【詩】ソネ集 (更新中)


ソネ(ソネット)をまとめて




代行者


戯れ 四肢に 息巻く 漆黒
城塞の装飾  時間を 隠す
再び其処にと 視姦の桎梏
軛を断つのは 踊りの拍数

名指す 掟による 影縫いが
切除の愛誦 踵に 口付け
家畜の形骸 轡を 釣り上げ
この朦朧へ 外傷告げ 発つ

代行者 腹上を這う 幾その蝮
懲罰の果てまで 恥を知らず
彼女を還す 悠久 こそがあぶみ

肉欲の膨張 削ぎ落とし かつ
簡素な線で その炯眼 無縁な
代行者を 造り変える 疎遠に




三文役者


官能 溶け込む 瀝青 背離し
倦怠何ぞに 酔う事もない
怨嗟の杯 出逢いに 伴い
無垢なる延滞 されど内裏に

取るに足らぬ その目の綴り
掻爬の手前だ 祈誓の落胤
不浄が引き 剥がす烙印
道化の口唱と 死傷の硯

眩き際に投げ出し おお!見よ
化粧も無しに 腐蝕の舞台へ
脂汗よ 科された その身を

流せと 逍遥 抱える 苦諦を
讃歌と 顕界 その貧困が
唯 震わせる 醜女の咽喉




ヹル氏に願いを


燐光纏い 噴き上げ 長々
黄金の髫に 螺旋の 碧眼
白蠟の脈に浮かぶ 花々
諾い 拙い愛撫を 腋窩に

嘗ての純真  春への回帰に
懈怠の裡から 一羽ひとはで 彼処に
雲雀が纏う と 乙女の吐く息
心 等 とは 別れて 辟易ろぎ

千々に それは 置く 霜の
忘れる為に 触れる 羽毛に
幼き形姿は 虚妄の いお

祝福するのか この不能すら
果てには 燦然 嘗ての願いが
移ろうだけの 虚な 限界




もう一人の娘


至高では なかったと 今宵
双眸 懲らしめ 路頭に 迷い
恐らく 天使 であろう 未だを
隔てるものは 自身の今だと

極北を示す 欠如の 台座が
待つ 無垢の 火なる 金剛ダイヤ
卑しさ 併せて 哀れな肉に
虚無が手繰る それらが痴愚を

波濤を示して 雪崩れて 徒にと
干涸びた 彼 癒しも 見放し
死からは 一つも 脚の痣 さえ

遺灰の上での 孤独な見晴らし
終えて仕舞った 全ては 悲しい
揺るがすものは 去ったと 但し…




膣香水


当軸晶系 砕けた 乙女の
奇蹟は滴る 穿て と求めて
濃霧の只中 白粉 伝いに
打てど 沈黙 空の 頭蓋は

黄色い死滅を這わせた 贖い
憑かれているのだ 眼前に
耳には痕跡 ニンフの甘噛み
突きつけられた その短剣は

微温い 仕事は 疾うにない
薔薇 そのものも 失望済みだ
鏤め 破瓜 髪 冷気を 担い

飢え 掻き立てぬ 膣香水など
壜如 捨てとけ 空虚を除いて
しとねで 乱れる 黄金の他所行き




俗謡


血脈 潜んで 捲る 四季
咽喉に凭れる 古びた証
私自身の 穢れた 悲しみ
歩みを奪われ 薔薇を繰る日々

或る 型を舞う 嫋やかな骨
思考は そう 明後日の 償い
ひとつの断言 手弱女たおやめの袖
眠りの中で 待っている 番

あの夜からは産まれはしない
百合の韜晦 請け負う 姿見
幾つかの 床を 語りはしない

裁きは私へ 終いに盟神探湯
死のあらわれを 貴女の口で
この体ごと 愛でられ 朽ちて




女衒


虚妄の女 乱れた 宝髻ほうけい
心は動かぬ 彼の 疎懶そらん
密室に 木霊す 嬌声に
訊ねた 痕に 外の予感

拐いに 誘なう 清影は
惹起す聖なる 噬臍ぜいせい
寄越す 不純な 餞別と
鳥 共  穿った 天闕てんけつ

手には 二朱金 炳煥へいかん
爪 隠すだけ 象緯には
石女 ならばと 征帆せいはん

残った 粒子は 桧扇ひおうぎ
お構い無しだと この女衒
世 程に 卑しい ペテンだと




都嬉姫つきひめ


截口 覆う 寒暁 夢の乳
搾るは あぎと 幾重の 底へ
千代へ 裂かれた姫の血の
縞目は 情けの 反故の上

恨み 花々 束ねた 香が
月を 蔑する 叢雲 遠く
未だ みさおを 前世 の翼で
証し 失せた 姿見 うた

咎に 割られた 柘榴の膿と
諦め 流れる 末魔の 歌が
かの日の情が 夕映ゆる海

幽界 彷徨い 魘され 翳るか
紅玉の中へ 追放され る身
彼方の白さ 肌為れ は罪




