BTS【花様年華】⑨7人でまたあの海へ
ソクジンひとりの行動だけではなくお互いに助け合うことで、初めてテヒョンの事件を防ぎ、再び揃ってyear22.05.22を迎えました。
この日7人はビルの屋上で待ち合わせをしていました。一足先に屋上へ来たテヒョンは、割れた酒瓶を握ったことで怪我を負い、訳も分からないままホソクに手当てをしてもらった掌をじっと見つめていました。
廃プールで集まり、海に行って【花様年華】の時代のように遊んだ日の出来事は、ソクジンの記憶だけに残る思い出になっていましたが、それでも7人はどこか懐かしいような気持ちで再びあの海へと向かいます。
ジョングクは、6人と再会しジミンを病院から連れ出してこの海へ来るまでの、ただ兄たちの背中について当てもなく走った日々を思い返しながら、あの時授業をサボって歩いてきた海にまたこうして7人で来れたことが嬉しく、まるで本当の家族になった様に感じていました。
7人を乗せた車は、かつてテヒョンが飛び降りた展望台がある海へと到着し、車を降りた7人は堤防に立って海を眺めます。
あの時、テヒョンがよじ登った展望台に、今度はソクジンが登りました。頂上から6人を見下ろすと、テヒョンはどこかで見たことのある光景に首を傾げ、既視感を覚えたような不思議な表情でソクジンを見上げていました。
ソクジンが本当の現実で見た6人の悲惨な現実は全て書き換わり、それぞれに置かれた環境や過去のトラウマとも次第に向き合えるようになっていました。
ソクジンはビデオを回すと、無邪気に手を振る6人の姿に「これで全てが終わったのだ」と安堵の表情を浮かべ、カメラを海へと向けました。
その夜、7人は海の近くのモーテルに宿泊することになっていました。
モーテルへと向かう直前、ナムジュンの携帯に着信があり、ナムジュンは6人から離れて電話を取ります。誰からの電話であるかはっきりとした記述はありませんが、電話の内容はナムジュンの一つ年下の実の弟に関することでした。
ナムジュンは田舎に残してきた両親や弟を大切に思っていないわけではありませんでしたが、出来れば避けて通りたいことのような複雑な思いを抱えていました。
ナムジュンは電話をしながら、いつの日かジョングクに言われた「僕も兄さんみたいな大人になれますか」という言葉に何も返すことが出来なかった自分を思い出し、辛い境遇にいる年下の友人たちに、年を重ね、背が高くなることが大人になることではないと言ってやることも出来ず、愛情を知らない彼らの明るい未来を望んではいても、守ってやると約束してあげることは出来ない自分にもどかしさを感じていました。
「たった一歳しか変わらない。もう子供じゃないし、もう少し自分で何とかできるだろう」電話の相手にそう話すナムジュンの声を、テヒョンが聞いていました。
テヒョンには、違うとわかっていてもその言葉がまるで自分に向けて言われているかのように深く突き刺さりました。実際にテヒョンとナムジュンはわずか一歳の年の差で、ましてや実の兄弟でもありません。ナムジュンの言葉には反論できる余地もなく、テヒョンは寂しさと同時に理不尽な怒りが沸き上がるのを感じました。
タイムリープを繰り返し、何度も6人の最悪の結末を目にしたソクジンにとって、この日展望台から見下ろした景色は、もう二度と経験したくない血の滲むような努力の末に手に入れた何にも代えがたいものでした。
しかし、ソクジンの心の内には、学生時代にみんなに打ち明けることが出来なかった秘密を清算したいという思いだけが残されていました。
どんな事情であれ、かつての自分がとった行動のせいで一緒に過ごした幸せだった時間を失うことになってしまったことに対して罪の意識を感じていたソクジンは、モーテルで7人で食事をした後「話したいことがある」と切り出します。
「高校の頃、」そう神妙な面持ちで話し出すソクジンにみんなが不思議そうな視線を送る中、テヒョンだけはソクジンが何の話をしようとしているのかがわかっていました。
ナムジュンの電話を聞いてから、やり場のない苛立ちを覚えていたテヒョンは、ソクジンの話を遮って「高校の頃?兄さんが校長のスパイをしていたことですか?それともそのせいでユンギ兄さんが退学になったことですか?」と言い放ちました。
ソクジンが校長と通じていたことはナムジュンも知っていましたが、ナムジュンはユンギが退学になったときすでに田舎に引越していたので、全てを知っているわけではありません。
驚いて何も言えない弟たちに、ソクジンはただ謝ることしか出来ませんでした。ナムジュンがテヒョンを宥めようとしますが、テヒョンは「兄さん、それだけですか?他にも何か隠してるんじゃないですか?」とさらにソクジンに詰め寄ります。
テヒョンは、数日前にソクジンを訪れて悪夢の話をしたときの、ソクジンのはぐらかすような態度にも苛立ちを覚えていました。
