今までの延長線上の答えしか出さない人たち
日本の大手製造業に勤めています。
会社の中にはたくさんの事業部があり、派閥のようなものもあるようです。
事業部の中にも古くから同じ製品を取り扱っている人たちや、外の事業部や本社から異動してきた人たちも入り混じってます。10年ほど働いて気づいたのですが、トップの人と部下たち、古くから中にいるひとと外から来た人たち、など対立が絶えません。内部での対立を繰り返している間に、事業もどんどん厳しい環境に追いやられてきています。
「何かを変えなければ・・・」、「新しいことをしなければ」と考えている人は多くいますが、いつも「A or B」という対立(意見の対立であったり、立場の対立、出身の対立)のなかで、最終的には一番簡単な妥協点である「今までの延長線上の答え」にしかたどり着けません。
組織の中での中間的な役割をになっている者として、どうこの関係性を乗り越えていけばいいのでしょうか?
悩める中間管理職、より
ご相談ありがとうございます。
様々な立場の方がいる中で物事を進めていくというのは本当に大変ですよね。大変な中にありながらも、組織の内部の状況を冷静に見つめていらっしゃる姿勢を感じます。
1. 対立はなぜ生まれるのか
さて、ご相談は2つのポイントがあるかと思います。
1つ目は、「A or B」という対立関係が生まれるということ。
2つ目は「今までの延長線上の答え」にしかたどり着けないということ。
まず、対立というのが何から生まれるかを考えてみましょう。
対立は「自分」と「自分以外のもの」もしくは「自分と同じもの」と「自分とは違うもの」の間に境界線を引くこと、そして「自分もしくは自分と同じものは正しい」という意識から生まれます。
「自分は正しい」「相手は間違っている」という認識もしくは「自分」と「自分以外のもの」の境界線が揺らがない限り、対立はなくなることはないでしょう。
一方で「対立を生み出す」という構造もしくは環境や理由があるという風にも考えることができます。対立をしている人たちは、対立をすることで得ているものがあるとするとどうでしょうか。対立があることで、どちらかの側は、優越感を感じることができるかもしれません。対立があることで、もっと大きな問題から目を背けることができるかもしれません。
人間は基本的に、自分が安心感を得られる方に動きます。できるだけ変わりたくないし、今いる環境からも出たくない。これは人間の本能とも言えます。
2. 「今までの延長線上の答え」を出すのはぜか
そしてこのことは2つ目の「今までの延長線上の答え」にしかたどり着けないということにも関係しています。
もし、「今までの延長線上の答え」以外の答えを出すとどうなるでしょうか。「今までの自分(もしくは自分たち)」を否定することになりかねません。自分たちが今までやってきたことというのは否定したくないものです。「何かを変えなければ」と思いながら変えることのできない企業の多くはこのように「自己否定をすることができない」という状況に陥っているのです。
しかし、「今までの延長線上の答え」と違う答えを出すことは本当に自己否定になるのでしょうか? もし、新しい答えが今までの答えと対立関係にあるものであればそうかもしれません。しかし、今までの答えとその対立関係にあるものをどちらも含む第3の解を出すことができたなら、新しい答えはこれまでの自分たちを否定するものではなくなるはずです。
3. 境界線の引き方が組織の問題を生む
結局のところ、「A or B」という対立関係が生まれることも、「今までの延長線上の答え」しか出せないことも、「自分」もしくは「自分たち」というものを規定する狭い範囲に線を引き、その内側を守ろうとすることから起こっています。
そんな慣習が染み付いた企業がどうしたらいいのかというのは難しい問題ですね。人間は、自分の現在の認知の構造では乗り越えられない課題にぶつかったときにはじめて認知の構造が変化し始めると言われています。「自分の利益が全て」と考えている人は、その認識では共同体の中で上手くやっていけないというい現実にぶつかったときにはじめて「他者の気持ちを思いやる」という視点を獲得し始めることになります。
企業にとってはそれが例えば「これまでのやり方では立ち行かなくなる」という状況に置き換えられますが、そうなってしまってからでは、成長どころか、企業そのものが存続することさえ難しくなるかもしれません。
新しいことに取り組むことが事業を持ち直すことにつながるのだとしたら、まずは小さなことから新しいことに取り組み、成功と変化の体験を積み重ねていき、だんだんとそれを大きくしていくということであればできるかもしれません。
いずれにしろ、人の意識や認知が変化するのには時間がかかります。何かを勉強して特定のスキルを身につけるのも大変ですが、認知の構造自体が変化するには5年から10年の単位で時間が必要だという見方もあります。組織全体となると、もっと時間がかかることもあるでしょう。
4. あなたにとっての対立関係は?
ところで…
悩める中間管理職さんは、今「組織内で対立する人たち」と「それに悩む自分」という対立関係に目を向ける結果、自分の正しさに安心感を感じてはいないでしょうか。もっと大きなものから目を背けているということはないでしょうか。10年という時間を過ごしてきた企業の中で「この関係性を乗り越える」というのは「今までの延長線上の答え」とも言えるかもしれません。
もし、それらの問題がなくなったとして、そのときあなたが取り組みたいことは何ですか?
またぜひ、お話聞かせてください。
a w a i 佐藤 草
*個人的にいただいたご相談を元に相談者の許可を得て、ご相談内容を編集したものに回答を記載しています。通常のコーチングセッションでは、お悩みの相談をお受けすることやアドバイス・セッション内容の公開は行なっておりません。