミン
「僕はここにいなきゃいけないんです。
そうするしかないんですよ。

僕はここに残ります。」

シム・ソンミ
「ジミン!」

【パターン②:テヒョンに説得させる。】

俺はテヒョンに視線を送った。

テヒョンがジミンを説得している間、
俺は廊下に注意を傾けていた。

今すぐにでも誰かが近付いてくる予感がして、
気が気ではなかった。

静かな廊下に靴の足音が響いた。

シム・ソンミ
「ジミン。」

テヒョン
「よく聞け。ここで立ち止まったら…」

シム・ソンミ
「ジミン!」

シム・ソンミ
「ジミン!」

声がした方に目を向けると、
ジミンの母が怒りに満ちた表情を浮かべて
こちらに歩いてきていた。

ジミン
「…お母さん。」

ジミンの顔から血の気が引いていた。

シム・ソンミ
「お願いだから大人しくしててちょうだい…!」

鋭い声が廊下中に響いた。

〈Episode 6. End〉


7.止まった時間

”ジミンを救う方法は本当にないのだろうか?失敗を繰り返すうちに、ソクジンは次第に自信を失っていく。”

ジミンの母が声を張り上げた。

シム・ソンミ
「お願いよ…!
お願いだから大人しくしててちょうだい…!」

鋭い声が廊下中に響いた。
ジミンはうなだれたまま、口を開こうとしなかった。

その時、

テヒョン
「こんばんは。
僕、ジミンの友達なんですけど、」

テヒョンが自己紹介したが、ジミンの母は視線すら
向けようとしなかった。

テヒョン
「ジミンに会いたくて来ました。
ジミンは何も悪くないので怒らないであげてください。」

テヒョンが俺の方に目を向けた。
口裏を合わせようという意味だった。

ソクジン
「そうなんです。ジミンは僕たちが来ることなんて
知りませんでした。」

シム・ソンミ
「来るなら面会の時間にしてちょうだい。
どうしてこんな時間に外に連れ出そうとするのよ。」

テヒョン
「昼は仕事で時間が取れないんです。

外に連れていこうとしたのは、
ただ話をしようと思ったからです。
寝てる人もいるからうるさくしないように…

ですよね、兄さん?」

ソクジン
「そうです。すみませんでした。」

咄嗟の嘘が通じるか不安に駆られたが…

シム・ソンミ
「…いいわ。

ジミン、戻りなさい。
そろそろ先生がいらっしゃる時間よ。」

少し戸惑った様子を見せたものの、
ジミンは諦めたような表情で振り返った。

廊下に出たジミンの姿が見えなくなると、
ジミンの母が俺に視線を向けた。

シム・ソンミ
「まさか本当に来るなんてね。」

彼女は以前のループと同じ表情で同じ言葉を口にした。

シム・ソンミ
「ジミンは病気なの。
それなのに、お友達がいきなりやってきたら
治療の邪魔になると思わない?

だから、今後はこんな風に
いきなり来るのはやめてちょうだい。」

言い終えたジミンの母がテヒョンに近付いた。

テヒョン
「……」

ジミンの母がテヒョンの肩にそっと手を置いた。

冷たい視線を向けて振り返った後ろ姿は、
俺たちとジミンの間に立ちふさがる
巨大で分厚い壁のように思えた。

テヒョンは病室に向かうジミンの母の
背中に向かって話しかけた。

テヒョン
「どんな病気なんですか!?
僕たち、話もできないんですか!?」

ソクジン
「テヒョン、よせ!」

テヒョン
「放してください!ジミン!ジミン!!」

テヒョンの声が廊下に響いたが、答える者はいなかった。

テヒョン
「…ジミン、大丈夫でしょうか?」

心配するテヒョンに対し、俺は何も答えられなかった。
大丈夫ではないということを知っていたからだ。

今日のような出来事がなくても
ジミンは精神科病棟に入院し、
毎回のように不幸な選択を下した。

それを知っていた俺は複雑な気持ちでテヒョンの顔を
ただ見つめることしかできなかった。

僕はベッドに座って自分の足元をじっと見つめていた。

お母さんの顔はまともに見ることができなかった。

ジミン
「言われた通り、大人しくしていればよかった。」

シム・ソンミ
「嘘よね?」

ジミン
「え?」

シム・ソンミ
「さっきあの子たちが言ってたことよ。
気付いてないとでも思った?」

ジミン
「…ごめんなさい。」

まるで喉の奥に何かが引っかかっているような感覚に
陥った。

シム・ソンミ
「どうするつもりだったの?」

ジミン
「……」

シム・ソンミ
「ここを出て何をするつもりだったのかしら?」

母の追及を受けて、休憩室で1人考えていたことが
脳裏をかすめた。

学校に行ったり、
友達と遊んだり、
ホソク兄さんにまたダンスを教えてもらったり…

普通の日常を過ごしたかった。

特別なことなんて望んでないのに、
どうして僕には夢を見ることすら
許されていないんだろうか。

シム・ソンミ
「ジミン、まずは病気を治すことを考えなさい。

病気をきちんと治して… 退院できたら好きなことを
させてあげるから。

でも今はだめなの。
好きなことをするのは元気になってからよ。」

逆らえない力がお母さんの声に込められていた。

ジミン
「お母さん、でも…

治すって何を?
どんな状態になれば元気になったって言えるの?」

口にはできない思いが胸の奥に渦巻いていた。
でも僕は黙ってうなずいた。

これ以上お母さんを困らせたくなかったから。

ジミン
「はい、お母さん。
そうします…」

そう言いながら僕は思った。

僕はここから一生出られないだろうと。

22年5月19日

ソクジン兄さんとテヒョンが帰った後、
僕はまた精神科の病棟に移された。

ここは相変わらずだった。

自分はおかしくないと1日中ぶつぶつ呟いている
中年男性や、
窓際にしがみついて母が来るのをずっと待ている子供、

過去にとらわれて前に進めない僕…

時間が経っても何も変わらないのなら、
止まっているのと同じだ。

ぽつぽつと落ちてくる雫を見てると、
どこからか雨音が聞こえてくるような気がした。

じっとりとしていて鼻をつく匂いと錆び付いた金属製の
冷たい音まで。

洗面台にはあの日の僕の姿が映っていた。

ジミン
「…もう嫌だ。」

僕は全てを忘れて楽になりたいと思った。

〈The End〉



■残された存在 - ホソク

【ストーリー案内】
”いつも明るいホソクの心の中には、誰も知らない悲しみが渦巻いていた。”

1人で健気に暮らしているホソクの胸の奥深くには、誰も知らない孤独と悲しみが渦巻いていた。ソクジンは、そんなホソクの気持ちを理解するために手を尽くす。

(エピソード数:7)

1.日常

”ホソクを救うためにナルコレプシーの問題から解決することを決意したソクジンは、ナムジュンのコンテナで出会ったホソクから児童養護施設のイベントに招待される。”

