黒電話を鳴らす
黒電話を公衆回線につなぐ用途ではなく、ベルを鳴らしたり、インターホンのように通話をする方法について経験的な技術情報を掲載します。
黒電話そのものに対する改造は行わず(一部試みましたが)、そのままプラグインできる電話交換機のようなものを作ることを目的としています。ただし、「交換機」と言っておきながら、一対一の2台の電話機をつなぐことしかできず(できなくてよい、とした)、ダイヤルの機能は検討の対象から外しました。
世の中、中古の黒電話を入手して遊んでる人が最近少なくない御様子。様々な有用な情報がwebページから得られ、ワタクシも多数参考にさせていただきました。それらの尊敬すべき情報源に対し、今回の顛末を公開の場においてまとめておくことも感謝を示す方法の一つであろうと思ったのがこの記事を書き始めた動機です。
はじめに
それは2019年の12月だったと思う。子供らが黒電話が欲しいと言った。机に置くのだそうだ。何かテレビで見たらしい。
家の近くの喫茶店に現役の黒電話があり、そこで通話を体験させてもらい、ますます欲しくなったらしい。
「クリスマスにはね…」と妻は言う。
そしてクリスマス前にアマゾンからでかい段ボールが2個届いた…。マジで買ったのかよ…。しかも2個…。
アクセサリーのつもりで、とおっしゃいますが、一応、公衆回線につないで動作確認をすると、問題なく使用可能。子供らも「やらせて!やらせて!」ま、そうなりますわな。そして電話機は2台ある。「僕のとお兄ちゃんので話できないの!?」ま、そうなりますわな。電話回線2本引くんかいな。
親子電話にすれば、当家現用のFAX留守電と併設して、一応使用可能ではある。しかしそもそも、子供のオモチャとして回線の生きているリアル電話を使わせるわけにはいかん(どこにイタズラ電話されるかわからん)。なんらかの方策が必要であることに迫られた。(と、勝手に思った。)
参考文献
フツーは最後に出てくるだろうが、いきなりこれから始める。
なぜならワタクシが参考にしたこれらのwebページ等で読者諸兄の用が事足りてしまったら、以下駄文を読む必要がないからである。
「黒電話 仕組み」とかでググってもらうといろいろ情報は集まる。
その中で参考になったページを。
最初に見つけたのはこちら。
黒電話の仕組みについて、とても分かりやすくまとめている。だが、原理はわかるが、実践例は無い。
↓こちらは本家NTT様による電話の仕様。
本物の交換機はこうなっています、というところ。これを模擬できればいいわけね。情報量は多いですが、最初に紹介したページで殆ど必要な情報はそろっている。
そして、実践例(同じようなことをしていらっしゃる先人)として最も参考になったのがこちら。
http://uenosato.net/kurodenwa/kurodenwa4.html
あと、数年前まで秋月で売ってた「PIC簡易疑似電話交換機キット」。このキットが入手できれば、はっきり言って用足りる。回路図は公開されていた。
そして、ここからがガチの参考文献。これらの家にあった本を十年ぶり以上の時を経てほじくり返し、電子回路の設計を行った。
CQ出版社 トラ技スペシャル No.36 基礎からの電子回路設計ノート
誠文堂新光社 藤村安志著 電気なんかこわくない!電気・電子回路入門
誠文堂新光社 奥澤清吉著 はじめてトランジスタ回路を設計する本
1番目は20数年前、大学生の時に出会ってさんざんお世話になった。とても実践的な本。2番目は妻が大学の時に講義がわからなくて買ったという本。やさしい振りして、内容はハナジが出るほど難しい。3番目は当時ラジオ少年だった小学生のワタクシが親に買ってもらった本(もう絶版か?)。だが、今まで何度読んでもよく理解できなかった。今回、この歳になって読み返し、初めて理解できた。
他、一般の電子回路の設計法についてはいろいろインターネットで簡単に調べられる。すばらしい時代になった。
ちなみに、ワタクシは小学生から半田ごてを握る生活をしてきたが、本業は電気系技術者ではなく、機械系学科で大学を出た機械屋です。電気はあくまで趣味の範囲。オームの法則は知っている。
