【書評】ビジュアル・シンカーの脳:テンプル・グランディン
【ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界:テンプル・グランディン:中尾ゆかり訳:NHK出版:2023】
YouTubeチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で紹介されていて気になった本。 ものごとを考える仕方は大きく分けて二つあり、それが「言語思考」と「視覚思考」である、とのこと。
そして「視覚思考」のなかでも「物体視覚思考」「空間視覚思考」という二種に分かれており、前者は美術や空間把握が得意、後者は数学が得意、といったように個々人の能力の方向性にも差が生じるらしい。
まず、言葉ではなくイメージでものを考える人がいる、ということが驚きである(本当かどうかは措いて)。イメージも記号と言えるので、言語思考と本質的には変わらないのかもしれないが。
曰く、現代社会は言語思考者が有利なように出来ており、視覚思考者は学校でよい成績を取ることができるような思考形態を成していない。しかし視覚思考者のなかにも彼らならではの優れた能力を持っている。よって現代社会は有能なリソースを埋もれさせている可能性がある、とのこと。
視覚思考者とはどういうものなのか、という説明は早々に、話は視覚思考者がどういう点で社会的に優れているのかとか、過去の天才のなかに視覚思考者が多く存在したとか、そういう付帯情報的なことが長々と綴られていくので、飽きて読みやめた。
というよりも、視覚思考者がいかに優れており、社会的に有用なのか、ということが滔々と述べられる根底にメリトクラシー(能力主義)を感じ、嫌気がさして読みやめた、といったほうが正確だろう。
「ゆる言語学ラジオ」での紹介のほうがむしろ面白く、そちらを見るだけで良い(下記リンク)。
紹介者はゴリゴリの言語思考者で、そのため「言語化できないやつは馬鹿」のような考えを持ちがちだったが、実はそれは思い込みなのだということに気づかされた、と。
(3) 心は存在しない。【ビジュアルシンカー3】#324 - YouTube
能力の高低と「言語思考/視覚思考」とはまた別のことだろう。能力が低い言語思考者や視覚思考者は山のように存在するだろうし。
本書で問題にされているのは、本当は能力が高いのに思考タイプが異なるために評価されない人がいますよ、という点。
まあ、そりゃそうだろう。本当は能力が高いのに、しかるべき環境に置かれていない所為で能力を発揮できない人間もいくらでもいるだろうし。
しかしそんなことは「ビジュアル・シンカーの脳」と題されているこの本で扱うには非本質的と言うべきだろう。そもそも視覚思考者とはどんなものなのか、という本質的な内容を求めていたので肩透かしをくらった、それだけの話だ。
この本の本質は、しかるべき教育を受け、しかるべき場所に置けば能力を発揮するような人が、この世にはいますよ、という啓蒙にある、ように思われる。
本書には視覚思考者かどうかを判定する18の問い(下記リンク)があり、「p27:「はい」が十以上なら視覚(空間型)思考タイプの可能性がかなり高い」とのこと。
【後編】「視覚でひらめく」人々の驚きの思考法と、新たな才能の世界 | NHK出版デジタルマガジン - 2ページ (nhk-book.co.jp)
質問は曖昧で答えに窮するものがいくつかあるが、自分は何度やってみても11だった。
うーん、自分は著述家タイプではないのか。
数学で0点取ったことあるけど……。
どちらかというと言語思考タイプだろうと思っていたのだが。しかし小説などを読むと情景が浮かぶ(読むのが遅いのはその所為なのか?)。物事を計画することが苦手(未来全般が苦手)ということも関係している? こちらは思想の問題だろうか。
視覚思考者っぽい特徴が自分にあるとしたら。
例えば、ある風景を見ると、その風景とは全く別の(概ね実際には見たことのない)風景がふと脳裏に展開されることがある、とか。この謎現象、他に同じ体験をしたことのある人はいるだろうか?
あとは、音楽を聴いていると時折風景が浮かぶ。子どもの頃はそれが顕著だった、集中して聴くとだいたいどこかの世界へ没入できた。
……といったところだろうか。
まあ、たった18問なので鵜呑みにはできないだろうが。