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【資料④】BTS Universe Story 花様年華〈I’m FINE〉全文書き起こし-4(完)


前回の記事はこちら

BTS【花様年華】参考資料のまとめはこちら



アプリ版のBUストーリーの全文書き起こし記事、第四弾です。

『BTS Universe Story』の詳細は【資料④BTS Universe Story(ゲームアプリ)全文書き起こし-1】の冒頭を参照してください。




花様年華〈I’m FINE〉

◇前提

『BTS Universe Story』はメンバーの行動を選択しながら【花様年華】=BUの公式ストーリーを鑑賞できるゲームアプリです。全ての選択肢は一度枝分かれをしたのち、再び同じストーリーに合流するため、どの選択肢を選んでも最終的な結末が変わることはありません。

当記事では全ての選択肢を書き起こすため、選択⇒合流までの枝分かれしている内容を【パターン①】【パターン②】と表示し、合流後の最初の一文を重複して記載します。

《重要》
関連作品まとめ記事(BTS【花様年華】⑫~⑰関連作品まとめ-MV他)でもお伝えしておりますが、当noteの時系列整理記事には、このゲーム内のみに登場するエピソードは含まれておりません。①単純に数が多く拾い切れないことと、②当noteでの時系列整理に含む/含まないの判断基準を設けることが難しいためです。

このゲーム内のみに登場するエピソードの多くは物語の本筋には大きな影響のない細かな出来事や設定であり、MVやNOTESにおけるどの世界線での出来事かが明確ではないスピンオフ的な内容です。「そんなことが起きてた世界線もあったのね」とシンプルにゲームの展開をお楽しみください。


■心の距離 - テヒョン

【ストーリー案内】
”極端な選択を下すテヒョンを何としてでも止めなければ。”

日常的に家庭内暴力を受けているテヒョンとテヒョンの姉。ソクジンは、テヒョンが起こす悲劇を阻止するために方法を模索する。

(エピソード数:7)

1.近すぎず遠すぎず

”ジミンを病院から救い出すためにメンバーたちがパーティーを開く。ところが、ソクジンはテヒョンのことが気がかりでパーティーを楽しめなかった。”

22年5月15日

ナムジュンを救い、
ユンギはジョングクに、ジョングクはユンギに救われた。

何度も繰り返されるホソクの事故も食い止め、
俺は全員の力を借りてジミンを病院から救い出した。

ホソク
「気分はどう?」

ジミン
「分かりません… いや、良いと思います。」

テヒョン
「思うじゃなくて良いに決まってるだろ!」

ホソク
「そうそう!これで晴れて自由の身なんだから!」

ジミンを救い出すことに成功し、
全員が嬉しそうに笑っていた。

ソクジン
「こうしてみんなで笑い合ったのはいつ以来だろうな…」

今だけは、俺も心からこの瞬間を楽しみたいと思った。

だが…

ソクジン
「まだ終わったわけじゃない。」

俺はテヒョンに視線を向けた。
テヒョンはジミンのそばで明るい笑顔を浮かべていた。

あれほど明るく笑っているテヒョンが
あの残酷な事件を起こした理由は一体何なのだろうか。

ーーー

22年5月19日

路上でグラフィティを描いていたテヒョンが
警察に捕まった。

22年5月20日

テヒョンは警察署で丸1日を過ごした後、帰宅して

ソクジン
「自分の父親を…」

何度もループを繰り返した末に俺が知ったのは、
テヒョンとテヒョンの姉が日常的に家庭内暴力を
受けているということだった。

そして、姉に対する父の暴力が特に激しかった5月20日。

テヒョンは取り返しのつかない事件を起こしてしまう。

初めは、その瞬間さえ回避すれば
全て解決すると思っていた。

ソクジン
「その日、テヒョンを家に帰さないようにすれば…
あの事件を阻止できると思ってたけれど…」

俺はあらゆる方法を試してみたが、
全て失敗に終わってしまった。

テヒョンは、その日だけは家に帰ることに固執した。

ナムジュンにも協力してもらったが、それも無駄だった。

ソクジン
「どうすればいい?
どうすればあの悲劇を食い止めてお前を救い出せる?」

ーーー

ホソク
「兄さん!
1人で何をそんなに考え込んでるんですか?」

ソクジン
「いや、何でもないよ。」

ホソクが俺の隣に座って口を開いた。

ホソク
「こうして一緒にいられて嬉しいです。」

ソクジン
「そうか?」

ホソク
「はい。すごく久しぶりにみんなに会えたから。」

ソクジン
「そうだな。」

ホソク
「昔のことも思い出すし…」

ホソクは久しぶりの再会がとても嬉しそうだった。

だが、ホソクと会話を交わしながらも
俺の注意はテヒョンに向けられていた。

テヒョンがナムジュンに近付いた。

ソクジン
「話しかけようとしてるみたいだな。
どうしよう?」

《選択肢》
①ホソクの話を聞く。
②移動して2人の話を聞く。

【パターン①:ホソクの話を聞く。】

ホソク

「ゲームが下手くそな兄さんのおかげで、
高校の時はお菓子をたくさんゲットできました。」

ソクジン
「おごってやりたいからわざと負けてたんだよ…」

ホソク
「またまた~」

俺はホソクの話を聞き流しながら適当に相槌を打った。

ホソクには申し訳なかったが、
今はテヒョンが何の話をしているのか
気になって仕方がなかった。

ホソク
「何それ!?俺も食べる!」

ちょうどその時、テヒョンが取り出した菓子を見て
ホソクが立ち上がった。

絶好のチャンスだった。

続いて俺も立ち上がり、テヒョンとナムジュンに
近付いた。

そして2人の会話に耳を傾けた。

テヒョン
「今日は家に帰りたくないなぁ。」

【パターン②:移動して2人の話を聞く。】

ソクジン

「ホソク、悪い。電話だ。」

ホソク
「そうなんですね。行ってらっしゃい!」

電話に出るふりをしてテヒョンとナムジュンに
近付いた俺は、
2人の会話に耳を傾けた。

テヒョン
「今日は家に帰りたくないなぁ。」

テヒョン
「今日は家に帰りたくないなぁ。」

ナムジュン
「またそんなこと言ってるのか。」

テヒョン
「兄さん、今日ここに泊まってってもいいですか?」

テヒョンは高校時代も家に帰りたくないと
しきりに駄々をこねていた。

ソクジン
「その時はただ単純に、テヒョンが俺たちと一緒に
いたいからだと思ってたけど…」

テヒョン
「もうここで暮らそっかな。」

ソクジン
「父親と顔を合わせたくないんだろうな…

こんなに家に帰りたがらないのに、
どうして20日にあんな事件を…
何か理由でもあるのか?」

その日、テヒョンがどうしても帰宅しなければならない
理由があるのだとしたら…

それが分かればあの事件を防げるのかもしれない。

ソクジン
「救えるかもしれない。」

そう考えた俺は、改めて2人の会話に耳を傾けた。

ナムジュン
「泊まるなり帰るなり好きにしろ。」

ナムジュンの返答を聞いたテヒョンが破顔した。

テヒョン
「本当にいいんですか?」

ナムジュン
「もちろん。」

テヒョン
「今日はオールですね!何しましょう?
カードゲームとか?」

ホソク
「それいいね!楽しそう。」

ナムジュン
「明日仕事だからオールは無理だ。
寝るまでなら付き合うぞ。」

その時、バイブレーションの音が響いた。
テヒョンの携帯電話にメッセージが届いたようだ。

携帯電話を確認したテヒョンの表情が
たちまち暗くなった。

テヒョン
「兄さん、やっぱり僕帰らないといけないみたいです。」

ナムジュン
「どうかしたのか?」

テヒョンはナムジュンの質問に答えようとしなかった。

テヒョン
「…それじゃあ帰りますね。」

テヒョンを追って俺もその場を後にした。

ソクジン
「…あそこか。」

幸いにも、テヒョンはすぐに見つかった。

俺は気付かれないよう慎重にテヒョンを尾行した。

ソクジン
「さっきのメッセージ、どんな内容だったんだろう。」

家に帰ることを拒否していた
テヒョンの気が変わった理由は何なのだろうか。

テヒョンがいま何を考えているのか、
どこに向かっているのか、
俺には見当も付かなかった。

俺にできるのは、ただ気付かれないように
テヒョンの後を追うことだけだった。

ソクジン
「テヒョンの家ってこっちじゃないよな?」

テヒョンが歩いているのは、家への帰り道ではなかった。

疑問を抱きながらも、俺は黙ってテヒョンの後を追った。
近すぎず遠すぎない絶妙な距離を保ったまま。

〈Episode 1. End〉


2.観察

”ソクジンはテヒョンの父について調べる必要性を感じ、工事現場の実習に参加する。”

22年5月15日

家に帰ると言ってコンテナを出たテヒョンは、
バス停で立ち止まった。

ソクジン
「誰か待ってるのかな。」

数台のバスが出発したが、テヒョンはどれにも
乗ろうとしなかった。どこかに行くわけではなさそうだ。

テヒョンはバス停の近くにある店で買った間食を
持っていた。

しばらくすると、バスから1人の女性が降りてきて
テヒョンに近付いた。

ソクジン
「あの人は…」

テヒョンの姉、キム・ウネだった。

キム・ウネ
「今日は遅くなるって言ってたじゃない。
待っててくれたの?」

テヒョン
「俺もちょうど帰るところだから、一緒に帰ろうと思って
待ってたんだ。」

キム・ウネ
「先に帰っててよかったのに。お父さん、まだ
ご飯食べてないはずよ。」

テヒョン
「父さんのご飯なら俺が宅配頼んどいた。
姉ちゃんは食べたの?よかったらこれ。」

キム・ウネ
「何これ?ホットドッグ?」

2人は家に向かって歩き出した。

俺は身を隠した状態で一定距離を保ち、
2人の後を追った。

キム・ウネ
「…お父さん、お酒飲んでるかな。」

テヒョン
「飲んでるに決まってるじゃん。」

キム・ウネ
「……」

2人はしばらく無言で歩き続けた。

キム・ウネ
「でも最近はちょっと量が減ったでしょ。」

テヒョン
「飲まない日もあるしな。」

キム・ウネ
「仕事にも毎日行ってるし、怒られる回数だって
減ってるもの…

この状態がずっと続けばいいんだけどね。」

テヒョン
「…どうせ長くはもたないよ。」

ため息のように溢れ出たテヒョンの一言から、
父に対する不信感が伝わってきた。

ナムジュンの家で気が変わり、姉を迎えに行ったのも
姉を暴力から守るためだったのだろうか。

ソクジン
「そういえば毎日仕事に行ってるって…」

過去のループで確認した情報とは異なっていた。

テヒョンが偶発的に起こす事件の原因が外部に
あるのではないかと思い、
俺は事件が起こる前にテヒョンの父が勤めている現場に
行ったことがあった。

だが、その時はテヒョンの父はいなかった。

聞くところによると、数日間出勤していない
とのことだった。

ソクジン
「まずは確かめてみよう。」

ソクジン
「おじさん、お願いがあるんです。」

ーーー

ソン・ジュノ
「ソクジン、いるか?」

ソクジン
「はい。」

ソン・ジュノ
「ほら、頼まれてたものだ。
現場実習って言ってただろ。必要な申請書だ。」

ソクジン
「ありがとうございます、おじさん。」

ソン・ジュノ
「大したことはしてないさ。

お前のお父さんも興味を持っていたぞ。
見守っていてくれるそうだ。」

ソクジン
「父さんが?」

ソン・ジュノ
「せっかくのチャンスだから頑張ってくるんだぞ。
今回の経験がいつか役に立つはずだ。」

ソクジン
「分かりました。」

22年5月17日

監督
「ほら、早く働け!給料分はしっかり働いてもらうからな!」

工事現場の監督は大声で作業員に指示を出していた。

監督
「ちっ… ただでさえ忙しいのに現場実習だと?

おい、お前。悪いが忙しいから
あんまり気にかけてやれねえぞ。

他の奴らの動きをよく見とけ。それから危険な所には
行くなよ。」

ソクジン
「分かりました。

逆によかった。」

気にかけられなければ、それだけテヒョンの父に
目を向けやすくなるだろう。

俺は監督と距離を取りながらゆっくりと周囲を見渡した。
テヒョンの父はすぐに見つかった。

黙々と働いている姿を見ていると、問題は何もないように
感じられた。

ソクジン
「どうして家では暴力的になるんだろう?」

ちょうど監督もテヒョンの父を見ていたようだった。

彼は眉間にしわを寄せてテヒョンの父を怒鳴りつけた。

監督
「おい!またサボってやがるのか!」

キム・ソンフン
「いや、脚立がなくて…」

テヒョンの父は足踏み板が付いた
安全な脚立を使おうとしているようだった。

監督
「そんなこと気にしながら作業してやがんのか!?
あっちにはしごがあるからそれを使え。」

キム・ソンフン
「え?でも…」

監督
「ちんたらしてたら工期がどんどん遅れるだろうが!
早くしろ!!」

テヒョンの父の顔が悔しそうに歪んだ。

しかし、間もなく納得したようにはしごを立てて
作業を開始した。

ソクジン
「危なっかしいな…」

俺の心配が表情に出ていたのか、監督が話しかけてきた。

監督
「勘違いすんなよ。
まだガキだから分かんねえかもしれねえけどよ、
現場じゃ常にルールを守れるわけじゃねえ。

その時の状況に合わせて融通を利かせねえと
間に合わなくなるんだ。」

ソクジン
「はい…」

俺は何と答えるべきか分からず、ただ相槌を打った。

その時…

作業員(キム)
「う、うわあっ!」

ドン!