仕様
なかなか本論に入らずごめんなさい。今回作るもののおおまかな仕様(実現できる機能)を考えた。
・2台の電話機を親機・子機とする。親機の手元に交換機を置く。
・交換機のスイッチを操作すると子機のベルを鳴らせる。
・親機と子機の受話器を上げると通話ができる。
この3点が基本だが、子供が使うフェイルセーフとして以下にも考慮する。無茶な使いかたされても壊れないように…
・子機の受話器が上がっているときはベルを鳴らす信号を送らない。
・子機の受話器が置いてあるのが、交換機でわかる。(ランプ等)
・スイッチを押しっぱなしにしてもベルは鳴り続けない。
ベルを鳴らす信号は感電するほどの高電圧で、受話器が上がってるときにベル信号を送られると受話器からすごい音が出ます。壊しそう。
これを実現するための設計方針として、家に転がっている在庫のトランジスタ達(いつだかに買ったジャンク袋とか、どこぞでの拾いもん)を活用することとした。webで見つかる似たような実践例では、発振回路にOPアンプやデジタルICを使ったり、パワー段にモータドライバICを使ったりしている例があるが、ディスクリートなトランジスタ回路にこだわった。(こんぐらいできるやろ!の精神。。。ムダだったかも。)しかも、何十年も前の絶版になってるトランジスタばかりで、弱気になって秋葉原に部品を探しに行ったとき、現代のトランジスタの進化(高hfe、大Ic)に目を見張った。(と、同時に、売ってる部品の多様性の無さに驚いた。かつての、あの何でも揃ったアキハバラはどこ行ってしまったのか…)
黒電話について
黒電話、と一言で言っても、実はいろいろ種類がある。ワタクシが入手した2台は同じ機種ではなかった。
600-A2型
601-A2型
外観はビミョーな違い(ダイヤルのところに点の有る無しとか)程度だが、中身はかなり違う。肝心のベルの構造が違うのだ。600型はお椀型のベルが二つ並んで、その間を金属のハンマが電磁石の力で往復して叩く。音は良くある「ジリリリリリーン!」というやつだ。601型はベルがなく、プラスチックの大きなユニットが入っていて、音を鳴らす構造はよくわからない。金属板のようなものを叩いているようだ。音は「ポロロロロローン」というかんじの若干やさしい音。受話器の感度も600型より若干いいようだ。
やってみてわかったが、600型の方が601型に比べてベルを鳴らすのが相当困難である。おそらく、電力(パワー)が必要なのだろう。いろいろ回路をいじっていて、601型では鳴るのに、600型では鳴らない。orz… ということが続き、一時期メゲそうになった。特にこだわりなければ601型を試すことをお勧めする。
75V、16Hz
黒電話のベルを鳴らすには75V、16Hzの交流電圧をかければよい。15~20Hzという説もある。40Vでいい、という説もある。P-Pで200Vくらい、という説もある。ま、いずれも「だいたいこのぐらい」といったところだろう。一つの設計基準ではあるが、実験しながら進めることとした。
はじめに、電源電圧を決めた。最初は5VでUSB電源にしようかと思ったが、いろいろやってうまくいかなかったので、最終的に古いノートパソコンのACアダプタ(15V、4A)が転がっていたので、これを使った。
そして、まずトランスを用意した。豊澄のHP‐515である。5V、150mAの電源トランス。逆につないで昇圧。そしてあとあと思い知るが、この装置の製作で最も重要なのがトランスの選び方である。成否はほぼこれにかかっている(多分)。何度自分で巻こうか、と思ったことか。しかし、さすがに電磁気学まで勉強するのは気が引けたので、買い物・在庫で選定した。3つ試してHP-515が一番良い結果だった、それだけ。どういうのを選ぶべきか、は良くわからなかった。カネと時間があれば、片っ端から試してみればもっといいのが見つかるかもしれない。
とりあえず、トランスを電話機につなぎ、電源からの線をトランスの端子にチョンチョンとやると、「チン、チン、」と(601型は)ベルが鳴ったので明るい兆しを感じる。
