ベンチャー企業の1人テクニカルライターとして過ごした1年目の記録
こんにちは!
Peatix Japan株式会社で社内1人テクニカルライターとして働いているNakatsukaです。
ピーティックスに入社してから、今月で無事1年を迎えました。
今回はあっという間ながら充実した毎日を過ごせた1年を振り返りながら、これからの1年に向けた目標などを書きたいと思います。
はじめに
振り返りを始める前に、テクニカルライターという職種名の定義について触れたいと思います。
この1年で他社のテクニカルライターさんたちと交流の機会がありましたが、同じテクニカルライターと言っても、所属しているチームの属性(エンジニアチーム寄りか、カスタマーサポートチーム寄りか、など)や具体的な業務内容などは、企業によって異なる印象を持っています。
主に共通しているのは「サービスやプロダクトの仕様を理解した上でマニュアルやヘルプサイト記事を制作する」といった点かと思いますが、それ以外については扱うサービスやチームメンバーの人数によって変わるイメージです。
また、マニュアルやヘルプサイト記事の執筆は、テクニカルライターではなく、問い合わせ対応と同時にカスタマーサポートチームのメンバーが担当しているパターンも耳にします。
このため、この記事では普遍的なテクニカルライターの職務というよりも、当社のテクニカルライター職における業務についてのお話になりますが、今後ライティングチームの編成や新たにテクニカルライターのポジション設置を考えている方などの参考になれば幸いです。
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この1年でやったこと(社内)
ヘルプサイト記事の制作
1.改善依頼への対応
私が入社した段階でヘルプサイトの記事は約300あり、すでに基本的な内容はそろっている状態でした。
そこで入社後、まずはカスタマーサポートチームのメンバーから連携された更新依頼箇所の改善に着手しました。
ピーティックスでは、サポートチームメンバーが日々のお問い合わせに鑑みながら、以下のテンプレートを利用して更新依頼箇所を連携してくれます。依頼を受けたテクニカルライターは該当箇所を確認し、最も分かりやすい表現を考えて内容を改善します。
また、既存記事の中でまかなえない内容については、新規記事の作成をおこないます。
私が入社する前のテクニカルライター不在時期から溜まっていた依頼も含め、1年間で約160記事の修正をおこないました。
2.語彙やレイアウトの統一、画像の追加
各記事を見ると、機能の説明や日本語は正しくても、所々語彙の揺れ(「申し込み」と「申込/申込み」など)があることが分かりました。
また、見出しの付け方や空白行の入れ方などのレイアウト面のズレや、言葉だけでの説明では分かりにくい画像の不足箇所も見つかりました。
ヘルプサイトの記事は正しい内容が分かりやすい文章で書かれていることが大前提ですが、ぱっと見た時の視認性も重要です。
そこで、修正依頼が一通り進んだ段階で全記事を点検し、語彙やレイアウトの統一、画像の追加などをおこないました。
3.トラブルシューティング記事の更新
毎月ページ別のアクセス解析をおこなっていると、「〜できない場合」といったトラブルシューティングにまつわる記事のアクセス数が常に多いことが分かりました。
同じトラブルの事象であっても、その原因は複数に分かれることが多く、トラブルシューティング記事では原因と対処法を網羅的に記載することが望ましいです。
ただし、ヘルプサイト開設初期に作成したまま更新されていないトラブルシューティング記事は、情報が不足していることが多いです。
例を挙げると、当社の「チケットが申し込めない場合」という記事は、対処法としてユーザーの端末やブラウザの確認のみに言及している状態であり、他のトラブルシューティング記事も同様に情報が不足していました。
そこで、それぞれの記事におけるトラブルの具体的な原因および対処法のパターンをサポートチームのメンバーに複数あげてもらい、その内容を整理した記事への更新をおこないました。
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【取り組みの結果】
これらの改善取り組みとチャットボット導入により、参加者ヘルプサイト経由の問い合わせは、約半年で半分まで減るという結果を得ることができました。
ヘルプサイト記事の更新には、ユーザーの実態に関する解像度が高いサポートチームメンバーとの連携が欠かせません。
問い合わせ対応と並行しながら、改善に必要な情報を常に提案してくれるメンバーのみなさん、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします!