少し前まではしごの上で作業していた
テヒョンの父が地面に落下し、うめき声を上げた。

監督
「おい!!」

監督は舌打ちし、事故が起きた場所に向かって
駆け出した。

テヒョンの父は腰に手を当てて何とか体を起こした。

監督
「危ねえだろうが!怪我はしてねえか?」

キム・ソンフン
「こ、腰が…」

監督
「痛むのか?作業は?」

キム・ソンフン
「うう… 今日は無理みたいです… うっ!」

監督
「ったく… どうすんだよ。ぼーっとしてっから
怪我すんだろうが…」

監督は責任を押し付けようとしていた。

監督
「ほら、これやるから今日はもう帰れ。
ちゃんと病院にも行くんだぞ。」

監督はポケットから数枚の紙幣を取り出して
テヒョンの父に手渡した。

ソクジン
「もしかしてそれでこの事故をなかったことに
するつもりか?」

テヒョンの父は何か言いたそうな顔をしていた。

しかし、監督の高圧的な目を見て
諦めたように紙幣を受け取った。

そして振り返り、ゆっくりと歩き出した。

監督
「おい、お前。」

ソクジン
「はい?」

テヒョンの父の行動にばかり目を向けていた俺は、
監督に突然話しかけられて少しうろたえてしまった。

監督
「驚いたか?
わりとよくあることだからよ、
お前はあんま気にしなくていいぞ。

ここの仕事はちっとばかし危険でな。」

ソクジン
「あ、はい…」

監督
「ほら、これやるから今日はもう帰れ。」

監督は俺にも紙幣を渡してきた。

ソクジン
「え?どうしてお金を…」

監督
「今日は疲れただろ。帰りにうまいもんでも食え。

それから今日のことは綺麗さっぱり忘れろ。
…どういう意味か分かるな?」

俺は監督の真意に気付いた。

吐き気がするほど卑怯で利己的な態度に怒りが
込み上げてきた。

だが、今は監督と無駄に争っている場合ではない。
テヒョンの父の後を追わなければならないのだ。

俺は怒りで顔が歪みそうになるのを必死に抑え、
作り笑いを浮かべた。

ソクジン
「お金は結構です。では失礼します。」

俺は監督に挨拶をして急いで工事現場を後にした。

テヒョンの父はそれほど遠くには行っていなかった。
腰を痛めたためだ。

俺は気付かれないように後を追った。

腰が痛むのか、足を引きずるようにして歩いているため
なかなか前に進まなかった。

ソクジン
「あれ… どうしてこっちに行くんだろう?
病院なんてあったか?」

俺が疑問に思っていると、テヒョンの父はコンビニに
入っていった。

ソクジン
「コンビニ?」

俺はしばらく外で待つことにした。

ソクジン
「工事現場では何ともないように振舞ってたけど…
かなりの事故だったよな。

あの事故のせいで19日も出勤できないんじゃないか…」

その時、テヒョンの父がぎっちりと詰まった袋を持って
コンビニから出てきた。

ソクジン
「あれは… もしかして酒?
腰を痛めてまともに歩けないくせに、酒を飲むのか?」

俺が驚愕していると、テヒョンの父は家の方向に
歩き始めた。

負傷しているのに酒を飲むなど、
信じられることではなかった。

ソクジン
「あんな状態で酒を飲むなんて…」

何の解決にもならないだろうが、
テヒョンのことが心配になった俺は
携帯電話の通話ボタンを押した。

ツーツーツー…

だが、テヒョンは電話に出なかった。

テヒョン
「ふう…」

スプレーを吹き付けている間、俺はこらえていたため息を
吐き出した。

先ほど書いた青い文章が目に映った。

なぜこんな色を使ったのか、
なぜこんなことを書いたのか、
よく分からなかった。

ただ、1つだけ確かなことがあった。

馬鹿馬鹿しくて醜いこのグラフィティは
俺自身の気持ちだということ。

俺は手を伸ばしてまだ乾いていないペイントを
そっと撫でた。

滲んで形が崩れてしまったが、消えることはなかった。

俺はすぐに他の色のスプレーを手に取った。

そして俺の全てを吐き出すかのように、
俺は元のグラフィティの上にスプレーを吹き付けた。

〈Episode 2. End〉


3.幸せな記憶

”コンビニでアルバイトをしているテヒョンは、仲の良い親子の客を見て過去を回想する。”

22年5月18日

テヒョン
「14,000ウォンです。」

客がぶっきらぼうに金を放り投げた。

俺はため息をぐっとこらえて金を受け取った。

テヒョン
「袋はご利用ですか?」


「このまま持って帰れってか?」

テヒョン
「…袋は20ウォンです。」


「袋くらいタダでくれよ。」

テヒョン
「法律が変わったんです。料金をいただかないと…」


「知らねえよ!タダでいいだろ。」

テヒョン
「いや、だから…」

《選択肢》
①拒否する。
②無料で袋を渡す。

【パターン①:拒否する。】

テヒョン

「お客様、20ウォンを頂かないと袋はお渡しできません。」

俺はきっぱりと言い切った。

すると、客の顔が歪み
ポケットから小銭を取り出して投げつけてきた。


「たかが20ウォンでガタガタぬかしやがって!
これでいいんだろ!?」

「たかが20ウォン」を払おうとしなかったくせに、
客は不満を爆発させた。


「これもいらねえよ!」

客はつり銭の小銭まで投げつけてコンビニを出ていった。

投げられた小銭が体に当たり、
俺は怒りのあまり拳を強く握りしめた。

テヒョン
「ふう…」

俺は深呼吸して気持ちを落ち着かせ、小銭を拾った。

横柄な態度を取る客はすでに3人目だった。

【パターン②:無料で袋を渡す。】

テヒョン

「はぁ… 分かりました。」

俺は説得を諦めて無料で袋を渡した。
これ以上は怒りを抑えきれる自信がなかったからだ。

テヒョン
「袋代の20ウォンは後で俺の財布から出しておこう。

どうぞ。」


「タダでいいんじゃねえか!
ならさっさと渡せよ。無駄に疲れさせやがって…」

客は最後まで悪態をつきながらコンビニを後にした。

横柄な態度を取る客はすでに3人目だった。

横柄な態度を取る客はすでに3人目だった。

テヒョン
「今日はツイてないな…」

その時、コンビニの扉が開いた。

テヒョン
「いらっしゃいませ。」

条件反射で挨拶をした後、俺は客がソクジン兄さんだと
いうことに気付いた。

ソクジン
「よっ。」

ソクジン兄さんが手を上げて挨拶を返し、
店内の片隅で手に取ったコーヒーをレジまで持ってきた。

テヒョン
「1,800ウォンです。」

ソクジン兄さんは笑みを浮かべながら
カードを取り出した。

テヒョン
「最近よく来ますね。」

ソクジン
「まあな。近くで用事があるんだ。」

本当かどうかはよく分からなかった。

それよりも、俺の近況について聞かれることが少し…
少し嫌だった。

ソクジン
「今日は嫌な客は多かったのか?」

テヒョン
「はい、まあ…」

ソクジン兄さんはいつものように
意味のない質問を投げかけ、
俺もまた、いつものように適当に返した。

ソクジン
「ところで…」

テヒョン
「はい?」

ソクジン
「お父さんは元気か?」

テヒョン
「…どうしてそんなこと聞くんですか?」

思わず声が冷たくなってしまった。
兄さんは俺の冷たい反応に慌てたようだった。

ソクジン
「い、いや… 元気かなって思って…
その… 大した意味はないさ。」

気まずい沈黙が流れたその時、ちょうど客が入ってきた。

テヒョン
「いらっしゃいませ。」

小さな子供とその父親だった。

子供
「パパ!これ買って!」


「それ食べるの?」

俺にもあんな時代があったな…

会計を終えて出ていく親子の姿を見て、
昔の記憶が蘇ってきた。

ーーー

テヒョン
「おとうさん!これだあれ?」

キム・ソンフン
「ん?どれどれ…
これはテヒョンが赤ちゃんの時の写真だよ。」

テヒョン
「ぼく?」

キム・ソンフン
「そう。テヒョンはお父さんとそっくりだろ?」

ーーー

その時、俺は携帯電話のバイブレーションで我に返った。

テヒョン
「もしもし。」

「あの… ヘジャングクの配達に伺ったんですが。
今ご自宅にどなたかいらっしゃいますか?」

テヒョン
「えっと、父がいるはずなんですけど…」

「ベルを鳴らしても出てこないんです。
配達が立て込んでてこれ以上は待てないんですよね。
ドアの前に置いてもいいですか?」

テヒョン
「あ、はい。お願いします。」

俺が言い終えると、電話はすぐに切られた。

テヒョン
「どうしたんだろう…
ベルを鳴らしたのに誰も出てこなかった?」

俺は家を出る前に見た父の姿を思い浮かべた。

酒を飲み過ぎたのか、うめき声を発しながら
気絶するように眠っていた。

テヒョン
「具合が悪そうだったな…」

姉に連絡するべきか迷っていると、
店内の片隅に立っていたソクジン兄さんが目に入った。

テヒョン
「ソクジン兄さんに店番を頼もうかな?」

俺は悩んだ。

テヒョン
「ちょっとだけなら頼んでもいいよな…?

兄さん… 今から家に帰らないといけないんですけど、
少しだけ店番をお願いできませんか?

本当に少しでいいんです。30分… いや、20分だけ!」

ソクジン
「分かった。任せとけ。」

兄さんの返事を聞いた俺は急いで家に向かった。

ソクジン
「どうしたんだろう?」

テヒョンはとても慌てている様子だった。

一体何があったのだろうか。

テヒョンが警戒していたため、通話の内容を聞くことは
できなかった。

ソクジン
「後を追うべきだろうか…
でもテヒョンに店番を頼まれたしな…

店を空けて何か問題でも起こったらテヒョンが
困るだろうし…
それなら…」

俺は、テヒョンが毎日働いている
この場所で手がかりを探す方が賢明だと判断した。

〈Episode 3. End〉


4.愛憎

”テヒョンがいない間にコンビニで手がかりを探すソクジン。その結果見つかったのは…”

22年5月18日

俺は家の前に置かれていた
ヘジャングクの器を手に取った。

家の中に入ると、部屋の片隅で父が横になっていた。

今朝、家を出る時よりも焼酎の空き瓶が増えていた。

テヒョン
「ちゃんと昼飯を食べないと。」

俺が話しかけても、父からは返事がなかった。
俺は横になっている父の体を軽く揺すった。

テヒョン
「ほら、起きて。昼飯。」

キム・ソンフン
「……」

うめき声のような小さな音が聞こえた。

それでも反応がなかったので、俺はさらに力を込めて
体を揺すった。

テヒョン
「父さん、早く…」

すると

キム・ソンフン
「おらあっ!」

怒鳴り声と共に父が俺の手を振り払った。

テヒョン
「ど… どうしたんだよ?」

キム・ソンフン
「このくそガキが!
人が寝てんのに邪魔すんじゃねえよ!」

テヒョン
「だって… ヘジャングクが冷めるから…」

キム・ソンフン
「そんな下らねえもんさっさと置いて出ていけって
言っただろうが!」

テヒョン
「いつ…?」

キム・ソンフン
「さっきだよ!」

テヒョン
「もしかしてさっきよく聞こえなかった
うめき声のことか…?」

キム・ソンフン
「このガキが… 人の話くらいちゃんと聞いとけ!」

テヒョン
「はぁ… とにかく昼飯食べなよ。」

そう言って俺が父の体に触れた瞬間、

キム・ソンフン
「痛えなこの野郎!!」

父は力を込めて俺を突き飛ばした。

テヒョン
「うっ!」

どこかにぶつけたのか、うなじに衝撃が走った。

しかし、痛みは感じなかった。
痛みを感じないくらい怒りが込み上げてきたのだ。

目の前にいるこの男をこれ以上見ていたくなかった。

そう思った瞬間、俺は外へと駆け出した。

テヒョン
「あんな奴の飯のためにわざわざ走ってきたのかよ…」

家から遠ざかり、しばらくして落ち着きを取り戻すと
うなじに痛みを感じるようになった。

手を当てると液体のようなものが付着した。

テヒョン
「血…
コンビニに戻ったら絆創膏を貼っておこう。」

俺は傷を押さえながら重い足取りでコンビニに向かった。
先ほどコンビニで目撃した親子の姿をふと思い出した。

優しく手を握っていた父親と、父親を見て明るく
笑っていた子供。

自分自身がやけに惨めに感じた。

俺は胸の奥底から込み上げてくる感情を必死に抑えた。

テヒョンがいつ戻ってくるのか分からなかったため、
俺は焦っていた。

ソクジン
「テヒョンがいない間に何とかして手がかりを
見つけられないだろうか。

やっぱりコンビニで何かを見つけるなんて無理なのかな…」

勤務先ということもあって期待はあまり
していなかったが、
ナムジュンの小部屋のように小さな手がかりだけでも
見つけ出したかった。

ソクジン
「うーん…」

レジの周辺を見ると、かばんと様々な物が入った
箱が目に入った。

ソクジン
「何かあるとしたらここくらいか…
まずは何を調べよう?」

《選択肢》
①かばんを調べる。
②箱を調べる。

【パターン①:かばんを調べる。】

ソクジン
「テヒョンのかばん…」

俺は注意深く辺りを見回した。

持ち主の許可を得ずかばんをあさる行為に
抵抗があったのは事実だ。

ソクジン
「でも… テヒョンを救うためだから仕方ない。」

決意を固めた俺は、かばんを開けて中身を調べ始めた。

ソクジン
「がらくただらけだな…
ん?」

かばんの隅に紙のようなものが
丸められた状態で入っていた。

ソクジン
「これ… 写真か?」

俺は写真を取り出して慎重に広げてみた。

ソクジン
「若い男性と子供…
テヒョンとテヒョンの父親かな?