交流を作る
では、発振回路で交流を作ればいいんですな。最初、正弦波を作ろうとして四苦八苦したが、思うような出力が得られず(その辺の紆余曲折は今は省略)、方針転換。矩形波でやることにした。そこで、疑問に思ったのが、「トランスは矩形波を通すのか?」という問題。調べてみると、矩形波も正弦波の基本波に対し3倍3倍…の高調波を重ねたもの(おお、フーリエ展開!昔習ったぞ)であるという。通らば!と実験してみると、矩形波を露骨に微分したような波形になってガッカリ。周波数低すぎか。でもまあそれなりに電圧でてるし、結果的にこれでもなんとかなった。もっとまじめに疑似交流作る回路もあるようだけど、めんどいので簡単にやってみた。
矩形波をつくると言えば、ご存じ「マルチバイブレータ回路」である。トランジスタを2つ向かい合わせに並べたような回路図をよく見るが、動作がいまいち実感できず、2段のD級増幅の出力を入力に戻してるような書き方の方が好き。(もちろん、書き方の違いだけで、同じである。)
図1 マルチバイブレータ回路
発振周波数は、時定数 T=1.4CR の逆数。いろいろ実験して20Hzくらいになるようにした。Cを在庫があった4.7μFにしたので、Rは7.7kΩになる。ちょうどの抵抗はないので、10kΩと33kΩを並列にして作る。適当なRL(数kΩ)を入れると発振回路としての動作を確認できるはず。
ここで、RLにちょっとしたコツがある。トランジスタが飽和するように、RL>R/hFE ならいいわけだが、次の段(出力)のインピーダンスを考えて、なるべくIcを多くした方がいい。ここであまり電流を取り出せないケチな回路にしてしまうと、後が苦労する。トランジスタはこれまた在庫の2SC1214Bを使用した。これはIcが最大500mA、hFEが60~120(デバイスのデータシートはググれば見れる、なんて便利な時代よのう。昔は「トランジスタ規格表」ってのを見て調べたもんじゃが。)なので、Icは100mAくらいにして、RL=150Ωとした。こうしておけば、出力で10mAくらい取っても発振には影響しないはず。しかし、100mAで15Vくらいかかるわけだから、ここでの損失(発熱)は瞬時1.5Wになる。デューティ考えても、抵抗器は1Wくらいの大きいのを付けておかないと焦げる。
そしてこんなにRLが小さいと副作用が出る。(R、Cとのバランスなわけだが。)
図2 矩形波
波形の立ち上がりの角が丸まるのだ。オシロで見ると、矩形波らしからぬ波形に「え、失敗?」と一瞬思うが。大丈夫。もともと正弦波作りたかったくらいだし。交流分が乗るのはかえって都合いいはず。
ワタクシが中学生のとき、(元)上級ハムだったおじさんから、おじさんが中学校くらいのときに使ってた??ふっるーいオシロスコープを貰った。今回の開発では、数十年ぶりに引っ張り出して大活躍であった。こういう回路設計は、波形を見て、一つ一つ確認しながら進めるのが大事。信じて全部組み上げた後で、全く動作しないときの絶望感たら、無い。(昔はそれでよく泣いてたなあ…)
ドライバ回路
と、いうのかわからないが。発振回路の後段で、最終段のトランスにつながる電力増幅回路である。発振回路だけでは100mAしかとれない。ここで数Aとれるようにする。なんてったって、次は5:100の昇圧トランスなので、1A流しても100分の1(10mA)になってしまう。一体何A流せば黒電話のベルが鳴るのかはよくわからない。黒電話の内部回路を見て、インピーダンスを計算、または計測したところで、電磁石に如何ほどの電流が流れればハンマーがベルを叩いて音を鳴らすのに十分な機械仕事をなすのか、推測するのは容易ではない(と思う)。ここはトライアンドエラーしかない。
図3 ドライバ回路
