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上海渡航大作戦日記①発端

「どうしても、蒼子さんに見せたい映画がある!」

と言って、映画仲間の韓国人が言って持ってきたのは、

「恋人たちの食卓」という映画のDVDだった。

どこの配信サイトでも配信されてないこの映画はDVDも廃盤なのでわざわざヤフオクで落札してくれたらしい。

台湾人の映画監督、アン・リー氏によるこの作品は作中終始美味しそうな料理が次々と登場して、
二人ともみながら涎がダラダラ止まらなかった。

こちらの恋人たちの食卓は、アン・リー監督の
「父親三部作」のうちの一作らしく、この映画が素晴らしかったので続けて「ヴェディングバンケット」も鑑賞した。

(余談なのだが、
父親三部作の最初の一本目の「推手」のみどーしても見つけられなかったので、誰かどこでどうやれば見れるのか教えてください、お願いします。)

さて、すっかりアン・リー監督の世界にハマった私は、アン・リー監督の作品一覧を眺めながらある作品に目をとめた。

それが、

「ラスト、コーション」だった。

なんてったってキャストがトニーレオンである。

あの、子犬のような哀れでキュートでセクシーな目つきが好きすぎる私は、これだけでもうみたかった。

そして、ポスターの中の女性は知らない女優だったけどその目つきとチャイナドレスと髪型がめちゃくちゃ素敵でもうみたくてみたくてすぐにBlu-rayを買ってしまった。

ちょっとみなさいよ!この怪しげな二人の瞳!
スーツ!チャイナドレス!こんなんみたくなるでしょーが!


ニッコニッコした顔で、ラストコーションのブルーレイを持参してきた私を目の前に、すでにラストコーションを見たことがあった彼が絞り出すように、

「ほんとーに、一緒に見るんですか?」

と気まずそうな顔をしていた理由にきょとんとしていた私ではあったが、この表情の意味を映画を見始めてすぐ私は理解することとなった。

さて、ラストコーションは名作で一部の人には有名なものの、私のように知らない人もいると思うのでこの映画の内容を簡単に説明しておこうと思う。

それはこんな話である。

舞台は戦時中の上海。

上海で抗日組織を弾圧してる組織のお偉いさんがトニーレオンが演じてる人!
んで、密かに抗日活動をしている学生組織はこのトニーレオン演じる抗日弾圧組織のお偉いさんを暗殺するために、このトニーレオンを骨抜きにしてしまおうってことでハニートラップ要員としてめっちゃくちゃ綺麗な女子学生女スパイをトニーレオンの元に送り込む。
この女学生スパイは見事トニーレオンの誘惑に成功し、激しい性愛を交わしまくるうちに二人の間に奇妙な愛が芽生える。

スパイと暗殺対象者、その愛の行先と未来はどこへ…どんな結末になるのか!

それはあなたがラストコーションのブルーレイ(4263円 at Amazon)を買って確かめるしかない!

みたいな感じです。

ラストコーション好きな人いたらホントーにごめんなさい。

怒らないでください。

今度ちゃんと丁寧に真面目に感想を書くので許してください。。

話を元に戻す。

この映画、そのストーリーや、女スパイを演じるタンウェイの美貌や演技力にも注目が集まったが、まあなによりも人々の話題をさらったのは、

その激しい性描写である。

大事なことだからもう一回書くね。

その激しい性描写である!!!!!!

女スパイとトニーレオンのその性描写は、
一切の忖度なしの一歩間違えたらポルノ寸前スレスレのもので。

初っ端からトニーレオンがベルトを外して、タンウェイの両腕を縛って、そっからコトが始まったのにあっけに取られている私の隣で、

「だ、だから言ったのに…」

とこの世の気まずさの全てを背負った顔をして映画仲間の韓国人が固まっていた。

そうなのである。

この映画は、異性と見るべき映画ではなかったのである。

普段からふざけ散らかして軽口ばっかり叩いている私だが、

「やっだー。私もトニーレオン様に縛られたーい!」

という軽口を叩けないほどに二人の演技は真剣で、美しくて、見入ってしまう。

結局最初は激しい性描写にドン引きしてしまったが、どんどん映画に引き摺り込まれて最後は呆然としてしまい心全部を持っていかれてぶっ潰されたような気持ちになり普通にめちゃくちゃ感動してしまった。

が。

終始気まずいこの映画仲間とのラストコーションの鑑賞。

見終わった後に、このねちゃっとしたというかもやっとしたというか、全体的にピンク色になった空気を吹っ飛ばすためにはどうしたらいいのか。

普段使ってない頭をフル回転させて考えまくる。

バカだった。いくらトニーレオンが好きとはいえ、異性と見る映画なら内容くらいちゃんと、ちゃんと調べておけばよかったのに...本当にいつものことながら私はどうしてこんなに脳みそを使うことが下手なんだろう。どうすりゃいいんだこの空気!!!!!!

なにか!

なにか!