どうしてこんなにくしゃくしゃにして丸められてるんだ?」

本当に父親のことを嫌っているのなら、写真を持ち歩いたり
しないはずだ。

だが好きだとしても、こんなにシワだらけになるまで
放置しておくわけがないだろう。

ソクジン
「愛憎… ってやつか…」

俺はテヒョンに気付かれないよう、
写真を元の状態に丸めてかばんに戻した。

ソクジン
「ここにある物は大体調べたかな。」

【パターン②:箱を調べる。】

俺は箱をあさって中身を調べた。
傘、カード、財布、小さなメモ帳などが入っていた。

ソクジン
「これは…」

テヒョンの持ち物ではなかった。
おそらく、コンビニを訪れた客の忘れ物だろう。

テヒョンに関係のあるものはなさそうだった。

ソクジン
「ここにある物は大体調べたかな。」

ソクジン
「ここにある物は大体調べたかな。」

他に調べられそうなところは…
見ると、カウンターに付箋が貼られていた。

ーーー

〈俺が食べようと思ったんだけど、
おばさんにご飯に誘われたからあげる。

パティが2枚入ってるからありがたく食べな。

食べたらA4用紙1枚にびっしりと
感想を書いて提出すること! - ホソク - 〉

ーーー

ソクジン
「これはホソクのメモか…
あの2人は今も交流を続けてるんだな。」

テヒョンのことを気にかけるホソクも、
付箋を捨てず大事にしているテヒョンも微笑ましかった。

しばらくしてテヒョンが戻ってきた。

ソクジン
「何だか表情が暗いな。」

うなじには先ほどまでなかった傷ができていた。

ソクジン
「血…?」

一体何があったのだろうか。

ソクジン
「テヒョン、大丈夫か?その傷どうした?」

テヒョンは目をそらすだけで、俺の問いかけに答えようと
しなかった。

〈Episode 4. End〉


5.緊急

”心を閉ざしたテヒョンに何とか近付こうとするソクジン。その時、テヒョンの姉から非常事態を知らせる連絡が届く。”

22年5月18日

テヒョンはおざなりに絆創膏を貼って仕事を続けていた。

ソクジン
「あの傷… 何があったんだ?
前にもこんなことってあったっけ?」

俺はテヒョンを見つめながら考え込んだ。

その時、ジュノおじさんから着信があった。

ソクジン
「何だ?大事な用か?」

俺はしばらく悩んだ末に携帯電話をしまった。
おそらく何かの確認の電話だろう。

ソクジン
「テヒョンのことで毎日のように外出してるからな。
大事な用件ならまた電話してくるだろ。」

今の俺にとって最も重要なのはテヒョンのことだった。

その時、テヒョンが口を開いた。

テヒョン
「兄さん、1日中こんな所にいて大丈夫なんですか?
家の人は?」

テヒョンの問いかけに、俺はきまりの悪い
笑みを浮かべた。

事件が起こるのは20日…

いまだに有力な手がかりや解決策が思い浮かばないため、
可能な限りテヒョンの近くにいるしか手はなかった。

俺はアルバイトを終えてコンビニを出るテヒョンの
後を追った。

うなじに貼られた絆創膏がわずかに赤く染まっていた。

ソクジン
「心配だな…

首の怪我大丈夫か?」

テヒョン
「はい、まあ…」

テヒョンはうなじの傷に手を当てて軽く撫でた。
傷について話すことを避けている様子だった。

ソクジン
「今から何するんだ?」

テヒョン
「えっと… グラフィティを描きに行こうかと思ってます。」

ソクジン
「なるほど。見物してもいいか?」

テヒョン
「僕はいいですけど… 兄さんはきっと退屈ですよ。
大丈夫ですか?」

ソクジン
「俺のことは気にしなくていいから
思いっきり楽しんでくれ。」

どうやらテヒョンは俺が付いてくることを
快く思っていないようだった。

だが他に方法がなかったため、俺は気にせず付いていく
ことにした。

ソクジン
「バイブレーションの音?テヒョンの電話か。」

テヒョン
「姉ちゃん?どうしたの?
…え?救急救命室?父さんに何かあったの?

ちょっと待ってて!すぐに行くから!」

電話を切るや否や、テヒョンが駆け出した。

ソクジン
「テヒョンの父親が救急救命室に運ばれた…?
あの時の事故か…」

いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

この事件のことは何としてでも知っておかなければ
ならない気がした。

ソクジン
「テヒョン、何があった?」

テヒョン
「兄さん、先に帰ってください。僕は病院に行ってきます。」

ソクジン
「この近くに車を停めてるから、急いでるなら送るぞ。」

テヒョンはしばらくためらっていたが、
やがて俺に付いてきた。

ソクジン兄さんと病院に到着すると、
姉が不安そうな表情を浮かべて立ち尽くしていた。

テヒョン
「姉ちゃん、どういうこと!?」

キム・ウネ
「私も詳しくは知らないんだけど、
仕事で怪我をしちゃったみたい。

夕飯ができたから起こそうと思って体を揺すったら…
すごく痛がってて…」

テヒョン
「そっか…」

俺は昼のやり取りを思い出した。
あの時痛がっていたのもまさか…

キム・ウネ
「ところでそちらの方は…」

姉が兄さんを見て尋ねてきた。

テヒョン
「あ、俺の先輩なんだ。急用だって言ったら
車で送ってくれた。」

ソクジン
「初めまして。」

ソクジン兄さんと挨拶を交わした姉が手を押さえた。

テヒョン
「姉ちゃん、その手… もしかして怪我したの?」

キム・ウネ
「う、ううん!さっき病院に来る時に転んじゃって…」

姉は明らかに誤魔化そうとして嘘をついていた。

いずれにせよ、姉を問い詰めたところで
意味はないだろう。

姉が俺のうなじの傷に気付いていないふりを
しているように、
俺も姉の傷には触れないことにした。

キム・ウネ
「ところで、病院のお金はどうしようか…
お給料日はまだ先なのに… 明日の退院までに
払わないといけないんだって…」

テヒョン
「結構かかるの?」

キム・ウネ
「うん…」

ソクジン
「仕事での怪我なら会社が負担してくれるはずです。」

キム・ウネ
「あ… それならよかった…」

テヒョン
「俺が連絡して聞いてみる。」

俺は父の携帯を操作して
工事現場の監督の連絡先を見つけ、電話をかけてみた。

「もしもし。」

テヒョン
「あ、もしもし。
僕、キム・ソンフンの息子です。」

「息子?どうかしたか?」

テヒョン
「実は、父が腰を痛めて入院しちゃったんです。」

「入院?」

テヒョン
「はい。少し前に仕事で痛めたらしいんですけど、
労災って…」

「仕事で痛めた?そんなことはなかっ… ああ、あれか。
あれだったら労災はおりないぞ。

あいつが酒を飲んで作業してやがったんだ。
安全規則も守らねえ奴に労災なんか認められるか。」

テヒョン
「え…?どういう…」

「こっちだって困ってんだよ。
それにあの時、親切に治療費まで出してやったのによ。

今さらそんなこと言われても迷惑なんだ。」

テヒョン
「治療費?」

「そうだよ。もういいだろ、切るぞ。

もう一度言っておくが、今さらこっちに
迷惑かけんじゃねえぞ。じゃあな。」

テヒョン
「え?ちょっと!もしもし?
くそ…」

キム・ウネ
「どうしたの?だめだって…?」

テヒョン
「姉ちゃん、会社が治療費を払ったって言ってんだけど。」

キム・ウネ
「会社が?お父さんはそんなこと一言も…」

テヒョン
「それから父さんが安全規則も守らずにお酒を飲んで
作業してたんだって。」

キム・ウネ
「そんな… 向こうが何か勘違いしてるんじゃないの?
あの日はお酒なんて飲んでなかったはずなのに…」

姉の言葉に返答しようとしたが、
俺はそのまま口を閉ざした。

高圧的な態度で父を貶める監督と、
そんな扱いを受ける無能な父に対する
怒りが込み上げてきた。

しかしそれ以上に、父が作業する時に
酒を飲んでいなかったと証明することも、
そんな人間ではないと否定することもできない
自分自身に腹が立った。

言い表せない感情に全身が震え、口を開くことすら
ままならなかった。

ソクジン
「労災がおりない?」

そんな… 嘘だ。

あの日、テヒョンの父は明らかに酒に酔っておらず、
道具を取りに行こうとしていた。

それを止めたのは監督だった。

目の前でテヒョンとテヒョンの姉が絶望に陥っていた。

ソクジン
「どうすればバレないように協力できるだろう…
そもそも、俺が協力すれば解決する問題なんだろうか?」

俺は悩んだ。
俺が代わりに治療費を払ってもよかった。

ソクジン
「でも…
ナムジュンの時も余計なことをして逆効果になったしな…」

テヒョンは問題ないという確信が持てなかった。

俺は携帯電話を取り出して画面を確認した。
俺の居場所を尋ねるジュノおじさんからのメッセージが
届いていた。

ソクジン
「支払いは明日の退院までだって言ってたな。
今すぐ決める必要はないから…

テヒョン、そろそろ帰るよ。方法は絶対にあるはずだから
心配しなくてもいい。

お父さんのこと大事にするんだぞ。」

俺はタイミングを見計らってテヒョンに短く挨拶した。

テヒョン
「分かりました。それじゃ。」

ソクジン
「明日また来るよ。」

〈Episode 5. End〉


6.大人のやり方

”病院を訪れた工事現場の監督は、テヒョンの父の事故を隠蔽しようとする。”

22年5月19日

俺は姉と病室の外に出て風に当たっていた。

通話の内容を聞いた父は即座に電話をかけて喚き散らし、
工事現場の監督と病院で話をすることに合意して
通話を終了した。

そして1日中酒を欲しがって騒ぎを起こし、
疲れ果てたのちにようやく眠りに就いた。

テヒョン
「姉ちゃん、少し休みなよ。」

キム・ウネ
「私は大丈夫。」

言葉とは裏腹に、姉も明らかに疲労困憊だった。

俺は携帯電話を取り出して時間を確認した。

キム・ウネ
「会社の人って何時に来るんだっけ?」

テヒョン
「6時頃だって。
来るまでちょっと休もう。」

監督は父の同僚と思しき人たちと共に病室を訪れた。
飲み物が入った箱を手に持って。

今回は父のことだ。
うかつに首を突っ込むべきではないと考えて、
俺は病室の片隅に立っていた。

監督
「具合はどうだ?痛むか?」

キム・ソンフン
「それほどひどいわけじゃありませんが、
しばらくは仕事はできないでしょう。」

監督
「そうか。まあしばらく休んでたらそのうち治るだろうよ。
それで、俺たちがここに来たのはだな…

あんたが怪我したのはあんたの不注意が原因だから、
金を請求するのはやめてくれって伝えるためだ。」

キム・ソンフン
「だからどうしてこっちのせいなんですか!」

監督
「あの日、あんたは酒を飲んで作業してただろ。
それで怪我したんじゃねえか。」

キム・ソンフン
「酒?」

監督
「子供たちの前だからってとぼけんじゃねえよ。
いつもそうだったじゃねえか。

お前たちも見ただろ?」

作業員(ソ)
「あ、はい…」

作業員(カン)
「そ… そうですね。」

キム・ソンフン
「は…?」

監督
「それなのに治療費も出してやったんだ。
これ以上何を望むんだよ?」

監督は隣にいた作業員たちに顎で指示を出した。

すると、作業員たちは手に持っていた飲み物を
差し出した。

キム・ソンフン
「何ですかそれ… それで手を引けってことですか?」

監督
「誠意だよ。俺だって悪いと思ってんだ…」

キム・ソンフン
「いい加減にしろ!
あんたはあの場にいただろ!

俺が脚立を取りに行くって言った時、
ボロイはしごを使えって言われたのは
そっちのあんたも聞いてただろ!?

そんなもんはいらねえよ!」

父は飲み物が入った箱を床に投げつけた。
作業員たちは父と目を合わせないように視線をそらした。

監督は怒りをあらわにしている父を
見下ろしながら舌打ちをした。

監督
「ったく…」

キム・ソンフン
「あんたに人情ってもんはないのかよ!」

監督
「んだとてめえ?誰に向かって口利いてんだ!?」

キム・ウネ
「ちょ… ちょっとやめてください!お父さん落ち着いて…

すみません… 父は少し興奮しているみたいで…」

姉は憤慨する父を制止しながら何度も頭を下げた。
監督はそんな姉の行動を当然だと言わんばかりに
受け入れた。

まるで自分の部下に接しているかのように威張りながら…

テヒョン
「おじさん。父さんはお酒なんて飲んでませんでしたよ。」

監督
「何?」

監督の表情が強張った。

テヒョン
「父さんはあの日お酒なんて飲んでなかったんです。」

監督
「何言ってやがる。証人だってここにいるじゃねえか。」

テヒョン
「あの日も、その前日も!父さんは酒なんて飲んでない!」

監督
「このガキ… 生意気な口を叩きやがって。
どうせ現場に来る途中で飲んだんだろ!

さっきからガタガタと… 少しは目上の人間を
敬えってんだ。」

怒りと悔しさで手の震えが止まらなかった。

だが言い返す言葉が見つからず、
俺は唇を噛み締めることしかできなかった。

ところがその時…

ソクジン
「僕も見ましたよ。」

テヒョン
「兄さん?」

監督
「ん?お前は…」

ソクジン
「覚えてますよね。現場実習であの日僕もいました。

この人が作業するところを見ていましたが、
お酒なんて絶対に飲んでいませんでした。」

監督
「な、何言ってやがる!」

突然現れたソクジン兄さんは、
自分も父の事故現場にいたと証言して監督を慌てさせた。

そして工事現場で監督が父に作業を無理強い
していたことも話した。

父はルールに沿って作業を行おうとしていたが、
監督が高圧的に指示を出していたことも全て証言してくれた。

監督
「てめえ…」

監督は兄さんと俺を交互に見ながら歯を食いしばった。

監督
「お前らがどうやって知り合って
口裏を合わせたのかは知らねえが…

そんなことを言ったところで
何かが変わるとでも思ってんのか?

