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永久の飛翔に囚われた理由が【20250123】
午後11時25分
雲が流れて地を通り抜けていった。
滑り落ちた水はもう戻ってこない。
それから太陽が地にめり込んで、
われわれは翼を得て飛ぶことにした。
まだ何も決まっていなかった。
決まっていなければ動けないような者はもう
すでにこの世から姿を消していた。
とりあえず動くこと、
それがわれわれを、
いや私を、
生かしていた。
畳に広がったプランターの土をそのままにしていたら
雑草が芽吹いて、
やがてこの部屋も大地に還るのだと思ったその時、
我が身を顧みたその時から私に翼が生えたのだった。
それから地球の裏まで行くのに三日。
また戻ってくるのに三日。
この六日で地上は炎に包まれた。
それから海面が泡立って沸騰した。
炎のなかで、
煮え湯のなかで、
生きられる生物はそれほどいないだろう。
だから、
つまり、
永久に飛び続ける生き物しか生存を許されないのが
この星なのだった。
接続詞さえもどかしい。
いや、死を招くかもしれない。
サイコロを振ることなどもうできない、
サイコロを振って落とすべき地というものが存在しないのだから。
飛びながら排泄をし、
飛びながら食事を摂り、
飛びながら子を為すような在り方をたった
今からしなければならない。
もういいんじゃないか。
そんなことをささやかに呟いて地に落ちていった
仲間が数えきれないほどいる。
煮えた湯のなかに、
燃える大地のもとに、
彼らは降り立って焼き鳥と化した。
雲の上を飛ぶこと。
いや駄目だ。
そろそろ追っ手がくる。
ミミズが地中から身を出して地面を這いずるのは、
雨で水浸しになったことによる窒息から逃れるためだと私は
ずっと思ってきた。
あるいは、
ただ地中の生活に飽いたから、
という理由はどうだろう?
いや駄目だ。
いよいよ追っ手がくる。
何を恐れているのだろう私は。
誰も見ていないし、
誰に気兼ねすることもないのに。
何を恐れているのだろう。
自分による監視だろうか。
自分が見ていることが、
自分に恐れをもたらしているというのだろうか。
それこそ最も馬鹿らしいのではないか。
あるいは、
そうか、
わかった気がする。
私が永久の飛翔に囚われた理由が。
私は、
常に私の一歩後ろから追ってくる私から
逃れ、
できるかぎり距離を取るためにこの形態となったのかもしれない。
だからこれは私が招いた事態なのかもしれない。
そうだとしたら。
飛ぶこと。
なるべく速く飛ぶこと。
それよりほかにやりようはないだろう。
なるべく速く飛ばなければならない。
しかしどうしたらよいのか、
わからない。
とにかく速く、
前へ。
しかしどうしたらよいのか、
わからない。
わからないまま私は前へ進む。
翼をはためかせて、
でたらめに、
ただただ前に、
前と思う方向へ、
飛ぶ。
午後11時38分