22年5月1日

まだ一度も6月を越えられていなかった。

ナルコレプシーによって突然意識を
失うホソクと、病院に閉じ込められている
ジミンの問題を解決できていないためだった。

ホソクを病院に入院させれば
ジミンと出会うことになるが…

ソクジン
「ホソクが階段から落ちることになる。」

ホソクが足を負傷して絶望する姿はもう見たくなかった。

だが、その事故を阻止しても
ホソクのナルコレプシーは5月10日以降
徐々にひどくなっていった。

ソクジン
「入院させなかったとしても、何度も意識を失うなら…」

ナルコレプシーによって突然倒れるため、危険なことに
変わりなかった。

ソクジン
「ホソクを救うには、まずナルコレプシーから
解決しないといけないのかもな。
少し調べてみよう。」

俺はすぐにホソクが働いている
ツースターバーガーに向かった。

ホソク
「いらっしゃいませ。
あれ、ソクジン兄さん?」

ソクジン
「久しぶりだな、ホソク。」

ホソク
「他のみんなから兄さんが帰って来たって聞いてたけど…
いつぶりだろう。」

ソクジン
「元気だったか?」

ホソク
「ぼちぼちです。
あ、何か注文します?」

ぼちぼちという言葉通り、ホソクの生活は単調だった。

アルバイト、ダンスの練習、時間ができた時に足を運ぶ
児童養護施設。

そして時折…
この橋の上で川の向こうの風景を眺めるだけだった。

ホソク
「ふう…」

ホソクは無表情のまま手すりにもたれかかった。

ホソクは普段からよく笑っていた。
それだけに、寂しそうな表情を浮かべていることが
気にかかった。

ソクジン
「何を考えているんだろう。」

そのことを除くとホソクは平凡な日常を過ごしており、
最近は突然意識を失うこともなかった。

5月10日、ホソクはなぜ突然意識を失うのだろうか。

22年5月3日

1人で悩んでいた時、居ても立っても居られずに
ナムジュンのもとを訪ねた。

ナムジュンとホソクには、
自分自身、もしくは自分自身を含めた
誰かの面倒を見なければならないという共通点があった。

ソクジン
「それに2人はずっと連絡を取り合っているみたいだからな…

ホソクのことを一番よく分かってるのは
多分ナムジュンだろう。」

ナムジュン
「いらっしゃい、兄さん。どうかしたんですか?」

ナムジュンは俺を快く迎え入れてくれた。

よく見ると、コンテナには授業を終えた
ジョングクの姿もあった。

ソクジン
「たまたま近くを通りかかって、ふと思い出したんだ。
ジョングクもいたんだな。」

ナムジュン
「ほぼ毎日来てます。家の人は心配してないのかな…」

ジョングク
「僕は大丈夫ですけど…」

簡単に挨拶を済ませた後、
どう話を切り出せばいいか悩んでから、俺は口を開いた。

ソクジン
「何日か前にホソクを見たんだ。」

ナムジュン
「どこでですか?」

ソクジン
「ツースターバーガーでな。でも忙しそうだったから
話もろくにできなかった。」

ナムジュン
「終わったら来るように伝えましょうか?