金は渡したんだ。もう終わったことなんだよ。
分かったか?」

監督は薄ら笑いを浮かべながら病室を後にした。

他の作業員たちもタイミングを窺って
そっと病室を出ていった。

ソクジン
「テヒョン、もう大丈夫だ。」

兄さんが俺の肩を軽く叩いた。

知らず知らずのうちに体に力が入っていたのか、
握っていた拳を開くと手のひらに爪痕がくっきりと
残っていた。

テヒョンは自分の手を呆然と見つめていた。

ソクジン
「いま言った方がいいよな?」

ナムジュンの時は俺が入院費を勝手に
支払って問題が生じた。

そのため、今回は話しておいた方がいいと考えた。

ソクジン
「テヒョン… お前は嫌がるかもしれないけどさ…
治療費は俺が支払っておいた。

あ、ちなみにお金はあげるわけじゃなくて貸しただけ…」

テヒョン
「ありがとうございます、兄さん。」

テヒョンから初めて感謝の言葉を聞いた。
驚いている俺とは対照的に、テヒョンは淡々としていた。

テヒョン
「絶対に返します。ありがとうございます。」

ソクジン
「ああ。」

もしかしたら…

もしかしたらこれがテヒョンの事件を解決する
糸口になるかもしれない。

ソクジン
「とりあえず今日のところは帰ってもよさそうだな。

後はテヒョンがちゃんと家に帰るかどうかだけ
見守ればいいだろう。」

ソクジン
「ん?ホソク?」

俺は病院を出たところでホソクに出くわした。

ホソク
「兄さん?どうしてこんな所に?」

ソクジン
「見舞いに来たんだ。」

ホソク
「もしかしてテヒョン?」

ソクジン
「どうして知ってるんだ?」

ホソク
「テヒョンのバイト先に行ったんですけど、
いなかったから本人に連絡したんです。」

ホソクからテヒョンの父の容体について聞かれると思い、
どう答えようか考えていると、

ホソク
「テヒョンは大丈夫でしたか?もうびっくりしましたよ…」

ソクジン
「テヒョンのことを心配してるのか。」

ホソクは何よりもテヒョンのことを一番に
考えているようだった。

ホソク
「父親思いの奴だから…」

ソクジン
「テヒョンがか…?」

ホソク
「はい。家には帰りたくないって毎日言ってるくせに、
お父さんの食事は1日も欠かさずに用意してるんですよ。

本人はコンビニ弁当で済ませてるのに…」

知らなかった。

ソクジン
「そうだったのか。だからいつも家に帰ろうとしてたんだ。

父親のことが心配だから…」

ホソクは誰よりもテヒョンの気持ちを
理解している様子だった。

ソクジン
「…俺がここにいる理由について
問いただされたらどうしよう。

どうしてここにいるのか、どうしてテヒョンの父が負傷
したことを知っているのか… 言い訳を考えるべきか…」

ホソク
「テヒョンに連絡してみますね。
兄さん、それじゃあ気を付けて。」

ソクジン
「え?ああ、ああ。じゃあな。」

心配し過ぎだったようだ。ホソクは俺との会話を終えて
病院に入っていった。

ソクジン
「ふう…」

緊張が解けたためか、疲れが押し寄せてきた。

俺は重い足取りで家へと向かった。
これからどうするべきか考えながら…

〈Episode 6. End〉


7.心の距離

”ソクジンは、父と共に帰っていくテヒョンを見て悲劇の原因を突き止める。今度こそテヒョンを救い出さなければならない。”

22年5月19日

ソクジン兄さんの協力によって治療費の問題は解決し、
父の退院の手続きを済ませることができた。

姉は仕事で不在だったため、俺が退院の準備を
行っていた。

テヒョン
「兄さんって意外に良い人なのかもしれないな。」

治療費を支払ってくれたこともありがたかったが、
それ以上に嬉しかったのは、父が悪くないことを
証言してくれたことだった。

キム・ソンフン
「ううっ…」

父が腰を押さえてうめき声を発した。
どうやら1人で歩くのはまだ辛そうだった。

テヒョン
「体を支えるから腕をこっちに回して。」

家へ向かっている間、俺たちは一言も会話を
交わさなかった。

俺がつかんだ父の腕は細く、体重も軽かった。

テヒョン
「まあ、飯も食べないで毎日酒ばっかり飲んでるんだから
太るわけないよな。」

にもかかわらず、俺にのしかかってくる
重みは不快だった。

いま俺の肩にのしかかっている重みは、
逃れられない枷の重みに等しかった。

これから一生をかけてこんな父の面倒を
見なければならないという現実の重み。

消したくても消せない、
父のことを憎みながらも守ってやりたいという
矛盾した感情。

家へ向かう足取りがいつもより重く感じられた。

父親に肩を貸しているテヒョンは
こういうことに慣れているのか、
ふらつく父親の体をうまく支えながら黙々と歩いていた。

だが、転びそうになるたびにテヒョンの父親が
怒鳴り散らすため、
俺は心配しながら2人の様子を見つめていた。

ソクジン
「……」

過去のループでは全く気付かなかったが、
父親のことを想うテヒョンの気持ちは
俺の想像を超えているようだった。

ソクジン
「それじゃあやっぱり…」

20日に何としてでも家に帰ろうとしていたのは、
退院した父のことが心配だったからだろう。

ソクジン
「それなのに、家に帰って目撃したのは
姉に暴力を振るう父親の姿…

我慢できなかったんだろう。」

俺は父親と一緒に遠ざかっていくテヒョンを
見つめていた。

ソクジン
「…今度こそ絶対に助けないとな。」

22年5月20日

昨夜、テヒョンが警察署に連れていかれた。

俺は、テヒョンが描いたグラフィティに手を伸ばした。

テヒョンにとってはこの絵が
現実から逃げ出すための扉であり慰めだったのだろうが、
指先からは冷たく硬い壁の感触が
伝わってくるだけだった。

ソクジン
「……
お前は何を考えてこれを描いたんだ?」

テヒョンが描いた絵は自由で荒々しかった。

怒りを表現しているようにも、
あがいているようにも見えた。

ソクジン
「俺がやってることは正しいのか?」

不安が押し寄せてきたが、俺はすぐにかぶりを振った。
悩むのはまだ早い。いよいよ再挑戦の時だ。

ソクジン
「テヒョンは何があっても家に帰って、
姉に暴力を振るう父親を殺害しようとするはずだ。」

過去のループと今回のループで異なる点が1つあった。

俺自身だ。

俺は工事現場で負傷したテヒョンの父をかばい、
治療費を支払った。

テヒョンが感謝の言葉を口にするほど
信頼関係も築き上げた。

ソクジン
「今回は止められる。」

俺の言葉はテヒョンにきっと届くはずだ。

ソクジン
「…できる。」

自分自身に言い聞かせるように小さく呟き、俺は不安を
かき消した。

ソクジン
「もうすぐテヒョンが出てくるはずだ。急ごう。」

俺はテヒョンが描いたグラフィティに背を向けて
警察署へ向かった。

テヒョンと俺は無言で道を歩いていた。

いや、警察署から出てきたテヒョンの後を俺が勝手に
追いかけているだけだった。

テヒョンが俺を突き放したり、ついてくる理由を尋ねたり
してこないのは幸いだった。

テヒョン
「……」

俺は気まずい空気を破るために
言葉を絞り出そうとしたが…

これから起こるであろう出来事を考えると
なかなか口を開くことができなかった。

いつの間にかテヒョンの家の前に着いていた。

テヒョン
「…送ってくれてありがとうございます。」

ソクジン
「あ、ああ。」

テヒョン
「それじゃあ気を付けて。」

ソクジン
「ああ。お前もゆっくり休むんだぞ。今日もバイトか?」

テヒョン
「…いえ、念のため他の人に代わってもらいました。」

テヒョンが家に入るのを確認した俺は、
急いで携帯電話を取り出した。

ソクジン
「時間は…」

俺は頭の中でカウントダウンを始めた。
そろそろあの事件が起こるはずだ。

俺は少し時間を置いてからテヒョンの家に恐る恐る
足を踏み入れた。

何度も自分自身の目で見た、
この日、この家の風景の中へ…

ソクジン
「テヒョン!やめろ!!」

俺は走ってテヒョンの腕をつかんだ。

テヒョン
「離せよ!」

興奮して暴れているテヒョンを離さないよう、
俺はさらに力を込めた。

ソクジン
「絶対に止めるんだ!
テヒョン!ちょっと落ち着…」

テヒョン
「離せって!!」

俺はテヒョンに突き飛ばされた。

ドン!

ソクジン
「うっ!」

どこかにぶつかったのか、頭に強い痛みが走った。

ソクジン
「ううっ…」

テヒョン
「…兄さん!」

テヒョンが驚いた顔で振り返った。

俺を呼ぶ声が聞こえたが、その声は次第に遠ざかり…
徐々に視界がかすみ始めた。

ソクジン
「テ… ヒョン…」

どこからかガラスが割れる音が聞こえてきた。

〈The End〉



■悪夢:エピローグ

【ストーリー案内】
”全ての答えを知ったソクジン。後は行動に移すのみだった。”

数多の試練と挫折を経験した末に、友人たちを不幸から救い出す答えに気付いたソクジン。彼は二度と失敗しないと誓う。

(エピソード数:8)

1.久しぶり

”友人たちを不幸から救い出すために行動を起こさなければならない。まずはネリガソリンスタンドのナムジュンからだ。”

22年4月11日

目を開けると見慣れた天井があった。

ソクジン
「……」

これまでのループでの出来事が頭の中を
駆け巡っていた。

ソクジン
「今回は救えるんだろうか。」

俺の心には、今も不安や恐怖、失敗の傷跡が残っていた。

決意だけでは不安な気持ちを落ち着かせる
ことはできなかったが、

ソクジン
「俺が何もしなかったらこのループは永遠に終わらない。」

俺は机の引き出しから仲間たちの写真を取り出した。
写真の中の彼らはやはり笑っていた。

ソクジン
「初めは簡単だと思ってた。
仲間たちを助けないとっていう決意があったから。」

どのような状況で誰を救えばいいのかさえ分かれば、
その後はどれだけ努力するかという
問題だけだと思っていた。

ソクジン
「でもそんなに簡単じゃなかった。
目の前の状況にこだわりすぎて…

道を見失い、失敗を繰り返してしまった。」

そうして暗中模索していた俺のヒントになったのは…
仲間たちと共に過ごした時間だった。

ソクジン
「互いを心から理解し合った瞬間と
大切な思い出。

その1つ1つが
俺を正しい方向へと導いてくれた。」

俺たちは固い絆で結ばれており、
お互いに助け合う運命なのだ。

そして全てを終わらせられるのは…

ソクジン
「…俺だけだ。」

ラジオの声
「春の風情がたっぷりと感じられる4月の第一週。
皆さんはいかがお過ごしですか?

もうすぐ週末ですね。お出かけするなら…」

今の時間帯になるといつも目にする光景があった。
横断歩道を渡る生徒たち。

そしてその中に…

ソクジン
「ジョングク…」

憂鬱な表情を浮かべるジョングクの姿があった。

《選択肢》
①車から降りて声をかけてみるか?
②今日はそっとしておこう。

【パターン①:車から降りて声をかけてみるか?】

その場の感情で行動するべきでは
ないことは理解していたが、
ジョングクを見るたびに気持ちが揺らいだ。

ソクジン
「…前にあんなことがあったな。」

下校していたジョングクを連れて
桜を見に行ったことがあった。

ソクジン
「少しは効果があったんだろうか。あの時のジョングクは…」

その日はビルの屋上から飛び降りることはなかった。
だがその日だけだった。

結局、ジョングクはまたしても孤独に陥ってしまった。

何も変わっていなかった。

ソクジン
「同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。」

クラクションの音で我に返ると、いつの間にか信号が
変わっていた。

【パターン②:今日はそっとしておこう。】

俺は信号が変わるのをじっと待っていた。

もちろん今すぐにでもジョングクのもとに
駆け付けたかったが…

ソクジン
「それじゃあだめなんだ。」

ループを繰り返す中で俺が気付いたことは、
心が痛んでもぐっとこらえてやり過ごさなければならない
瞬間があるということだった。

ふと目を向けると、遠ざかっていくジョングクの
後ろ姿が見えた。

ソクジン
「もう少しだけ待っててくれ。
絶対に助けてやるからな。」

クラクションの音で我に返ると、いつの間にか信号が
変わっていた。

クラクションの音で我に返ると、いつの間にか信号が
変わっていた。

俺は急いでアクセルを踏んだ。

ソクジン
「今日は… 必ず成功させる。」

そう決意し、俺はガソリンスタンドの方へ
ゆっくりと車を走らせた。

ソクジン
「…ナムジュンだ。」

俺が給油機の近くに
車を停めると、作業中だったナムジュンが
こちらに近付いてきた。

ソクジン
「……」

目が合う前に、俺は緊張をほぐそうと思って
短く深呼吸した。

何度も繰り返してきたあの会話も
今日で最後になるはずだ。

ナムジュン
「あれ、ソクジン兄さん?」

何度も目にしたナムジュンの驚いた表情が俺を迎えた。

ソクジン
「久しぶりだな。」

〈Episode 1. End〉


2.初めのボタン

”ガソリンスタンドで起こった事件を解決したソクジンは、ナムジュンにあることを依頼する。”

