春の訪れを告げる「勝山水菜」

勝山水菜 (改訂) 



福井県の春の味覚を代表する「勝山水菜」を見学するため、福井県奥越農林総合事務所の岩腰主任のご案内で、北市地区の勝山水菜出荷組合の組合長、伊藤佐一郎さんと郡地区の生産農家、担川義治さんをお訪ねし各々の畑でお話をお伺いしました。

◾勝山水菜とは

勝山水菜は「春を告げる野菜」とよばれる勝山市に古くから伝わる伝統野菜。水菜というと京野菜の水菜を想像しますが、福井県での「みずな」は一般的に「おり菜」と呼ばれ、アブラナ科野菜の春先の「茎(とう)」を指します。

勝山市は、隣接の大野市とともに「奥越地区」にあり、福井県の豪雪地帯です。昼夜の寒暖差が大きいため作物には生育好適地で、良質のデンプンが貯えられるため「勝山水菜」を始め特産のサトイモ、白ネギ、など甘味のある農産物が収穫されるのです。 

勝山水菜の名前は、他の菜類に比べアクが少なく、瑞々しいことや融雪のため畑に、経ヶ岳を源流とする流水を引き込むところからから名づけられたと言われ、1月下旬から4上旬にかけて収穫されます。

◾栽培方法

栽培方法は特異で、稲を刈り取った9月中・下旬に種をまき、雪の下で越年させた後、新芽を1月下旬から4月上旬にかけて収穫をします。栽培方法にはトンネル栽培と露地栽培がありますが、JA取扱量の8割はトンネル栽培によるものです。

越年後はまず、畑の融雪から始まります。トンネル栽培の場合、1月初めに畦の上に覆いかぶさった一面の雪を手作業で畝間に落とし、畝間に通した流水で融かし、早春の味覚をいち早く味わうため、トンネルを被覆して出荷を早めます。

多い時は一晩で50センチの積雪になることもあるため、トンネルを張った後も降雪のたびに、雪の重みでトンネルが潰れないよう作業は欠かせません。トンネル栽培で出荷は早まりますが、寒い中での作業は、生産者にとって一番の重労働となります。

除雪が必要な真冬の作業は過酷ですが、勝山水菜の農家のほとんどは、夫婦や家族経営でこだわりの伝承農法を守り続けています。露地栽培はトンネル張りなどの作業が省けますが、収穫時期も3月中旬以降と遅くなり価格も下がるようです。

◾勝山水菜の品種

勝山水菜は在来種で、京野菜の「京菜」や「壬生菜」の水菜群とは異なり、在来の菜種群に属し苦味も少なく瑞々しいのが特徴です。勝山水菜は自家採種で継承され、地区ごとに特徴があり、北市水菜、郡水菜、さんまい水菜、平泉寺水菜の四種に大別されます。

1、北市水菜

北市地区の水菜は一番古く、江戸末期に加藤久兵衛が導入したと伝わります。「朝鮮菜種」を祖先とするようですが、長年の自家採種している中で多様なツケナとの自然交雑によって生まれたものと考えられます。

早生で茎の青みが濃く、香は強く、苦味があり、甘味も強いといわれます。耐雪性が強く、とう立ちは早い方だといわれます。種は門外不出で、今は15軒の農家で守り次がれています。

近年、連作障害として根コブ病に悩まされますが、より在来種に近いものを残すため、ダイコン葉や白茎のものは除き、茎・葉ともに濃緑色のものを選抜しています。

2、郡(こおり)水菜

郡地区の水菜は茎の青みが淡い白茎で、やや晩生で苦味はなく、適度な甘味もあり、くせがなく味はやや淡白。大正10年頃に「さんまい水菜」の種を貰ってきたと伝わります。

現在は農家5軒がトンネル栽培をし、自家採取で、選抜時には特性を生かしてダイコン葉、葉の立ち上がるもの、白茎を残すようにしています。勝山青果市場へ出荷しています。

3、三昧(さんまい)水菜

さんまい水菜は北市水菜と郡水菜の中間的な姿で、とう立ちは郡水菜より早いといわれ、茎はほのかに黄緑色です。大正時代に北谷町から富田へ移った織田源之襄が、勝山水菜と他のアブラナ科野菜を交配したと伝わります。

数年前まで栽培をされていた一人も、栽培を辞められたとの事で伝統の継承が心配されます。

4、平泉寺水菜

平泉寺水菜は平泉寺の数戸で栽培され、全て露地栽培です。葉はダイコン葉のようにギザギザで、葉や茎の色は青みが濃く、肉質は柔らかで苦味は少ないと言われます。

茹でると真っ青になり、とう立ちは遅い晩生水菜です。ほとんどが自家消費ですが、一部は4月から開かれる大門市(白山神社参道)でも売られます。

◾勝山水菜の栄養成分

勝山水菜は雪下で、一定の温度が保たれた環境で育つため甘味が増します。食物繊維が豊富で、ビタミンE・ポリフェノールなどの抗酸化物質をバランス良く含んだ食材と言えます。また、冬場の野菜であるため病害虫の発生が少なく、ほぼ無農薬で栽培されており、体にもやさしい野菜です。

美味しさを楽しむため、ほろ苦くも甘い「おひたし」や一夜漬けで召しあがれます。生産者によると勝山水菜を食べていると便秘になりにくいとのこと。茎は、2~3分茹でると驚くほど柔らかくなります。、甘く食べやすい勝山水菜を、是非一度ご賞味ください。

「おひたし」「煮浸し」「お葉漬け」のほか、2/3束を炒め、残りを味噌汁に入れていただくと、太い茎が柔らかく、これぞ春野菜という感じです。独特の歯ごたえも特徴なので、茹で加減にはご注意下さい。保管方法は保存温度に関係なく、蒸散が激しいのでポリ袋に入れて冷蔵庫で保管して下さい。

▪️勝山水菜のブランド化と課題

北市では栽培地区を管内に限定し、種は役員が採種し40㎝以上、400gを一束とし商標である北市のロゴを付して「わら」で束ねます。わらを使うのは、伝統的なイメージを表すためのこだわりで、オリジナルのロゴと併せ、他産地との差別化を図っています。

郡水菜を栽培する「勝山白水菜生産組合」も400gを一把とし、テープを使って結束し、「こおり特産・勝山水菜」と書かれた黄色いラベルを貼付します。勝山青果物市場での評価は高く、ホウレン草の4~5倍という高値で取引され、冬場の貴重な収入源となっています。

市場での引き合いも強い勝山水菜ですが、課題もあります。地域を限定する事で、農家はプライドを持って栽培できますが、新しく栽培を始める者は少なく、以前は各々の地区に20人以上いた農家も今は半減し、平均年齢も高齢化(70才代)しています。需要に応え、産地を守るためにも後継者づくりが課題です。

◾考察

豪雪地帯で秋から降雪期に、厳寒の中で過酷な作業姿勢、伝統的な農法を守っていく事は大切です。我々生活者も早春の味覚を味わえるのですが、価格が十分な代価を反映してるとも言えず、各々の地区での後継者不足が課題です。伝統の精神を忘れる事なく、次の世代に受け継いでいくためには、収穫量も多くなるハウス栽培の導入、転換などで、労力の軽減や所得増大を図れないものかと考えます。(2021.2 土橋)


(参考資料)
勝山水菜ハンドブック・勝山市農林部農業政策課
春を告げる勝山水菜・奥越農業改良普及センター
勝山水菜パンフレット・勝山水菜出荷組合

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