さっきジョングクがお腹空いたって言っていたので、
ついでにハンバーガーも頼みましょう。」

ジョングク
「いいですね!」

ホソクと直接話をしてみるのも悪くないと思い、
俺はナムジュンの提案に同意した。

ホソクに連絡しよう…

《選択肢》
①他の人に任せる。
②自分でする。

【パターン①:他の人に任せる。】

ジョングク

「僕が連絡してみますね。」

ジョングクが電話をかけている間、
俺はナムジュンに話しかけてみた。

ソクジン
「ホソクは元気か?」

ナムジュン
「忙しそうにしてますよ。バイトやら児童養護施設やらで。

文化センターは知ってますよね?あそこの練習室で
毎日ダンスの練習もしています。」

ソクジン
「そんなに忙しいのか?」

ナムジュン
「まあホソクは昔からそうでしたから。」

ソクジン
「元気に暮らしてるのは分かるけど…
無理してないといいな。」

ジョングク
「ホソク兄さん、もうバイトが終わったから
すぐに来るそうです。」

俺はホソクが来る前に、気になっていたことを
聞いてみることにした。

【パターン②:自分でする。】

ソクジン

「俺が連絡してみる。」

ナムジュン
「分かりました。」

俺はホソクに電話をかけた。

「もしもし。」

ソクジン
「ホソク、俺だ。ソクジンだ。」

「ソクジン兄さん?
どうしたんですか?」

ソクジン
「ナムジュンと一緒なんだ。ジョングクもいるぞ。」

「そうなんですか?もうすぐバイトが終わるから
僕も向かいます。今どこですか?」

ホソクは自分からこちらに向かうと言ってきた。

ソクジン
「分かった。あ、ジョングクがお腹空いたそうなんだ。」

「少しだけ待っててください!すぐに向かいます!」

俺はホソクが来る前に、気になっていたことを
聞いてみることにした。

俺はホソクが来る前に、気になっていたことを
聞いてみることにした。

ソクジン
「ホソクのことなんだけど… 突然眠ってしまうあれは
最近どうだ?」

ナムジュン
「今も薬を飲んでるみたいです。」

ソクジン
「…あれって治らないのか?」

ナムジュン
「どうでしょう… 最近は大丈夫そうだけど
詳しいことは本人に聞いてみないと。」

ホソクは自分の病気のことを話したがらなかった。

本人が一度たりとも弱音を吐いたことがないので、
俺たちも無理に事情を聞こうとはしなかった。

ソクジン
「思慮深いナムジュンなら何か知ってるかもしれないって
思ったんだけどな…」

ジョングク
「兄さん、この本読んでもいいですか?」

ナムジュン
「ああ、いいぞ。」

会話はそこで途切れ、ナムジュンとジョングクは
他の作業を始めた。

気まずいからではなく、以前のように一緒にいることに
慣れているからだ。

しばらくすると、ドアの外から足音が聞こえてきた。

ホソク
「どうも~」

明るい声を出しながらホソクがコンテナの中に入ると、
中はハンバーガーの匂いでいっぱいになった。

ホソク
「今月の優秀スタッフが作った特製ハンバーガーですよ。」

ジョングク
「コーラまで持ってきてくれたんですか?」

ホソク
「もちろん!あ、そうだ。
ジョングクにプレゼントがあるよ。」

ハンバーガーの包みを開けていた
ホソクがおもちゃセットの入った箱を取り出した。

ホソク
「ほら、子供の日のプレゼント!」

ジョングク
「子供じゃないんですけど。」

ホソク
「20歳未満はみんな子供だよ。そんなセリフは成人してから
言うんだね。」

ホソクにからかわれたジョングクは、
不満そうに唇を突き出しながらも
大人しく箱を受け取った。

ジョングク
「それに今日は5月5日じゃないし。」

ホソク
「当日にあげたかったんだけど、
その日は児童養護施設に行かないといけないからね。
ソーリー。」

ジョングクはプレゼントが気に入ったようだった。

ナムジュン
「子供の日に何かイベントでもやるのか?」

ホソク
「イベントっていうか… まあ…
家族の顔を見に行くだけだよ。」

ナムジュン
「プレゼントは?」

ホソク
「プレゼントは無理だから
ハンバーガーでも持って行こうと思う。
それから楽しく遊ぶんだ!」

ソクジン
「子供は何人くらいいるんだ?」

ホソク
「えっと… 20人くらいかな?ちっちゃい子供から
高校生までいますよ。」

ソクジン
「思ったより多いんだな。みんなで遊んだら楽しそうだ。」

ホソク
「兄さんも来ますか?写真を撮ってあげたら
みんな喜ぶと思います。」

ソクジン
「いいのか?写真くらい、いくらでも撮るさ。」

ホソクが大歓迎だと言って手を上げて見せたので、
俺たちはハイタッチした。

ホソク
「2人は一緒に行かない?」

ホソクの提案を聞いて、ナムジュンは残念ながら
時間がないと言って断った。

一方、ジョングクは迷っているようだった。

ホソクはそんなジョングクに対して無理しなくてもいいと
笑って見せた。

ソクジン
「相変わらずだな。」

ホソクは昔からムードメーカーだった。

ホソクの明るく明朗な性格には
気まずさを和らげる力があり、

お互いにぶつかり合って困った状況になっても、
ホソクがいれば円滑に解決することもあった。

そうして俺が昔のことを思い出していると、
薬を取り出すホソクの姿が目に映った。

ナムジュン
「水でも持ってこようか?」

ホソク
「あ、さんきゅー!」

ナムジュン
「最近はどうだ?症状は落ち着いてるか?」

ホソク
「うーん、症状はないんだけど
薬は飲まないといけないから。」

その時、俺は初めてホソクの暗い表情を目にした。

ソクジン
「他の人たちの前で笑ってるからって必ずしも平気っていう
わけじゃないよな。

ホソクも病気が怖いんだろう。
いつ意識を失うか分からないから不安なはずだ。」

目の前の事故を阻止したり、
負傷しないようにしたりすることだけが
全てではなかった。

見えない恐怖からホソクを救い出さなければ
ならなかった。

ソクジン
「治らない病気だって言ってたけど、
原因が分かれば… 治せるかもしれない。

意識を失う原因を調べてみよう。」

〈Episode 1. End〉


2.傷を癒す方法

”ホソクに招待され児童養護施設を訪れたソクジン。おもちゃが壊れて泣いていた子供をあやしていたその時、ホソクのとある秘密を知ることになる。”