ソクジン
「久しぶりだな。」

聞き慣れた声の主はソクジン兄さんだった。

ナムジュン
「わあ、久しぶりですね。」

ソクジン
「そうだな。元気だったか?」

久しぶりに再会したにいさんは昔と変わっていなかった。

俺たちはガソリンスタンドの隅に移動して会話を続けた。

ナムジュン
「いつ帰ってきたんですか?」

ソクジン
「ついこ前だ。久しぶりに会えてよかったよ。」

ナムジュン
「自分もです。もうあっちには戻らないんですか?」

ソクジン
「ああ、そのつもりだ。
ここで働いてるのか?」

ナムジュン
「はい、結構経ちます。」

ソクジン
「仕事はどうだ?楽しいか?」

ナムジュン
「ぼちぼちです。毎日同じことの繰り返しですよ。」

ソクジン
「そうか…」

どこか変だった。

兄さんはそれ以上何も聞いてこなかったが、
表情を見るともっと言いたいことがありそうだった。

ナムジュン
「そういえば今日みんなと会うことになってたな…

兄さんも誘ってみるか?久しぶりだからみんなも
喜ぶだろう。」

俺は迷った末に兄さんに尋ねてみた。

ナムジュン
「兄さん、この後時間ありますか?実は今日…」

ガソリンスタンドの店長
「ナムジュン!早く来い!いつまでサボってるつもりだ!」

俺が話を切り出そうとしたその時、
店長の怒鳴り声が聞こえてきた。

ナムジュン
「兄さん、そろそろ戻らないと…」

ソクジン
「ああ、大丈夫だ。待ってるよ。」

給油機の前に高級外車が近付いてきた。

ナムジュン
「いらっしゃいませ。量はどうなさいますか?」

ガソリンスタンドの客
「満タン。」

ナムジュン
「お支払いはどうなさいますか?」

客は数枚の紙幣を指に挟んで渡してきた。

目の前で紙幣が揺れるのを見るのは良い気が
しなかったが…

ナムジュン
「こんなお客さんは多いしな。早く帰ってもらおう。」

そんなことを考えながら俺が料金を受け取ろうとした
その時だった。

ガソリンスタンドの客
「早く受け取れよ。」

何かが俺の頬をかすめて地面に落ちた。
見ると、足元にしわだらけの紙幣が散らばっていた。

ナムジュン
「……」

ガソリンスタンドの客
「何ボーっとしてんだ?」

《選択肢》
①拾わない。
②拾う。

【パターン①:拾わない。】

車の中からいやらしい笑い声が聞こえてきた。
こんなことは初めてではなかった。

ガソリンスタンドの客
「金が欲しくないのか?」

耐えなければ。

だが…
俺は知らず知らずのうちに拳を握り締めていた。
爪が手のひらに食い込んだ。

するとその時、誰かが俺の隣に立った。

【パターン②:拾う。】

遠くの方でソクジン兄さんがこちらを見ているような
気がして、
俺は顔を上げることができなかった。

ガソリンスタンドの客
「金が欲しくないのか?」

だが、ここはガソリンスタンドで
俺はここのアルバイトだ。

客がゴミを捨てれば掃除し、嫌味を言われても
じっと耳を傾け、
金を投げられたら拾わなければならない。

いやらしい笑い声を必死に無視して、
俺はその場でかがんだ。

するとその時、誰かが俺の隣に立った。

するとその時、誰かが俺の隣に立った。

ソクジン
「落としましたよ。」

ソクジン兄さんが地面に落ちた紙幣を平然と拾って
客に差し出した。

ナムジュン
「…ソクジン兄さん?」

ガソリンスタンドの客
「何だてめえ?」

兄さんまで巻き込んでしまったと思い、
侮辱感から手が震え出した。

兄さんはずっと俺と客の間に立っていた。

ソクジン
「お忙しいんじゃないですか?
お帰りください。」

客は興ざめしたのか無言でその場を去っていった。

ナムジュン
「…ありがとうございます、兄さん。」

ソクジン
「気にするな。ところでさっきは何を言おうとしてたんだ?」

兄さんは俺の肩を軽く叩いて尋ねてきた。
俺は重い口を開いて兄さんの質問に答えた。

ナムジュン
「今日バイトが終わったらテヒョンとホソクに会うことに
なってるんです。

兄さんもどうですか?」

待ち望んでいた言葉だった。

緊張で口の中がからからに乾いていたが、
俺は可能な限り自然に聞き返した。

ソクジン
「そうなんだな。他のメンバーは来ないのか?」

ナムジュン
「他のみんなとは最近あまり連絡を取ってなくて…

あ、でもホソクはユンギ兄さんと連絡を取り合ってる
みたいなので、
聞いてみましょうか?」

ソクジン
「ああ、頼む。」

ナムジュンは頷いてホソクに電話をかけた。

ナムジュン
「もしもし、ホソクか?」

俺はナムジュンが通話する様子を
じっと見つめながら考えていた。

ソクジン
「ユンギに連絡するようにナムジュンがホソクに頼んだら、
ホソクからの連絡を受けたユンギは
次にジョングクに連絡するはずだ…」

それがジョングクを助ける方法だった。

通話を終えたナムジュンが俺の方を向いて口を開いた。

ナムジュン
「兄さん、どうしますか?ちょっと待ってもらえれば
自分と…」

ソクジン
「あ、悪い。
父さんから連絡があったから帰らないといけないんだ。」

ナムジュンは残念そうにしながらも
理解したような表情を浮かべた。

ナムジュン
「仕方ないですね。また今度にしましょう。」

ソクジン
「ああ。みんなによろしく言っておいてくれ。」

俺は車の方に歩き、もう一度ナムジュンに目を向けた。

ソクジン
「ナムジュン。

また全員集まることがあったら
一緒に海に行こう。」

突然の俺の提案を聞いて、ナムジュンが訝しげな
表情になった。

ナムジュン
「…海?」

俺は黙って笑顔を向けた。

〈Episode 2. End〉


3.居場所

”街を彷徨った末にビルの屋上に向かったジョングク。空中に足を踏み出そうとしたその時、彼に着信があった。”

チンピラ
「どこに目ぇ付けて歩いてんだぁ?」

唇が切れているのか、苦々しい味がした。

チンピラ
「おい、行こうぜ。
このガキが。」

1人がもう一度僕の腹を蹴って言った。

チンピラ
「偉そうにしてるからそこそこやるのかと
思ったけどよぉ…

二度と俺の目の前に現れるんじゃねえぞ!」

痛みが走るみぞおちを押さえてようやく体を起こすと、
チンピラたちが唾を吐いて立ち去る姿が目に映った。

その唾を見た瞬間、また怒りが湧いてきた。

《選択肢》
①喧嘩を売る。
②かばんを投げつける。

【パターン①:喧嘩を売る。】

ジョングク
「おい、どこに行くんだよ!」

僕が初めて発した声を聞いて、
チンピラたちが振り返った。

ジョングク
「もう終わり?」

チンピラ
「まだ懲りてないみてえだな。」

ジョングク
「その程度なの?」

僕の挑発に、奴らは肩を怒らせながら戻ってきた。

【パターン②:かばんを投げつける。】

奴らは僕から数歩しか離れていなかった。

僕は地面に転がっていたかばんを拾って、
チンピラたちに投げつけた。

チンピラ
「うおっ!?
この野郎…!」

僕の挑発に、奴らは肩を怒らせながら戻ってきた。

僕の挑発に、奴らは肩を怒らせながら戻ってきた。

チンピラ
「おい、そいつ捕まえとけ。」

絶え間なく殴打され続け、目まいがして胃の中のものを
吐き出しそうになった。

意識が遠のいていく中、なぜか笑い声が漏れ出た。

そうしてどれほど殴られただろうか。
気が付くと、奴らの姿はどこにもなかった。

ジョングク
「ごほっ… う…!」

僕は血が混じった唾を吐き出した。

ジョングク
「…思い通りになった。」

チンピラに喧嘩を吹っかけ、
殴られながら笑っていると頭のおかしい奴だと言われて
さらに殴られた。

ジョングク
「はは…」

いつの間にか夜になっていた。

遠くの方の舗道に生えている小さな草が目に入った。
草は風に揺れていた。

僕と同じだな…

ジョングク
「ふふ…
はは… ははは!」

涙が溢れそうになり、僕はわざと大きな声を
出して笑った。

ジョングク
「…どこに行こう…」

母の僕に対する優先順位はいつも低かった。

新しい父は苦手なタイプの人で、
あの家にいると僕は幽霊になったような気がした。

ジョングク
「はぁ…」

家、学校、さらには街にも
僕の居場所はなかった。

僕は目を閉じた。再び開けた時に、ここではない
どこかにいることを願いながら。

いつものように夜の街を徘徊していた時だった。
どこからか聞き慣れたピアノの音が流れてきた。

ジョングク
「…まさか。」

音のする方へ向かうと、
ショーウインドウが全て割れている楽器屋が見つかった。

ユンギ
「……」

よく見るとピアノの前に誰かが座っていた。

ジョングク
「…ユンギ兄さん?」

数年が経っていたが、一目で分かった。

いつの間にか音楽は止んでおり、
ユンギ兄さんはしばらく鍵盤を見つめて
楽器屋を後にした。

ジョングク
「絶対にピアノを弾いてた。
今にも泣き出しそうな表情で…」

ユンギ兄さんを見るのは2年ぶりだった。
声をかけたかったが、勇気が出なかった。

僕は兄さんがいたピアノの前に座った。

何気なく鍵盤を撫でてみると、一度も演奏されたことなど
ないかのように冷たかった。

ジョングク
「ユンギ兄さんに何があったんだろう?」

兄さんの様子は相変わらず不安定だった。

僕は記憶を探りながら鍵盤を叩いてみた。
先ほどまで兄さんが弾いていた曲だ。

そしてそれは、あの教室で兄さんが
演奏してた曲でもあった。

たどたどしい手つきでピアノを弾いていると
いつの間にか兄さんが僕の隣に立っていた。

そして、あの時のように間違えた音を教えてくれた。

電話は途切れることなく鳴り続けていた。

酒に酔っており、面倒だったこともあって
無視していたが…

ユンギ
「…分かったよ。
もしもし。」

携帯電話の受話口からホソクの声が聞こえてきた。

「あ、兄さん!やっと出た。」

ユンギ
「…ああ、どうした?」

「ナムジュンが今日みんなで会おうって言ってるんです。」

ユンギ
「俺はパス。」

「そんなこと言わずに。ソクジン兄さんも来たそうですよ。

兄さんからジョングクに連絡してもらえませんか?
さっき電話したんですけど出なくて。」

ユンギ
「出たくないんだろう。」

「だけど兄さんの電話には出るかもしれないじゃないですか。
電話して話しておいてください!待ってますね!」

ユンギ
「はぁ… 切るぞ。」

頭の中が混乱していた。

気が付くといつも俺の後ろにいたやつ。

俺に話しかけてくるわけでもないのに、
なぜか無視できないやつ。

無視したら傷付くのではないかと思い、
ずっと気にかけてやらないといけない奴。

ユンギ
「……」

放っておこうかとも思ったが、俺の指はいつの間にか
ジョングクの電話番号を押していた。

強風で髪の毛が乱れた。

目を薄く開けると、ソンジュ市の夜景が
目の前に広がった。

ジョングク
「…どうしてこんな所に上ってきたんだろう?」

ネオンサインと車のクラクション、
そして立ち込める都会の埃が全て、
闇の中で混ざりあって渦巻いていた。

目を閉じると、都会の風景も騒音も、
恐怖も消えていった。

その時、目まいがして体がふらついた。

空中に足を踏み出すと、闇が僕の足元へ
手を伸ばしてきた。

何も考えなかった。
何も残したくなかった。
これで終わりだ。

着信があったのはまさにその時だった。

ジョングク
「…ユンギ兄さん?」

夢から覚めたようにはっと我に返った。

「やっと出た。」

ジョングク
「……」

「今日みんなで集まるらしい。お前も来るか?」

ジョングク
「…兄さん。

迎えに来てください。」

電話を切ってユンギ兄さんがくるのを待っていると…
みんなで教室に集まっていた時のことを思い出した。

行く場所があるということ。一緒にいてくれる人が
いるということ。

今はそれだけで十分だった。

〈Episode 3. End〉


4.小鳥

”ユンギの作業室を訪れたソクジン。ユンギを救うことができるのは彼だけだ。絶対にヒントを逃すわけにはいかない。”

