ベトナムの女性起業家に聞く! 伝統文化をビジネスに。〜身近な価値を再認識〜
2021年5月9日 LEAP DAY Stories Vol.1にて
沖縄の社会課題を解決する起業家や学生たちの交流イベント「LEAP DAY」。そのプレイベントにAWSENも参加。アジアと沖縄に接点をみつけ、女性として、この時代にともに生きる人として、智と心の交流を目指したプレイベントでした。本当はセッション後にワークショップも予定していましたが…、沖縄県下に発令されていた「まんえん防止措置」のため、オンラインでのセッションのみとなりました。
0.Tran Hong Nhungのプロフィール
Zo ProjectのFounder and CEO。
2013年にベトナムのハノイが拠点のZo Projectを立ち上げた女性起業家。ベトナムの伝統的な紙づくりの手法を用いて作られたDó PaperとDướng Paperを使い、ノートやカレンダー、ポストカード、アクセサリーなどさまざまなアイテムを作り、販売している。
1.Zo Projectの紹介
Tran)
Zo Projectのミッションはベトナムの紙漉き文化の維持です。
2009年に伝統文化である紙漉きをしている村を初めて訪れました。私はその紙漉きに一目惚れしました。そのプロセスの美しさに圧倒されたと同時に、その作業は難しそうだとも思いました。多くの人は大変な作業には興味をもちません。私は、ベトナム伝統工芸である紙漉きの文化を守りたいと強く思いました。
当時、インターナショナルNGOで働いたので、その仕事を辞め、「伝統工芸を守る」という夢を追うことへの即決をことはできませんでした。当時の私は、紙の事について全く知識が無かったですしね。でも、いつか「地域社会への支援がしたい」と考えていました。
2013年に初めて社会起業家の存在を知りました。そのときに改めて、地域社会への支援は素晴らしいと思いました。自分のバックグラウンドはアドミニストレーションやマネジメントです。職人の技術と私の経営の知識をかけあわせたら、ビジネスになると思い、紙漉きプロジェクトを始めました。
プロジェクト初期段階では、冒頭で言った通り、紙に関する知識は皆無でした。多くの人に会って、自分のアイディアを話しました。これは後々にとってもいいことでしたね。そして、ある二人の方からいいフィードバックをいただき、「この紙で何かできるのか」など、より生産的な意見交換をするようになりました。こんな感じでプロジェクトが始動していきました。
プロジェクトを開始して6ヵ月が過ぎた頃、この紙の可能性に気づきはじめました。私は本格的にビジネスをスタートすることを決意しました。友人たちにも宣言したんですよ。(笑)その頃から、ベトナムでも社会起業が注目されていたので、とてもよい時期でした。さまざまな機関からスタートを促されました。マーケットの捉え方やビジネスプランなどへのアイディアを頂き、なんとかZo Projectを続けることができました。
ほんとに初めは辛かったです...。もちろん社会起業に限らず、どのビジネスでも最初は難しいと思いますが、社会起業は想像以上に大変なことが多いと思いました。多くの問題もでてきますので、タフな精神がいります。それぞれに対処していかないといけないので、本当に大変な仕事です。
プロジェクトを開始して2年後くらいかな、少しづつ行き詰っていきました。その頃は、市場調査や製品について学び、また収入を増やす方法について考えました。
3年過ぎた後に大きな決断を迫られました。ここで本腰を入れないといけないといけないと。本当に、一大決心でした。
Doペーパーは、ベトナムで長い歴史をもっています。800年前の13世紀から存在しています。私が15年前にこの村を訪れたときは、たった3世帯しか紙漉きをしていませんでした。この村の過疎化の背景は、ベトナムの産業化の発達、紙を作るために必要な材料を調達することが難しくなったこと、若い世代が「職人」として、ご飯を食べていくことに興味をもたなくなったということがあげられます。プランテーション農業が減少してきたので、紙の材料を手に入れるのが困難な状況になったのも、職人離れが進んだ理由ですね。
また、その地域のほとんどの方が紙漉きへの興味を失っていました。ですので、このビジネスを始めるにあたり、Doペーパーを保存する、または芸術としての開発をはじめました。なぜなら、地域の方も興味なくしていましたし、風前の灯だったからです。その状況を打開するため、もっとコンテンポラリーにする必要がありました。芸術家とコラボし、製品開発しました。書道も一緒です。若い、次世代にも興味をもってもらえるように時代に合わせた商品開発をしていかないといけないんです。日本の和紙は世界に広めることができた成功例ですよね。ベトナムの伝統紙も世界に広めることができると思っていますし、長い歴史をもつこの紙を世界の人に知ってもらいたいです。
ビジョンは、紙漉きの代表的会社になることです。ビジネスモデルは、3つあります。ZO PAPER PRODUCTS=紙製品の開発、ZO ART EDUCATION=アート教育(学校教材として)、ZO ART & CULTURE EVENTS=アートと文化的なイベントに出展することです。世界中に広めるためには、まずベトナムの人にこの紙の事を知ってもらいたいと考えています。
ポストカードやアート作品を作る子ども向けのワークショップも行っています。一般の方向けの展示会も行います。
私達の顧客は、観光客、主にヨーロッパ系、ベトナム在住の外国人、ベトナム人は25歳~40歳の知的層です。
また、輸出もしています。アーティストやクラフトメーカー向けです。
売るためのチャネルもあります。ZO ギャラリー in Hanoi や各種お土産・ギフトショップ。Facebook・Instagramのようなソーシャルメディアを活用しています。ETSY, ShoppeeなどのECももっています。
Zo Projectは、10年以内に最も人気の高いベトナム産クラフト製品にし、Doペーパーを世界中に広めたいと思っています。
私が目指していることは、「失われかけているアートと文化を守ること」「山岳地帯に住んでいる村民の仕事を創ると同時に、近代化の中で失業した都会の若者にも雇用の機会を創る」「ハンドメイド作品を通して、”幸福でサステナブルな生活”という概念を取り入れる」ことです。Zo Projectでは、サステナブル製造とサステナブル消費を目指しています。
2.Q&A
渡邉)
カスタマーのターゲットが、旅行者や在越の外国人だと思うのですが、このコロナ下での事業はどのような状況ですか?コロナ禍で新事業を行ったりしましたか?
