BTS【花様年華】⑪それぞれの出会い-2
テヒョンとの関係に悩むソクジンにも新しい出会いがありました。
ジョングクのお見舞いのためにひとりで病院を訪れたソクジンは、どこかソクジンを警戒するような態度のジョングクに違和感を覚え、10分ほど他愛もない会話をしてすぐに病室を後にしました。
病院からの帰り道、ソクジンは踏切ですれ違った女性が赤い手帳を落としたことに気が付いて咄嗟に拾います。その手帳には「イタリア語講座」や「捨て犬のボランティア」などの彼女の叶えたい夢や、「彼氏とイヤフォンを片耳ずつつけて散歩する」のような可愛らしい願望がたくさん詰まっているものでした。のちに彼女と親しい仲になったソクジンは、手帳に書かれていた彼女の願いを一つひとつ叶えることで、彼女の理想の男性を演じるようになります。
彼女はソクジンが自分の落とした手帳を持っていることを知りませんでした。ソクジンは、事実を話さずに彼女を騙すようなことをしていることが過ちであるとわかっていても、本当の自分のままでは彼女が自分を愛してくれないのではないかと考えていました。
そして、彼女が喜んだ笑顔を見せるたびに、まるで自分が”いい人”であるように感じていました。
ナムジュンはあの日歩道橋で見かけた女性を、その後も図書館やバスで頻繁に見かけていて、いつか手渡そうと買っていたヘアゴムをいつも持ち歩いていましたが、話しかけることは出来ずにいました。
この日、彼女がいつも降りるバス停に着いたとき、彼女はぐっすりと眠っていました。ナムジュンは彼女がここよりもずっと遠い場所で目を覚ましたとき、今日という日がどんなに疲れる一日になるだろうかと想像して、声を掛けて起こすかどうか迷っていました。しかし、この日もナムジュンは彼女に声を掛けることが出来ず、眠っている彼女の鞄の上にそっとヘアゴムを置いてコンテナの最寄りのバス停に降り立ちます。
バス停には、壁いっぱいのテヒョンの新しいグラフィティと、乱雑に散らばるスプレー缶が残されていました。
翌日、ナムジュンはソクジンを誘って屋台に飲みに行きました。7人で海に行った日にソクジンが打ち明けようとした学生時代の話、家族の話、自分がどんな人間でどんな葛藤を抱えているのか、二人は酔いに任せて今までに打ち明けたことのなかった話をさらけ出します。
そしてその帰り道、ソクジンもナムジュンが見かけたのと同じ、バス停に残されたテヒョンの新しいグラフィティに気が付いて、ふと足を止めました。
ホソクは足首の捻挫が悪化し、半ギブスを付けるためにジョングクと同じ病院を訪れていました。ジョングクの病室を訪ねて置かれていたスケッチブックを捲ると、そこには倉庫の教室、トンネル、7人で行ったあの海、そしてあの日事故に遭った記憶や見続けている悪夢の絵が描き綴られていました。
ホソクは、ジミンを病院から脱走させて7人が再会したあの日のことを思い出し、ジョングクの退院を祝うパーティをしようと思い付きます。
この頃、病室で悪夢を見続けるジョングクにはある一つの疑念が生まれていました。ジョングクの悪夢の中で鳴り響く車のブレーキ音はどこか聞き覚えのあるもので、それがもしかすると乗り慣れたソクジンの車のブレーキ音かもしれないと考えるようになります。数日前ひとりでお見舞いに来たソクジンに、どこか警戒する態度を取ってしまったのもそのためでした。
ジョングクはそんな信じがたい疑念を振り払うように、ホソクに「ソクジン兄さんはいい人ですよね?」と問いかけます。質問の意図がわからないホソクは「何、言ってるんだ」と軽くあしらって病院を後にし、その態度がまたジョングクを刺激して、ジョングクの中にもしかしてソクジンが自分を轢いた犯人で、みんながそれを庇っているのではないかという考えが生まれてしまいました。
テヒョンは、あの日ひとりで逃がした女性を探していましたが、見つけることが出来ずにいました。そして、二人で一緒に描いたグラフィティに、大きく✖の印が描き加えられていることに気が付きます。
ジョングクが退院した日、ジミンは自分が病院を抜け出した時にしてもらったように、またコンテナで退院パーティをしようと6人に声を掛けていました。しかし、当日は主役であるジョングクと、ジミンが無理矢理連れてきたテヒョンの3人しか集まることが出来ず、皆もう昔のように何もかもを後回しにして一緒に過ごすことが出来る立場ではなくなっているのだという現実を突きつけられました。