積乱雲


死による 穹窿 雷 発せと
辺り一面 水脈 呼び起こし
翳りは集った 膕には汗
金槌 迫ると も 及腰

その密雲に 閊えた 必然
顳顬 懸かる 沈黙の重み
唱える 一節 裡から 湿原
堰切り 出現 水泡は微睡み

支える力も 無い 牧杖を
巫女が 漱いだ 浄めの 洪水
押し流してくれ 我等が獄窓

難破に 濡れた 御御足 陶酔
白さを掻き分け 拡げる頻りに
溺れてしまった 嘗ての 契りは


棣棠ていとう


風向き 危うい 翳りで 営む
望観 畏怖を 咲かせる 捩花ねじばな
差し出された儘 誣言は実らぬ
降下の伽 その長嗟ちょうさは 紅皿

遭難 衣袴いこ 濡れ 然る杭に
眩ゆい ― 落ちる 氷冠へ
凌乱 示すは  熄む 無為 に
操り 頌歌は その 納棺と

暁 憚り 異形を 羽に
泡沫 現る 贖う 差潮さししお
盃 溢れる 至楽の 破堤 はてい

列缺れっけつ 接がれた 仮り蓑は
冥棲めいせい 誘い 謔浪ぎゃくろう 果てに
盈盈えいえい一水 彼女は 八重に


遅配


遅れ 馳せに 別れを
白畝しらうね 狭間に 欠く記憶
多年草 無礙を絡げて
飛翔か否か かの比翼

花盛り 早り 蘭蕉 らんしょう
謳い 誓詞に 囲い込み
帆翔 手合せ 晩鐘の折
躓かせる肌 名の 栞

逢引 見慣れぬ 黒髫くろうない
触れぬ 再び まだ述べぬ
切り離す のは易くない

過ちは散り 待ち終える
簪 代わり 十四の菖蒲あやめ
塋域えいいきに雪 姿は 綾で




紗の白が凪ぐ 柱も無しに
逢うも 蹌踉そうろう 羞らい がちな
白粉 堅く も 航路は 脚に
髪 散る水泡 身動ぎ 砕波に

染め上げた頬 契りの血なり
と後に 刺衝す 花弁の 託けことづけ
懶さ 沸かす 眠る間 の痛み
褥に 仕留め 損ね こそすれ

苦しみ 宛ら 瀆れた 打覆うちおい
向き無く 無垢な絶望 狭間に
無用な海図 黙する淵 追い

赦しを乞うと 門出に 重なり
喘ぎを 傍に 百合の根 凌ぐ
寄り歩む鳥の 未了の飛翔


金門戸きんもんとに座す


金門閉ざされ 座する 下土かど
面する 誓言制限 免ぜぬ かどには
伝手つてなく あがなう 他の火 居処いどころ
も 無縁 なる 不壊ふえ御心みこころ

恨みの かた 砕けのろう また 口伝
きよら の去来きょらいす 裂けた 無限
誣言ふげん お前の 紫膩しじを 罷免し
迂遠な 割れ 目に 疲倦ひけん

九天に及ぼす 見事な 爾今じこん
苦患くげんが 禁じた 月 並の不言ふげん
遺構 術為すべ なおどけが見込んだ


所以ゆえんは 夢なる 不限ふげんの具現
分限ぶげんいた 螺鈿 らでん がえんずる
遣り様の無さ 侮言ぶげん が演ずる



冬の為に


貴女の為に はためく祈りを
輝く なら髪 腕 ただ 途絶を
おとりは涯 間はて まで 宛亡き 一人を
示す 断崖 囲うは 孤絶 の;

途轍を逸れる 恐れにめられ
春を 拒絶し 月 はた 勝ち 逃げ
応える凍結 おごりも 終え 絶え
いな 除けるたえ 無能を 噛み締め

然すれば 貴女が 踊躍ようやくする とき
明晰な 紫膩 しじ 処決しょけつは 燃えつつ
息嘯おきそに 留めて 木霊する 距離

御見逸おみそなした 虚仮 搏こけ うつ:
事すら 痩けた相貌そうぼう 黄昏れる肩
ほどける 含処ほとに 雪崩れる 彼方



おとり


現在いまが 囚われ 透明なとこ
破れと 散る羽 途絶え なお:
無疵むきずの切子 生きる 含処ほと
振り切る 倦怠 時は あの;

猶予いざよう 忘却 その身を 浸し
意地らしい 業を 閃かせ
其の底 惑いは 固い 悲哀
飛翔 望みも 氷花ひょうか芽生めばえ

きた異言いげんは 嘗ての 自身と
卑屈な 空域 逸する 為にと
威厳の極限 至近を 否認し

冬の 紫膩しじ舞い 示すは 誓書せいしょ
対し を軽視し 夢に 静止し:
其の浮薄な漂白 再び 涕泗ていし




押韻や手元の話

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