Tran)
厳しかったですね...2020年時点では、収益の90%が観光客からの売り上げでしたので…苦しかったです。そこで、流通方法として、ECを取り入れました。COVID-19は、このECに移りかえるよい時期だったのかもしれません。みなさんショッピング方法をこのコロナ禍で変えてますよね?
この1年で、ハノイのメインショップを閉め、オンラインショップのみでのプロジェクトに移行しました。もうこれ以上、待てないでしょ?コロナ禍でも何とかお店を経営しないといけませんしね。私たちは、これまでとは違うマーケット戦略を選びました。コロナ禍でも経営できる方法で経営していかないといけない。簡単ではありませんが、ベトナム国内での流通をまず目指し、新しい商品の開発を進め、地元の小規模マーケットに順応していくことが重要であると思っています。幸いなことに、1人の投資家様が見つかり、今後彼は私たちの事業をサポートしてくれる意向です。この一年は、新しい紙の制作に力を注いだり、材料プランテーションをよりよいものにすることに焦点を当てています。ベトナムは農業国であるので、たくさんのプランテーションでできた資源を輸出することができます。ベトナムのプランテーションで取れる木材はアドバンテージが世界的にも高いんです。
渡邉)
すごいですね、これまでの観光客、外国人をメインターゲットにしていたマーケティングから、E-commerceに軸足を移したり、投資家と契約して、新しいプロジェクトを始めたりしていてコロナ禍であるのにすごく進展していると思います。
次の質問は、どう、マーケットを開発しているのか、どのように需要を作っているのかに関してなんだけど。Tranのキャリアバックグラウンドは、デザイン系ではなくで、マーケティングやビジネス系よね。需要を作るときに、デザイナーとコラボレートしましたか?もしそうであるのなら、どのようにしてデザイナーを探したのでしょうか。
また、コロナ禍でのマーケティングの方法は、どのようにしたのですか。自分でしましたか?もしくは、オンライン販売のスペシャリストにお願いをしたのでしょうか。
Tran)
デザインに関しては、多くのアーティストとコラボレートしました。また、Zo Projectでは業界内と共同で商品を作りました。同じデザイナーだけだと、商品は似てきますよね?
渡邉)ビジネスを始めるときには、アーティストの方たちとのコネクションがあったということ?
Tran)ありました。
渡邉)オンラインマーケティングの方はどうかしら?
Tran) Zo progectでは、InstagramやFBを運営しています。現在2人がオンラインマーケティングを専門にしています。コロナ禍で特に、オンラインマーケティングに力を入れるようになりました。
現在は、コロナ以前以上に国内(ベトナム)市場に注目しています。FBは、ベトナム市場でよく用い、Instagramは西欧諸国のマーケットで主に使っています。
渡邉)
ローカルマーケットの方はどういった感じですか?地元の人は、地元の伝統的なことに興味をもってくれていますか?
Tran)
はい、もってくれています。私のビジネスは、地元の人と協力しながら進めなきゃいけないでしょ。コミュニケーションを図ったりすることを大切にしています。
渡邉)
母親で起業家であることは大変だと思いますが、子どもが生まれる前と後との、起業家としての働き方に何か影響はありましたか?
Tran)
難しいですよね。楽ではありません。私はシングルマザーですので、父親がいる家庭と比べると更に厳しくなります。起業家としても、母親としても。不幸中の幸いにも、このコロナ禍で、息子と一緒にいる時間をたくさん作ることが出来ました。コロナ前では、私は定期的に出張に行かないといけなったので、息子と一緒にいる時間をつくれていませんでした。
あと、私は、素晴らしいチームをもてたこともラッキーだと感じています。母親って本当に忙しいので、このコロナ禍においてもチームに感謝しています。
渡邉)
今、Zo projectには何人関わっているの?