22年5月5日

ホソク
「兄さん、こっちです!」

俺はヤンジ川の近くにある児童養護施設の前で
ホソクと落ち合った。

ハンバーガーをたくさん持ってきたホソクは
気分がよさそうだった。

ソクジン
「嬉しそうだな。ここに来るのはいつ以来なんだ?」

先週もホソクがここを訪れたことは知っていたが、
俺は知らないふりをした。

ホソク
「ついこの前も来たんですけど、
来るたびに嬉しくなっちゃって。実家みたいな感じかな。」

ホソクは児童養護施設の話をするたびに
「家族」や「実家」という言葉をためらわずに口にした。

ホソク
「兄さん、それ何ですか?」

ソクジン
「あ、手ぶらで来るのはあれだから
おやつを買ってきたんだ。」

ホソク
「わあ、みんな喜ぶでしょうね!早く入りましょう。」

男の子
「ホソク兄ちゃん!」

子供
「兄ちゃ~ん!」

中に入るやいなや、子供たちがホソクを出迎えようとして
駆け寄ってきた。

ホソク
「みんな転んじゃうよ。走っちゃだめ!」

ホソクが子供たちと話をしていると、

奥から出てきた児童養護施設の
職員が嬉しそうな笑みを浮かべながら
俺たちを出迎えてくれた。

???
「ホソク、来てくれたのね。いらっしゃい。」

ホソク
「おばさん、元気だった?腰は大丈夫?」

児童養護施設のおばさん
「大丈夫よ。」

ホソクは児童養護施設の職員である
キム・ジョンヒさんを俺に紹介してくれた。

自分にとって母のような存在だとも言った。

ソクジン
「だからおばさんって呼んでるのか。」

ホソク
「おばさん、この人が僕が言ってた兄さんだよ。
今日はみんなの写真を撮りに来てくれたんだ。」

ソクジン
「こんにちは、キム・ソクジンです。」

児童養護施設はどこにでもある家庭のような
雰囲気だった。

俺はおばさんの手伝いをするために
持ってきた食べ物を並べた。

その間、ホソクはずっと子供たちに囲まれていた。

ホソク
「みんなたくさん食べな!ハンバーガーはたくさんあるから
ケンカしちゃだめだよ!」

子供たち
「いただきま~す!」

子供たちと一緒にいると、ホソクが何だか長男のように
思えてきた。

児童養護施設での時間は慌ただしく過ぎていった。

頼まれた写真を撮った後、外に出てしばらく
走り回ってから、
ようやくホソクと話をする時間ができた。

ソクジン
「子供たちと仲が良いんだな。」

ホソク
「僕がここを出てまだ3ヶ月も経ってないですからね。
みんな顔見知りです。」

ソクジン
「何の話をしよう?」

《選択肢》
①ここには何歳の時からいたんだ?
②おばさんって良い人だな。

【パターン①:ここには何歳の時からいたんだ?】

ソクジン

「ここには何歳の時からいたんだ?」

ホソク
「7歳の時に初めて来ました。」

ホソクは淡々とそう言って笑顔を浮かべた。

ソクジン
「思ったより小さい時からいたんだな。
おばさんはその時からいたのか?」

ホソク
「はい、いました。
子供の時、眠れないことがあって。

それを知ったおばさんが、子守歌じゃなくて
おばさんが知ってる歌謡曲を歌ってくれたんです。

それを聴いてたら… ここに来て初めて泣いちゃいました。」

ホソクは切なそうな表情を浮かべた。

ソクジン
「ホソク、じゃあ子供の時も…」

【パターン②:おばさんって良い人だな。】

ソクジン

「おばさんって良い人だな。初めて来た俺にも
あんなに優しくしてくれて。」

ホソク
「って思うでしょ?でも怒ったらすごく怖いんですよ。

ここにいる子供の中でおばさんに怒られたことのない
子はいないと思います。」

ソクジン
「お前も怒られたことがあるのか?」

ホソク
「もちろん。
だけど、おばさんは理由もなしに怒ったことは
一度もないです。

おばさんは… みんなにとってお母さんなんです。」

笑ってそう言ったホソクの表情から、
おばさんに対する深い愛情が読み取れた。

ソクジン
「ホソク、じゃあ子供の時も…」

ソクジン
「ホソク、じゃあ子供の時も…」

子供の時もナルコレプシーの症状があったのかホソクに
聞こうとしたその時、

???
「うわあああん!」

1人の男の子が突然泣き出し、
ホソクのもとに走ってきた。

ホソク
「ジフン、どうしたの?」

ジフン
「兄ちゃん、僕のロケットが…」

ジフンと呼ばれた男の子の手には
壊れたロケットのおもちゃが握られていた。

ジフン
「お母さんがくれたおもちゃ…」

ホソク
「泣かないで。ちょっと見せてくれる?」

ホソクはジフンのおもちゃを隅々まで観察したが、
真っ二つに割れてしまったおもちゃは到底
直せそうになかった。

ホソク
「完全に壊れちゃってる… どうしよう…」

ホソクの困った表情を見たジフンがさらに大きな
声で泣き出した。

ホソク
「兄ちゃんが今度同じのを買ってきてあげる。
だから泣かないで、ジフン。」

ホソクがしばらくなだめようとしていたが、
ジフンは泣き止まなかった。

他の方法がないか考えていると、ホソクがジフンの涙を
拭いながら言った。

ホソク
「ジフン、兄ちゃんと本物のロケットを見に行こっか?」

ジフン
「…本物のロケット?」

ホソク
「そう、本物のロケット。」

ジフンが泣き止むと、ホソクが俺の方に目を向けて
口を開いた。

ホソク
「兄さん、ちょっと手伝ってくれませんか?」

ホソクの頼みは簡単なものだった。

ヤンジ川にかかっている橋の1つであるヨンサン橋へ
ジフンと自分を連れて行ってほしい。

ソクジン
「ヨンサン橋ってホソクがよく行ってた橋だよな…
あんな所にロケットなんてあったか?」

ジフン
「兄ちゃん、本当にロケットがあるの?」

ジフンが鼻をすすりながら言った。

ホソク
「本当にあるよ!すぐに着くから
もうちょっとだけ待ってね。」

ヨンサン橋に到着すると、
ホソクがいつも行っていた場所に向かった。

風は強かったが、その日は青空が広がっていて
遠くまで見渡すことができた。

ジフン
「ロケットは?」

ホソク
「もうちょっとだよ。見えたら兄ちゃんが教えてあげる。」

ホソクはジフンの手を握って手すりの前に立った。
ジフンの顔には期待と疑念が同時に浮かんでいた。

同じように俺もホソクの行動が理解できずにいた
その時だった。

ホソク
「ジフン!あそこ!」

ホソクが線路の方を指さした。

ホソクの指の先には、
ソンジュ駅を出発して徐々にスピードを上げている
汽車があった。

ジフン
「わああ!!」

ホソク
「どう?かっこいいロケットだろ?」

ジフン
「ロケット?ただの汽車じゃん。」

ホソク
「よく見てみなって。ロケットだよ。」

ホソクは意味不明なことを言いながら、
ジフンに笑みを向けた。

〈Episode 2. End〉


3.偶然の出会い

”ボランティアを終えたソクジンは、ホソクとささやかに酒を酌み交わしていた。すると、ホソクがソクジンにとある話を聞かせる。”

