
月を見上げて綺麗だね、と言うココロが君の中にいつまでもありますように。
「おっつきさん、かんかんのほう、ついてきた!」
満月の前の夜、いつもより大きなまんまるのお月さま。
まだ夏の名残をうっすら感じながらも、急に冷え込みはじめたお山の秋。
そろそろ衣替え、しないとな、なんて思うくらいには日暮れがずいぶん早くなった10月の18時過ぎ。
母子ふたり、車で急いで家に帰る道すがら、息子が驚いた声でそういった。
「ほんと、ついてくるねぇ。」
「また、ついてきたねぇ。」
角を曲がるたび、ふたりで笑った。
「かっか、おっつきさん、きれいね。」
「ほんと、きれいだねぇ。」
「おっつきさん、こんばんはっていってた。」
なんだかホロリと、泣けてきた。
月が綺麗で、ただそれだけで。
こんなに母子ふたり、心がぽっかり灯された。
この日の午前中、ホルモンバランスのせいかな。なんだか気持ちが晴れなくて、無性に心がとげとげしていたから、息子といっしょに隣町にある大好きなブックカフェに車を走らせたのだ。
途中でお昼を食べて、どんぐりを山盛り拾って、ほくほくした気持ちで、いざブックカフェへ。
車で揺られているうちに眠ってしまった息子を抱いて、少しだけ座ってお茶できちゃうかも、なんて期待しながらお店に入った。
抱っこで歩くにはいつのまにかずいぶんと重たくなったな。
コーヒーを一杯お願いして。
店内をぐるりと見て回って、新刊をぱらぱらとめくりめくり。
いつもは気になる本が必ず見つかる、趣味の合いまくりな本屋さん。
自分のエネルギーが低下しているなと感じるといつもここへ足を運ぶのだ。
こんな日はやっぱりどの本を開いてもピンと来ない。
ほかほかのコーヒーを淹れてもらったので、席についてふぅっとひと息。
あわよくば読書でも。なんて欲が出てラックに入っていた雑誌を開いてぱらぱらしているうちに息子くんが目を覚ます。
時間にしてほんの20分くらいの出来事。
でも、たったの20分で心の空気が入れ替わった。
パンパンになっていた心の空気を抜いて少し緩んだ日の帰り道。
山の上にある我が家へ息子とふたり急ぐ帰り道。
向き合わずに、同じ月を見上げながら笑った帰り道。
忘れられない満月の前の日。
2歳2か月の彼は今日、お月さまがどこまでも自分についてくると知った。
なんだかホロリと、泣けてきた。
月が綺麗で、ただそれだけで。
こんなに母子ふたり、心がぽっかり灯された。
月を見上げて綺麗だね。と言うココロが、君の中にいつまでもありますように。
そして。
月を見上げて綺麗だね。と言う、いつかの君の隣にも大切な人がいてくれるといいね。
なんだか、ふと、そんな風に思ったのだ。
そして、早く家に帰って、腹の虫の居所が悪くて少し冷たく当たってしまっていた夫に、月が綺麗だよって教えたくなった夜。
やっぱり月は、どこまでも私たちのほうへついてくる。
やっぱり月はいつも、大切なことを教えてくれる。