ナムジュンの帰りを待たずに解散したあと、バスを待つジミンと別れたテヒョンとジョングクは、携帯のライトで道を照らしながら二人で線路沿いを歩いて帰ります。
テヒョンのアパートに着くと、そこには警察に頭を下げる姉の姿がありました。顔馴染みの警察から父親が酔って暴れた物音を聞いた近所の住人が通報したのだと説明を受けたテヒョンは、その通報者の様子に違和感を覚え、今更になって自分たちを捨てた母親が心配して訪ねてきたのではないかと気が付きます。
姉から母親がムニョンという町で暮らしていることを聞き出したテヒョンは、怒りに任せてアパートを飛び出し、歩いてムニョンへと向かいました。線路を横切って渡ったとき、ふと視線を感じ振り向くと、そこには病み上がりの身体で懸命にテヒョンの後を追うジョングクの姿がありました。戻れと叫ぶテヒョンは、今まで誰にも話していなかった見られたくないものを見られてしまったという思いでいっぱいでしたが、それでもジョングクはテヒョンの後についてどこまでも歩き続けました。
歩き続けるうちに、自分の抱える問題を見られたくないというプライドやジョングクの身体を心配する気持ち、いざ母親に会った時の自分を想像した複雑な想いに駆られて、テヒョンの怒りは次第に薄れていきました。その後立ち寄ったコンビニで、カーキ色のコートを着たホームレスの男と何人かの地元の男たちとの喧嘩に巻き込まれた二人は、ムニョンへ向かうことを諦めて日が昇る前の一番暗い夜空を眺め、テヒョンは初めて母親が自分たちを捨てて出て行った日のことを打ち明けました。
永遠に暗いままだと思えた空に青みがさし、日が昇っていく様子を黙って見つめながら、二人はバスに揺られてソンジュの街へと戻りました。
その日、ソクジンはジョングクの退院パーティに行くつもりでいましたが、突然父親に呼び出されてソンジュの街の再開発に関わる会議に同席することになります。父親と会議に向かう車内で「まだあの友達という奴らと付き合っているのか」と6人のことを非難され、ソクジンは何も言い返すことが出来ずにいました。
ユンギは依然として荒んだ生活を送っていました。ある日、いつものように酒に酔って街をふらついていたユンギは、偶然ホソクに会い「つらいのは兄さんだけだと思ってるんですか?僕たちが傷付かないとでも、つらくないとでも思ってるんですか?」と激しく叱責されます。
ホソクを見た瞬間、きっと自分のことを理解してくれると期待したユンギは、これまでに見たこともない剣幕で捲し立てるホソクを見て、何もかもを諦めるような深い絶望を感じました。覚束ない足取りで山中を彷徨って意識を失いかけたその時、ふとユンギの頭の中に遠ざけていたピアノの旋律が響き、必死に思い出そうとしていたあのアジトでジョングクと奏でたメロディーが降り注ぎました。一度この音が途切れたら、もう二度と聞くことがないような気がして、ユンギはわずかに残る力を振り絞って歩き続けます。
思うように行かない自分の現状と相まって、ユンギに啖呵を切ったホソクは、その翌日から悪化する足の怪我の療養のために休暇を取ることになっていました。
これまで心のどこかでいつも「悪いのは自分だ」「自分が我慢するべきだ」と考え、周りの友人たちを優先することが多かったホソクは、あの時自分を呼び止めたユンギの声を無視して振り返らなかったことで、何かが変わり始めます。
思い返せば、7人のグループチャットに最初に連絡を入れるのはいつも自分で、もし連絡をしないことでこのまま疎遠になってしまったとしても、それは自分のせいではないのだと、ホソクは意地でも自分から連絡をしないと意思を固めていました。そして、そんな当たりどころのない苛立ちを抱えたまま、ふと思い立つようにソンジュを離れてハゴクの街へと向かいます。
同じ日、ジョングクは病院で一緒の時間を過ごした女性を見舞うため、野花を摘んだ小さなブーケを作って病院を訪れました。すっかり回復した軽快な足取りで階段を駆け下りて彼女の病室へ入ると、そこには彼女の姿はなく、ただ無人のベッドがぽつんと置かれているだけでした。