22年5月2日

忍び足でやってきた作業室は
散らかっていて荒涼としていた。

ピアノと数点の古い家具しかなく、
床には油がしみ込んだ紙が散らばっており、
俺は嫌な予感を覚えた。

ソクジン
「今回は作業室で火をつけるつもりだったのか…」

ユンギを確実に救える方法はまだ思い付いていなかった。

一度成功した方法でも、次は全く効果が
ないこともあったし、
やっと成功したと思えば全く関係のないところで
展開が変わることもあった。

ユンギのことを理解しようと思ってひたすら
後を尾けたこともあった。

ユンギは酒に酔って街を徘徊したり、
どこからか音楽が聞こえてくると
その場にしゃがみこんで耳を傾けたりしていた。

ユンギがどのような視線でこの世界や自分自身を
見つめているのか…

俺には到底理解できなかった。

さらに、ユンギは自分自身すらも
見捨てようとしているかのように見えてならなかった。

そんなユンギをこの世界につなぎとめておける存在が
必要だった。

ソクジン
「ユンギに生きる希望を与えられる存在を見つけないと。」

いつだったか、ナムジュンから聞いたことがあった。

ーーー

ナムジュン
「ジョングクが今も海の旅行の写真を
持ち歩いているそうです。」

ーーー

ソクジン
「ナムジュンは、ジョングクが今も
俺のことを覚えているという意味で言ったようだが…」

それを聞いた俺は他の記憶を回想していた。

ーーー

高校時代、夢を叶えてくれるという岩を
仲間と一緒に探した日。

陽射しが照り付ける中、全員で笑い合い、不満を言い、
からかいながら探したあの日。

そして地軸を揺らすかのようなドリルの音に
周囲の空気が激しく揺らいでいたあの時。

声は聞こえなかったが、俺は知っていた。

ジョングクがユンギにとても重要な質問を
していたということを。

その時のジョングクはそれほど切羽詰まった目を
していた。

ーーー

ソクジン
「でもどうしてユンギに聞いたんだろう。」

ユンギはホソクのように明るくもなく、
ジミンのように優しくもなく、
ナムジュンのように頼もしくもなかった。

ソクジン
「でも、いつも俺たちのことを見守っててくれたよな。」

その時、俺は気付いた。
2人が同じ目をしていたことに。

ソクジン
「ジョングクは知ってたんだ。
ユンギが自分と同じだってことに。」

自分をつなぎとめてくれる絆で結ばれた人物。

ジョングクがユンギを救う鍵となる存在だったのだ。

ソクジン
「どうかこの写真が2人を救ってくれますように…」

俺が写真を置いて出ようとしたその時、
どこからか足音が聞こえてきた。

ソクジン
「よりにもよって今かよ…」

俺が困惑している間にも、足音はどんどん近付いてきた。

ソクジン
「隠れるべきか?
それとも…」

様々な考えが頭の中を駆け巡ったが、
良い結果に導いてくれると確信できる方法はなかった。

ただ、今すぐ何かしらの行動を起こす必要があった。

《選択肢》
①隠れる。
②正直に話す。

【パターン①:隠れる。】

こうなった以上、方法は1つしかなかった。

俺は焦りながらピアノの近くに身を隠した。

作業室に入ってきたのは… 案の定ユンギだった。
泥酔しているのか、ユンギはふらつきながら歩いてきた。

ソクジン
「バレたか…?」

しかし、ユンギはソファに向かっていき
そのまま倒れ込んでしまった。

ソクジン
「ふう…」

酒を飲み過ぎて俺がいることに
気付いていないようだった。

緊張が解けた俺がピアノにもたれかかって座っていると、
手の先に何かが当たった。

水の入ったボウルと藁がつまった紙コップだった。

ソクジン
「…また世話をしてるのか。」

いつかのループで見たことがあった。

作業室に間違って入ってきて、出口が分からず部屋の中を
飛び回っていた、

ソクジン
「…小鳥。」

まだ自らの力では生きられない儚い命。

ユンギが放っておけなかった小鳥を見ていると、
ジョングクのことを思い出した。

その時、ユンギの寝息が聞こえてきた。眠ったようだ。
俺はその隙を突いて作業室から脱出した。

難しいのはこれからだ。

【パターン②:正直に話す。】

こうなった以上、方法は1つしかなかった。

ソクジン
「仲間たちを救うために必要なこととは言え…
許可も得ずに忍び込んだ俺が悪い。」

正直に話せば、最悪の状況だけは
避けられるかもしれない。

作業室に入ってきたのは… 案の定ユンギだった。
泥酔しているのか、ユンギはふらつきながら歩いてきた。

ソクジン
「えっと、ユン…」

俺は恐る恐る声をかけようとしたが、
ユンギは俺のそばを通り過ぎ、
そのままソファに倒れ込んでしまった。

ソクジン
「……」

酒を飲み過ぎて俺がいることに
気付いていないようだった。

ソクジン
「…今のうちに…」

ユンギが眠っている間に、俺は何とか作業室から
脱出した。

ユンギが今どのような気持ちなのか、
何を考えているのかは分からなかったが、
俺の行動がユンギとジョングクをつなげてくれることを
祈るしかなかった。

難しいのはこれからだ。

難しいのはこれからだ。

今日は、ユンギを救うことができる唯一の人物、
ジョングクが俺のヒントに付いてこられるように
しなければならない。

ソクジン
「…ジョングクだ。」

ジョングクはユンギの作業室の入り口の前に立って、
2階を見上げていた。

ジョングク
「……」

表情は暗く沈んでいた。

ユンギが道を見失っていることはジョングクにとっても
辛いことなのだろう。

やがて、ジョングクは決心したように
建物の中に入っていった。

ソクジン
「頼んだぞ…」

作業室に置かれていた鏡が割れた。
一瞬の出来事だった。

目まいがして体がふらついたが、俺は何とかその場で
持ちこたえた。

ジョングク
「ユンギ兄さん…」

ジョングクは凍り付いたまま、俺のことをじっと
見つめていた。

ユンギ
「……」

俺はそんなジョングクを無視して、逃げるように
作業室を飛び出した。

ソクジン
「今だ…!」

建物から飛び出してきたジョングクを確認し、
俺は車を発進させた。

ユンギが入ったモーテルを
ジョングクに見つけさせなければならない。

ソクジン
「建物の入り口に目印を付けておけば…
ジョングクはユンギを見つけられるはずだ。」

ジョングクがどのようにユンギを救うのか、
どのようにして説得するのか、
モーテルの中で起こる出来事は…

俺には到底分からないだろう。

俺はいつも逃げ出したいと思っていた。

俺のことを分かってくれない父や、
何もかも俺のせいにしていた母から。

その2人から傷付けられてきたとばかり思っていたが…

むしろ傷付けていたのは… 俺の方かもしれない。

ユンギ
「こうなるって分かってたのに…」

ジョングクをそばに近付けたのは失敗だった。
俺の近くにいる人はみんな傷付いて不幸になる。

ユンギ
「…もう終わりにしよう。」

火がついたシーツは見る見るうちに燃え上がっていった。

耐えがたい熱気の中で、
煩わしいものは存在感を失い、
残ったのは苦痛だけだった。

ユンギ
「…ゴホ… ゴホ…!」

火柱と共に、幼い頃の記憶が蘇ってきた。

ーーー

「お母さんが中にいるのか!?」

ユンギ
「誰もいません…」

ーーー

ユンギ
「誰も… いない。」

???
「ユンギ兄さん!ユンギ兄さん!!」

誰かに呼ばれたような気がしたが、
顔は上げなかった。

ジョングク
「兄さん!やめてください!」

それは他でもない、ジョングクの声だった。

多分… 俺のせいで悲しむだろうな。
でももう不幸になることはないから…

ジョングク
「兄さん、早く立ってください…!」

ジョングクの叫び声が聞こえ、俺はようやく顔を上げた。

そこで俺が最後に目にしたのは、
乱雑でひっそりとした部屋、燃え上がる火柱と
揺らめく熱気。

そしてジョングクの歪んだ表情だった。

〈Episode 4. End〉


5.つながった糸

”ホソクが事故に遭う日。ソクジンはホソクを救う絶好のタイミングを窺う。”

22年5月12日

ソクジン
「…ジミンが現れる5分前。」

口の中は乾ききっていた。もう何度も訪れている
場所だというのに…

常に緊張の連続だった。

医師
「キムさん、先ほどどのようなお話をされようと?」

《選択肢》
①その場を離れる。
②そのまま立っている。

【パターン①:その場を離れる。】

2人が俺を意識しているような気がしたので、
俺はその場を後にした。

視界から俺の姿が消え、看護師が声を潜めて話し始めた。

看護師
「503号室のパク・ジミンさんなんですが…」

医師
「503号室?」

看護師
「はい、9階から移ってきた…」

ジミンの名前が聞こえたため、俺は静かに耳を傾けた。

医師
「あの患者さんがどうかしましたか?」

看護師
「夜中に廊下を徘徊しているみたいで…
止めた方がいいでしょうか?」

医師
「あと3日でまた上に戻るから
放っておいてもいいでしょう。

どうしても気になるのならそちらでチェック
してみてください。」

2人はそんな会話を交わしながら
廊下の奥に消えていった。

そろそろジミンが来る時間だった。

【パターン②:そのまま立っている。】

俺は携帯電話を見るふりをして壁にもたれかかった。
患者を待っている保護者のように…

看護師
「えっと…」

看護師が戸惑っている様子を見て、
医師が周囲に視線を向けた。

医師
「…また後で話しましょう。」

俺を意識しているのか、2人は言葉を濁して
廊下の奥に消えていった。

そろそろジミンが来る時間だった。

そろそろジミンが来る時間だった。

ソクジン
「ここからジミンを非常階段まで移動させれば…
上の階から駆け下りてくるホソクと出くわすはずだ。」

俺はあらかじめ考えておいた場所に立った。

ジミン
「…おかしいな。」

先ほど理学療法を受けた手首が痛んだ。

ジミン
「早くベッドに横になりたいのに…」

エレベーターはなかなか降りてこなかった。

ジミン
「故障かな?」

その時、どこからか僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ジミン!」

聞き慣れた声だった。
だが、逆光のため誰かは分からなかった。

僕は導かれるように非常階段に向かって一歩踏み出した。

医師
「特に異常はないので、じきに退院できるでしょう。
どこか具合が悪いところはありますか?」

ホソク
「いえ、ピンピンしてます!」

俺はポーズまで決めて堂々と答えた。
そうしなければならない気がした。

医師
「そうですか。今後は突然倒れたりしないよう、
健康管理にはお気を付けください。」

医師の言葉を聞いて…

《選択肢》
①母との最後の瞬間を思い出した。
②最後に意識を失った日の

【パターン①:母との最後の瞬間を思い出した。】

ーーー

「ホソク。
目を閉じて。10数えたら開けるのよ。」

ホソク
「いち、に、さん…
10まで数えて目を開けたら…

お母さんはいるのかな?」

ーーー

医師
「あの… すみません。」

【パターン②:最後に意識を失った日の】

ホソク
「ふう…」

おばさんが病魔に侵された。
病名は大腸がん。

ホソク
「……」

俺にとっておばさんは母同然だった。

母に捨てられた後、児童養護施設でおばさんに
出会ったおかげで、俺は今まで生きてこられたのだから。

ーーー

「ホソク、眠れないの?
じゃあ歌を歌ってあげる。」

この歌…
お母さんが歌ってくれた曲だ…

ーーー

いつもそばにいてくれたのに…
俺のそばを離れようとしている。

俺を残して。

また1人になるという考えが脳裏をよぎり、
目の前が真っ暗になった。

医師
「あの… すみません。」

医師
「あの… すみません。」

ホソク
「え… え?」

医師
「大丈夫ですか?」

ホソク
「あ… はい。」

医師は疑わしそうな視線を向けていたが、
それ以上何も聞いてこなかった。

ジミンに挨拶したかったのに…

ジミンのベッドは先ほどからずっと空いていた。

ホソク
「治療は終わったはずなのに… 何かあったのかな?
心配だな… 探しに行こう。」

俺が理学療法室に行くために
エレベーターを待っていると、
女性が子供と共に俺のそばを通り過ぎていった。

謎の女性
「さ、病室に戻ろう。ゆっくり降りるのよ。」

ホソク
「…お母さん?」

ロングスカートと深々とかぶった帽子…
間違いなく母だった。

慌てて振り向くと、歩いて行く母の後ろ姿が見えた。
母は子供を連れて非常階段に向かっていった。

ホソク
「お母さん…!」

俺は人をかき分けて母の後を追った。

呼吸は荒くなり、心臓の鼓動が速くなった。

ホソク
「だめだ… このままじゃ見失う!」

《選択肢》
①叫ぶ。
②非常階段に行く。

【パターン①:叫ぶ。】

ホソク
「…お母さん!お母さん!」

声は震えていた。
聞こえていないのか、母は振り返らなかった。

俺はもう一度大声で母を呼んでみたが、
母はすでに非常階段の方へ姿を消していた。

ホソク
「まずい…
こうなった以上は…!」

焦った俺は階段を数段飛ばしで降りていった。

【パターン②:非常階段に行く。】

俺は、このまま見失ってしまったら
もうおしまいだと思った。

ホソク
「…見失うわけにはいかない!」

ぶつかる人たちに謝罪の言葉も伝えず、
俺は必死に走った。

焦った俺は階段を数段飛ばしで降りていった。

焦った俺は階段を数段飛ばしで降りていった。

心臓が破裂しそうだった。
母に違いなかった。

ホソク
「捕まえないと…!」

遠ざかっていく後ろ姿を追って
俺は死にもの狂いで走った。

母は3階で立ち止まり、
俺はもう一歩踏み出した。

ホソク
「…お母さん!」

その瞬間、足が滑り…
俺の体は前方へ傾いた。

ホソク
「ああっ…!」

慌てて腕を振り回したが、
何もつかむことはできなかった。

俺は強く目を閉じた。

???
「ホソク兄さん…?」

ところが、衝撃は感じなかった。誰かに掴まれた腕が
少し痛むだけだった。

俺が閉じていた目を開けると、

ホソク
「…ジミン?
どうしてここに…?」

そこには、驚愕の表情を浮かべているジミンがいた。

ジミン
「……」

俺が見た女性は、母ではなかった。

少し考えればすぐに分かることだった。
あの日から10年という歳月が流れた。

俺の記憶の中にいる母と今の母の姿が
同じであるわけがない。

実際、今では記憶が曖昧で母の顔はほぼ
思い出せなかった。

にもかかわらず、俺は今でも母の姿を
追い求めているのだ。

ジミン
「兄さん、大丈夫ですか?」

ジミンは俺の行動について何も聞いてこなかった。

一体何があったのか、なぜあんなことをしたのか。
おそらく、すでに知っているからだろう。

ホソク
「ジミンも俺と同じように…
過去にとらわれたまま生きているのではないだろうか?

