LA地下世界へと潜水する6日間 - 映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』に寄せて
物語の舞台がハリウッドであり、その粗筋が失踪した美女の行方を追う探偵ものであり、さらに奇妙でオカルティックな陰謀論めいた事象が重なり合うということで、先行作品の筆頭に掲げられていたのが『マルホランド・ドライブ』だ。デヴィット・リンチが作りあげたこの傑作には、まさしくハリウッドという都市が抱え込んだ人間の欲望や羨望や嫉妬、憎悪のかたまりが、ものの見事にハリウッド・ロマンスの輝きのなかに包み込まれて表現され、観るものをひたすら当惑させた。この作品は二〇〇一年のカンヌ国際映画祭にて、コーエン兄弟が手がけたモノクロの犯罪ドラマ『バーバー』とともに監督賞に輝いた。フィルム・ノワールの愛好家たちは喜びに震え上がり、長きにわたる映画史への輝かしき復讐の瞬間を見届けたのだ。
デヴィット・ロバート・ミッチェル監督の『アンダー・ザ・シルバーレイク』は、数々の時代を彩るポップカルチャーが目配せをしながら、ハリウッドの地下世界へと広がる誇大妄想を、まるで神話のように描いていく。この映画に引用されるポップカルチャーのアイコンは、不吉な死を連想させるものが多い。カート・コバーンや、マリリン・モンロー、ジャネット・ゲイナーらがその象徴であり、画面のなかにはやたらと墓地や墓石が映り込む。失踪した美女を探す探偵譚は、彼自身をハリウッドの奈落へと突き落としていくかのような地獄めぐりの連続だ。サムがたどり着く結末は、自身が夢にまで見た陰謀論の世界を現実に見ることとなるのだが、それは現実であるがゆえにあまりにも切ない幕切れとなる。家賃を滞納し続け、6日間という猶予を使い果たしたサムを待っていたものは、アパートからの強制退去という、あまりにも貧しい現実だが、それが彼をハリウッドの悪夢から救い出す唯一の手立てのように思えてならない。
STAFF監督・脚本・プロデューサー:デヴィット・ロバート・ミッチェル撮影:マイケル・ジオラキス編集:ジュリオ・C・ペレッツ4世音楽:リッチ・ヴリーランドイラストレーター:マイロ・ニューマン
CASTサム:アンドリュー・ガーフィールドサラ:ライリー・キーオサムの友達:トファー・グレイストロイ:ゾーシャ・マメットミリセント・セヴンス:キャリー・ヘルナンデスコミックマン:パトリック・フィスクラー
主に新作映画についてのレビューを書いています。