ま、回路は単純である。出力はゼロか電源電圧飽和のどっちかだけなので、大電流のドライブでもコレクタ損失(トランジスタの発熱)は、ほとんど気にする必要はない。とりあえず、最終段の出力は3Aとした。トランスの一次側(上記回路図上のである。本来の電源トランスの使い方では二次側、5V出てくる方。)のインピーダンスが4.5Ωだった。で、電源が15V、トランジスタのコレクタ損失が1Vくらいあるかな、とすると、まあピークで3Aは流れるだろう。150mAのトランスに3Aも流して燃えないの?という気もするが、短時間だし、大丈夫!トランジスタは2SD864である。こいつは昔からうちにいた頼れるやつだ。Icが定格3A、内部ダーリントンでhFEは1000~20000もある。ここもD級動作でいいので、IBはドバっと流してしまう。発振回路の出力は電源に飽和した15Vが来るので、トランジスタのVBEを3.5Vと見積り、(15-3.5)/(6x10^-3)≒2kΩをベースに入れる。制限してやらないと、前段の発信回路が止まる。それでも6mAも取るんだからけっこうなかなかのもので、前段の回路はその10倍くらいとれるようなインピーダンスになっていると安心だ。4.7μFはローパスにしてやって、波形をちょっと丸めるために入れた。これがないと、トランス二次側の出力波形にものすごいスパイクが出る。最初、このコンデンサを入れないでいて、黒電話のモジュラージャックの端子がバチバチとスパークするので超ビビった。コンデンサの容量は半ば実験的に決めたが、あまり大きくすると出力が小さくなるようなので、スパークしないギリギリにした。
電話の代わりにダミーロード(1μF+150Ω直列)をつないで試運転をする。ダミーロードはインダクタンス分を再現できてないし、結局ベルの電磁石に流れる電流が十分かどうかはわからないので、ここでなんぼ出ればOKかはわからない。だが、回路をいろいろいじったときの相対比較にはなる。デジタルテスターで交流電圧モードにして、RMSが測れてる?(厳密には違うけど)ということにして電圧を計ってみると、一次側で7.5V、二次側で62.5Vと出た。トランスの巻数比は20あるから、本当は7.5×20で150Vくらい出てほしいところだが、そうはいかない。なぜか。
図4 出力波形
オシロの波形はおおむねこんなかんじ。二次側は電圧高すぎてうちのオシロではピークが何Vあるか測れませんでした。インダクタンス負荷を単純な回路で動かしているので、一次側はオーバーシュートしまくってるし。先述のように二次側は結局微分波形になってて、矩形波のまま通り抜けてはくれなかった。ピークの電圧はあっても時間積分(実効値)では大きな値にはならないのだろう。電力(エネルギー)としては小さいんじゃないの?って気がするが、こればかりはトランスのインダクタンスと波形と周波数で決まってしまうのでいかんともしがたい。もっとインダクタンスの低い(巻数の少ない)トランスがあればいいのかもしれない(自分でトランス巻く?)。矩形波じゃなくてもう少しマシな疑似正弦波にすればもっとうまくいくかもしれない(発振回路もドライバ回路も難しくなりますが)。周波数をもっと上げれば矩形波もトランスを通ってくれるかもしれない。でも、それではベルのハンマーのプルプルが速くなるってことだから、音がおかしくなるかもしれない。いささか妥協的ではあるが、トゲトゲしたパルスっぽい方がハンマーもビンビンのキレのある動きをしてくれるかな?ということに期待して出力波形は「これでいいのだ!」ということにした。
でもやっぱり気になるのは、電流である。じゃあせめて電流を増やせば、もっとパワー出るんじゃあないか、と。しかし、回路の説明で書いた通り、トランス一次側のインピーダンスと電源電圧で電流は決まってしまう。電源トランスのカタログには巻線のインピーダンスなんて書いてないから、買ってみて測るしかない。豊澄のHT‐1208(6/8/10/12V、0.8A)というトランスも買ってみたが、こいつは巻線抵抗が1Ω以下で低すぎ。電源をもっと大容量にしなければいけない。しかし、「電話のベルを鳴らすだけ」のために何十Aもとれる電源やそれをドライブする回路とするのも、いささか大げさすぎる気がした。(実際、電話局ではそういうバカでかい回路でやってるのかもしれないが。)いろいろ試せばもっと最適解があるかもしれない。
ベル鳴動実験
