短歌研究2022年5月号を読む(1)

「三〇〇歌人新作作品集」を、後ろから読む。
といっても気になった歌を拾って軽くコメントするだけですが。

わが生に関はりありやまたなしや五年日記を妻書きはじむ/山中律雄「五年日記」

手術により左肺の一部を摘出したという歌が含まれている連作。「関はりありやまたなしや」がいい。きっと聞けないし答えられない。1か0の世界の因果ではないように見えてくる。

コンタクトレンズを剝がしそこねても指は道具の最愛だから/山階基「サムハウ」

「指は道具の最愛」という把握になんだかうれしくなる。わたしたちが道具に触れる・道具を使うとき、そのほとんどは指によって行使されている。気づきの歌っぽくもあるがフレーズの心地よさの歌っぽくもあり絶妙。

子どもが書いた小説のなか真夜中のベンチに座っている女の子/山崎聡子「再生」

こういう「〜の子」の歌は読むのもつくるのも個人的に好きだ。「子どもが書いた」なのである種の入れ子構造的に「子」が出てくる感じ。真夜中のベンチのベタさが「小説のなか」にあらわれてくることのよさ。

クレーンの銀色が吊る五月晴れ 心酔、それが心のすべて/藪内亮輔「バラード」

「銀色が吊る」の小憎い巧さ。提喩的とでもいうのかな。通常は心がすべて奪われてしまうようなさまを「心酔」と呼ぶが、ここではそれがさらに翻ってそれこそがこころの全てである、と言っている。なんかかっこいい。

旅先の夜のやうに月が小さくてコンビニで買ふ焼き鳥とワイン/睦月都「もくれんと地下駅」

「焼き鳥とワイン」の組み合わせが自分にとって新鮮ながらもなぜかすごい納得感があっておもしろかった。赤ワインだろうか。「ビール」だったらおもしろさ減っちゃう感じがする。上句の比喩のそんなはずはないのだけどなんかわかる感じ、もおもしろい。

頬にこぶしあてて目薬は点すものと些事なれど役に立つ些事これは/真中朋久「即興」

目薬さすのとても苦手なので今度やってみよう。三句目の「と」になんか不思議な広がりがある。そして「即興」ってタイトルかっこいい。

漢字クイズ簡単すぎる老稚園 火曜 金曜そこへ行くなり/前田彌生「犇く」

デイサービスにでも通っておられるのだと思う。火曜の前後の空白がなんだか言葉の進みを重たくさせていて、それがいいとおもう。目に止まってから頭を離れない歌。

ひとまずま行〜わ行まで読んで気になった歌をピックアップしてみた。気が向いたら続きもやります。

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