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伝えること、読ませること、届けること(Number Bリーグ選手名鑑執筆後記)

2年ぶりに、Number版Bリーグ選手名鑑が発行されました! 

そして執筆陣の一員に加えさせていただきました。

というわけで、執筆させていただいた4本の記事にまつわるエピソードをご紹介します。注)ネタバレありです。

2年前からの成長と変化(篠山竜青×藤井祐眞)

前回のムックと同じ組み合わせということで、編集さんは取材前に「2年前からの2人の変化が透けて見える内容になればいいな」ということをお話ししていました。それに加え、2人の人柄や関係性も見えるような構成を意識してまとめました。

文字数の関係でカットしたのですが、藤井選手に「2年前と今とで篠山選手とご自身の距離はどれくらい詰まってきたと感じますか?」と聞いたところ「噛み付けるくらいのところには来ました」と強気な発言(いや、あとでちょっとびびってたかも笑)。篠山選手は戦々恐々としていましたが、チームとしてはとても頼もしいですね。

ちなみに、とってもかっこい見開き写真の撮影時、藤井選手はなかなか表情が作れずNGを連発。最初からしっかり雰囲気を作っていた篠山選手もだんだん集中力が切れてきて、髪を切りたてだった藤井選手に「お前の生え際が目について笑ってしまう」と、どうしようもない文句を言ってました(笑)。

心を掘り出す作業(辻直人)

今回執筆のご依頼をいただいたとき、一番楽しみにしてたのが辻選手の取材でした。というのも、Bリーグ開幕以来ずっと苦しんでいる様子を目にしながら、なかなかそれを記事として伝える機会を見つけられなかったからです。

「辻選手の心の行方についてお話を聞かせていただきたい」。そう前置いて取材を始めると、辻選手はていねいにご自身の気持ちを語ってくれました。口に出しづらい言葉もあったと思います。応対中「縁もゆかりもない他人に、もっともプライベートな部分を晒すことに何の意味があるのだろう」と疑問がよぎることもあったかもしれません。それでも伝えてくれた言葉を大切に扱いながら、私が見てきたもの・感じたものを再構成して記事に落とし込みました。

お母様からの励ましのメッセージは、記事内で引用させてもらったもの以外にもたくさんありました(わざわざLINEをさかのぼって探してくださったこと、改めて感謝です)。一連の熱いメッセージが「根性とお笑いだけは負けない辻家です」という言葉で締められていたのにはずっこけましたが、お母様の明るさと強さは、間違いなく辻選手の大きな力になっているんだろうなと感じさせられました。

不快感から見えてきた「本音」(ベンドラメ礼生)

よく「怒ったときにその人がわかる」みたいなことを言いますが、ベンドラメ選手の取材は、意図せずそうなりました。

取材前までは、昨季のチームにおける大変革と、その結実である天皇杯の話題を軸に記事を書こうと考えていました。ベンドラメ選手がサンロッカーズの一員として初めて経験した日本一。うれしい記憶として刻まれているに違いない、と。

が、記事を読んでいただければ分かる通り、その思惑はあっさり覆ってしまいました。

インタビューの序盤、ベンドラメ選手はかなり淡々と、突き放した印象すら感じさせる雰囲気を放っていました。コンスタントに取材して関係性を築いているわけではないので、当たり前の反応だと受け止めて進めていたものの、「このまま通り一遍の内容で終わってしまったらどうしよう」というあせりもありました。

そして、インタビュー中盤に訪れた天皇杯の話題。ベンドラメ選手は、第一声から不快感をあらわにしていました。予想外の反応に正直びびりました。でも、そこには間違いなく「ベンドラメ礼生」がいました。深堀りをしていくと、彼はどんどん本音に近い部分を見せてくれました。

その後も、自粛期間によるプロとしての心境の変化や、日本代表にこだわる気持ちなど、ベンドラメ選手の人となりが感じられるたくさんのお話を聞かせていただきました(「自粛期間の活動MVP」はベンドラメ選手だと思っている)。記事内では残念ながらすべてを紹介できなかったので、今季の執筆の際に、しっかり活用させていただく所存です。

ここ数年は川崎が「変革の象徴」として取り沙汰されてきましたが、次は渋谷の番じゃないかなと、ひそかに読んでいます。

境界線を壊していくとどうなる?(馬場雄大/河村勇輝)

これらの原稿とチームデータを脱稿し、抜け殻みたいになっていたところでご依頼をいただいた記事(しかも締め切りかなりがタイト)。正直しんどい…!!と思いましたが、編集さんのヨイショに乗せられてお受けすることに。Bリーグの新しい可能性を見せてくれた馬場選手と河村選手について、「BREAK THE BORDER」というリーグのバリューを軸に書かせていただきました。

これはあくまで個人の印象ですが、人物モノの記事とコラム記事では、執筆のアプローチが異なります。

人物モノの執筆は彫刻的。対象者の実像を削り出すための表現やテンポを一つひとつ検討しながら、「書いては消し」を繰り返します。対するコラムは建築的。既存の情報をどのようにチョイスするか、どのような順番で書いていくかという設計で苦労したら、あとはけっこうスムーズに筆が進みます。

「もう一本インタビュー記事を書け」と言われたら精神的にしんどかったですが、別の筋肉を使って書けたので、アクティブレストのような感じでよきリフレッシュになりました。

「伝えたい」という思いは形になっているのか

私は学生時代からNumber信者でした。スポーツとは無縁の人生を過ごしてきたからこそ、アスリートという特異な存在の身体的、精神的な感覚を言葉の力で追体験できることの素晴らしさに心を打たれ、自分のような「知らない・できない」人間にこそ届くものを書きたいとスポーツライティングを志し、今でもその思いを大切にしながら仕事をしています。

今回執筆した記事、特に人物モノ2本は、「Numberにこんな記事を載せられない」と自分に発破をかけながら、情報や事実を紹介するだけにとどまらない、知らない人にも読ませる、伝える原稿になるよう心がけました。

脱稿直後はある程度の手応えを得たものの、みなさまのお手元に届いた今、それが独りよがりなものにはなっていないだろうかとちょっと不安になったりもしています。一周回って知らない人に伝えることって本当に求められてるの? なんて考えたりも。よかったらご感想などお聞かせください。

媒介者として、そして表現者として。まだまだ試行錯誤の日々が続きます。

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青木美帆(ブルーノオト/so blue.)
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