ダミーロードを外し、黒電話につなぎ変えます。さあドキドキの瞬間です。あっさり書いてますが、ここまでくるのに数か月。クリスマスも正月も子供の誕生日(4月)もとうに過ぎているわけで。毎週土日は「よ~し、父ちゃん、今日こそ鳴らしてやるぞ~。見てろ~。」と言って期待させ、部屋に籠る背中に妻の冷たい目。様々な迷惑も顧みず、あらゆる義務を放棄し、心血を注いできたこの回路。本当は紆余曲折がいっぱいあったんです。トライアンドエラーの繰り返し、何度やっても黒電話はジリリーンといわず「マナーモード」。毎日頭の中はトランジスタ回路のことばかり。食卓でも会社でもメモ紙さえあれば回路図をひねっておりました。それが、今日ここで終わるのか、報われるのか、もしうまくいったらどういう形で喜びを表そう、こーんなことやあーんなことをしちゃうぞ、だから、神様!お願い!(新しい回路を作ったときは、いつもこんな気持ち。)
ぽちっとな。
じりりりーん!
やったぜ父ちゃん!ついにうまくいった!俺って天才!! …この瞬間はたまりませんなあ。
調整
ここまで読んで、「よ~し、こんな回路でイケちゃうのか。ボクも作っちゃうぞ~。」と思った人、まだ早い!
実は、600型の場合、このままではベルの鳴りは非常に弱い。チリリリリ…と、力なく鳴ってるときは片方のベルしか叩けていない。更に調子が悪いときは、ハンマーのストロークが足りずにベルを叩けず、さながら「マナーモード」のように、ぶるるる…とかすかに言ってるだけである。しかし、もう電気的には限界が見えている。電源から何からやり直さないとパワーを出すのはムリ。
そこで、電話機の調整でなんとかならないか、いじってみることにした。これが黒電話の中身である。
図5 600型の内部
ハンマを動かしている機構はわかりにくいが、このようになっている。
図6 ハンマ機構
これで電磁石に振動電流が流れるとハンマが揺動する。。。 なるほど。
わからん。orz
結局仕組みはわかりませんでした。とにかく、このメカニズムを設計した人はスゴイと思った。電磁石も永久磁石も最低限(1個)にして、磁気回路は曲げ板金リベット止めで作ってる。駆動側(基地局)が多少大規模になろうとも、端末のコストをギリギリまで下げるド根性を感じた。
おそらくは、電磁石により磁界があっち向きこっち向きとバイブレーションすることで深淵なる世界のバランスが崩れ、アマーチャとなる鉄片に行ったり来たりする微妙なフォースが発生、それを板バネの機械的固有振動数とフュージョンさせることによって、ハンマの先端に全宇宙からのほとばしる熱いパトスを送り込む機構だ。多分。
そんな絶妙なバランスによって駆動している以上、ちょっとやそっとでパワーアップはできませんでした。励磁が弱いなら界磁を強めれば?と思い、
永久磁石(フェライト)をもっと強いの(ネオジム磁石)に変えてみましたが、全然ダメでした。残念。
唯一有効な手段が、ベルの間隔を狭くする調整です。2つのベルの間隔を詰めれば、ハンマーのストロークが小さくともベルに当たってくれます。ベルの固定部は偏心していて、ベルを回すことで間隔を調整できます。
最初、ベルを固定している中心のプラスねじを緩めて調整するのかな?と思ったのですが、回り止めにかしめてあるのか、非常に固くて、恥ずかしながらプラス溝をナメるという大失態をやらかしました。アレコレやってるうちに、ふと気づいて、ベルを掴んでぐっと回すとじわっと回りました。ねじを緩めずとも調整できるようです。
反省会
とりあえずベル鳴らしはできるはできた。限界も見えたので、モノづくり上のこれ以上の追及は納期的にマズイ。これをワタクシのライフワークにするつもりはないし、アレコレやってるうちに、要求元(子供ら)の関心が薄れてしまう。多少難ありとしてもリリースしなければ何もしなかったと変わらないのだ。コレ大事。
しかし、もう一度やり直す機会があれば、次の点に留意すべきだと思う。
(1)電源電圧
もっと電圧があればもうすこし楽だったかも。家の在庫で15Vと決めてしまったのは安直だったか。今どきACアダプタやスイッチング電源は安いので、もっと高い電圧にしとけばよかった。(40Vとか?)