笑顔のホソクを見つめながらジフンが首を傾げた。

ジフン
「どこがロケットなの?」

ホソク
「見てみな。上に付いてる尖ったやつとか同じだし、
人間を乗せてビューンって遠い所に行くのも同じだろ?」

真剣な表情でホソクの話を聞いていた
ジフンが頷き始めた。

ジフン
「おっきなところも同じ!」

ホソク
「そうそう。だからロケットなんだ!」

ホソクがこの橋の上から見つめていたものは、

ソクジン
「ソンジュから遠い場所へと向かうロケットだった。」

ホソク
「ジフン、あのロケットにはお願い事もできるんだよ。」

ジフン
「お願い事?どうして?」

ホソク
「あのロケットは夢も乗せてるからね。」

ジフン
「どうやって夢がロケットに乗るの?」

ホソク
「ロケットに乗ってる人たちの心には夢があるんだ。
ってことは夢も乗ってるってことだろ?」

ソクジン
「夢を乗せて走る…か。」

ホソクの話を聞いたジフンが遠ざかっていく汽車に
目を向けた。

ジフン
「僕の夢は将来すごく有名になることなんだよ!」

ホソク
「どうして?」

ジフン
「えっと… 有名になったらお母さんが
僕のこと見つけられるでしょ。」

ホソクはジフンの願い事を聞いてしばらく黙っていたが、
やがて笑みを浮かべて口を開いた。

ホソク
「それじゃあロケットにお願いしよう。ジフンがお母さんに
会えますように!」

ジフン
「お母さんに会えますように!」

ジフンは声を張り上げて叫んだ。

汽車が見えなくなる頃、ジフンが再び口を開いた。

ジフン
「次のロケットには兄ちゃんの夢をお願いしようよ!
兄ちゃんの夢って何?」

ホソク
「兄ちゃんは…」

ホソクは体をかがめてジフンにだけ聞こえるように
小さな声でささやいた。

何を言っていたのかは分からなかったが、
それを聞いたジフンは目を大きく開けて喜んだ。

ジフン
「わあ、兄ちゃんも…!」

ソクジン
「…?」

ホソクが人差し指を唇に当てて
ジフンの言葉を遮ったため、俺は最後まで聞くことが
できなかった。

ジフンを児童養護施設に送り届けた後、
俺はホソクと酒を飲むことにした。

ホソク
「今日は本当にありがとうございました。兄さんって結構
子供の面倒を見るのがうまいんですね。」

ソクジン
「そんなことない。子供たちが素直だっただけだよ。
俺も楽しかった。

ヨンサン橋のことなんだけど、今日みたいによく汽車を
見に行くのか?」

ホソクは酒を注ぎながらぎこちなく笑った。
照れている様子だった。

ホソク
「…はい。子供みたいでしょ?
児童養護施設にいた時から時々見に行ってたんです。
やることがなかったから退屈で…」

ソクジン
「さっきのロケットの話みたいなことを考えながら?」

ホソク
「はい。汽車に乗ってる人ってみんな
ウキウキしてて楽しそうだから。

僕も一緒に乗りたくなるくらい。」

その時、ホソクが話の途中で突然手を上げた。

ホソク
「ドンジン!」

ホソクは会計を終えて出ようとしていた1人の男性客を
呼び止めた。

ドンジン
「あれ?ホソク?」

ホソク
「どうしてここにいるの?俺、今日施設に行ってたんだ。」

男性はホソクと顔見知りのようだった。

ドンジン
「えっと… 用事があってな。」

挨拶を交わしたホソクが男性を連れてきて俺に
紹介してくれた。

ホソク
「兄さん、僕の友達のドンジンです。児童養護施設で一緒に
暮らしてたんです。」

ソクジン
「一緒に暮らしてた?
それならホソクについてよく知ってるかもしれない。

初めまして、キム・ソクジンです。こちらにどうぞ。
せっかくなのでお話でも。」

せっかくの機会なので、俺は2人の話を少し
聞いてみたいと思った。

ドンジン
「申し訳ないのですが、今日は連れがいるので…
ホソク、またな。」

そのまま出ようとした男性が少しためらいながら
ホソクに尋ねた。

ドンジン
「ところでホソク、お前… まだツースターで働いてるのか?」

ホソク
「もちろん、今月の優秀スタッフなんだから。」

ドンジン
「それじゃあ… また今度店に寄らせてもらうよ。」

ホソク
「分かった。来る時は連絡して!」

男性が立ち去った後、ホソクは昔の話を聞かせてくれた。

友人たちとそこでどう育ったのか、
どのような思い出があるのか。

話を聞いていると、児童養護施設にいる全員が
家族同然だという言葉にも納得がいった。

やがて、すっかり酒に酔ったホソクが
他の話を切り出した。

ホソク
「毎年8月30日にここで花火大会がありますよね。
その日は施設のみんながヤンジ川に遊びに行って
シートを敷いて見物するんです。

確か僕が9歳くらいの時、
花火大会の日に病院で検査を受けることになっちゃって…
その検査を受けるためには入院が必要だったんです。」

ソクジン
「病院で検査を?」

《選択肢》
①具合でも悪かったのか?
②それじゃあその日は

【パターン①:具合でも悪かったのか?】

ソクジン

「具合でも悪かったのか?」

ホソク
「僕ってすぐに寝ちゃうでしょ。だからです。」

ソクジン
「ナルコレプシーの検査を受けたのか?」

ちょうど聞きたかった話だったので、俺は矢継ぎ早に
質問を投げかけた。

ソクジン
「子供の時からだったんだな。医者からは何か言われたか?」

ホソク
「…特に異常はないって。
その時も今も、原因は分からないままです。」

何か糸口がつかめるのではと
思って詳しく聞いてみたが、ホソクは暗い表情を
浮かべるだけだった。

話し終えたホソクが酒を飲み干し、グラスを空にした。

【パターン②:それじゃあその日は】

ソクジン

「それじゃあその日は花火が見られなかったのか?」

俺の言葉を聞いたホソクが首を横に振った。

ホソク
「いいえ!だって僕ですよ。
検査まで時間があったから、
こっそり病室を抜け出して病院の屋上に行ったんです。」

ソクジン
「1人でか?」

ホソク
「はい。でも1人で見たわけじゃありません。
屋上に向かってる途中、階段のところで泣いてる
子供を見つけたんです。

外に出てお母さんを探したいって泣いてたから、屋上まで
連れて行きました。」

ソクジン
「知らない子だったのか?」

ホソク
「はい。今では顔も思い出せないけど、
その子と一緒に見た花火を時々思い出すんです。

打ち上げ場所からかなり離れてたから、
花火はすごく小さかったけど…」

話し終えたホソクが酒を飲み干し、グラスを空にした。

話し終えたホソクが酒を飲み干し、グラスを空にした。

ホソク
「兄さんも花火大会行ったことありますよね?」

ソクジン
「俺は親と行ったな。小さい時だけど…」

ホソク
「家族と?楽しかったでしょうね。」

ホソクがつまみを食べながら羨ましそうに言った。

ソクジン
「そういえばホソクは子供の時から母親と
2人で暮らしてたんだよな。」

ホソク
「さっき会ったドンジンなんですけど、
すっごく運が良いやつなんですよ。

親と連絡がついて一緒に暮らすことになったから、
施設を出て行ったんです。」

ホソクの瞳から寂しさが感じられた。

ホソク
「ドンジンも僕も、親と花火大会に行くのが夢だったのに。
とうとう今年、あいつに先を越されちゃいますね。」

ソクジン
「夢…」

その時ふと、ホソクのロケットの話を思い出した。

ソクジン
「さっきジフンに話した夢ってそのことだったのか?」

ホソク
「あれは子供の時の夢ですよ。今は…

兄さんにも前に話しましたよね。
ダンスで有名になりたいって…」

ソクジン
「高校の時か?」

かすかに覚えていた。

ソクジン
「そうだ、あの時お前はダンスで有名になって母親を
探したいって言ってたな…

だからダンスをずっと続けてるのか?」

ホソク
「…初めはそれもあったんですけど…
いつの間にかダンスがだ~い好きになってたんです。」

ソクジン
「それじゃあ今は母親を探すつもりはないってことか?」

ホソク
「もうその必要はないので。
家も仕事もあるし、友達だっているんだから。」

ホソクは笑った。

しかし、本当に楽しくて笑っているわけでは
ないようだった。

ホソク
「僕はただ… このままがいいんです。」

俺の目には、ホソクがじっと耐えているように見えた。

〈Episode 3. End〉


4.隠された記憶

”突然意識を失ったホソクを彼の家へ連れ帰ったソクジン。ナルコレプシーの原因について尋ねたものの、ホソクはかぶりを振るだけだった。”

22年5月8日

居酒屋で約束した通り、ドンジンは俺が働いている
時間帯に店にやって来た。

ドンジン
「ホソク、ちょっといいか?」

どこか暗い表情のドンジンと話をするため、
俺は店の外に出た。

ホソク
「どうかした?」

ドンジン
「その… ここで働かせてもらいないか?」

ホソク
「いきなりどうしたの?」

ドンジン
「金が必要なんだ。」

どうにか家族と連絡がついたドンジンは
父と共に暮らすことになり、ソンジュを離れていった。

幸せに暮らしているとばかり思っていた
ドンジンに不釣り合いな話を聞き、俺は困惑した。

ホソク
「どれくらい必要なの?自立支援金は?」

ドンジン
「……」

ホソク
「大丈夫?何かあった?」

ドンジンはしばらく黙っていたが、やがてためらいながら
口を開いた。

ドンジン
「自立支援金は… 一緒に暮らすために必要だって
言われて父さんに渡した。

だけど… それから連絡がないんだ。」

ホソク
「え?」

意外な話を聞いて俺は言葉を失った。

ドンジン
「俺が期待しすぎてたみたいだ。
俺を一度捨てた奴なのに、今度は大丈夫だって
信じた俺が馬鹿だった。

こんなことなら会うんじゃなかった…」

ドンジンの声は震えていた。

よりにもよって今日は父母の日だった。
家族連れが俺たちのそばを通り過ぎていった。

ホソク
「そんなこと言っちゃお父さんが悲しんじゃう。
きっと忙しいだけだよ。

家を探すのに忙しくて連絡できないだけだと思う。」

ドンジン
「……」

ホソク
「すぐに連絡が来るはずだから心配しないで。
ここで働けるかどうかは確認してみるね。」

ドンジン
「ありがとう。」

ドンジンは何度も感謝の言葉を口にして去っていった。

仕事を終えて歩いていると、
またしてもここに辿り着いた。

汽車が見えない時は手すりの前に立って
流れていく川の水をじっと見つめていた。

その時だけは何も考える必要がないので、
気持ちが楽になった。

ホソク
「ふう…」

ところが、今日は静かな川の流れを見つめていても
様々な考えが頭の中を駆け巡っていた。

ホソク
「……」

施設には親に会いたがっている子供たちが大勢いる。

ここでロケットを見たジフン、
成人してから施設を出たドンジン、

そして僕…

本音を言うと、
あんな親でも連絡がついたことが羨ましかった。

だが、悔しがってる友人にそんな気持ちは到底
打ち明けられなかった。

ホソク
「…お母さん。」

目を閉じると、あの日のことが思い出された。

ーーー

母はメリーゴーランドの前で歩みを止めた。

顔は逆光で影になっており、かすかな風に髪が
なびいていた。

「ホソク、目を閉じて。10数えたら開けるのよ。
いち、に、さん…

し、ご、ろく、なな…

はち、きゅう…」

ーーー

22年5月9日

ホソクが昨日倒れた。

ソクジン
「幸いにも大きな怪我はなかったけど、
明日までは大丈夫なはずだったのに…」

理由は分からないが、展開が変わっていた。

不安に駆られた俺は1日中ホソクに張り付いた。

ホソク
「配達に行ってきます!」

店から出たホソクが配達用のスクーターの方へ
向かっていたその時だった。

通行人(女性)
「ヨナ、道を渡る時はどうすればいいか覚えてる?」

女の子
「数字を数える!
いち、に、さん…」

女の子と母親が道を渡る様子を見ていたホソクが、
またしても意識を失ってしまった。

ソクジン
「ホソク!!」

俺は倒れたホソクを早退させて家に連れて帰った。

ホソクの家は、ソンジュ市が一目で見渡せる所にあった。

ポケットに入っていた鍵でドアを開けて中に入ると、
きれいに片付けられた部屋が目に入った。

ソクジン
「まずはホソクを寝かせないと…」

俺はホソクをベッドに寝かせて部屋を見渡した。

壁にはホソクのダンスチームのポスターが貼られており、
ユニフォームがきれいにかけられていた。

ふと他の場所へ目を向けると、見慣れた植木鉢と
ノートパソコンがあった。

ホソクが目を覚ます前に少し見てみるか?