活用促進サイトコンテンツの制作
ピーティックスには、イベント成功のノウハウを伝え、サービスの活用促進を促すPeatix Universityというサイトがあります。
カスタマーサクセスのメンバーと協力しながら、このサイトのコンテンツ制作やアクセス分析もテクニカルライターが担当しています。
入社初期は、ユーザーインタビューを伴う事例記事の執筆を中心におこなっていました。元々営業職としてユーザーに直接話を聞いたり、副業としてインタビュー記事を執筆したりしていたので、引き続きインタビューに関われたことは嬉しかったです。
年明け以降は、イベント企画や運営に関するノウハウ記事の拡充や各記事のSEO対策などにも力を入れ始めました。
また、最近は自ら添削施策を企画するなど、新たな取り組みをスタートさせることもでき、自身の学びにつながっています。
マイクロコピーのローカライズ
ピーティックスでは、開発エンジニアやデザインチームのメンバーが考案したUI(ユーザーインターフェイス)上の英語のマイクロコピーを日本語にローカライズする作業もテクニカルライターが担当しています。
この1年では、主に以下の4つの新機能+その他細かなアップデートのリリースがあり、それらのコピー作成をおこないました。
▼パスワードを忘れても素早くログイン「クイックログイン」
▼SNS外部サービス連携でログインできない場合、ガイドメッセージが表示されるようになりました
▼グループページのデザインが新しくなりました
▼グループページに「アクティビティ」機能が追加されました
ユーザーが実際に操作する様子を思い浮かべながら、ストレスなくスムーズにサービスを利用できる日本語コピーを考える作業は、必ずしも絶対的な正解がある訳ではないため苦戦することも。
現実的には難しいですが、サポートコンテンツがなくてもユーザーの疑問を生じさせないUIが理想的です。これを実現させるため、テクニカルライターとしてなるべく最適なコピーを提示できるように、これからも研鑽を積んでいきたいです。
その他
社内のライティングにまつわる業務全般に携わったため、セールス部署関連のLPやメールマガジンのテキストチェックなども担当しました。
思い返せばかなり幅広い業務を担当させてもらいながら、ライティングスキルを磨けた1年だったと思います。
また、生成AIが1人テクニカルライターの相談相手になってくれる場面も多々ありました。
当初は「AIなんかに負けられない」という謎の闘争心を持っていましたが、1人でライティングをしていると、どうしても正解のない表現に迷う場面は多いです。
そんな時、同僚に話しかけるように「どの表現がよりユーザーにとって分かりやすいですか?その理由も含めて教えてください」といった質問をするとAIからアイディアが得られ、自分の思考を広げることができるのはありがたいです(ただし、細かな文法の解説などについては間違いが含まれることがあるため注意が必要)。
今後さらにAIは進化を遂げていくと思いますが、AIがアウトプットしたものを最終的に取捨選択するのは人間であり、そこには言葉に対するセンスや経験則が求められると思います。
これからもライターとして、より効果的なAIの活用方法を模索し続けていきたいです。
この1年でやったこと(社外)
他社コンテンツの研究
昨今、サポートコンテンツは多くのウェブサービスで用意されているため、生きたアイディアにすぐアクセスできます。そこで良いと感じたアイディアはなるべくメモして、社内でもシェアすることを意識してきました。
自分がユーザーとして各種サービスを利用するとき、そのデザインや細かな表現に対してこれまで以上に目がいくようになったのも、この1年での変化かと思います。
また、他社で公開されているライティングガイドラインなども大いに参考にさせてもらいました。
特にライティングへの熱量が高く、すてきなメンバーのみなさんが集っているSmartHRさんのガイドラインは大変おすすめです。
テクニカルライターコミュニティへの参加
SNSを通じて知り合ったテクニカルライターさんからのお誘いで、「Technical Writing Meetup」のオンラインコミュニティに参加しました。普段1人でライティングをおこなっている私にとって、ちょっとした話題をチャットで話せる環境はとてもありがたいです。
また、イベントやコミュニティをサポートするピーティックスに勤める人間として、新たなコミュニティと出会えたことは光栄でした。
これまでには少人数での飲み会やオフラインイベントも開催され、顔馴染みの方々ができたことも嬉しかったです。これからもイベントでの交流を楽しみにしています!