前に進むこともできずに、
自分自身を縛り付けている記憶、その中に閉じ込められて
いるのだとしたら…

ジミン。」

ジミン
「はい?」

ホソク
「一緒にここを出よう。」

〈Episode 5. End〉


6.脱出

”ジミンを連れて病院を脱出すようとするソクジン。どうすればジミンが自ら決められるようになるのだろうか。”

22年5月12日

ーーー

ホソク
「…一緒にここを出よう。」

ーーー

いつもの兄さんの表情ではなかった。
声も、眼差しも同様だった。

ジミン
「出るって…」

実際、今すぐ出ていきたいと思うこともあった。
だが今は分からなかった。

外は相変わらず恐ろしくて慣れない場所だった。

それに何とかここを出たとしても、また戻ってくることは
明らかだった。

ホソク
「ジミン、また迎えに来るよ。」

兄さんは僕の返答を聞かずに振り返った。

兄さんに別れの挨拶はしたくなかったため、
僕は退院する兄さんの後をこっそり追いかけた。

ところが、しばらくして僕は歩みを止めた。

9階だったら廊下が終わっているであろうその場所。

ホソク兄さんはその境界線をいともたやすく越えて
扉を開けた。

目がくらむような陽射しと共に、体が痺れるような、
それでいて爽やかな空気が一気に入り込んできた。

ジミン
「僕がここから出ていく…?」

考え込んでいる間に扉が閉まり、僕は踵を返した。

僕が帰るべき場所は、あの外の世界ではなく
この病院の9階だった。

ジミン
「僕は患者だから…」

22年5月15日

あっという間に3日が過ぎた。
今日は外科病棟で過ごす最後の夜だった。

僕は所持品を整理しながら隣に目を向けた。

ホソク兄さんのベッドはすでに他の患者が使っていた。

ーーー

ホソク
「ジミン。
一緒にここを出よう。

また迎えに来るよ。」

ーーー

あの日以降、兄さんの最後の言葉が
ずっと頭から離れなかった。

ジミン
「本当にここから出ていくの?」

明日には閉鎖病棟に戻る。僕はベッドに横になった。

いくら自分自身を納得させようとしても、
ホソク兄さんの言葉は忘れられなかった。

ジミン
「病院から出ていったところで
お母さんも僕も辛くなるだけだ。

ここに残っていれば… 少なくとも良い子で
いられるんだから。」

葛藤を繰り返しているうちに、
僕はいつの間にか眠ってしまった。

ジミン
「…?」

何かが落ちる気配がして僕は目を覚ました。

ジミン
「何だろう?」

どこからか蒸し暑い風が吹いてきた。

ジミン
「…窓を開けっぱなしにしてたのかな?」

僕は窓を閉めようと思って立ち上がったが、
暗くて前がよく見えなかった。

ジミン
「明かりを点けないと。」

そう考えて手を伸ばしたその時だった。
僕は誰かに腕をつかまれた。

ホソク
「ジミン、俺だよ。驚かないで。」

ジミン
「…ホソク兄さん?」

ホソク兄さんが唇に人差し指を当てて静かにささやいた。

ホソク
「みんなもいるよ。」

ジミン
「みんな…?」

やはり兄さんに付いていく勇気は出なかった。

ジミン
「兄さん、僕…」

ホソク
「みんな待ってるよ。一緒に行こう。」

兄さんはTシャツを差し出してきた。

《選択肢》
①受け取る。
②悩む。

【パターン①:受け取る。】

僕はとっさに服を受け取った。
すると、兄さんは褒めるように僕の頭を撫でた。

ホソク
「行こう。」

兄さんは僕の手をつかんでベッドから起こした。

僕はホソク兄さんに連れられて暗い廊下を歩き続けた。

【パターン②:悩む。】

ジミン
「どうしよう…」

もたもたしている僕を見て、兄さんはしびれを切らした
ようだった。

兄さんは僕の手をつかみ、

ジミン
「え…?」

そのままベッドから僕を起こした。

僕はホソク兄さんに連れられて暗い廊下を歩き続けた。

僕はホソク兄さんに連れられて暗い廊下を歩き続けた。

ホソク
「こっちだよ。」

ホソク兄さんと僕はエレベーターの前に立った。

ジミン
「…えっ?」

エレベーターのドアが開いて誰かが姿を現した。

ソクジン
「久しぶりだな。」

ナムジュン
「お待たせ。ほら、ジミン。早く乗れ。」

そこにいたのは、
ソクジン兄さんとナムジュン兄さんだった。

嬉しさのあまり涙が出そうになった。

ホソク
「挨拶は後!早く降りよう。」

エレベーターの前でソクジン兄さん、ナムジュン兄さんと
合流した僕たちは、1階に降りた。

夜の休憩室はいつものように静かで暗かった。

だが次の瞬間、片隅のテーブルで
突然ろうそくに火が灯り、聞き慣れた声が耳に届いた。

テヒョン
「あ、ジミンが来た!」

ジョングク
「バレませんでしたよね?」

暗闇の中でユンギ兄さんのかすかなシルエットが見えた。

ホソク
「ふう… ドキドキしすぎて心臓が破裂するかと思った…」

ナムジュン
「ジミン、大丈夫か?」

ユンギ
「ホソクが背負ってでもお前を連れてくるって言ってたぞ。」

テヒョン
「誰が誰を背負うって?」

全く変わっていなかった。
あの教室で騒いでいた時の姿と全く同じだった。

ジミン
「兄さん、久しぶりですね。」

僕はユンギ兄さんに話しかけた。
兄さんは黙って軽くうなずいた。

看護師
「誰かいるんですか?」

僕が椅子に座ろうとしたその時、ドアの方から
声が聞こえてきた。

看護師
「あなたたち… そこで何をしてるんですか?」

ユンギ
「バースデーパーティーです。」

ユンギ兄さんが言いつくろうのを聞いて、僕たちは互いに
視線を送り合った。

ナムジュン
「今日はこいつの誕生日なんです。」

ナムジュン兄さんが僕を指さして一言付け加えた。

看護師
「皆さん、ここの患者さんですか?
見たことがないような…」

飲み物の缶が嫌な音を立てて手の中でつぶれた。

ジミン
「病衣を着てるのは僕だけだ…」

看護師はさらに疑わしそうな目で僕たちを凝視した。
嘘が発覚するのは時間の問題だった。

ナムジュン
「大丈夫だ。」

ジミン
「え?」

ナムジュン
「あそこを見ろ。」

ジミン
「ソクジン兄さん… いつの間に?」

ジョングク
「兄さん、合図が聞こえたら走って逃げますよ。」

走り出す前に僕の心臓は強く脈打った。

ホソク
「走れ、ジミン!!」

その言葉を合図に、僕たちは一斉に駆け出した。

テヒョン
「うわっ!」

テヒョンがテーブルにぶつかったせいで、

ユンギ
「走れ走れ!!」

その上に置かれていた菓子袋と
ペットボトルが宙を舞った。

続いて看護師の怒鳴り声と足音が聞こえてきたが、
誰も意に介さなかった。

廊下は昨日と同じ姿だった。

非常階段が近付くにつれ、嫌な感覚を覚えた。

ジミン
「ここは…!」

僕は境界線の前で速度を緩めた。

本当に大丈夫?こんなことして平気?
外はもっと辛いかもしれないのに。
誰もかばってくれない。誰も守ってくれない。

ジミン
「どうしよう… どうすれば…」

《選択肢》
①そのまま走る。
②立ち止まる。

【パターン①:そのまま走る。】

境界線は目の前に迫っていた。

そこに近付くにつれて心臓の鼓動が次第に
速くなっていった。

ホソク
「ジミン、大丈夫だ。

走れ!」

その一言が僕に力をくれた。

【パターン②:立ち止まる。】

ソクジン
「ジミン、止まるな!」

兄さんの声を聞いて、Tシャツをつかんでいた
手の震えが止まった。

ナムジュン
「ジミン、早く!」

他のメンバーの叫び声も後に続いた。

「ジミン、大丈夫だ。走れ!」

その一言が僕に力をくれた。

その一言が僕に力をくれた。

ジミン
「出るんだ… 僕はここを出る!!」

まるで絶壁と絶壁の間を
飛び越えようとしているかのように
心臓が激しく脈打った。

僕は心臓の鼓動を聞きながら何とか一歩踏み出した。

その次はさらに速く、
最後はそれよりも速かった。

ジミン
「どうか…!」

僕は勇気を振り絞って5歩進み、境界線を走り抜けた。

扉は、手を伸ばせば届きそうなくらい
目前まで迫っていた。

ジミン
「あそこを通り過ぎたら…」

その時、母の顔が脳裏をよぎった。

限界を認めなさい!
良い子にならなきゃ。
ここを出てどうするの?
あなたに何ができるの?

ジミン
「考えちゃだめだ!」

あの扉を出れば、これまでとは違う景色が
待っているはずだ。

ジミン
「もう少し… もう少しだ…」

僕は外の空気を思いきり吸い込んだ。
なぜか涙が溢れそうになった。

〈Episode 6. End〉


7.悲劇の終わり

”テヒョンを襲う悲劇を阻止するためには、誰かが危険な現場に入らなければならない。ソクジンは自らその役を買って出たいと考えたが、それは彼の役割ではなかった。”

22年5月20日

グラフィティが壁一面を覆い尽くすこの場所は、
テヒョンの遊び場だった。

地面にはスプレー缶が転がっていた。

掃除をせずにこの場を離れたのは、それだけ
急いでいたということだろう。

ソクジン
「辛かったよな… 寂しかったよな…」

俺はテヒョンのグラフィティが
描かれた壁をそっと撫でた。

テヒョンは今どのような気持ちなのだろうか。
どれほど傷付いたのだろうか。

到底計り知れない多くのことが…

ソクジン
「全部ここに表現されているんだろうな。」

そろそろホソクが警察署からテヒョンを連れて
出てくるはずだ。

ソクジン
「…行くか。」

今日テヒョンに起こる残酷な事件を阻止するために、
俺は先手を打たなければならない。

不安や焦りといったあらゆる感情が
ない交ぜになったまま、
俺はテヒョンの家に向かった。

テヒョンが暮らしているマンションは街で最も古い建物の
1つだった。

壁のペイントは無残に剥がれ落ちており、
周辺には雑草が生い茂っていた。

俺は建物の後ろの丘に位置する公園に向かった。

ここからテヒョンの家がある階の
廊下が見下ろせるためだ。

ソクジン
「そろそろ来るはずなんだけど…」

俺の予想通り、角を曲がるホソクとテヒョンの
姿が見えた。

ホソク
「じゃあ気を付けてね…」

テヒョン
「ごめんなさい。兄さんに迷惑かけて…」

ホソク
「気にしないで。だけど本当に朝ごはん
食べなくてもいいの?」

テヒョン
「大丈夫ですって。それじゃ!」

ホソクが振り返った。
俺はその様子を注意深く見守っていた。

今回はタイミングが重要だった。

俺が直接解決しようとしたこともあったが、
その時は成功しなかった。

ソクジン
「今はホソクを信じるしか…」

テヒョンがホソクを見送ってから玄関を開けるまで待ち、
ドアが閉まる瞬間に通話ボタンを押せば…

3回ほど呼び出し音が鳴った後、ホソクが電話に出た。

ソクジン
「もしもし、ホソクか?」

ホソク
「ソクジン兄さん?」

ソクジン
「ああ。」

ホソク
「どうかしたんですか?」

ソクジン
「テヒョンと連絡つくか?」

ホソクが立ち止まった。

ホソク
「ついさっきまでテヒョンと一緒でしたよ。」

ソクジン
「本当か?ちょうどよかった。

みんなで海へ旅行へ行こうと思ってるんだ。
テヒョンにも聞いてみてくれないか?」

ホソク
「海へ?いつですか?」

ソクジン
「明後日だ。まだ別れたばかりなら、いま聞いてみて
折り返し連絡してくれ。」

俺はホソクに要件を伝え、急いで電話を切った。

通話を終えたホソクは首を傾げながらも踵を返した。

いつもと同じ嗅ぎ慣れたにおいがした。

かび臭いにおい。
じめじめした壁紙のにおい。そして…

鼻をつく酒のにおい。

テヒョンの父
「どこをほっつき歩いてやがった!」

見ると、父が血走った目をこちらに向けていた。

そしてその後ろでは、殴られて顔が腫れあがった姉が
うなだれていた。

テヒョン
「……」

その瞬間反抗心が湧き上がってきたが、

テヒョンの姉
「テヒョン、お父さんに謝って部屋に入りなさい。」

姉の切実な視線が俺をとらえた。

《選択肢》
①部屋に入る。
②謝る。

【パターン①:部屋に入る。】

不安そうな表情で俺の方を見つめている姉を置いて、
俺が部屋に入ろうとすると、再び父の怒鳴り声が響いた。

テヒョンの父
「どこ行きやがる!こっちに来い!!
いっぺん殴られないと分かんねえみてえだな!」

言い終えるや否や、父が俺の胸ぐらをつかんだ。

【パターン②:謝る。】

俺は姉の言葉に従うことにした。

下手に父を怒らせて、姉をこれ以上傷付けさせたく
なかった。

テヒョンの父
「どこをほっつき歩いてたんだって聞いてんだよ!
早く答えろ!」

テヒョン
「耐えろ… 耐えるんだ…

ごめんなさい。」

俺が素直に頭を下げると、
姉は小さく安堵したようだった。

ところが…

テヒョンの父
「ごめんなさいだぁ?
謝るくらいなら初めっから勝手なことするんじゃねえよ!