Tran)
5人です。ハノイに居ます。
渡邉)
では、視聴者からの質問に移りたいと思います。
A) 紙を制作するにあたって、自然も保護しなければなりませんよね?そこで、Trunさんのビジネスでは、自然保護活動など何か活動をしていらっしゃいますか?
Tran)
はい。今、材料の木はその木そのものだけを栽培しているというわけではなく、混在しています。我々の計画では、今年からは地方自治体とコラボして、必要な木だけを栽培する場所を設けたいなと。通常は材料がほしいときに伐採するだけです。ですので我々は環境保全できるように、地方自治体と協力しこれからより多くの木の栽培する場所を増やしたいんですが、コストの問題もありますね…。
渡邉)
次の質問。職人さんは、少し頭が固いというか、簡単に新しいビジネスに乗らないというイメージがあるのですが、Tranさんは、職人さんとどのようにコミュニケーションを取ったのかお聞きしたいです。
Tran)
その通りですね(笑)
私たちZo Project側が、「このように計画を変更しましょう」とお伝えしても、なかなか聞き入れてくれなくて、「計画通りにする」と職人さんは仰るんです。ですので、新しい計画を紹介するときは、気合が入ります(笑)。新しいことを職人さんと始めるときは、開始するまでに時間がかかりますし、忍耐力との戦いです(笑)。やっぱり手作りは必ず高品質が必要です。多くの方は日本のことを出すと恐れをなして関わりたがらないですが、事実、多くの失敗も経験してます。高品質を満たすトレーニングが難しいですね。これは私の懸念材料です。私は地域の皆さんと関わっていきたいので、じっくり、時間をかけて理解していただく。品質を維持するために私もめげずに頑張っています。
コミュニケーションを取るのにも、私たちのビジネス計画を理解してもらうまでにも時間がかかります。時には、紙ができ上がった後に、この紙は精度が低いから受け取れないとも職人さんにお伝えしなければいけません。利益を上げるためには、紙質も重要だと思っています。この紙は需要を満たしていないから、売れないということを職人さんにも理解していただかないといけません。とても、チャレンジングなことです。
渡邉)
質問を続けますね。Tranさんのお話の中で、伝統文化を紹介・拡大するためのコミュニティやクラブがあるとおっしゃっていましたが、その中では、会員費などはあるのでしょうか。
Tran) 僅かですが会員費をいただいています。メンバーは全員地元の方です。20人ほど在籍しています。
渡邉)
ブランドの浸透については、大きく次の2点が想定されます。どちらを優先と考えていますか?それともあくまでも並行ですか?国内に価値を認識させてその人から広がる方法か、国外をターゲットに広げていくか?
Tran)
私達の戦略はまずは国外からですね。世界の紙の製造マップを見たら、和紙、韓国ではハンジ、中国にも。なので、ベトナムの紙の存在を知っていただきたいです。国内に関しては多くの努力をしないといけませんし、時間がかかります。なので、国外からスタートしました。ベトナムには高品質なものに対する需要がそこまでありませんので、顧客を育て、その後買っていただけるようにしたいなと。
渡口)
日本には書道家がいて、彼らの中には、それだけで生計を立てています。彼らとコラボすることで彼らのマーケットを獲得することができると思うのですが、それについてどう思われますか?
Tran)
まだそういうコネクションがないんです...。ですが、多くのベトナム人から和紙を販売してほしいという声が上がっており、実際に、ベトナムの書道家からも日本の和紙を提供してほしいという要望を頂きました。交流をもつのがいいと思っています。特に、伝統的な紙を全く知らない場所よりは可能性を感じます。市場の可能性はあると思います。
黒崎)
このコロナ禍のような困難な状況に対処して、前に進み続けるために起業家として大事だと思うことは何ですか?
Tran)
社会起業をするには、パッションをもち続けないといけません。あと、忍耐力も…。やることは山ほどありますしね。自分の好きなことでなければ、諦めるのは簡単です。問題が発生しても、自分はとても意義深いことをしていると思いながら乗り越えなければいけません。
あと、ビジネスは自分だけの問題ではありません。コミュニティや関係者に対して責任をもっているので、困難な状況であってもそこで行き詰ることはできません。どんな状況にあっても常に前進しないといけませんね。
渡邉)最後の質問に移らせていただきます。
Tranにとって、「起業家精神」とは何ですか?
Tran)
私にとって、起業とはチームの期待を実現するためのもの。リーダーシップなしに成功はないと思っています。リーダーシップに欠けている人の率いるビジネスは成功しないと思っていますね。私にとっての起業家精神は「ビジネス全体のインスピレーションをアクティブな状態で維持すること」です。
渡邉)
貴重なお話、ありがとうございました!