(2)トランス
これは前述のとおりだが、もう少し試すことができればよい結果になったかも。もしくは自作できればカッコいい。
(3)±駆動
最終段で電源電圧のオン-オフしかしていない。つまりプラス側だけ。極性反転してプラスマイナスに振れるようにすれば電源電圧の倍の振幅が取れる。モータドライバIC(秋月とかで売ってる)を使えばそれも可能。トランジスタでやるにしても、4個使えばできる。4個…。トランスのセンタータップをコモンにして、マルチバイブレータの位相逆側で駆動するトランジスタを追加し、トランジスタ2個でできないか試したがダメでした。2現象のオシロが無かったので、どういう失敗なのかわかりません。
(4)正弦波駆動
これは最初試みたのですが、ドライバをA級増幅にせねばならずアッチッチです。B級プッシュプルにしても割と熱くなると思う。正弦波とまでもいかなくても、なんかもちっと鈍った波形にすればトランスの通りも良かったのかも。それもうちのオシロでは2次側の波形がちゃんと見れなかったので、あまり追及しませんでした。
黒電話での通話
さて、ベルは鳴ったので次は「もしもし」だ。これは意外にも簡単にできる。
黒電話の送話器…いわゆる受話器の口元の方(ややこしいな)は、カーボンマイクを使ってる。カーボンマイクなんて、小学校の時に見た学研の図鑑「電気」に載っていたことを覚えてるくらいで、実物見るのは初めてだ。フツー、電子工作とかではコンデンサマイクを使いますな。カーボンマイクは音声を電気抵抗の変化に変換するものでだったはず。
閑話休題でありますが、最も簡単なインターホンはスピーカ二つをそのまま電線でつなぐことで実現できる。さながら電気式糸電話。スピーカは中に永久磁石とコイルがあって、それが相対運動することで電気(電流)を発生させる。同様に変化する電流を機械的振動に変換する。(こっちが普通のスピーカの使い方だね!)だからとっても音は小さいけど、線でつなぐだけで「もしもし」できる。昔そういう実験をした記憶がある。もちろん実用にするには、途中で電気信号を増幅してあげないと、音が小さすぎる。
コンデンサマイクは機械的振動を静電容量の変化にして、マイクに内臓されたICでゴニョゴニョして電流?電圧?の信号として出てくるモノ。ICの駆動をするためにバイアス電圧をかけないといけない。こいつも、微小な変化の信号しか出せないので、増幅しないとスピーカを鳴らすことはできない。
で、話を戻して、カーボンマイクですが、電気抵抗の変化なので、電流を流してやれば、そのまま電流の変化になるんですな。単純な回路で十分実用。エジソン(発明者)は偉い!
黒電話は、受話器の受話器(耳元)と送話器(口元)が直列につながってるだけの回路になっていて、黒電話の電話線(2本)同士をつなぐと、マイク・スピーカ・マイク・スピーカのループができる。このループに電流を流し、マイクに向かってしゃべると電流が変化して、スピーカから声が聞こえるといううわけだ。自分の声も聞こえてしまうが、そこはなるべく聞こえないような仕組みがあるみたい。(でも聞こえるよね!)