殴られないと分かんねえみてえだな!」

言い終えるや否や、父が俺の胸ぐらをつかんだ。

言い終えるや否や、父が俺の胸ぐらをつかんだ。

父の手が俺の体に触れた瞬間、
胸の奥深くから何かが込み上げてきた。

テヒョン
「俺が何したんだよ…

しっかりしろよ!父親だろ!!」

テヒョンの父
「んだとぉ!?」

テヒョンの姉
「テヒョン!」

テヒョン
「俺は…」

《選択肢》
①父の手を払いのける。
②じっとしている。

【パターン①:父の手を払いのける。】

これ以上は耐えられなかった。

テヒョンの父
「てめえ…!」

胸ぐらをつかんでいた手を振り払うと、
父が後ろに倒れた。

テヒョンの姉
「テヒョン!やめて!

お父さん… 大丈夫?」

テヒョンの父
「こ… この野郎!」

テヒョン
「どうしてこんなことするんだよ!」

俺の頭の中には疑問しかなかった。

テヒョン
「いつまで… いつまでこんな目に遭わないと
いけないんだよ!!」

テヒョンの姉
「お父さん!もうやめて!」

【パターン②:じっとしている。】

テヒョンの父
「何だその目は?
なめてんのか!?」

殴られた頬に痛みが走った。

テヒョン
「どうして俺が殴られないといけないんだ?」

テヒョンの姉
「お父さん!もうやめて!」

テヒョンの姉
「お父さん!もうやめて!」

テヒョン
「どうして姉ちゃんが殴られないといけないんだ?」

頭の中で誰かがしきりに叫んでいた。

テヒョン
「いつまでこんな目に遭わないといけないんだ?」

テヒョンの父
「てめえら揃いも揃って…!」

間に割って入った姉に向かって父が拳を振りかざした。

テヒョンの姉
「うっ…!」

激しい暴力を受け、姉の体がしなった。

テヒョン
「姉ちゃん!!」

悔しかった。これ以上怒りを抑えることはできなかった。

テヒョン
「俺たちが何したって言うんだよ!
どうして毎日毎日殴られないといけないんだよ!!」

悔しかった。
怒りがこみ上げてきた。

あらゆる感情が爆発したように溢れ出した。
心臓は激しく脈打ち、時間の流れが遅く感じられた。

いつの間にか手に握っていた冷たい瓶が…
手の熱気を吸収して熱くなっていた。

テヒョン
「うわあああっ!!」

やめて!!
テヒョン!やめるんだ!!

我に返ると、誰かが俺の腰にしがみついていた。

ホソク
「テヒョン、だめだよ!!」

テヒョン
「ホソク兄さん…?」

俺が顔を上げると、
目の前にいた父はいつの間にか姿を消していた。

テヒョン
「……」

この血は父の血なのだろうか。
それとも…

テヒョンの姉
「う… ぐすっ…」

姉は泣いていた。

ホソク
「……」

ホソク兄さんは無言で立ち尽くしていた。

言いたいことは山ほどあるように見えたが、
必死に耐えている様子だった。

かすかな陽射しが窓の外から差し込み、
乱雑に置かれた家財道具や寝具が
いっそうはっきりと目に映った。

こらえきれない怒りと悲しみが胸に広がっていた。

テヒョン
「…兄さん、ごめんなさい。」

泣きたいのに、大声で叫びたいのに、
全て壊してしまいたいのに、
どれも思い通りにはできなかった。

テヒョン
「僕は大丈夫だから…

…帰ってください。」

おかしくなりそうな気持ちとは裏腹に、
声は淡々としていた。

ホソク
「……」

目を閉じると、頭の中がぐるぐると回った。
何も考えられなかった。

テヒョン
「ナムジュン兄さん…」

兄さんに会いたかった。兄さんに話したかった。

テヒョン
「兄さん… 俺… 父さんを…

殺しそうになりました。」

〈Episode 7. End〉


8.展望台

”ソクジンは友人たちと共に、高校時代のように海に旅行に出かける。ようやく一緒になった友人たちに、ソクジンは心の奥底に秘めていた話を聞かせることを決意する。”

ーーー

海に行こう。

ホソク
「ジョングク!早くおいでよ!」

ーーー

22年5月22日

テヒョン
「……」

笑いながら騒いでいる兄さんたちから離れて、
俺は砂浜に腰を下ろした。

妙な気分だった。

テヒョン
「高校の時以来か…」

すでに経験したことがあるかのように、目の前の光景は
見慣れたものだった。

ジョングク
「兄さん、何してるんですか?」

兄さんたちと遊んでいたジョングクが俺の隣に座って
話しかけてきた。

テヒョン
「ジョングク。」

俺はもしやと思って聞いてみた。

テヒョン
「俺たちが初めてここに来た時、あんなのあったっけ?」

ジョングクが展望台に視線を向けて首を傾げた。

ジョングク
「前にもあったんだったら、僕たち上ってるはずだけど、
そんな記憶ないですよね?」

日が暮れようとする時刻。

俺たちは名残惜しさからその場を後にすることができず、
最後に展望台の近くに集まって座った。

テヒョン
「何だか変な気持ち…」

俺はこの光景を見たことがあった。

あまりにも鮮明な夢の中で、この海を、7人を、
高くそびえるあの展望台を。

夢の最後のシーンは、俺が展望台の上に
立っている光景だった。

俺は展望台から下を見て笑っていた。

テヒョン
「現実に起こったみたいに…」

ジョングク
「あれ?ソクジンに兄さんだ!」

ジョングクが指さす方へ目を向けると、
ソクジン兄さんが展望台に上っていた。

テヒョン
「本当に夢だったのかな…?

もしかしたら…」

俺は恐怖と期待を抱きながら展望台に上った。

ついに全ての計画と旅の終わりが目前に迫っていた。

ソクジン
「…気を抜くな。」

展望台から見下ろすと、
これまでの出来事が走馬灯のように駆け巡っていった。

辛かった瞬間、そして孤独だった瞬間が。

繰り返される不幸を目の当たりにして、
諦めたくなることもあった。

テヒョンが上ってくるのではないかと心配していたが、
展望台に立ったのは俺だけだった。

ソクジン
「…よかった。」

ジョングク
「兄さん!ソクジン兄さん!」

展望台の下からジョングクがこちらに向かって
手を振っていた。

テヒョンや他の仲間たちも俺を見ていた。

ソクジン
「やっとこの海に戻ってきたんだ。

もう一度… 全員一緒に。」

テヒョン
「……」

夜になり、俺たちは宿に向かった。

共に夕食をとりながらとりとめのない会話を交わし、

ホソク
「久しぶりにみんなに会えて嬉しいよ!
今からダンスタイムにしない?」

テヒョン
「兄さん、それはダンスじゃなくてもがいてるだけですよ。」

誰かが立ち上がってダンスを踊ると、
全員が一斉に笑い出した。

ソクジン
「そういえばここまで来るのは初めてだな…」

あれほど願いながらも、絶対に訪れることはないと
思っていた日だった。

一時期、俺たちは全員孤独だった。
それぞれの傷を隠して、1人で生きてきた。

ソクジン
「でも今は違う。お互いがそばにいるんだから。

もうひとりぼっちになることはないはずだ。」

それでも何か引っかかっている気がするのは…

ソクジン
「あれがまだ解決してないからだな。」

これ以上逃げ続けることはできなかった。

あの話をしなければ、仲間たちと向き合うことなど
できないだろう。

仲間たちの反応が怖かったが、どうしても言わなければ
ならないことがあった。

ソクジン
「話があるんだ。」

妙な雰囲気の中で俺を見つめていたのはただ1人…

テヒョン
「……」

テヒョンだけだった。

テヒョン
「もしかして… 俺が聞いた夢のことかな?」

俺は先ほどから痛む手のひらを強く握りしめて、
兄さんを見つめた。

数日前、俺はソクジン兄さんのもとを訪れて
最近見ている夢について聞いたことがあった。

俺たちに何かが起こっている気がすると。

兄さんは何か知らないかと。

テヒョン
「その時、兄さんは知らないと答えたが…」

ソクジン兄さんは俺の夢の中で起こる出来事を
知っているかのように行動していた。

テヒョン
「絶対に何か知ってるはずだ…
今日話してくれるのかな?」

俺は緊張したままソクジン兄さんの言葉を待った。

ソクジン
「もっと早く言うべきだったんだけど…

高校の時の話だ。」

テヒョン
「高校?」

兄さんの言葉を聞いた瞬間、胸の奥深くから何かが
込み上げてきた。

テヒョン
「こんなの… 卑怯じゃないか!」

高校の時、ソクジン兄さんは俺たち全員を傷付けた。

あの時のことについて謝るつもりなら、今ではなくあの時
謝っておくべきだった。

ところがソクジン兄さんは、
あの日のことに注意を向けさせて
また何かを隠そうとしていた。

今日はあの日のようにはいかない。

テヒョン
「何の話をするつもりですか?」

感情を抑えきれなかったのか、
つい声が鋭くなってしまった。

テヒョン
「兄さんが高校の時に校長のスパイになって、
俺たちのことをチクってた話ですか?」

ナムジュン
「テヒョン。」

テヒョン
「それともあの事件のせいで…!
ユンギ兄さんは退学させられたんですか!?」

その場が水を打ったように静かになった。

テヒョン
「どっちの話をするつもりです?
両方とも兄さんがやったことですよね?」

ソクジン
「…ごめんな。」

ソクジン兄さんはうなだれていた。
初めて見る姿だった。

その場にいたメンバーたちは、
目をそらすか困惑した様子を見せていた。

テヒョン
「それだけですか?まだ隠してることが
あるんじゃないんですか?」

何も知らないまま不幸にはなりたくなかった。

テヒョン
「たとえ真実が悪夢よりも残酷なものだとしても…」

ソクジン
「……」

テヒョンがどんな話を聞きたがっているか
予想はついていた。

ソクジン
「…あの夢のことだろうな。」

しかし、話すことはできなかった。

テヒョンの身に訪れた悲劇が夢の中の出来事では
ないということを。

ソクジン
「みんなは知らない方がいい。」

あんな苦しみを味わうのは俺1人で十分だった。

どのみち過ぎたことだった。
もう二度と来ないはずの…

ナムジュン
「テヒョン。」

ナムジュンがテヒョンの腕を引っ張った。

テヒョン
「兄さん、邪魔しないでください。

兄さんには関係ないでしょ。
実の兄弟でもないんだし。」

テヒョンは振り返ることもなく
ナムジュンを突き飛ばした。

ソクジン
「テヒョン、悪かった。」

俺にできるのは、ただテヒョンに謝ることだけだった。

ナムジュン
「テヒョン、やめろって!」

テヒョン
「どうしてですか。せっかくなんだから
この際はっきりさせましょうよ。

兄さん、僕たちに隠してることがありますよね?」

テヒョンの追及を受けて、必死に忘れようとしていた
記憶が蘇ってきた。

とめどなく押し寄せてくる悪夢が今にでも現実として
起こる気がして、

気が遠くなりそうだった。

ソクジン
「いや… そんなこと…」

ナムジュン
「外で話そう。」

テヒョン
「兄さんには関係ないって言ってるでしょ!」


2人が言い争っていた気がするが、
頭の中が真っ白になって俺の耳には何も届かなかった。

いま起こっていることが信じられなかった。
いや、信じたくなかった。

ソクジン
「…お前たちのために… 何度も何度も苦しい思いを
繰り返してきたのに…

俺にどうしろって言うんだよ!!」

全員が笑い合える日が戻ってきてほしいと
願っただけだった。

消えたと思っていた小さな火種が
いつの間にか大きく膨れ上がり、
全てを飲み込もうとしていた。

ソクジン
「仲間たちを救うために必死に頑張ってきたのに…
その結果がこれなのか?」

言い表せない感情が波のように激しくうねった。

ソクジン
「…一緒にいられるだけでも十分だろ。」

ナムジュンの腕を振り払ったテヒョンが大声で叫んだ。

テヒョン
「何が一緒だよ!

結局のところ、
みんなひとりぼっちじゃないか!!」

ソクジン
「ひとりぼっち…」

その瞬間、必死に掴んでいた何かが
ぷつっと切れてしまった。

手の震えが全身へと広がっていった。

全員を救ったと思ってやってきた海辺での
テヒョンの飛び降り自殺…

それも阻止したと思っていたのに…
みんなひとりぼっち…?

共に幸せになるという希望、
そして仲間がいたから耐えられたあの日々まで。

全て否定されたような気がした。


ようやく過去の出来事になったと思っていた不幸が、

今もなお、遥か先で手招きをしていた。

〈The End〉



ーーー

お疲れ様です。
根気よく読んでくださってありがとうございました!

課金したりジュエル溜めたりして毎日こつこつ50話も読み進めて辿り着いたエピローグで、何もかも調子よく解決する展開かと思わせながら最後の1話でまさかの激鬱フィニッシュ。いや~これです。これがBUの醍醐味です。

どうですか?逆に気分がいいですよね。


というわけで、ここまで4記事に渡って整理した『BTS Universe Story』(ゲームアプリ)』全51話のエピソードの全文書き起こしは以上になります。最後までお付き合いいただきありがとうございます。

書き起こし記事は参考資料のマガジンに入れてますので、今後振り返る際はこちらをご活用ください。


また、Twitterでもお伝えした通り、今回この全文書き起こし記事を作成するにあたり、わたしが時系列整理用に控えていた資料に色々と抜け漏れがあったため、わたしの唯一のBU友(ダサ)と言っても過言ではないPistoriusさん(@___Pistorius___)に多大なご協力をいただきました。

この場を借りてお礼申し上げます。
ありがとう、お疲れさま ㅠㅠㅠ



〈次回〉未定
※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。


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aya.
ありがとうございます💘