ジョングクには彼女がどうしていなくなったのか、知る術はありません。あまりにも突然の呆気ない別れに、ジョングクはかつて自分が心を許した兄たちもまた、ふとした瞬間にいなくなってしまうのではないかという不安に駆られました。
ジミンはダンスに没頭することで、今まで許すことが出来ずにいた自分自身を段々と好きになれていると感じていました。ホソクが練習室に顔を出さなくなってから4日が過ぎ、心配になってツースターバーガーを訪ねたジミンは、そこで初めてホソクが3週間の病気休暇を取っていると知りました。
ホソクが暮らす屋上の部屋に続く階段を駆け上がり、鍵のかかったドアの前で「どこにいるんですか」と送ったグループチャットに、ホソクからの返信が来ることはありませんでした。
ソンジュとよく似たハゴクの街に着いたホソクは、最初の数日間は滞在する宿の近所を気ままに歩き回り、3日目に偶然立ち寄った市民会館で、ダンスの練習をする男性の一挙手一投足に目を奪われます。市民会館の入口には、翌々日に行われるダンスアカデミーの公演のポスターが貼られていました。
ホソクは宿に戻ってからも、踊る男性の姿を何度も思い返しては、高鳴る心臓を抑えることが出来ず、翌日もまた同じ時間に市民会館を訪ねて彼の練習を見続けます。ポスターに書かれた公演にも足を運んだホソクは、舞台の上にあの男性の姿を探しましたが、最後まで彼の出番はありませんでした。
ホソクがそのダンスアカデミーの公演に同行することになったのは、あらゆる偶然が重なってのことでした。練習を見ていた時に顔見知りになっていたスタッフの一人に、あの男性が以前は誰もが認める実力を持ったプロのダンサーとして活躍していたこと、そしてある日悲惨な怪我をして二度と舞台には立てなくなってしまったこと、今は芸術監督としてダンスアカデミーに戻ってきているということを聞いたホソクは、誘われるがままに公演スタッフの手伝いとして3つの都市を回りました。
ホソクに叱責された後、長い間雨の中を彷徨ったせいで酷い風邪をひいていたユンギは、あの日のホソクのどこか普段と違った様子が気掛かりとなっていました。
ホソクはこれまで怒って急き立てることはあっても、沈黙したり無視したりするようなことは一度もなく、今回のことで自分がホソクを本当に失望させてしまったのだと感じ、既読の数が増えるだけで誰一人として返信をしない、ジミンがホソクに向けて送ったメッセージを眺めていました。
ナムジュンのコンテナに、ソンジュの街の再開発のチラシの貼られたのはこの頃です。線路に沿って並ぶコンテナとその向かい側の無認可の建物を撤去するという話は、これまでに何度も出てはいましたが、誰一人立ち退きの要求に従う者はいませんでした。
ダンスアカデミーに同行している間、あの男性とたった一度だけ言葉を交わすチャンスがあったホソクは、自分もダンスが生き甲斐であったこと、怪我をして踊ることが出来なくなってしまったことを打ち明け、それを乗り越えた彼の「高く舞い上がるためには、自分自身の深さを知らなければならない」という言葉を噛み締めます。
彼の話を聞いたホソクは、自分の一番暗い挫折やその時自分自身を奮い立たせてくれるものについて考え、次第にあの日つらくあたってしまったユンギや、何も言わずにソンジュの街に残してきた友人たちのことが気になるようになっていました。公演スタッフから正式にダンスアカデミーに加わらないかと誘いを受けていたホソクでしたが、その誘いを断ってソンジュに戻る決意をします。
相変わらず動く様子のないグループチャットを開いたホソクは、ジミンが自分を心配して送ってくれたメッセージに返信をして、ユンギにもメッセージを送ります。ユンギから返事の代わりに送られてきた1つの音楽ファイルを再生すると、それはまるでユンギの人生を生き写したかのように歓喜と絶望が交差した美しい音楽でした。
その後久しぶりに練習室に顔を出したホソクは、あの日話を遮って見て見ぬふりをしてしまった幼馴染のお姉さんのダンス留学を祝って、お互いに成功しようと約束を交わしました。
テヒョンは、大きく✖が描かれたあのグラフィティに「君のせいじゃない」というメッセージが描き加えられていることに気が付きました。テヒョンは描いているのを見たわけでも、筆跡を知っているわけでもありませんでしたが、それを描いたのがあの日別れてしまった彼女であると確信し、その短い一文を噛み締めます。