《選択肢》
①植木鉢を調べる。
②ノートパソコンを調べる。

【パターン①:植木鉢を調べる。】

引き出しの上に置かれていた植木鉢は、
プレハブ教室にあったものと同じだった。

ソクジン
「そうだ。ホソクの植木鉢だったな。」

名も知らぬ植物は2年前に比べて葉が大きくなっており、
白い花も咲いていた。

ソクジン
「ずっと世話をしてたのか…」

毎日植木鉢の世話をしていたホソクの姿がありありと
浮かんできた。

これを持って帰ってきて、どんなことを考えながら
世話をしてたんだろう。

そうして俺がしばらく考えに耽っていると、

【パターン②:ノートパソコンを調べる。】

俺はスクリーンセイバーが作動しているノートパソコンの
キーボードを叩いてみた。

すると、画面に動画サイトが表示された。
ロックは設定されていなかったようだ。

ソクジン
「〈ダンスメンバー応募オーディション〉?」

かなり有名な海外ダンスチームのオーディションの
案内動画だった。

ソクジン
「オーディション…」

ダンスを踊っている時が最も幸せだと言っていた
ホソクの言葉を思い出した。

ホソクは高校生の時に設立した
ジャストダンスというダンス部を今でも続けていた。

ソクジン
「応募したら絶対に合格するだろうな。」

そうして俺がしばらく考えに耽っていると、

そうして俺がしばらく考えに耽っていると、

ホソク
「…ううん…
お母さん…」

ホソクの体が動いた。

ソクジン
「お母さん?」

ホソク
「置いて行かないで…」

ソクジン
「母親の夢を見てるのか…」

高校生の時もホソクは夢の中で母を探していた。

ソクジン
「子供の時に母親と離れ離れに
なった記憶がナルコレプシーと関係してるんじゃないか?」

何度も母の名を呼んでいたホソクが目を覚ました。

ソクジン
「ホソク、大丈夫か?」

ホソク
「ソクジン兄さん…?僕… バイトの途中だったのに…」

ソクジン
「配達に行こうとして意識を失ったんだよ。
覚えてないのか?」

ホソク
「ああ、そうだったんですね… じゃあ配達は…」

ソクジン
「バイト先には言っておいたから、心配しないで
休んでいいぞ。」

ホソク
「そっか… ところでどうして兄さんがここにいるんですか?」

ソクジン
「たまたま通りがかったから連れて帰ってきたんだ。
大丈夫そうか?」

ホソクは起き上がって体を動かして見せた。

ホソク
「大丈夫みたいです。ありがとうございました。」

俺はホソクと向かい合って話をすることにした。

ソクジン
「ホソク、お前が何度も意識を失う病気…
病院からは原因が分からないって言われてるんだろう?

このままじゃ危険すぎる。運転中に意識がなくなったら
どうするんだ。」

ホソク
「……」

ソクジン
「どんな時に意識がなくなるか分からないか?」

ホソクが寝言で母の名を呼んでいたことを思い出した。
ホソクは何も言わずにかぶりを振った。

ホソク
「…分かりません。」

〈Episode 4. End〉


5.孤軍奮闘

”何度も意識を失うようになったホソク。ソクジンはやむを得ずホソクを入院させ、他の方向から解決策を探すことにする。”

