見出し画像

定本レッド 1969-1972

■ 感想

「定本レッド 1969-1972(1)」山本直樹(太田出版)P744、P744、P744、P664 :計P2896

世界中で若者の反乱が同時多発的に起きていた時代背景の中、日本でも学生運動が過激さを増し赤軍派や革命左派を生み出していた。それぞれの正義が起点にあったとしても、銃などを使って銀行強盗で資金の調達を行い、武器となる銃やダイナマイトを違法に強奪することに戸惑うこともなく、身勝手な正義と自由を求め突き進んでいく姿は正義とは程遠い。

しかし日本中に貼られた手配書のおかげで闘争は愚か外に出ることも儘ならず、身の置き場を転々とすることに消耗するだけの毎日に疲れ果て、山に根拠地、都内にアジトを確保することで山岳と都市を結び、銃を軸とした闘いを目指していくことに。志を同じくしたはずの仲間の連帯はいつしか不自由な楔となり、意見が異なれば「処刑」という、恐ろしい殺人集団へとその形を歪にしていく。

登場人物の中には数字が表示されている人物が混ざっており、なんだろうと思っているとそれはあさま山荘事件までの間に命を落としていく順番が刻印されていて、寿命のカウントダウンと共に読み手にも不気味な恐怖が押し迫ってくる。毛沢東が提唱した闘争優位の思想を掲げ、過激で危険な集団となっていく姿はカルト教団の歩みを見るよう。

忌み嫌う国家権力と自分たちの組織では政治的意見が異なるだけで、なんら変わりない傲慢な組織へと成り果てていることに気付くこともなく、真っ黒い渦となり暴力が加速しようとしている張り詰めた空気が重苦しい。大菩薩峠事件で弱体化が著しい赤軍派は革命左派と融合し、連合赤軍としてここからは山岳ベース事件へ。

「指導として殴る、これは新しい指導だ」。暴論を正義として滔々と語り、「死」は狭い世界に閉じ込められ逃げ場のない赤色連盟の心を恐怖と熱狂に巻き込み、正義を歪に塗り替えていく。本人が「総括」を成し遂げる為の手助けという詭弁の元に仲間を殴り「がんばれ」と声をかける人たちの頭には、死へのカウントである数字が刻印されている二重の恐怖。死の恐怖を克服する為にと口にしながらも、自らの身にも降りかかろうとしている現実を逸らすべく狂気に身を委ねる異様な光景が赤黒く覆い尽くしていく。

「我々はすごく高い地平に来たのだ」。あさま山荘事件までに15人もの死者を出し、命からがら離脱した人、逮捕された人も続出し、残りの仲間はとうとう9名に。選民意識と狂気を拗らせながら無謀な殲滅戦へ突入するはずが、リーダーたちも逮捕され残り5名のみで辿り着いたあさま山荘。暴力は地獄しか生まないことを証明する事となった赤色連盟最後の冬は冷たく白い雪を真っ赤に染め、その咆哮は深く冷たい土の下に消えて行った。二度と繰り返さない為に、人間の一つの真実の姿として読み継がれてほしい労作。

■ 漂流図書

■連合赤軍事件50年目の真相|別冊宝島

よど号事件、山岳ベース、あさま山荘などを、証言と資料で振り返るノンフィクション。

全共闘とはなんだったのかを総括しているという本書は是非読みたい。

いいなと思ったら応援しよう!