アパートに着き、中から父親の荒い息遣いとグラスのぶつかる音が聞こえると、テヒョンはその言葉を何度も反芻し、大きく深呼吸をして部屋へと入りました。
ソクジンは、彼女がいつか見てみたいと手帳に書いていた”スメラルド”という花を探していました。しかし、どんな花屋を尋ねても”スメラルド”はなく、それどころがその花を知る人すら見つけることが出来ずにいました。
ある日、運転中に偶然見つけた内装工事中の小さな花屋を訪れたソクジンは、店の奥で作業をしていた男性に”スメラルド”について尋ねます。男性は新しくオープンするこの花屋の店主で、この店が運命的にも”スメラルド”の専門店であると教えてくれました。
正式なオープンはまだ先だが配送ならば出来そうだと言う店主の話を聞いたソクジンは、半月後のyear22.08.30に受け取れるよう手配します。その日はソンジュの街を流れるヤンジ川の花火大会で、ソクジンはその花火大会に彼女を誘って”スメラルド”を手渡し、想いを伝えようと考えていました。
ユンギは、あの日ホソクに送った音楽ファイルをその後も何度か修正し、自分の抱える恐怖や不安、出来損ないの自分自身の姿を込めた『HOPE』という曲を完成させました。
テヒョンは、海で口論になってから顔を合わせていないナムジュンのコンテナに、毎日どんな時間でも灯りが灯されていることについて考えていました。その灯りはナムジュンから送られる「いつでも訪ねてこい」というメッセージだということに気が付いていましたが、そのドアを開けることだけが出来ずにいたのです。
ホソクから「みんなで花火大会に行こう」と連絡を受けたテヒョンは、海から帰ったあとに見るようになったあの悪夢を思い出します。ソクジンが涙を流し、誰かの血が青い花びらを染めるその悪夢の終わりには、決まっていつも白い花火が夜空から降り注いでいました。ヤンジ川の花火大会は明日に迫っていました。
花火大会の当日、一緒に花火を見ようとソクジン以外の6人が徐々にナムジュンのコンテナへと集まります。一番初めに到着したジミンがコンテナの扉に寄りかかってみんなを待ち、両手いっぱいの荷物を抱えてやってきたホソクは、遠くに見えるユンギに向かって大きく手を振りました。
ジョングクは晴れない疑念のせいで、複雑な気持ちを抱えながらコンテナへとやってきましたが、楽しそうに先を歩く兄たちを見て、自分がこの7人で過ごす時間がどんなに好きだったのかを思い出しました。
ソクジンは彼女に”スメラルド”を渡して一緒に花火を見たあと、コンテナに向かって6人と合流する予定でした。鏡の前で何度も服を着替えては、きっと喜んでくれるであろう彼女へ想いを馳せていました。
彼女に会う前、予定よりも少し遅れてやってきた花屋の配送トラックから”スメラルド”のブーケを受け取ると、一緒に渡すはずのメッセージカードが付いていないことに気が付きます。ソクジンが電話をかけて事情を話すと、花屋の店主は急いで届けに戻ると伝えて電話を切りました。
通りの反対側から手を振ってソクジンに駆け寄る彼女の姿と、戻ってきた花屋の配送トラックの影が重なったのはその時でした。トラックは大きなブレーキ音を立てて彼女を撥ね、流れる血がアスファルトに転がった”スメラルド”の青い花びらを赤黒く染めていました。
打ち上がった最初の花火がはじけると、どこからかガラスの割れるような音が鳴り響き、ソクジンは目の前の景色が歪んでいくのを感じました。
約3ヶ月もの間起こらなかったタイムリープが、目の前で彼女が事故に遭ったことをきっかけに再び起こってしまいました。こうしてソクジンは、またあのyear22.04.11へと戻ることとなります。
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キリがいいので、この辺りで再び時系列整理の本筋から離れて、⑩⑪で整理した出来事に関連する作品たちをまとめる記事を投稿します。
〈次回〉
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※時系列まとめの次回記事はこちら※
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