この電流をどのくらい流せば(どのくらい電圧かけて)いいか、というのは諸説あってはっきりしたことはわからなかった。48Vという説や5Vくらいという説もある。あまり高い電圧かけるのもなんか怖い。多分、電話線の長さ(抵抗)によっても違うと思いますが、2~3mくらい?では5Vでも十分な音量でした。乾電池1~2本をループに直列に入れるだけでも実験できるので、いろいろやってみるのがいいかと思います。
図7 通話回路
交換機としての機能
「交換機」といっても、1対1でつながってるだけなので交換機ではないわけだが。もともとの発想としては電話交換手のいる手動交換機だ。端末側が受話器を上げると、交換手がそれに気づき(ランプが点く)、交換手と話しができる。受話器を一旦置いてもらって、相手先との回線の接続をし、準備ができたら端末のベルを交換手が鳴らして話者を呼び出す。両方の受話器が上がったら、回線を接続する。このプロセスのうち、一方の端末と交換手の間の機能だけでいい。正確に言えば「電話呼出通話機」だが、交換機の一部の機能の実現なので、「交換機」と呼ぶことにいたそう。
そもそも、黒電話は電話誕生当初の手動交換時代の仕様を引き継いでいるので、上記のような使い方に適している。フックスイッチ(受話器置くとこにある白いやつ)のON-OFFで回路が直流的に断になったり接になったりする。これを交換機側で検出すればよい。この辺、ホントすごい。昔の人は限りなくインフラコストを下げるべく、電線の数を減らそうと努力したんだね。電話線2本でよくやるわ。前項に書いた通り、受話器が上がると回路がつながって、電流が流れるようになるので、これを検出して端末(子機)の受話器が上がっているかどうかの表示(ランプの点灯)を交換機にする。ただし、本機の場合は受話器が置いてあるときにランプが点くようにする。ランプの目的は「呼び出し可能」(ベルを鳴らしてよい)を示すためのものだからだ。この辺の論理設計は人間の心理を考慮しないとユーザは違和感を覚える。説明は5秒で忘れても、直観で動かせるものでなくてはいけない。(子供には)
呼び出し(ベル鳴らし)と通話は全く別の回路になるが、その切り替えにはリレーを使うことにした。ベルを鳴らすのにギリギリの電圧をロスしたくなかったからである。ま、そもそもそんな高電圧をトランジスタ等でスイッチするのは自信ない。切り替えのリレーをドライブするのと同時に、発振回路をONにして呼び出し信号を発生する。呼び出し信号を出しっぱなしにすると、トランスがアチチになってしまうので、リレーが切り替わったときだけトランスに電流を流すようにしなければならない。
呼び出しの操作は、モーメンタリ(押してON離してOFF)のレバースイッチとした。そして、押しっぱなしでも1秒しかベルが鳴り続けないようにした。また、連打してもダメで、1秒鳴らして、2秒休み、を繰り返さないと鳴らし続けられないようにした。実はこれは電話の呼び出し信号の規格である。それを手動で再現するのだ。(うまくできると楽しい) 単純なCRの充放電を使ったタイマー回路で実現する。そして、上記の「呼び出し可」のランプを無視してスイッチを押したとしても、受話器が上がってるときはこのタイマーのCをシャントし、呼び出し信号が出ないようする安全回路を付けた。
いろいろ考えて組んだ回路がこちら。これは仕様を考えるのに頭を使っただけで特に難しいところはない。
図8 全体回路図
今見ると「これでいいのか?」と思う部分もあるが、動いてるからヨシ! これをタカチのケースに入れて、完成~い。
図9 完成写真
実用
今は黒電話は兄弟の机の上に1台づつ置いてある。ときどきベルを鳴らして遊んでくれる。机は隣同士だけど。
いずれ飽きたら1階と2階をつなぐインターホンにでも使おうと思う。
(完)
最終更新 2021.5.5