ソクジンは、自分がタイムリープをしていることはもちろん、本当の現実で迎えるはずだった最悪の結末を6人に話すつもりはありませんでした。
テヒョンが夢で見たように父親を実際に刺し殺し、しかもそれが繰り返し起きたのだということをあえてテヒョンが知る必要がないように、世界の誰もがそんな苦しみを経験する必要はなく、事実を話さないことでテヒョンの恨みを買うことになったとしても構わないと考えていたのです。
テヒョンは、ソクジンが自分たちに何かを隠し続けていることや直前に聞いたナムジュンの電話の言葉に、どうしようもない怒りが込み上げて抑えることが出来なくなっていました。そして、いつも怯えていたあの暴力的な父親の血が自分にも流れているんだと気付きます。
「落ち着いて、外で話そう」
そう提案して、ナムジュンはテヒョンの手を引きました。
「離してください。兄さんは何も知らないくせに、兄さんは自分が立派な人間だと思っているんでしょう!」
テヒョンが言ったその言葉は、ナムジュンがいつも抱えていた、実際の自分が周りからの評価に見合うものではないという葛藤に重く圧し掛かり、ナムジュンはそっとテヒョンの手を離してしまいました。
八つ当たりのようにナムジュンに怒りをぶつけながらも、心のどこかで、兄さんは自分を見捨てない、きっと本当の弟のように叱ってくれると考えていたテヒョンは、ナムジュンが手を離したことにショックを受け、思わず乾いた笑いがこみ上げます。
「僕たちが一緒にいることがそんなに大事ですか?
結局みんな、ひとりじゃないですか!」
気が付くと、ソクジンはテヒョンを床になぎ倒し、殴っていました。
「一緒なら笑うことが出来る」
ただその一心で、何度も絶望を繰り返してこの場所に辿り着いたソクジンにとって、テヒョンが言い放ったその言葉はあまりにも残酷なものでした。
殴られたテヒョンはソクジンを突き飛ばしてモーテルを飛び出し、ソクジンもそれを追いかけて行きました。その後ナムジュンもひとりでモーテルを出て行ってしまい、残された他の4人は3人が戻るのを待たずに歩いてソンジュの街へ帰ります。
結局ソクジンはテヒョンを見失い、ひとりでモーテルへと戻りましたが、そこにはすでに誰もおらず、今日撮ったばかりの海での写真だけが落ちていました。
こうしてまた、7人は疎遠になってしまうのです。
歩いてソンジュへ戻る途中、ジミンはある決意を固めていました。病院からみんなで脱走して以来ホソクのアパートに身を寄せていたジミンは、家族と完全に縁を切っているわけではなく、連絡を取り合っていました。
プルコッ樹木園でのトラウマと向き合ううちに、自分を腫物のように扱っていた両親ともきちんと向き合いたいと思うようになっていたジミンは、ホソクに家族の元へ帰るつもりだと伝えました。
ジョングクは心の整理がつかないまま、ただ兄たちの後ろをついて歩きました。そして特にこれといった理由はありませんでしたが、兄たちと別れてひとり別の道を歩いて帰りました。
ひとりとぼとぼと夜道を歩くジョングクに、予期しないことが起こったのはその時でした。
悲鳴のようなブレーキ音が響き渡り、ジョングクの身体が宙に浮かびました。気が付いた時には硬いアスファルトに叩きつけられていて、しばらくの間何も感じることが出来ませんでしたが、次第に全身が耐えられないほど重く、瞼を動かすことすらままならなくなりました。
意識が散らばってだんだんと見える景色が薄くなっていく中、砂に塗れたようなぼんやりした視界の向こう側で、明るく大きいぼんやりと輝く逆さまの月を見上げていました。
寒気が襲い、底知れない恐怖を感じて口を開いてみても言葉を発することは出来ず、徐々に遠くなる意識の中で知らない誰かの声が辺りに響きます。
「生きることは死ぬことよりも苦しいのに、それでも生きたいのか?」
ジョングクは、そのまま意識を失いました。
6人と別れた後、人知れず起こったジョングクの事故でしたが、この事故をきっかけにタイムリープが起こることはありませんでした。
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次回の記事では、再び疎遠になってしまった7人それぞれに訪れる新たな出会いを整理します。
※追記※
の、予定でしたが
一度本筋から離れて、ここまでに整理した時系列に関連する作品たちをまとめる記事を投稿しました。
〈次回〉
※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。
※時系列まとめの次回記事はこちら※
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ありがとうございます💘