22年5月10日

いつものように出勤の用意をしていると、
施設の後輩から電話がかかってきた。

ホソク
「もしもし。」

児童養護施設の後輩
「兄さん!兄さんもおばさんのこと聞きましたか?」

ホソク
「おばさんのこと?」

児童養護施設の後輩
「ああ… 聞いてないんですね。」

ホソク
「おばさんがどうかしたの?」

児童養護施設の後輩
「もう施設には来られそうにないって… 理由を聞いたら
体の具合が悪いそうなんです。」

普段から膝と腰が悪いとよく言っていたので、
俺はそのことだと思った。

ホソク
「また腰が悪くなったの?それとも膝?」

児童養護施設の後輩
「…がんらしいです。大腸がん…」

ホソク
「…え?」

児童養護施設の後輩
「この前、健康診断を受けた時に見つかったそうです。
手術を受けないといけないんだけど…

末期だから成功する確率は低いって…」

おばさんががんにかかっているとは
想像すらしていなかった。

俺は頭が真っ白になって何も言えずに電話を切った。

ホソク
「おばさんのところに行かないと…
行って確かめるんだ。」

ソクジン
「ホソク!」

俺が慌てて家を出ると、
外にソクジン兄さんが立っていた。

ソクジン
「心配だから来てみたんだけど… 出かけるのか?」

ホソク
「兄さん、ちょっと行く所があって…」

なぜソクジン兄さんがここに立っていたのか、
尋ねる余裕すらなかった。

早くおばさんの所に行かなければという考えで頭が
いっぱいだったからだ。

兄さんはそばを通り過ぎる俺の後に付いてきて、
驚いたような顔で聞いてきた。

ソクジン
「どこに行くんだ?」

ホソク
「おばさんのところです。おばさんが…」

ソクジン
「それじゃあ俺の車で行こう。送るよ。」

俺は…

《選択肢》
①車に乗らない。
②車に乗る。

【パターン①:車に乗らない。】

俺は首を横に振った。

ソクジン兄さんと一緒にいると何があったか必ず
聞いてくるだろうが、

おばさんの病気のことはまだ誰にも言いたくなかった。

言葉にしてしまうと
それが現実になるような気がしたので、
まずはおばさんに直接聞いてみようと思ったからだ。

ホソク
「大丈夫です。またね、兄さん。」

俺は兄さんのそばを通り過ぎ、そのままバス停に向かって
走っていった。

おばさんの無事を心の底から願いながら。

ふと我に返ると、俺は橋の上を歩いていた。

【パターン②:車に乗る。】

焦っていた俺は兄さんの車に乗り込んだ。

ソクジン
「施設に行けばいいか?」

ホソク
「いや、おばさんの家に…」

おばさんが住んでいる町を伝えると、
兄さんが車を発進させた。

ソクジン
「おばさんって、俺がこの前会ったおばさんだよな?
何かあったのか?」

兄さんの心配そうな声を聞いて、俺は返答しないわけには
いかなかった。

ホソク
「…大腸がんらしいんです。」

ソクジン
「深刻な状態なのか?」

それを認めてしまうと現実になりそうな気がしたため、
俺は怖くなった。

ホソク
「…分かりません。手術を受けるそうなんですけど…」

平然を装って答えたつもりだが、声の震えを隠すことは
できなかった。

俺が言葉尻を濁して窓の外に目を向けると、
兄さんはそれ以上何も聞いてこなかった。

ホソク
「兄さん、ここで停めてください。」

ソクジン
「いいのか?」

ホソク
「はい、この近くなので。」

ソクジン
「ホソク。」

車から降りようとする俺を兄さんが呼び止めた。

ソクジン
「…おばさんはきっと大丈夫だ。」

ホソク
「ありがとうございます。」

ソクジン兄さんは励ましてくれたが、
手の震えは止まらなかった。

ふと我に返ると、俺は橋の上を歩いていた。

ふと我に返ると、俺は橋の上を歩いていた。

兄さんと別れた後、どうやっておばさんの家に行ったのか
よく覚えていなかった。

思い出せるのは、おばさんの家の窓越しに見えた
顔だけだった。

おばさんは誰かと話をしていて、時折笑っていた。

具合が悪いという話や手術が必要だという話、
成功する確率は低いという話は
全て噓のように感じられた。

おばさんは、母がいなくなった俺が
初めて信頼できるようになった人だった。

子守歌の代わりにおばさんが歌ってくれた歌謡曲は
母が好きだった歌で、
慣れない場所でもその歌を聴けば心が落ち着いた。

涙があふれそうになった。

メリーゴーランドの前で呆然と突っ立っていた自分の姿が
重なって見えた。

眩暈がした。

俺のそばにいてほしいだけなのに、
そう願うのはいけないことなのだろうか。

俺が一体何をしたというんだ。

ホソクは不安定な足取りで橋の上を歩いていた。

ショックを受けているような、
もしくは憂鬱な気分に襲われているような印象を受けた。

いろいろと試してみたものの、
ホソクがここで意識を失うことは
どうしても防げなかった。

ジョングクの時のように一緒にいたり、
ユンギの時のように妨害したりしても、

ホソクは施設のおばさんのもとに駆けつけ、
帰り道、この橋の上で意識を失ってしまうのだ。

ソクジン
「…がんって言ってたな。」

子供たちの面倒を見ていたおばさんの姿を思い出し、
俺も胸が痛くなった。

だが、今はホソクのことを考えるのが先だ。

ソクジン
「もうすぐ意識を失うはずだ…」

今回のループでは、ホソクが入院する前から
よく意識を失うということが気にかかっていた。

ソクジン
「ドンジンっていう人に会ってから何かが変わったんだ。」

再会が嬉しかったからと居酒屋に行ったことを後悔した。

ソクジン
「…入院させよう。」

不安定な足取りで橋を歩いていたホソクは、
今回もやはり同じ橋の上で意識を失った。

俺は119に電話をかけてホソクを入院させた。

ホソクは外科病棟のジミンと同じ病室に入院した。

俺はジミンと顔を合わせることを恐れて、
病室には入らないことにした。

顔を合わせたら何が起こるか分からなかったからだ。

ソクジン
「…これで階段での事故は避けられなくなった。」

俺は数日後に事故が起こる場所に向かった。
非常階段の2階と3階の間。

ホソクはある女性を母親と勘違いして、
5階からここに降りてくる。

俺が見る限り、その女性は年齢的にホソクの母親である
はずがなかったが…

「お母さん!」と叫ぶホソクの声は真剣そのものだった。

ソクジン
「そういえば… 共通点があるな。」

意識を失ったホソクが自分の家で母の名前を呼んでいた
ことを思い出した。

そして、母親同然のおばさんの家の前で
泣いていたホソクの姿も。

ソクジン
「全て「母親」に関係してる。

ホソクのナルコレプシーが母親に関係してるなら、
もしかしたらあの事故も…」

俺は他のループで階段での事故を防いだ時のことを
思い返した。

ソクジン
「無事に退院できたけど、次第にナルコレプシーで
意識を失うことが多くなって…
道で意識を失って事故に遭ったんだよな。

もしかしたら母親に似てる女性を見て
病気がひどくなるのかもしれない。それなら…」

考えが次から次へと頭の中を駆け巡ったため、
俺はしばらく階段を後にすることができなかった。

〈Episode 5. End〉


6.非常口

”ホソクのことを案ずるソクジンに助言するナムジュン。ソクジンは、そんなナムジュンを見てとあることを考える。”

22年5月11日

ホソクが入院した翌日。

俺はガソリンスタンドでの勤務を終えたナムジュンを
屋台に呼び出した。

ソクジン
「急に呼び出して悪いな。」

ナムジュン
「とんでもありません。」

俺が酒を注いでいると、ナムジュンの方から先に
ホソクの話を切り出してきた。

ナムジュン
「兄さん、ホソクが入院したそうなんですけど
聞きましたか?」

ナムジュンは目を覚ましたホソクと
連絡を取り合っているようだった。

ソクジン
「ホソクが?何かあったのか?」

自分が入院させたとは言えなかったので、
俺は驚いたふりをした。

ナムジュン
「昨日また道で意識を失ったそうです。」

ソクジン
「…またナルコレプシーか?」

ナムジュン
「はい。最近は落ち着いてると思ってたのに…」

ナムジュンは苦々しい表情でグラスに入っていた酒を
飲み干した。

ソクジン
「怪我はしてないのか?」

ナムジュン
「軽い脳震盪くらいだそうです。

大したことはないけど、もしかしたら他にも
異常が見つかるかもしれないから、
いろいろ検査するために何日か入院するそうです。」

ソクジン
「よかった…

ホソクは今回も母親の夢を見たのだろうか?」

悪夢に苦しめられるホソクの姿を想像して、
俺は胸が痛くなった。

ナムジュン
「そう言えば子供の日は施設に行ったんですか?
ホソクと行くって言ってましたよね。」

ソクジン
「ああ、楽しかったぞ。
施設のおばさんに会えたし子供たちとも遊べたし。

ホソクは子供たちから大人気だったな。」

ナムジュン
「家族だっていつも言ってますからね。
施設は実家だっていうのも。」

ソクジン
「本当にそう見えたよ。ただ…

ホソクが母親のように接してるおばさんがいるんだけど、
具合が悪いみたいなんだ。」

ナムジュン
「どこが悪いんですか?」

ソクジン
「がんらしい… あまりよくないみたいだ。」

それから、俺はドンジンというホソクの
施設の同期に出会ったことや、
一昨日ホソクが意識を失ったことを
ナムジュンに打ち明けた。

真剣な表情で話を聞いていたナムジュンが口を開いた。

ナムジュン
「しばらく落ち着いてたのに
突然こんなことになるなんて…

ストレスがかなり溜まってるんだと思います。
せっかくだから病院でしばらく休んだ方が
いいかもしれませんね。」

言い終えたナムジュンが酒をあおるのを見て、
俺は慎重に口を開いた。

ソクジン
「母親と関係があるんじゃないかと思うんだ。」

ナムジュン
「何がですか?」

ソクジン
「意識を失うことだよ。

寝言で母親の名前を呼ぶのもそうだし、
母親同然の人が病気にかかったっていう話を聞いてから
症状がひどくなった気がするんだ。」

ナムジュンはしばらく黙ってから口を開いた。

ナムジュン
「そうかもしれませんね。おばさんのことを考えてるうちに
母親のことにも思い至っただろうし。」

ソクジン
「…母親を2回も失った気分なんだろう。」

重いテーマに俺は口を開くことができず、
ナムジュンは考え込んでいるかのように
しばらくグラスを見つめていた。

ナムジュン
「…兄さん、ホソクの夢が何か知ってますか?」

ソクジン
「ダンスで有名になって母親に再会することだろ?」

ナムジュン
「はい。でもダンスを踊ってる時はそんなことも全て
忘れるみたいなんです。

ダンスがこの世で一番楽しいみたいですね。」

ダンスが大好きになったというホソクの言葉通りだった。

ナムジュン
「だから自分は… ダンスがホソクにとっての
薬なんだなって思ってたんです。」

ソクジン
「薬?」

ナムジュン
「踏ん張らせてくれるもの、耐えられないことを
耐えられるようにしてくれるもの。

ホソクにとってはそれがダンスだったんです。
兄さんにもそういうものが1つくらいありませんか?」

ナムジュンが静かに俺に目を向けた。

俺はじっと考え込んでナムジュンの言葉を何度も
反芻した。

俺はナムジュンと一緒にホソクの見舞いに行くことを
約束して家に帰った。

階段での事故が単なる事故ではなく、
ナルコレプシーを引き起こす
トラウマと関連があるのなら、

避けることはできなかった。

ホソクにとってダンスが持つ意味を知っている
ナムジュンなら、
明日ホソクの反応を見て俺が見逃している何かに
気付けるかもしれない。

一緒に見舞いに行くという提案にはそんな期待もあった。

ソクジン
「見舞いのことはホソクにも伝えたから、
後はナムジュンをどうやって階段まで
連れていくか、だな。」

事故が起こる時間にナムジュンは階段に
いなければならない。

ソクジン
「きっとうまくいく。」

俺は様々な状況を仮定して計画を練ってみたが、
ナムジュンの登場がホソクに
どのような影響を及ぼすかまでは予想できなかった。

ソクジン
「今回もやってみるしかないよな…」

22年5月12日

先に病院に到着していた俺は、
ロビーに入ってきたナムジュンを見て電話をかけた。

ソクジン
「ナムジュン、どこだ?」

ナムジュン
「いま着きました。兄さんはどこですか?」

ソクジン
「俺もさっき着いたところだ。」

俺はそう言ってナムジュンに近付き、軽く肩を叩いた。

ソクジン
「人が多いから階段の方に行こう。」

ナムジュン
「何階ですか?」

ソクジン
「3階だ。」

俺は階段に向かうために嘘をついた。

ちょうどエレベーターの待機列が
長かったことも功を奏したようだ。

ナムジュン
「3階なら階段の方が早いですね。」

ナムジュンが頷き、俺たちは非常階段に向かった。

ソクジン
「肝心なのはここからだ…」

かならず成功させなければならないと考えていると、
足音が聞こえてきた。

???
「ゆっくり降りるのよ。」

上の階から子供を連れて降りてきた人物は、
ホソクが母親だと勘違いしているあの女性だった。

〈Episode 6. End〉


7.残された存在

”非常階段から落ちるホソクを救う日。ソクジンは計画通りに事を進めるために行動する。”

