俺の大切なその人について
これは、同名タイトルの小説について、書き手が何故これを書いたのか、何を言いたいのかについて解説したものです。
とは言え。私の作品は、読み手に自由に解釈していただければと思ってますので、これを読んだ方に、なにか感じるものがあったのなら、それは本当に嬉しいことです。
ぜひ、先に作品を読んでから、その背景について興味をもたれたら、種明かし的にここも読んでいただけると嬉しいです。
「この作品を書いた理由」
このお話は、私自身の心象風景を書いたものです。
痛々しいほど自己否定が強い自分自身に気づいておらず、仮面をつけて生きて居た頃の「私」と、仮面をつける以前の本来の「私」を客観的に文書に書き起こし、融合させてみたくてこの物語を思いつきました。
このお話は、心理学者ユングの説をベースにしています。
「俺」は、社会に見せる仮面である「ペルソナ」を表し、
「その人」は、自己否定が生んだ「シャドウ」を表して居ます。
「ペルソナ」は、自分が理想と考える姿で振る舞う時につける仮面のような人格になります。このお話では、いつ割れてしまうか分からない、安心できない薄氷の上で、仮面をつけて踊っている「俺」の姿が描かれて居ます。
「シャドウ」は、自分がダメだと否定して消し去ってしまった本来の人格になります。このお話では、子どもっぽい絵を描いたり、歌ったり、物語を書いたり、占いをしたりしていた「その人」の姿で描きました。
また、「俺」が一人称から男性のような雰囲気なのに対し、「その人」は柔らかい女性のような言葉遣いや雰囲気になっています。
本当の私はひとりなので、どの私も自分、ということになります。
人は誰でも「男性性」も「女性性」も持ち合わせているのですが、特に今までの社会では女性は蔑まれ、男性でなければ認められない風潮がありましたので、ペルソナを男性に、シャドウを女性に表現しています。
このお話の一話目では、ペルソナの「俺」が、心に閉じ込めたシャドウの「その人」を思い出して、心の扉を開けた場面を描いて居ます。
「その人」つまり本来の私は、「俺」で表現されていたペルソナも心地よく居られるようにするのですが、「俺」は「その人」を否定することでしか、自分を成り立たせられないのです。自分がつけた仮面は、本来の自分を否定しにかかります。
でも、一話目の最後でようやく「その人」の正体に気づきます。
二話目では、ペルソナとシャドウの統合が起こります。本来の私が差し出した手を取ると言うことは、シャドウを拒絶しなくなると言うことです。
本来の自分自身との仲直りが起きると、ペルソナとシャドウは統合され、本来の私そのものだけが、残ります。それは「俺」でも「その人」でもない「私」になります。
男性性と女性性も統合され、バランスよく安定した「私」に戻ることが出来たのです。
それは、とてもとても優しい、深く呼吸ができる世界です。
読んでくださってありがとうございました。