▼Technical Writing Meetup 公式X
勉強会での登壇
2024年は「自社の取り組みを社外に発信する機会を持ちたい!」という思いがありましたが、運良く3月に前述のコミュニティが主催しているオンライン勉強会での登壇のお話をいただきました。
スライドをまとめるには時間がかかりましたが、大切にしてきた「サポートチームとの連携」というテーマでお話できたことは嬉しかったです。
私自身、普段他社の事例を大いに参考にさせてもらっているため、少しでもピーティックスの取り組みがどなたかのお役に立てたら嬉しいです。
※登壇の動画と資料はこちらからご覧ください。
テーマ:『サポートチームと連携しながらヘルプページを改善する方法』
▼動画(45:30〜)
▼資料
https://drive.google.com/file/d/126qQLTOHi0hoE-7Ezp3yNsntd0AEi18b/view
1年を過ごしての感想
ライティングに専念できる環境のありがたさ
「ライティングを極めたい」という思いで入社した私にとって、ライティング業務に専念できる環境はとてもありがたいです。
ピーティックスへの入社前の2年間は、カスタマーサクセス職としてコンテンツの制作に関わっていました。当時はオンラインセミナーの運営などにも関わっていたため、ライティング業務に集中できないことにもどかしさを感じる場面もありました。
現在は専門職としてライティングに携わることができるため、集中して業務に向き合えていると思います。その分、プロとしてよりクオリティの高いアウトプットができるよう、引き続き勉強を続けていきたいです。
1人でも孤独を感じない心強さ
1人で1つのポジションに就くことは初めての経験でしたが、想像していたより他のメンバーと関わる機会を持てているため、とても心強いです。
週の定例ミーティングは平均して6時間程度であり、圧倒的に1人で作業する時間の方が長いですが、相談したいことができた場合には、気軽にチャットで声をかけられる雰囲気に助けられています。
ライターと言うと孤独を好むイメージを持たれることもありますが、1人での作業も人とコミュニケーションを取ることも好きな私にとって、今の働き方はとても心地よいです。
新たな人との出会いによって得られた視野の広がり
これはテクニカルライター職に限らない話ですが、やはり転職して関わる方々が変わったことで、物事に対する視野が大きく広がった実感があります。
多数のジャンルのイベントやコミュニティを扱う会社ということもあり、ピーティックスの同僚たちは、常に色々なニュースやアイディアにアンテナを張っているため、お話していてとても楽しいです。
また、今回の転職先は初めての外資系企業であり、多国籍の仲間と出会えたことも大きな変化でした。ただし、まだまだ英語のやりとりには苦手意識があるため、もっと海外の同僚たちともコミュニケーションが取れるように英会話練習も頑張っていきたいです。
これからの1年でやりたいこと
活用促進サイトの拡充
サイト開設当初と比較すると掲載記事数は増えてきましたが、まだまだ充実しているとは言えません。
記事以外にも動画を始めとしたコンテンツ種類の増加や、これまであまり強化できていなかったデザインのアップデートなどにも力を入れ、よりユーザーが使いやすいサイトにしていきたいです。
また、より細かくアクセス分析も行い、そこから見えてくる傾向や課題をコンテンツ制作に反映していきたいと思っています。
チームの枠組みを越えた企画の推進
新卒の頃から今までずっと抱えてきた課題ですが、どの会社でも少し離れたチームや部署の情報は入りにくいと感じています。せっかく同じ会社にいるのに、貴重な情報が共有されにくい状況はもったいないです。
特にサポートコンテンツを作るテクニカルライターとして、ユーザーの生の声を適切に集めることはとても重要であると考えています。
そこで、ある程度自身の業務サイクルを確立できた今、できるだけ他部署も含めた社内のメンバーが持つ有益な情報を収集し、コンテンツに落とし込んでいくフローを構築したいです。
サポートコンテンツ制作ナレッジの蓄積と発信
この1年は、とにかくサービスの仕様を覚え、スピーディーに成果物を制作することを最優先してきた結果、日々の業務を通じた気づきや学びをあまり言葉に残せてこなかったことを反省しています。
インターネット上にライティングやコンテンツ制作にまつわる汎用的な情報は溢れていますが、情報過多な世の中だからこそ、具体的な業務経験を含んだ情報の価値が高まっていると思っています。
これからは、他社のテクニカルライターのみなさんや、今後サポートコンテンツ制作の部署を立ち上げたり、担当したりするみなさんのお役に立てるような情報を継続的に発信していきたいです。
おわりに
ピーティックスへの入社1年と同時に、この春は社会人生活10年を終え、11年目に突入する節目の年でした。
ずっと大切にしている「他者との交流を通じて人の多様な価値観を学ぶ場のサポートをしたい」という思いに沿った仕事ができている今には、とても満足しています。
新卒で入社した出版社の営業職とはかけ離れた仕事をしていますが、これまでのキャリアでは、一貫して顧客にわかりやすく製品やサービスの使い方や魅力を伝える業務に携わってきました。
これからも、自身が携わるサービスのより良い活用を「言葉」を通じて伝え、ユーザーに提供できる価値を高めるテクニカルライターとして、さらに成長する2年目にしていきたいです!
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