ナムジュンと共に階段を上って2階に到着すると、
話し声と足音が聞こえてきた。

女性
「ゆっくり降りるのよ。」

上の階から子供を連れて降りてきた人物は、
ホソクが母親だと勘違いしているあの女性だった。

ソクジン
「よし。ここでホソクが降りてくるのを待とう。

ナムジュン、ストップ。」

俺が声をかけると、ナムジュンが足を止めて
こちらに振り返った。

ナムジュン
「どうしたんですか?」

ソクジン
「時間を稼がないと…」

《選択肢》
①病室を勘違い
②何か買っていかないか?

【パターン①:病室を勘違い】

ソクジン

「病室を勘違いしてたみたいだ。3階じゃなくて5階だった。」

ナムジュン
「そうなんですか?」

ソクジン
「ちょっと確認してみる。」

俺は階段で立ち止まり、メッセージを確かめるふりをして
携帯電話を操作した。

女性は子供の歩幅に合わせて一段ずつ階段を降りていた。

ソクジン
「もう少しの辛抱だ。もうすぐで…」

しばらくすると大きな足音が響き、

「お母さん!」

ホソクの叫び声が聞こえてきた。

【パターン②:何か買っていかないか?】

ソクジン

「考えてみたら手ぶらで行くのはちょっと寂しくないか?
売店で何か買っていこう。ホソクって何が好きなんだ?」

ナムジュン
「えっと… 最近マンドゥが食べたいって言ってましたね…」

ナムジュンは立ち止まっていろいろな食べ物を
提案してくれた。

女性は子供の歩幅に合わせて一段ずつ階段を降りていた。

しばらくすると大きな足音が響き、

「お母さん!」

ホソクの叫び声が聞こえてきた。

ホソクの叫び声が聞こえてきた。

ナムジュン
「あれ?ホソクの声じゃないですか?」

ナムジュンが声のする方を見つめながら口を開いた。

その時、女性が子供を連れて俺たちのそばを通り過ぎた。

ソクジン
「頼む…」

続けてホソクが姿を現した。

ホソクに起こる出来事を何も知らないナムジュンは、
ホソクの視線を確認するやいなや

ナムジュン
「すみません!待ってください!」

ホソクがお母さんと呼んだ女性を追うために
階段を降りてしまった。

ソクジン
「待て!」

一瞬の出来事だったため、制止する暇すらなかった。

少し遅れて状況を把握した俺が
ホソクを捕まえようとしたが…

「うわあーっ!」

ホソクはその場でバランスを失い、転倒してしまった。

ナムジュン
「ホソク!」

ホソクは悲鳴を上げながら、脚を押さえて床の上で
のたうち回っていた。

ホソクはもう踊れない。

どこからかガラスが割れる音が聞こえてきた。

22年4月11日

俺は再び自分の部屋で目を覚ました。

心臓はまだ脈打っており、
ホソクの悲鳴が耳元でこだましているような
感覚に陥っていた。

ソクジン
「ナムジュンがあんな行動を起こすなんて…」

予想はできなかったが、
十分理解できる行動だった。

ソクジン
「俺の考えが甘かった。
もう一度やってみよう。」

22年5月12日

その後、何度かナムジュンを引き入れてみたものの、
その度に失敗を繰り返した。

ループを繰り返しながら
やはりホソクを入院させるべきでは
ないのかもしれないとも考えたが、

ホソクのトラウマと関連がある事件なのだとしたら、
必ず解決しなければならない。

ソクジン
「逃げたらだめなんだ…」

以前試した方法だが、俺はもう一度挑戦してみる
ことにした。

ソクジン
「ホソクの事故を防いだ後、母親について聞いてみよう。」

ホソクが来るまで少し時間が余っていたので、
俺が辺りをうろついていると、

ソクジン
「…ジミン?」

2階の理学療法室からジミンが出てきた。

病室に戻るところなのか、ジミンはエレベーターの
ボタンを押した。

俺はジミンに見つからないよう、非常階段に身を隠した。

ソクジン
「そういえばこの後ジミンも助けないといけないのか…」

今日の事故を防いでホソクが退院した後、
どうやってジミンを助ければいいのだろう。

ソクジン
「退院したホソクに頼んで子供たちを呼んでもらうか?」

しかし、いかなる方法を用いても
ジミンはいつも出入り口の前で立ち止まるか、
病院を出ても樹木園を通り過ぎるあたりで
発作を起こした。

ソクジン
「待て。」

ふとある考えが頭をよぎり、俺は立ち止まった。

ソクジン
「ホソクを助ける鍵になるのは… ジミンなんじゃないか?

よく考えれば、ジミンを救いに行った時も
ホソクとテヒョンのことで悩んでた。」

これまでジミンの救出に成功したことは一度もなかった。

ソクジン
「もしも… 今回の事故にホソクとジミンが関わって
いるとしたら?

どうして気が付かなかったんだ。
ホソクとジミンは互いに助け合うのかもしれない。」

心臓が強く脈打ち始めた。

間もなくホソクが階段を降りてくる。

ソクジン
「時間がない、どうする?」

俺は身を隠した状態で深呼吸した。

ジミンを引き込むのは良いアイデアだと思ったが、
問題はその後だった。

ソクジン
「俺がここにいる理由を尋ねられたら何て答えようか…」

今日は見舞いの約束を取り付けていなかったため、
俺が病院にいる正当な理由はなかった。

ソクジン
「…それは後で考えよう。」

事情の説明くらいなら、適当に言い訳をすれば
それで済む。

ソクジン
「ジミン!」

自分の名を呼ばれ、ジミンが振り返った。

ジミン
「ソクジン兄さん?どうしてここに…」

驚いたジミンは逃げ出そうとしたのか、
数歩後ずさりした。

その時になって、今回のループで
ジミンと俺は出会ったことがなく、
ジミンは入院していることを周囲に知られないように
していたことを思い出した。

ソクジン
「今は説明している暇はない。」

焦っていた俺は慌てて引き返した。

結局、俺はジミンを置いて1人で非常階段の方へ
戻るしかなかった。

ソクジン
「くそっ、時間が…!」

急いで扉を開けて駆け付けたが、
ホソクはすでに2階へと向かう階段を降りていた。

ソクジン
「ホソク!」

「うわあーっ!」

選択を誤ってしまった。

ソクジン
「ホソク!」

俺の指先がホソクの病衣にかすかに触れたものの、
今回もホソクを救うことはできなかった。

〈The End〉



ーーー


お疲れ様です。

ゲームアプリ内の展開に沿ってジミン、ホソクがメインとなるエピソードを書き起こしました。


次回の記事では、テヒョンがメインとなるエピソードとエピローグを書き起こして、全51話のエピソード全ての書き起こしが完結する予定です。ぜひ最後までお付き合いください~



〈次回〉

※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。

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