ずっとお城で暮らしてる
「ずっとお城で暮らしてる」(監督)ステイシー・パッソン(96min)
シャーリイ・ジャクスン原作の中でも異彩を放つ、美しい悪夢のような世界。映像化でとても期待していたけれど、この原作が内包する少女特有の毒と甘い闇が感じられず残念。
メリキャットの少女としての毒と神経質さを見事に体現したタイッサ・ファーミガ、コンスタンスの美しい闇が見えたアレクサンドル・ダダリオは素晴らしかったけれど、映画自体は悪夢のような幸福があまり感じられなかった。
村人から忌み嫌われ、姉妹と一人の伯父を残し他の家族は殺された悲劇の資産家ブラックウッド家。外界との接触をなるべく避け静かにお城で暮らす姉妹の毎日は穏やかで愛情深く、誰に迷惑をかけるでもなく微笑みに包まれながらも、底知れぬ闇が屋敷を纏う。
潔癖で残酷な心を持ち続ける永遠の少女・メリキャット。妖精のお姫様のようなコンスタンス。かわいい猫のジョナス。風変りながらも世俗的な悪や負を持ち込まず夢のように生きる幻想的な姉妹の暮らしと人の悪意のコントラストによって姉妹の一種グロテスクな部分を際立たせていくのが見せ所のはずが、全体的にどこに振り切ることもない為、屋敷の内と外が壁一枚であってもその境界線が隔てるのは交わることのない世界線にあることを感じられない。
清らかな少女の世界に無断で踏み込み、踏みにじった先には残酷な未来が待ち受けている。柔らかで可愛らしい少女の世界の奥にある、甘美で真っ黒い闇。シャーリイ・ジャクスンの生み出した甘く苦く忘れられない毒は、是非原作でも味わってほしい。