この空気を打開するためのぶっ飛んだ爆弾が必要だ。

そして、私の口から自然と出てきたのは

「いやー、いい映画だったねえ。こんな映画を見たら上海に行きたい気分になっちゃったねえ。てなわけで上海行かね?」

という言葉だった。

いきなりの私の申し出に、

「上海って、中国の上海?」

と聞いてきた彼に、食い気味になって

「そうそう!中国の上海!上海はいいよー、上海蟹もあるし!夜景もきれいだし!」

とまくし立てていく。

ここで重要なのはこのうっそうとしたピンキーな空気を打開し、
新鮮な風を入れることなのだ!!!!

「上海かあ。。。でも、台湾や香港に行くんじゃなかったっけ?」


お、話が旅行の話になってきた。
これはもうこっちのものである。

もともと、ウォンカ―ウァイつながりで映画を一緒に見ることになったので、
香港に一緒に行くか、アン・リー監督のゆかりの台湾に行こうか。

とにかく、香港か台湾に冬に旅行に行こうと話をしていた。

「それに中国はビザもいるんでしょ?」

お、ピンクな空気から、ビザの話という固い話題に転換させることに成功したぞ!

その日はそのままさらにピンクな空気を粉砕したかった私の要望により、
「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶあっぱれ戦国大合戦」を鑑賞し、無事終了した。


そして後日、

「上海、やっぱり行ってみたいかも。」

という言葉ですべてが始まった。

そうとなったら、ビザ申請だあ!!!

と意気込んでいたところ、ぼんやりとツイッターを眺めていたらトランジットビザのとりかたが流れてきた。

トランジットビザとは、コロナ以降日本でも脚光を浴びている制度で、乗り継ぎビザなのだが、仕組みとしては。

日本→中国→第三国

というように中国を第三国に行くために経由する形をとれば、乗り継ぎビザとして中国で144時間の滞在が認められるというものである。

これは、日本人だけではなく韓国人にも適用される制度であった。

このトランジットビザを使えばビザ代を節約できるのでは!

と考えた私。

それに、この目の前にいる韓国人の映画仲間がいっつも話してる故郷のソウルの街もぜひ見てみたいものだ。

大阪→上海→ソウル→大阪

というコースを取れば、中国にビザ代を払わずに入れるし、韓国にだっていける!

なんで素敵なコースなんだ!と一人で盛り上がっていると、

しかし、頭の中のテレビショッピングのおばさんが

でも、お高いんでしょ〜航空券??

と囁いてきた。

そうだ!片道で抑えるなら航空券は割高になっちゃうんだった…

そう思いながら、調べてみると

なんと、総額3万円!

これでは、台湾や香港の往復の航空券よりも安いではないか!!

最高じゃねえか!!!

ということで、航空券の安さと2カ国味わえるという不純な理由で、

台湾の夜市
香港のウォンカーウァイ
上海&韓国

のどれにするかという議論は紛糾に紛糾を重ね、脱線に次ぐ脱線を経て、3時間の時間を浪費した末に、


上海渡航が決定したのである。

航空券を抑え、ホテルを押さえて、とりあえず一息ついて喫茶店のアイスコーヒーを飲みながらふと思った。

そうか、目の前のこの人にとって上海は初めての中国なのだ。

出張、インターン、数えきれないほどに中国に渡航してきた私は、中国に行くことはもう日常と化していて。

趣味でありかけがえのない生活の一部であり、仕事でもある。

でも、誰にだって起こり得る初めての中国という体験は彼に関しては私の「ピンクな空気を有耶無耶にしたい」というわけのわからない衝動的な一言で始まったのだ。


上海旅行のYouTubeを見ながら、興味を持った場所をGoogleマップで調べようとしてなかなかうまく検索できずに「ここ電波悪い?」と首を傾げている彼はまだ中国の何も知らない。


なんとかこいつを中国に連れて行こう。

この人の目に映る中国を通してもう一回中国と初めましてのように出会える気がした。

中国を知りすぎた気になって、まるでマンネリのカップルみたいになってる私と中国。

それも悪いことではないのかもしれないけれど、
もしも中国を初めてみる人の目を通してみたらあの時あの瞬間私を魅了して連れ去ってくれた中国にまた出会えるんじゃないかって、ちょっとだけ期待してる。

でもその期待の光はあまりに眩しくて魅力的。

ねえねえ、上海。
私たちもう一回であってみようか。
初めての時のようにもう一回。

なんて、ポエミーにカッコつけて上海の写真に語りかけたりしてみる。

私も結構乗り気になってきた!

夜景に焼き小籠包に、豫園に南京東路。

当たり前の風景をもう一回初めてのように丁寧に出会い、味わい、現在地を一度離れてみる。

気楽に、でも楽しい旅にしたい。

それじゃあそろそろ助走を始めよう。

この物語は、私たちが無事12月、真冬の空の下で外滩の摩天楼を眺めるまでの愉快な物語。


しばらくの間、お付き合いのほど何卒よろしくお願い申し上げます。

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